八十八夜

学生時代から大好きなマンガの2次小説です

まやかし婚 172

2022-09-02 08:00:00 | まやかし婚(完)

 

 

クソから逃亡したところで、仕事は終わらねー。

仕方ねー、仕事に戻るか。

 

俺が執務室に戻ろうとした時─────。

屋上へ通じる階段を上がって行く天草の姿が見えた。

 

なんとなく嫌な予感がした俺は、ジャケットのポケットの中のスマホに手を伸ばした。

が、そこには、スマホは入っていなかった。

クソっ!

執務室に置いてきてしまった。

 

俺は、天草の後を追うように屋上へ向かった。

そっと、屋上への扉を開いた瞬間─────。

 

!!!

俺の視界に飛び込んできた、牧野と天草の二人。

牧野は今朝、俺が選んだ服を着たままだ。

なんで屋上で二人きりで会ってんだ?

 

当然のように、天草が牧野の髪に手を伸ばした。

牧野の髪に触るんじゃねー!

あいつに触れていいのは俺だけだっ!

こう判断した俺は、天草からの視線から牧野を守るように、胸の中に牧野を閉じ込めた。

 

 

 

突然現れた道明寺に、何故か私は抱き締められていた。

「ちょっと、なに?やめてよっ!」

って、私の声は

 

「こいつに触るんじゃねー。」

って、道明寺の荒く低い声に完全に消されてしまった。

 

離れようと体を捩っても、道明寺の力が強すぎる。

道明寺が怒っているのが伝わってくる。

 

「こいつは俺の女だ。触るなっ!」

やっぱり怒っている道明寺の口調。

 

「スゲー独占欲だな。道明寺が心配するようなことは、なにも無い。」

道明寺の口調とは正反対の天草主任の声。

 

それなのに、道明寺はまだ怒鳴っていて…。

「なにもねーなら、こいつと二人きりで会うんじゃねー!」

こんなことを、天草主任に言った。

 

「俺、つくしに誘われた方だからなー。」

天草主任は、こんな爆弾発言をした後─────。

 

続けて、楽しそうな口調でまた爆弾を落としてきた。

「な、つくしが二人きりで話をしたいって、言ってきてくれたよな?」

 

ぎゃー!!

天草主任っ!

なんてこと言うんですかっ!!

しかも、なんで楽しそうな口調なんですかっ!?

 

道明寺の顔を覗いて見ると─────。

顔に何本もの青筋がっ!!

ひぇー。

恐ろしすぎる顔になってるー。

 

これ以上、道明寺が怖い顔になったらどうしよう。

こんなことを思っているのに─────。

 

天草主任は最大級の爆弾を落としてきた。

「つくし。道明寺が嫌になったら、いつでも俺の所に来い。」

 

ギャー!!

なんでっ?

なんでそんなこと言うんですかっ?

天草主任は、道明寺がどんな顔をしているのか見えてますかっ!?

 

「天草っ!こいつのこと、名前で呼ぶんじゃねー!牧野が、俺のこと嫌になんてなるわけねー!こいつが、お前の所に行くことも絶対にねーから。ついでに言っておく!俺のことを呼び捨てにすんじゃねー!役職では、俺の方が上だ。」

って、道明寺がスゴイ勢いで天草主任に言ったの。

 

でも、天草主任は全く動じない。

「失礼いたしました。ですが、今は仕事中ではなく、完全なプライベートです。牧野さんを『つくし』と呼ぶことに、何か問題でもありましたか?今まで、彼女から何か言われたことはありませんし、仕事に支障が出るようなことは一切していません。」

 

私がなんて呼ばれていても良いじゃない。

そもそも、なんで道明寺が怒るのよ?

だって、あんた、私のことを名前でなんか呼んだことなんてなかったよ。

昨日だって、タマさんに私のこと『牧野』って紹介していたじゃない。

 

「問題大ありだっつーんだ。自分の嫁が、他の男から呼び捨てにされてんだぞっ!二度とこいつのこと、名前で呼ぶなっ!」

この道明寺の言葉に─────。

 

私は、思わず息を飲み込んだ。

嫁って、言って良かったの…?

天草主任も驚いているのが、気配で感じ取れる。

 

そんな天草主任に、道明寺は静かに話し出したの。

「色んな事情で発表はしてねーが、俺とこいつは一年前から結婚している。だから、こいつは、俺以外の誰の物にもならねーし、名前で呼ぶのも止めてくれ。」

 

そんな道明寺と私に、天草主任は一礼して言ってきたの。

「そうでしたか。全く知らなかったとはいえ、それは申し訳ございませんでした。つく…。いや、牧…、道明寺さんにも悪いことしてしまったね。」

 

いつもの天草主任の声より、少しだけ張りが無いように聞こえる。

この言葉を、私は申し訳無いような気持ちで聞いた。

 

そして、天草主任は静かに歩き出した。

規則正しいコツコツって音が聞こえなくなった時─────。

 

バタン…。

静かに屋上のドアが閉まった。

 

 

 

 

お読みいただきありがとうございます。