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日本史入門(16)武士道、男道

2021-01-07 14:48:32 | Weblog
日本史入門(16)武士道、男道

1 封建制度の情緒的側面。主題は四つ、かぶき者、念者、殉死、切腹。
2 武士は戦士戦闘技能者。将兵ともに死を共有するのが戦士。死ぬかもしれない、死もやむをえないという志しの共有。でないと戦闘できない。弓矢とる身の定め、もののふの道。戦国時代が終り戦士の役割が後退、武士の官僚化。反動的に武士が戦士であることが強調され、かぶき者が出現。戦士の姿を強調した異装、集団で団結、戦士である事の誇示演出、主君よりも集団の掟を重視、喧嘩大好き、戦をしたくてたまらない。官僚化、戦士の役割が減る、自己に疎外感を抱く武士達の自己主張。前田慶次郎、大島逸兵衛、水野十郎左衛門。捕えられても仲間の名前や掟は口外せず、死は覚悟の上。幕府は手を焼き弾圧。戦士意識は封建制度の根幹をなす精神、が治安維持も重要。かぶき者はやがて退場、代って町奴が出現、任侠道。徹底的に男を演じて団結するかぶき者のあり方は同性愛的。武士を歌舞伎者という存在を通して見てみる。武士は主君に服従、一方戦士としての同志には徹底的に平等な態度。主君も家臣も原則的には平等。この動向は幕末維新に爆発、処士横議。
3 念者(ねんじゃ)は、念う(おもう)者。念うとは同性を恋い慕う事、念者は同性愛者。同性愛が盛んになるのは武士台頭以後。保元の乱には鳥羽上皇と藤原頼長の恋人が絡んでいた。織田信長には森蘭丸他の恋人、徳川家光は同性を好んで女を近づけず、幕府主脳は後継の存続にひやひや。忠臣蔵の浅野長矩、磯貝十郎左衛門という恋人を持つ、長矩死後磯貝は敵討ちの急先鋒。江戸時代前半、前髪だちの小姓といえばまず殿様の念い者。井原西鶴「男色大鑑」、男色とは同性愛。
念者関係では年下の者は前髪を垂らした髪型、武士の幼童時代の姿をとる。前髪は年上の恋人の了解なしには切れない。前髪を切る事は念者関係の解消宣言、殺されても仕方ない。荒木又右衛門の伊賀鍵屋辻の決闘、大名旗本の同性愛関係がこじれた挙句の果て。念者が相手を変える、凄まじいことに、決闘切りあい殺し合い、血の雨が降る。友情と嫉妬は紙一重。武士は戦場で死を共有、死という一点で結ばれる、団結心と忠誠心。死の共有を基点とする同朋意識の基盤が同性愛。愛する事において皆平等、だから死ねる。同性愛が盛んなのは日本の江戸初期と古代ギリシャ。テ-ベの神聖部隊、同性愛者を一対に組ませる、勇猛果敢。
4 殉死、主君が死去、臣下が続く、武士の時代に盛行。北条高時が鎌倉幕府滅亡に際して切腹、500名の武士が続く。楠正成が湊川で自刃、70名の武士が死を共に。殉死は戦国期も盛ん、江戸時代も当然の事。徳川家光死去に際し幕府主脳が殉死、人材が払底し政策の継続性が保証されない。殉死は禁止。奥平貞昌死去に際し重臣数名が殉死、幕府は2万石を減封。家代々の重臣は殉死しない。低い地位から主君に取り立てられた者が殉死、主君に寵愛され取立てられたから恩に報いて腹を切る。寵愛とは多くの場合同性愛関係、殉死は念者関係と重なる。同性愛関係になくとも主君に引き立てられた場合には殉死するはめにも。幕府が殉死を禁止して混乱が生じた。森鴎外「阿部一族」参照。
5 切腹は武士の死の作法。多分蝦夷追討のおりに彼らから学んだのだろう。蝦夷から習った最大の文化は優秀な鉄剣と騎射戦闘。蝦夷には敵を倒すと敵の首を掻きとり高く掲げて凱歌を唱する習慣があった。蝦夷征討従軍の兵士はこの習慣を持ち帰る。首級を提示する事は自己の勇気の誇示賞賛、同時に敵への礼節。切腹も同様。切腹する機会は二つ。敗死する時と、主君から命じられる時。敗北時降伏を拒んで切腹、敵との対等性を主張。主君からの切腹命令は刑死ではない、自己の意志で死を選ぶ、主君と対等という意志表明。切腹は馳走、与えること、自分の命を主君同輩敵に与え馳走する。北条氏滅亡の時切腹の馳走が行なわれた。主だった将士が腹を切る、命のある間に大杯の酒を飲み、次の者に盃を回す。盃を受け取った者も同様に腹を切り酒を飲んで盃をまわす。切腹は供与、生命の供与。切腹に際し苦痛を和らげるために介錯。腹を切る、同時に首を刎ねる。肝要な事、首の皮一枚は残す。完全に首を切断すれば刑死、切腹する者を侮辱、介錯人自身が切腹するはめにも。殉死も切腹。切腹には三つの意味。生命の供与、死を与える敵や主君に対等である事の明示、同朋意識の表示。切腹は同性愛感情を濃厚に含む行為。
6 かぶき者、念者、殉死、切腹を一括して語った。闘争、平等な個人、連帯と誓訳、集団形成、肉体による媒介、などの社会形成のための重要な要因が含まれる。これらの要因を統括する事項が死、死の共有。死の共有により連帯感情が育つ。死を共有、連帯感情を肉化、同性愛。肉体の共有により死は容認される。武士道の深層。戦士無くして共同体形成はあり得ない。
7 武士道は戦闘技術者としての職能意識、死を共有する者同志の対等性と連帯感情、土地経済財を媒介とする契約による人格の独立などの要因からなる。

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