高麗葬(コリョジャン、고려장)と言っても、ほとんどの方はご存知ないでしょう。韓国の方なら、2011年にMBCが番組で取り上げ、その真偽をめぐって議論になりましたから、ご存知かもしれません。
皆様は楢山節考(ならやまぶしこう)という映画をご記憶ですか? 姥捨て、つまり年老いた親を山に棄てる棄老伝説をモチーフにした映画ですが、これまでに2度も映画化され、今村昌平監督の手による作品(1983)はカンヌ映画祭で最高賞を受賞しました。
同様の棄老伝説は世界各地に民話や伝承の形で存在するそうですが、高麗葬はその韓国版です。
韓国映画「高麗葬」(1963)より
私には100歳の祖母がいるのですが、たまたま乗ったタクシーの運転手さんと、高齢者介護の話題で盛り上がました。
ところで運転手さんがふと、「お客さん、高麗葬をご存知ですか?」と言われたのです。
運転手さんは木浦(モッポ)の出身。御歳は70近いとのことでしたが、子供の頃、山登りした際に「昔、この辺で高麗葬をやっていた」という話を聞かされたとのこと。
年老いて認知症を患ってしまった親を山に連れて行き、一ヶ月分の食糧と一緒に山に置いていったと....。
高麗葬は認知症といった重い疾患を患った場合に限られ、苦しい事情の中から一ヶ月分の食糧を残していくのが、せめてもの償いだったとのこと。あまりに過酷な現実を聞かされ、私は言葉に詰まりました。
高麗葬について、私が実際に韓国の人から話を聞くのは今回が初めてです。
最近は耳にしませんが、私が最初に韓国の土を踏んだ1988年当時はポリコゲ(보릿고개)の話をよく聞きました。春窮期とも言いますが、前年秋に収穫した農作物が底を尽きはじめ、その年に耕作した麦はまだ熟していない5月6月。食べ物に窮した人々が、物乞いに来ていたというのです。いつ頃かというと、朝鮮戦争(1950-1953)が終わり、1960年代までそのような現実があったとのこと。正直なところ、私は今でも半信半疑で、50年代はともかく、60年代は単に物乞いの口実としてポリコゲを方便に使った場合も多かったのではないかと思っています。
また90年代初め頃までは、複数の小学校教員の方から、お弁当を持ってこられない児童がクラスに何人かいるという、やりきれない話を聞かされました。時は流れ、やがてお弁当にハンバーガーを持ってくる児童がいるという話を聞くようになり、現在は学校給食制度が施行されています。
棄老伝説は韓国でも、金綺泳(김기영)という名監督の手によって、「高麗葬」という題名で映画化されています。 いわば極限状況における親と子の関係ですが、日本と韓国で3度も映画化されるところを見ると、人々の心の琴線に触れる何かがあるのでしょう。
今村昌平監督による「楢山節考」は韓国でもDVDで販売されており、私は韓国で鑑賞しました。一方、金綺泳監督による「高麗葬」もDVDで復刻されており、過酷なストーリー展開ながら、独特の映像美を持つ重厚な作品となっています。
ソファーにくつろいで、家族で気楽に鑑賞できる映画ではありませんが、日本語字幕もあるので、興味のある方はどうぞ。
金綺泳監督の作品を集めた、金綺泳コレクションDVDボックス