英徳の客員教授の任命書。
これを嬉しそうに見ているつくし。
こいつに振り向いてもらう為に…。
俺は赤札を貼った方への謝罪と、教師になることを始めた。
今から思うと、謝罪はして当然だ。
教師になるのは、少しでもつくしに男として見てもらいたかったからだ。
が、これは西田によって却下される。
「牧野さんの為に教師になりたいのですか?そんな不純な動機で、教師になってもらっては困ります。そもそも、その性格の司様が先生ですか?ご自分の学生時代を思い出して下さい。あれだけのことをしていて、先生になるのは無理かと…。反面教師になら、既になっておられます。」
っつーのが西田の意見だった。
確かに、学生時代のことを考えると無理だ。
あれだけのことをしていた中学や高校の教師になんてなれねー。
学生時代の俺、なんてことしてたんだよっ!
自分で自分を呪いたくなる。
こんなことを思っていた時に、西田がスゲーことを言いだした。
「小中高の教師は難しいですが、大学であれば可能性はあります。」
そして、西田は話を続けた。
「司様は、少年少女を育てていくタイプでは無いので、高校までの教師は無理です。ですが、大学生ならある程度大人です。人間には多少の過ちがあることにも理解してもらえます。英徳の経営学の客員教授の枠があります。どうです?興味ありますか?」
だった。
『多少』の多がデカくて、少が小さいんだ?っつー疑問は、口にしなかった。
確かに、俺は学生を育てていくタイプじゃねー。
大学生なら、まだ話しやすいか?
しかも、経営学。
英徳なら俺と同じように、親の用意したレールで身動きできねー奴が多いはずだ。
それよりも、今、直ぐに言いたいことがある。
「英徳の客員教授、スゲー興味ある。でも、道明寺の肩書きでなりたくねー。博士号は無理としてもせめて修士号が欲しい。」
そんな俺に、呆れた顔をした西田が言ってきたことが…。
「何を言っているのですか?ご自分が修士号をお持ちなのをお忘れですか?司様はアメリカで、修士号を取得しております。」
だったんだ。
そうだ!
俺がアメリカの大学に通っている頃に、西田が言ってきたんだ。
「いつの日か、司様が道明寺ホールディングスに勤めるとしても不安です。少しでも、まともな人間にするべきです!!」
この西田の意見に、ソッコーで親父とババアは賛成した。
お蔭で俺は、大学を卒業した後も働きながら、更に大学に通いながら、レポートや論文をひたすら提出した。
その時、俺は知らねー間に修士号を取っていたらしい。
西田に言われるまま行動したお蔭っつーのが、なんとなく癪に障るが…。
つくしが、嬉しそうに任命書を見てるのは悪い気がしねー。
そして、つくしは俺を見上げ、小首を傾げながら言ってきたんだ。
「ねぇ…。でも、英徳だよ。一流の先生が揃っているよね。あんた、だいぶマシになってきたけど…。日本語、大丈夫?」
!!!
なんなんだっ!
そんな可愛い仕草で、言うことはそれかっ!
俺は、お前からの最上の『ありがと。』だとか、まだ言われてねー『好き』だとか『大好き』っつーのを期待していたんだぞ!
日本語、大丈夫?って、そこかよっ!!
「あぁ…。問題ねー。俺の授業は全て英語だって西田が言っていたからな。」
ジト目で睨みながら、俺は返事をした。
「そっか。じゃ、安心だね。」
っつー、つくしの言葉。
なにが安心なんだ?
ムカついている俺に…。
「ありがと。あんた、ずっと仕事で忙しかったのに…。私の為に、先生にまでなってくれたんだね。すごく嬉しい。最高のクリスマスプレゼントだよ。」
俺の欲しかった言葉を、はにかみながらつくしは言ってきた。
そんなつくしに、俺はクリスマスプレゼントを渡すと…。
「昨日もらったよ。」
っつー、可愛くねー返事。
「あれはホワイトデーのだ。これはクリスマスプレゼント。開けて見ろよ。」
俺の言葉に、
「あんたからもらってばかりだね。ありがと。」
なんて言いながら、つくしはラッピングを解きだした。
プレゼントは、俺がいつも使っている星座の腕時計のペアを用意した。
「うわー、綺麗。あんたのと似てるね。」
なんて言いながら、つくしは文字盤をライトに当てキラキラさせてた。
「俺のとペアだからな。」
この俺の言葉に、「やっぱり。」なんて言いながら納得しているつくし。
そして、腕に嵌めた途端、
「あれ?なんで?ピッタリ。」
なんて言いだした。
お前の腕のサイズくらいわかってるっつーんだよ。
「意味、わかってるよな?」
俺の言葉に、嬉しそうにコクンと頷いた。
男が女に腕時計を贈る理由なんて一つだ。
お前と同じ時を歩みたい。
俺とつくしは、ずっと同じ時を刻んでいく。
「一生モノだね。ありがと。大切に使うね。でも、こんなに高いの…。気、使わせちゃったね。」
申し訳なさそうに言ってくるこいつ。
一生モノってなんだ?
気を使わせたってなんだ?
腕時計の意味、わかってたんじゃねーの?
「あんたってバカ力だよね。私の腕時計、握力だけで壊してしまうんだもん。時計屋のおじさんも驚いていたよ。」
俺、こいつの腕時計を壊したのか?
あのパーティーの時か?
「修理が無理だったから、新しいのを買うつもりでいたの。ありがと。大切にするね。」
っつー、こいつの声。
おい…。
マジでわかってねーとか、ありえねーだろっ!!
男が女に腕時計を渡す意味くらい、知っとけっつーんだ!!
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