デパ地下のケーキ売り場で思ったことを─────。
私は、なんとなく恥ずかしい思いをしながら話した。
いつも私のどうでもいい話なんて、追究なんてしないのに…。
どうして、今夜に限って聞いてくるかなー?
しかも、この話。
私たちの間に、家族が増えることだよ。
赤ちゃんが産まれることなんだよ。
その行為をこれから初めてしますって時に、こんなこと言わされるなんて…。
恥ずかしいっ。
『やる気満々!』とか
『誘ってる。』なんて思われてないかな?
やる気が無いわけでないけど…。
だからといって、誘っているわけでもない。
正直…。
私、耳にキュウリも、鼻にナスも無理―。
そもそも、あんな大きいのが入るわけなんて無いじゃないっ!!
絶対に、体、壊れるし裂ける。
それに…。
道明寺の今までの女の人と比べられたりするのも嫌だな。
あいつの歴代の女の人の中で、私が一番、胸が無いはず。
こんな小さいおっぱい見られるのヤダ…。
こんなことを必死になって考えている私に─────。
「俺も、同じようなこと思った。」
こう言った道明寺は、ニッて笑って話を続けた。
「俺、ずっとガキなんて欲しくなかった。興味も無かった。遺伝子なんて残さねーって決めてた。」
・・・・・。
道明寺って、子供欲しくない派だったんだ。
興味も無かったんだ…。
遺伝子を残さないって決めていたって…。
ズキンって胸に刺さったような痛みと同時に、凹んでしまう。
でも…。
今のって、道明寺は全部過去形で話していたよね。
じゃ、今は…?
「昨日の夜、邸で俺のガキの頃の写真をあーだこーだ言ってるお前を見て、俺によく似たガキを産んでもらいてーって思った。お前に似たガキも欲しい。」
へっ…?
ガキが欲しくなったの。
「ガキじゃないでしょ?赤ちゃんとか、子供って言ってよ。」
私が口を挿むと─────。
「あぁ。俺、つくしとの子供が欲しい。いつか、スゲーデカいクリスマスケーキ、子供たちと一緒にホールのまま食おうぜ。」
なんて笑いながら、道明寺は言ってきてくれた。
大きなケーキをホールのまま食べる?
なんて思ったけど…。
今日、私が感じたことを─────。
何年か先にも同じことを…って言ってくれる道明寺の気持ちが嬉しかった。
大きいケーキを食べるのは─────。
きっと、私と…。
いつか産まれてきてくれるかもしれない子供達。
そして、顔を引き攣らせながら一口だけ食べているのは道明寺。
そんな日が、いつかきっと来てくれますように。
私は心の中で、そっとサンタさんにお願いした。
この時─────。
道明寺が、私に差し出してきた真っ白なA4サイズの封筒。
デカデカと英徳学園大学部の印刷が入っている。
「見ろよ。」
封筒の中を見るように、道明寺が急かしてくる。
私が封筒の中から、厚い紙を取り出すと…。
そこには─────。
道明寺を、英徳大学・経営学部の客員教授に任命するってことが書かれてある。
道明寺が英徳の経営学の客員教授!?
「へっ!?なんでっ!?」
思わず出てしまった私の変な声。
そして、道明寺を見上げると─────。
「なんでって、お前の夢なんだろ?教師と結婚するっつーの。一年前のお前が言ってただろ?『理想の結婚相手は公務員。』ってな。」
なんて言い出した。
ビックリしすぎて頭が付いていかない。
そうだった。
確かに、私は教師と結婚するのが夢だった。
「私の夢だったから…?」
思わず呟いてしまった言葉。
その私の呟きに、道明寺は笑いながら返事をしてきた。
「あぁ。さすがに、俺には会社があって、社員もいる。だから、公務員はなれねー。わりーんだけど、客員教授で手を打ってくれ。『先生』っつーのでは一緒だろ?」
道明寺の言葉に、私は首をコクコクして頷いた。
教授でも客員教授でも先生は先生だ。
客員教授になるとしても、昨日や今日でなれない。
何か月も前から、道明寺は英徳と話し合いをしていたってことだ。
実際、道明寺は英徳とは、何か月も前から話し合いをしていたらしい。
この一年、ずっと一緒に暮らしたからわかる。
道明寺は、ずっと仕事を頑張っていた。
それなのに、私の夢の為に先生になろうって思ってくれたんだ…。
道明寺の気持ちが嬉しすぎて、目の奥が熱くなってくるのがわかる。
私が知らなかっただけで─────。
私は道明寺に…。
すごく大切に思ってもらっていたんだ。
お読みいただきありがとうございます。