クソ西田から解放されたのは、意外に早く夕方だった。
まだ仕事が残っているっつーのにも関わらず、解放になったのは─────。
「クリスマスですし。司様も、牧野さん…いや、つくし様が待っておられますよ。」
っつー、ことらしい。
西田が『つくし様』呼びしても、今の俺には気にならねー。
これが旦那の余裕っつーんだな!
そんなことより!
いよいよ、今夜だ!!
俺の脱童貞っ!
本当の旦那になるっ!!
もうこれ以上、待てねーっつーんだよっ!
俺がリビングに入ると、つくしはふわって微笑んで
「おかえりなさい。」
って、迎えてくれた。
このつくしの微笑みがマズかった。
この時点で─────。
俺の『これ以上、待てねー。』が限界に達し『常時、戦闘態勢』になってしまった。
そんな大変な状態に全く気付かねーつくしは、いつもと同じようにメシを食べ始めた。
下半身どころか、体中で悶々としている俺もいつものように席に着く。
俺にとって初めての家庭的なクリスマス。
でも、だな…。
ポテトサラダのキュウリが、いつもより多い。
多すぎるっ!
イモよりキュウリの方が多いんじゃね?っつーくらいだ。
しかも、ピザかと思い食ってみると、ピザの生地がまさかのナス。
なんでも『なすのピザ』らしーけど。
こんなのピザじゃねーだろ。
パスタにも、必要以上にナスが入っている。
俺は思ったことを口にした─────。
「なぁ…。キュウリとナス、多くね?」
道明寺の言葉に、私の心臓がドキンと跳ねた。
「えーと、えっと。あのね、そのっ…。どうも、今日は…、そのキュウリとナスが気になってしまって…。」
完全に変な私の返事。
いつもは食材のことなんて追究して来ないのに、なんで今日に限って聞いてくるのよっ!
だって、仕方ないじゃない!
キュウリとナスの大きさと痛みばかり気になって、野菜売り場で確認してしまっていたんだもん。
しかも、何回も触って確認してしまって…。
気付いた頃には、持っていたのが全部しなしなになってしまっていたから買ったんだもん。
「なんでって、言われても…。私が食べたかったから、かな?あんたこそ、なんでそんなこと聞いてくるのよ。」
自分で言った言葉に、耳まで真っ赤になったのがわかった。
キャー!
食べたかったとかじゃないのっー。
全然、違うっ!!
道明寺のその、あの、あ、あ、あれを食べたいとかじゃないのっ!
ギャー!
そんなの無理だからっ!
そんなの絶対出来ないっーー!!
「なに真っ赤になってんだよ?旬の食い物じゃねーから、お前にしては珍しいって思っただけだ。」
道明寺の言葉に、いつか自分で言った言葉を思い出す。
『旬の食べ物はその時期にたくさん採れるから、安い上に美味しくって栄養価があるんだよ。』
こんな言葉を、道明寺は覚えていてくれていたんだ。
道明寺は、いつもと同じなのに─────。
その上、ずっと前に私が言った言葉まで覚えてくれているのに…。
私だけ夜のことばかり気にしてっ!
もう!ヤダっ。
ご飯の後は、お待ちかねのクリスマスケーキ。
スポンジから焼くのは時間的に無理だったから、寄り道禁止令が出ていたけど、少しだけ寄り道して買ってきたの。
二人っていうのと、道明寺が甘いのが苦手ってのもあって、本当に小さいホールケーキを選んだの。
「見てっ!このクリスマスケーキ、美味しそうでしょ?」
ケーキを見せると、道明寺は明らかに顔が引き攣っている。
「今日のケーキは、スポンジだよ。かぼちゃタルトじゃないからね。」
なんて、笑って言ってみると─────。
「お前が、天草からもらったかぼちゃタルトが、今までで一番うまかったなんて言うからだろ。」
明らかにブスってした顔で、言ってくる道明寺。
こんな道明寺の顔は、初めて見るのかもしれない。
ブスって拗ねている道明寺が、なんとなく可愛い。
今までの道明寺は、怒っている顔の方が多かった。
今日のお昼も、青筋を立てて怒っていたよね。
あれ…?
今まで道明寺が怒っていた時って、もしかして私が原因じゃない!?
お酒を飲んで帰ってきた時や、天草主任とランチに行った時だったはず…。
ごめんねって気持ちを込めて、私は、
「昨日からは違うよ?」
とだけ伝えた。
でも、なぜか疑問形になってしまった。
一瞬、驚いたような顔をした道明寺は、
「なんで疑問形なんだよっ!」
って、突っ込んできた。
そして、念を押すように聞いてきたんだ。
「じゃ、俺のかぼちゃタルトが一番になったんだな?」
少し恥ずかしかったけど…。
私は素直に頷いた。
そして、素直に言ってみた。
「あんたと本当の夫婦になれた日に食べたんだよ?美味しかったに決まってるでしょ。道明寺と一緒に食べるから、美味しいんじゃない。」
こんな私の言葉に、道明寺は見惚れてしまうような笑顔になった。
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まやかしのアップのない(お休みさせてもらっている)日に、不定期になりますが『転校生つくしちゃん』をアップします。予告なしとなりますので、時々遊びに来ていただけると嬉しいです。