「アカンって!そんなん水着なんてよう見せへん。はずいし無理。道明寺にだけは絶対無理。」
牧野は必死になって言ってきた。
はずいのも、無理っつーのもマダわかる。
俺にだけは絶対無理っつーのは、どういうことだっ!
『なんで俺だけは無理なんだんよ?』
俺が聞こうとした瞬間─────。
大きく息を吸い込んだ牧野が、プールの中へ潜りこんだ。
俺も直ぐに潜りこむ。
潜りこんだ俺の姿を見た牧野は、焦ったように水中を泳ぎだした。
俺が牧野の細腰を捕え、水面に上がるまで時間は掛からなかった。
水面に上がると、このプールで1番深い所─────。
当然、背の低いこいつは足が足りねー。
牧野の浮き輪も、遠くで水面をユラユラと浮かんでいる。
俺から必死に逃げた牧野は、俺の胸に体を預け大きく酸素を求めた。
ラッシュガード越しに伝わってくる、こいつの肌の柔らかさ。
完全に力が抜けている牧野の体を支えるように、こいつの細い腰に回している腕に力を入れる。
俺は海パンだけで上半身が裸。
牧野はラッシュガードを着てるっつーても、水着なんてスゲー薄い素材だ。
やべぇ。
下半身に血液が集中するじゃねーかっ!
1分だったか、2分だったか…。
俺にとっては、それよりもスゲー短い時間だったと思う。
「ぎゃっ!!」
っつー色気のねー声をあげたこいつが、俺から離れようと腕を突っ張った。
と、同時に、俺はこいつの腰に回していた腕に力を入れた。
腕を突っ張りながら
「離してー。」
なんて言ってるが、無視。
っつーか、無理だ。
好きな女を、初めて抱きしめているんだぞ。
そんなに簡単に離せるわけねーだろ。
ジタバタと暴れているこいつが、突然止まって、素っ頓狂な声を上げた。
「あれ?えっ?道明寺やんなぁ?」
「あぁ。俺だ。」
俺の返事に、こいつは俺の髪に手を伸ばしてきた。
不思議そうに、俺の髪を触りだす。
そして、不思議そうに呟いた。
「髪の毛、クルクルちゃう。」
「天パだからな。水にぬれると真っ直ぐになるんだよ。」
俺の返事に、
「ふーん。そうなんや。そっちの方がイケメンやで。」
とてつもなく可愛くねーことを言ってきた。
俺がジト目で睨んでいると、
「へへっ。堪忍。」
笑いながら謝ってきた。
「あんな…。うち、泳げるしな。腕、外して?」
困ったような顔をした牧野はこう言って、キョロキョロと浮き輪を探しだした。
いつの間にか、浮き輪は静かに俺たちの近くに戻っていた。
牧野が、その浮き輪に手を伸ばす─────。
その直前に、俺は浮き輪を取り上げ放り投げた。
「ちょっ!なんでっ!ほるん?」
投げた浮き輪を目で追いながら、こいつは言ってきた。
「あんたいい加減にしーやっ。うちの浮き輪、勝手にほるなっ!そんで、腕、離して!」
俺の腕から逃れようと、体ひねりながらこいつは言い出した。
その薄い素材の水着で、俺の腕の中で動くなっ!
俺の脚にこいつの柔らけー脚が、俺の体にこいつの柔らけー体が触れてくる。
下半身が大変なことになっているのが、バレるじゃねーかっ。
それでも、この腕の中にいる牧野を手放したくねー俺は
牧野の腰に回している腕を引き寄せ、ますます牧野を強く抱き締めた。
「なぁ…、なんで俺に水着を見せられねーんだよ?」
俺がこいつの耳元で囁くと─────。
首をすくめたこいつは、小さく震えた。
耳、弱いのか?
もう一度、確かめようとした時─────。
困ったような顔で、こいつは言ってきたんだ。
「よぅわからん。でも、何か…。道明寺とおったら、楽しんやけどドキドキするし。変やねん。だから、水着なんか絶対にアカン。見せられへん。」
・・・・・。
俺といると、楽しいけどドキドキするって言わなかったか?
それって─────。
「だからっ!!もう限界。道明寺、離して!」
こう言った牧野は、離れようと両手で俺の胸を押してきた。
好きな女の願いでも、却下だろ?
俺の腕の中で、ほぼ告白みてーな事を言ってくれたんだ。
スゲー嬉しくなって、
「司って呼んだらな。」
なんて言ってみると─────。
「つ…かさ…。…離して。」
こいつは恥ずかしそうに、初めて俺を名前で呼んできた。
好きな女からの名前呼びってグッとくる。
離しては要らねーけどな。
「つくし、好きだ。」
俺もこいつを初めて名前で呼んで、俺の気持ちを言ってみた。
俺の告白に、こいつのデケー目がますますデカくなった時─────。
プールで冷えてしまったつくしの唇に、俺の唇を重ねた。
つくしはキスが終わるまで、デケー目を閉じることをしなかった。
身動き1つしねーで固まっている辺り、こいつのファーストキスに違いねぇ。
キスが終わった後、嬉しすぎた俺はこいつの口調を真似て言ってみた。
「『おおきに。』っつーんだろ?こんな時。」
そんな俺に、ソッコーで突っ込んでくるつくし。
「ちゃうちゃうちゃうちゃう!そんな所で『おおきに。』なんておかしいやんっ!うちのファーストキスやったのにぃ。」
やっぱ、牧野のファーストキスだっただろ。
嬉しさのあまり、俺は自分の頬が緩んだのがわかった。
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