八十八夜

学生時代から大好きなマンガの2次小説です

まやかし婚 173

2022-09-04 08:00:00 | まやかし婚(完)

 

 

静かに屋上のドアが閉まった。

天草主任に、何とも申し訳ないって思いでいっぱいになりながらも…。

それよりも、今はこの道明寺との微妙な空気が気になる。

チラって見上げて見ると、明らかにムスってした顔の道明寺。

 

そんな道明寺は、私と目が合うと矢継ぎ早に言ってきた。

「勝手に男と二人になってんじゃねーよ。俺以外の男と二人きりになるなっ!しかも、お前が呼び出すんじゃねー!この淫売女。」

 

道明寺の言葉にムカついた私から出たのが…。

「なんで淫売女まで言われないといけないのよっ!このクルクルバカっ!」

これだった。

 

「誰がクルクルバカなんだ?」

「やっぱりバカ。クルクルバカなんて、あんたしかいないでしょ。」

 

「俺はクルクルバカじゃねー!この淫乱め。」

「あんた、変なんじゃない?何が淫乱よっ!私が天草主任と二人きりになったのは、す、す、好きな人がいるって断ったからじゃないっ。それなのにっ…。。」

 

私は、文句を最後まで言えなかった。

道明寺が力強く抱き締めてきたから─────。

 

「好きな奴がいるって断ったんだな?」

道明寺の声に、コクンと頷く。

 

「好きな奴って俺だよな?」

もう一度、コクンと頷く。

 

そして、

「消毒。」

って言いながら、何度も何度も私の髪を手ぐしで梳かしてきた。

 

「道明寺、仕事は?。」

「いいんだよ。」

 

「西田さん、心配してるよ?」

「お前を抱き締めてる時に、仕事や西田の話をするんじゃねー。ムードのねー奴だな。」

 

「ねぇ…。結婚のこと、勝手に言ったりして良かったの?」

「いいんだ。俺は、一年前から公表しなかったのをスゲー後悔していたんだ。」

 

「なんで?」

「お前は、直ぐキョトキョトするからな。」

 

「キョトキョト?なにそれ?」

「天草に織部。お前、他の男子社員からも人気あるんだぞ。」

 

「そんなことないよ。」

「あるんだ。」

こう言った道明寺は、これ以上ないってくらいの強い力で抱き締めてきた。

 

「俺、お前の名前すら許せねー。」

「なにが…?」

 

「お前が、他の男から名前で呼ばれること。」

「えっ、そんなこと…?」

 

「そんなことじゃねー。イヤなんだ。お前の髪、一本たりとも触られたくねー。」

「プッ…。なにそれ?髪、一本って。」

 

「俺、独占欲スゲー強いみてーだ。お前のこと独占してー。いや、してーじゃねーな。独占する!!」

「なに言ってるのよ?私に独占欲なんて要らないと思うけど…?」

 

「いや、絶対に必要だ。俺は、お前を独占する。だから、お前の名前も名字も独占したい。」

・・・・・。

私は、道明寺の言っている意味がわからなかった。

名前も名字もってなに?

 

黙っている私に、道明寺は初めて私の名前を呼んだ。

「つくし。」

 

道明寺のバリトンボイスから『つくし』って呼ばれるのは、恥ずかしくって、照れくさい。

心臓はバクバクと動いているのに、胸がキューンってなって、思わず足の指までギュッてなってしまう。

 

「つくし、好きだ。」

この言葉と同時に、私の髪に、道明寺の優しいキスが降る。

 

会社だよ…。

ダメだよ…。

わかっているのに、道明寺から醸し出されている甘い雰囲気に抗えない。

 

そのキスの合間に、道明寺が囁いてきた言葉─────。

「名前すら独占したい。他の男に『つくし』なんて呼ばせたくない。」

 

私のことを『つくし』って呼ぶ人は、天草主任くらい。

もう、きっと私のことを名前で呼ぶってことは無いだろうし…。

私は、道明寺を見上げてコクンと頷いた。

 

頷いただけだったのに、何故か道明寺は顔を真っ赤にさせながら怒ってきたの。

「お前っ!そんな顔して上目使いするの反則だろっ!」

 

えっ?私、どんな顔をしていたの!?

締まりのない、だらしない(いつもなのかもしれないけど…)顔だったのかなぁ?

 

そして、道明寺が次に言ってきたことが─────。

「つくしとのこと、さっさと公表してー。あと…、道明寺は、結婚後の旧姓使用も認めている。でも、つくしには道明寺を使ってもらいてーんだ。俺は、お前の名字すら独占したい。」

だったの。

 

全く想像していなかった道明寺の言葉に、私は道明寺の胸の中で固まってしまっていた。そっか。

道明寺と思いが通じるなんて思っていなかったから、考えたことも無かったけど…。

道明寺くらいの立場の人なら、結婚したら公表するんだ。

 

そして、今さっきの道明寺の言葉。

私の名字まで独占したいって…。

 

牧野でも、道明寺になっても、私は私。

なにも変わらない。

 

でも…。

道明寺姓になると、周りはそうは見てくれない。

庶務での仕事も、今までのようにはいかないはず。

大変だけど、仕事も楽しいとか、遣り甲斐があるって思えるようになってきたんだよ。

 

道明寺と気持ちが通じて、嬉しい気持ちでいっぱいだったのに─────。

心の中がざわざわと動き出す。

 

そうだった。

道明寺と私は、既に結婚しているんだ。

想いが通じて、気持ちが浮かれてしまっていたけど─────。

私の生活は、すごく変わっていくのかもしれない。

 

 

 

 

お読みいただきありがとうございます。