其蜩庵井蛙坊

井戸の底より見たり聞いたり喋ったり

鵜来島

2013-12-01 13:38:01 | 地域
先日気まぐれから、伊崎漁協の夕市のことを知り見物に出かける気になりました。お天気は曇りがちでした。しかし時季としてはさほど寒さはありません。朝市であれば時間が時間ですから思いつきもしなかったでしょう。土曜日の午後三時からとは好都合な頃合いです。
そんな安直な思案が肝心の市場所在を確かめなかった失敗につながりました。伊崎といえば海に向かって西公園の右手だと多寡を括っていたのです。福岡湾を跨ぐ高速道路を下るとすぐに伊崎バス停があります。恐らくはその周辺と見当をつけていました。
福岡生まれの梅崎春生に伊崎浜や簀の子小学校が夏になると水泳の正科があったなどの随筆があります。最後の作品は「幻花」は五十歳の作です。それについて小林秀雄氏は近来の傑作だと評しています。また山本健吉氏は戦後文学が最初に結晶させ得えた古典として長く顧みられるだろうとしています。文学譚はさておいて以前伊崎には牧場があり、浜は小学生の春生氏らの泳ぎの場所でありました。
「伊崎は漁師の町である。砂浜には漁船がずらずらと並んでいて、おじいさんが背を日に照らされながら、漁網のつくろいをしていたりする。わたしの家にもよく魚の行商人がきて、「ほら、見なっせ。これは伊崎もんのぴんぴんですばい」伊崎もんというと新鮮だというのと同義語であった。(以下略)」
そして地引き網が始まるとこどもたちは網を引く手伝いをする。手伝つたごほうびに雑魚をたくさんもらうのが実に楽しみであったと回顧されています。
伊崎漁港はとっくに福浜とへ移転し、私は見当違いの福岡県海洋スポー協会事務所へと足を向けていたのが失敗でした。しかし鵜来島先に大型だが不格好な油送船が緩慢に運行しています。砂浜に沿った鋪道を時には駆足の青年を見かけるくらいで、頭上近く煩雑な高速道路が走っているとは思えない静かな場所でした。