八十八夜

学生時代から大好きなマンガの2次小説です

まやかし婚185

2022-09-28 08:00:00 | まやかし婚(完)

 

 

~西田side~

皆様、覚えていらっしゃいますでしょうか?

私が粗大ごみを引き上げた時です。

正確に申し上げますと、日本に帰国した翌朝だというのに、私は司様に呼び出されました。

(詳しくは7~8話をお読みください。あの当時の司様が、人としても上司としてもクズだったのかがよくわかります。)

 

あの時の話をすると、司様は珍しく反省されたように見えました。

これが演技なのか、はたまた、クルクル上司の作戦なのか?

間違いなく司様は単純なので、少しは反省したはずです。

 

ですが…。

『恋人たちの貴重な時間を潰した罰です。司様の脱童貞の邪魔をすることが出来て、西田としましては最高に幸せです。いやー。まさか、脱童貞は昨日に済ませているとばかり思っていたので…。今日はタイミングを見計らって、司様のイきそびれを狙ったつもりだったのですが…。まさかの脱童貞だったとは(笑)』

私のこの言葉により、司様の反省は一瞬で終わってしまいました。

 

反省するが一瞬。

これは、人間としてありえません。

だから、司様はいつまで経ってもダメなのです。

 

このポンコツを今後、どのように教育していくべきなのか…?

ジェットに乗りながら、西田は色々と考えようとしました。

 

しかしっ!!

そんな私の考えの邪魔をする騒音。

ジェットのエンジン音ではございません。

エアポケットに入ったわけでもございません。

 

道明寺家のプライベートジェットは、機体もパイロットも超一流。

このポンコツだけが、正真正銘の三流です。

 

「てめー!俺の脱童貞を返せー!」

「俺とつくしがラブラブなのが、ウマヤラシイんだろっ!」

「絶対に28日に帰れるんだろうなっ!」

「おいっ!聞いているのか??」

 

そうです。

隣のボンクラが話しかけてくるのです。

これぞ、まさに雑音です。

しかも、『ウマヤラシイ』ではなく、それも言うなら『羨ましい』です。

情けない…。

牧野さんに振り向いてもらいたく、必死になり多くの本を読み、日本語の勉強をしていましたが、相変わらず日本語は弱いですね

こんなのが私の上司だなんて、信じたくもありません。

 

それでも、日本語のミスは訂正しなくてはなりません。

恥をかくのが司様だけなら良いのですが…。

何といっても、道明寺ホールディングス東京支店の支店長です。

企業として恥をかきます。

 

そして、運悪くその場に私も一緒だったなら─────。

私まで恥をかいてしまいます。

これだけは絶対に回避させなくてはいけません。

恥をかくのは、このポンコツだけで十分です。

 

私は、『羨ましい』という日本語を丁寧に指導しました。

そして、どうしても28日に帰国したいのであれば、仕事に真面目に取り組むようにと、園児にでもわかるかのように説明しました。

 

するとですね…。

「あの…。よ。」

なんて、ぼそぼそとボンクラは話し出しました。

 

「はい、どうしました?」

このように聞きながら、

 

心の中では

『さっさと話して下さい。司様がポンコツなお蔭で、私はずっと忙しい思いをしているのです。』

と思っていました。

 

こんなことを思っている私に、ボンクラは信じられないことを言ってきました。

「あのよっ。悪かった。」

 

まさかの謝罪です。

西田、シンガポールで耳鼻科に行くべきでしょうか?

それとも、司様の仰られていた鼻耳科を探すべきでしょうか?

 

「何を謝られているのですか?」

この疑問に、

 

「お前と嫁のことだよ!…邪魔して…悪かった。」

肝心な悪かったという言葉は小声でしたが、司様からの謝罪がありました。

 

天変地異の前触れでしょうか?

もしくは、このジェットは乱気流に見舞われるのでしょうか?

腰だけのシートベルトではなく、乗用車用の肩からするシートベルトも欲しくなりました。

 

この快適だったフライトを、ますます不安にさせるようなことを司様は再び言ってきたのです。

「あとだな…。サンキュ、な。」

 

まさかの礼です。

やはり天変地異の前触れです!

妻に最後の言葉を残すべきでしょうか?

 

「何に…ですか?」

私の返事に

 

「お前が俺の結婚相手に、つくしを選んだことだ。」

なんて答えてきました。

 

司様の相手に牧野さんを選んでしまったのは痛恨のミスでしたが、司様からこのような言葉を聞けて少し心が軽くなりました。

あとは、リアルに理不尽な結婚生活を過ごして頂くように仕向けないといけません。

 

司様は、話し続けました。

「大学卒業した後も、西田の言うとおり、大学に通って修士号を取ったことも助かった。」

 

礼には及びません。

あの当時の私は…。

司様と接触するのを減らす為に、司様に大学に通い続けるように仕向けたのです。

 

まさか、このような形で、司様にとって有利に働いてしまうとは…。

非常に残念な結果となってしまいました。

 

司様が牧野さんの為に教師になるなんて言い出した時は、万年筆を折りそうになりました。

教師と言うのは、皆様もご存じの通り、《教える》立場です。

日本語すら、まともに話すことが出来ない司様が教師ですよ。

私は、英徳と交渉するに辺り《授業内容は全て英語》という条件にしました。

そうしないと、道明寺ホールディングスの株価が翌日には大きく下落するからです!

 

そして、司様はもっと信じられないことを言ってきたのです。

「俺が高校の時…。赤札を貼ってしまった奴、いや…。赤札を貼ってしまった方たちに、ずっと連絡をとってくれて…だな。マジで助かった。…サンキュ。」

 

最後には、消えそうなくらいの小さな声になっていましたが…。

この時、私の中で司様は《ボンクラ》から《非常に手の掛かる上司》となりました。

とはいえ、何といっても司様です。

まだまだ、私の手のひらで転がってもらいましょう。

 

 

 

 

お読みいただきありがとうございます。