帰り際。
つくしを送る時も、俺も一緒に車に乗り込んだ。
運転手だろうが、男なんだ。
つくしと二人きりになんてさせられねー。
車に乗っても、ニコニコと話しているこいつ。
「大きい車やなぁ。」
「ピカピカやん。」
それなのに、数分もしねーのに急に静かになった。
俺の部屋で2時間も寝たっつーのに、つくしは気持ちよさそうな顔をして寝ていた。
どれだけ寝るんだ?
車から伝わる小さな揺れに合わすかのように、つくしは体を揺らす。
俺は、そんなつくしの頭を、自分の肩にもたれさせた。
しばらくすると、完全に寝入っているつくしは─────。
俺の肩から胸に、そして、そのまま俺の大腿までズレてきた。
つくしの真っ白い肩が、俺の目を刺激する。
目に毒だ。
なんて思いながらも、俺はこいつの肩から目が離せなかった。
翌朝、
またいつものように、つくしのマンション前で待つ健気な俺。
「おはようさん。」
「はよ。」
いつもの朝の挨拶の後、つくしは話し出した。
「昨日はおおきに。むっちゃ楽しかった。そんで、家まで送ってもらってホンマにありがとう。お邸の人たちにも、ようお礼言うててな。それに、プール楽しかっ、あっ…。」
話し終わる前に、つくしは顔中どころか耳や首まで真っ赤にした。
俺が告ったことやキスしたことを、やっと思い出したようだ。
お互い一言も話さない状態で歩く。
少しは俺を意識しろっつーんだ。
「あ、あんな。」
この微妙な雰囲気に堪えられなくなった、つくしが口を開いた。
「昨日、類ん家で虫に噛まれたやん。昨日、帰ったらまた反対側、噛まれててん。」
自分の肩を指差ししながら話すつくし。
気付いたんだな。
笑い出しそうになるのを何とか堪え、俺は無表情のままつくしの話を聞いた。
「類の家より大きくて赤なってたけど、痒くないねん。」
不思議そうに話しているこいつ。
「そうだな。虫じゃねーからな。」
「えっ?虫じゃないん?だから、薬塗っても治らんかったんや。」
あ"?
薬を塗っただと…?
俺の所有の印をなんだと思ってんだっ!
「虫じゃないんやったら、なにに噛まれたんやろ?痒ないし変なの。」
不思議そうな顔をしているつくし。
なんで気付かねーんだ?
俺がつけたから痒くねーんだ。
昨日の夜。
夜の車の中だっつーのに、お前の細い肩は─────。
まるで俺を誘うかのように、皓々としてたんだ。
キスマークを付けても、虫に噛まれたってなんだよ。
俺の付けた印が、まさかの虫と同レベルとかねーだろ。
キスマークに薬を塗るようなこいつでもわかるように、俺は一語一句丁寧に話した。
「好きな女の水着は見れねー。抱きしめて告っても、その男の部屋でグーグー昼寝して、返事もくれねー。やっと帰りの車で二人きりになれたと思っても、誰かさんは俺の膝枕でグーグー寝てしまったんだ。だから、俺の所有の印をつけたんだよ。わかったか?」
俺が話し終ると─────。
顔を真っ赤にしたつくしが、自分の肩に手をやり叫んできたんだ。
「えっ!えっーーー!これって、これって。」
やっと気付いたか?
この鈍感女。
「『ごちそうさん。』っつーんだろ?」
俺の関西弁に
「よろしゅうおあがり。ってちゃうわ!」
やっぱ関西弁で返してくるこいつ。
よろしゅーおあがりって何だ?
「使い方もちゃうしー。使う場所も発音もまちごーてる!」
これ以上ねーってくらい顔を真っ赤にしたつくしが言ってきた。
学校に入る直前、類と合流する。
類はつくしの真隣で歩きだす。
小さな声で類がつくし話しかけた。
「昨日の服、どうだった?」
「シーっ!もう!そんなんここで言(ゆ)うたらアカン。」
つくしは口の前で人差し指を立てながら、小さく話した。
二人とも小声のつもりなのか?
丸聞こえだぞ。
「なにが『言うたらアカン。』なんだよ?」
俺の声に、明らかにつくしがヤバって顔をした。
「昨日のつくしのワンピース、可愛かっただろ?」
類が俺に聞いてきた。
そうだった。
昨日、つくしは邸に来る前に類の家に行った。
こいつら、二人で何してたんだ?
キスマークが蚊ってことに安心してしまったが…。
なんでつくしが、類のベッドに入ったんだ?
「俺、昨日はゆっくり寝るって決めてたのに。つくしに無理に起こされてさ。」
類が俺に話し出した。
「『この服でおかしないか?』とか『道明寺はこんなワンピー…』」
つくしの口調を真似した類の言葉に─────。
「イヤー!もう、類!いらん事、言わんといてっ。なんでそんな余計なこと言うん?」
つくしの叫び声が重なった。
でも、俺の耳には類の声が間違いなく届いた。
「『道明寺はこんなワンピース好きやろか?』って言いながら、俺のベッドの端に急に跳びのるからベッドから落ちたんだよ。」
昨日、類の部屋に行ったのは─────。
類に、俺の服の好みを聞きに行ってたのか?
スゲー嬉しくなった俺は、隣にいるつくしの顔を覗き込んだ。
恥ずかしそうなつくしを見ながら、俺は確信した。
つくしからの『むっちゃ好きやねん。』を聞ける日は、かなり近い。
お読みいただきありがとうございました。
いつもたくさんの応援を本当にありがとうございます。
転校生つくしちゃんの(私の中の)第二章はここまでです。
関西弁が楽しすぎて、毎日更新することができました。
第三章は冬頃になる予定です。