経済(学)あれこれ

経済現象および政策に関する意見・断想・批判。

なぜ貨幣供給量を増やさないのか? - 不況への対処

2009-12-30 02:19:47 | Weblog
 なぜ貨幣供給量を増やさないのか? - 不況への対処

 リーマンショック等を受けて日本の経済は現在不況下にあります。特に円高(注)とデフレで企業は非常に苦しいと、報道されています。不況は日本だけではないのですからバタバタする必要もありませんが、私はこの状況で政府は、なぜ流通貨幣量を増やさないのか、と疑問に思っています。減税は財政を悪化させます。増税と赤字国債は民需を圧迫します。増税か赤字国債か、などと堂々巡りの議論をしていてもらちがあきません。解けない方程式の前で頭をひねっているだけです。
(注) 円高をそう恐れる必要はありません。円高のメリットも大きいのです。輸入品の物価は下がり生活は楽になります。外国から日本に必要な技術や特許を買うのにも有利です。外国企業の吸収合併もしやすくなります。外国から優秀な技術者を雇う事もできます。つまり内需増加を促進します。短期的には円高は輸出産業に不利ですが、長期的には有利になります。このギャップに日本経済が耐えられないほど弱いとは思えません。

 私は流通貨幣量の大幅な増加を提案します。やり方はいろいろあります。金融機関の抱える債権を日銀が大量に買い取るのは最も常識的な発想です。また特殊な政府手形を発行するのもいい。もう一つの方法は政府が国債を発行し、それを日銀が引き受け、紙幣を増刷して換金する方法です。通常のやり方なら日銀の能力には限界があります。しかし紙幣の供給(ありていにいえば印刷するだけ)を増加させていいのなら、供給力は無限です。

 このような貨幣量の増加にはどのようなメリットがあるでしょうか?理屈から言えば、デフレとは金に対して物が余っている状況ですから、金が増えればインフレ気味になります。また貨幣量増加は価格を引き上げますから、円安になり輸出は楽になります。この政策を大胆に進めれば、あるいは提案するだけで金融機関や企業は安心します。現在日本の経済に欠けているのは、この安心感です。政府はこれを与えなければならない。弱気自体がデフレを大きく悪化させます。

 日本は世界最大の資本輸出国です。経常収支の黒字は貿易収支より所得収支(輸出した資本の利子)の方が大きくなっています。日本は成熟経済に入りつつあります。ですから現在の状況では需要そのものが、大きく増加する見込みはありません。簡単に言えば、どうしても欲しい物があまりない状況なのです。そうなると金は使わず、預金に廻します。日本人の勤勉さ律儀さはこの傾向に拍車をかけます。

 ならどうすればいいのか?新しい産業とそれに伴う需要を創造する事です。代表が太陽光発電とエコ産業(注)です。こういう新産業育成に政府は徹底する必要があります。単純な方策は企業減税ですが、この種の産業育成に補助金を出せばいい。さらに発電装置やエコカ-の購買者にも補助をする。このような政策は思い切って大規模にする必要があります。私は沖縄県全体を特区にして太陽光発電を促進すべきであると思っています。沖縄だけでは規模が小さいなら、九州あるいは四国全土にこのやり方を拡大すればいいのです。
(注) 他にナノ・バイオ等の未来産業の開発研究への大幅な投資、東京大阪を結ぶリニヤ-新幹線の前倒し、大都市の公共交通機関整備、宇宙航空産業の育成などがあります。また不況による犠牲者救済の社会的ネットの整備も必要です。それはいわゆる社会福祉費の増加ではなく、やむなく解雇された人への低利長期貸し付けの方がいいと思います。無利子でもかまいません。どうしてもという時はやむをえません、軍需産業という奥の手があります。

 新しい需要を喚起する必要がありますが、肝心な事は政府自体が金を握る事です。(注)政府の懐が寒ければ何もできません。貨幣量を増大させて、政府の懐を暖かにして、政府主導で新産業を育成する必要があります。リーディングインダストリ-を創造育成(注)する責務が政府にはあります。
(注)政府が金を握り、それを企業に融資し、インフレ傾向を促進すれば、家計の貯蓄の実質価値は下がります。結果として貯蓄が強制的に産業に投資される形になります。フロ-が増加します。
(注)産業革命以後、大体30年くらいの周期で、時の産業全体を引っ張る新産業が誕生しています。時代順に言えば、繊維工業、鉄道建設と製鉄業、電機化学工業、自動車・TV・家電、ITなどです。バイオは現在進行形、ナノは未来のリ-ディング産業として期待されています。

 デフレとは生産と供給の能力過剰です。日本では資本(資産?)と技術が余っています。これをどう動かすかが問題の焦点です。この過剰な能力を他に向ける、つまり新産業の創造に向ける必要があります。その主導権を政府が握り、重点的投資を介して、動きを活性化しなければなりません。

 円はハ-ドカレンシ-です。国際貿易決済に対して一定の能力があります。円の増量は国際通貨量を増やします。国際通貨量の増大は世界の通貨の安定に繋がります。円借款や直接投資などを、豊富な資金でどんどん行えばいいのです。世界全体の景気回復に貢献します。中国の経済など所詮貸し座敷経済で底の浅いものですが、中国政府は明らかに、元の国際通貨化を狙っています。多分元紙幣の増刷をしているでしょう。またアメリカが通商や財政の赤字に対してドルを増刷し垂れ流しているのは周知の事実です。

 もう一つデフレは現在金を持っている階層を有利にし、勤労所得者の生活を不利にします。日本では老年層が金を持ちすぎています。インフレ傾向にする事により、所得は老年層から若年層に移行します。これも大きな効果です。

 リスクとチャンスはコインの両面です。世界不況は日本経済の発展にとってチャンスでもあります。
 
 ともかく思い切った政策が必要です。まず経済の成長、パイを大きくすれば分配の問題も、財政の問題も自然に解決できます。金の無いところ、あるいは金の動きの無いところには貧乏神が住み着きます。

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