邸で牧野の到着を、エントランスホールでウロウロしながら待った。
仕方ねーだろっ!
気になって仕方ねーんだ。
俺が送るっつーのを断ってきたのも、どこに寄るのかも気になって仕方ねー。
こうして俺が待っている間に、あいつが男に会いに寄っているかもしんねーなんて思うとイライラが最高潮になる。
イライラがマックスになって、エントランスホールでの俺のウロウロが高速ウロウロになりだした時─────。
あきらと人妻。
総二郎と、明らかに頭も股の締まりも悪そうな女がやって来た。
なんでどうでもいい奴らが来て、牧野が来ねーんだ?
心配とイライラのループを何度か繰り返した後に、牧野がやっと邸に到着した。
私服の牧野、スゲー可愛い。
残暑の厳しさからか、オフホワイトでノースリーブのマキシ丈ワンピース。
ウエスト部分が細くなっていて、牧野の細い腰が強調されている。
スカートの生地が軽そうで足が透けてねーのかと余計な心配をしながらも、俺だけには見えねーかなとか思ってしまってる。
牧野が歩くたびにワンピースの裾から─────。
牧野の細い足首からふくらはぎがチラチラと、俺を誘うかのように見え隠れする。
「すごい、お家(うち)やね。お家じゃないみたいや。お邸どころか、こんなんお城やん。」
こんなことを、エントランスホールを見上げながら言ってきた。
そして、笑いながら言ってきた。
「肝心なこと言うてないわ。お邪魔します。そんでな、これお土産。回転焼きやねん。類ん家までの行きしに買(こ)うてきた。」
空調が効きすぎているのか?
足先から一気に、俺の体温が失われていく。
『類ん家までの行きしに…』
寄りたいとこっつーのは、男の所で…。
まさかの類。
「…類の所に行ったのか?」
俺自身でも驚くような低い声が出た。
そんな俺の低すぎる声に、両肩をビクンとさせ牧野は─────。
少しだけ驚いたような顔をしつつも、頷きながらいつものように返事をしてきた。
「そや。」
「なんで行ったんだよ?」
「なんでって、あきらくんも総ちゃんもおるし…。類だけ声掛けへんかったら…悪いかなって思って…誘いに行ってん。」
なんとなく、歯切れの悪いこいつ。
でも、次の瞬間にはフツーに話しだした。
「でも、寝てたわ。何回か起こしてんけどアカンかってん。来(こ)ーへんねんて。」
あ"?
そのワンピース姿で、類の家に行ったのか?
類が寝てたってことは、類の部屋まで入ったのか!?
「今日は寝て過ごすんやって。無理矢理起こそうとしたら、私がベッドから落ちてもうてん。それ見て、類が大笑いしてな。失礼やろ?そんな時だけ起きんねんで。」
牧野はあっけらかんと言ってきた。
類の部屋まで入ったのかよ!
寝てる類なんて、どうでもいいじゃねーかっ!
なんで、類のベッドに入ったんだよっ!
イライラ…。
イライライラ…。
イライライライライライラ…。
怒りを静めるにも、静めようがねー。
「もう、あきらくんと総ちゃんは来てるんやろ?うちらも早(は)よ、行こ。プールどこなん?その前に、どこか空いてる部屋借りても良いかな?着替えたいんやけど…。」
こう聞いてきた、牧野の白い左肩に明らかに真新しい紅い印。
それって、キスマークじゃねーか?
急に立ち止まった俺が、牧野の真っ白い肩につけられた紅い印を凝視していたからか─────。
牧野は、困ったように言ってきた。
「これ、類の部屋で噛まれてん。」
!!!
類のヤロー、何考えてんだっ。
俺の気持ちを知ってて、なんでこいつにキスマークなんてつけたんだっ!
クソっ!!!
牧野も牧野だっ!
そんな見える場所にキスマークなんかつけられてるんじゃねー!!!
邸中に俺の声が響き渡った。
「おまっ!類の部屋でなにしてんだっ!!」
「うるさいなー。なんで怒鳴るん?なにしてんって、さっき言うたやん。プール誘いに行ったんやん。最初はちっこかってんけど、直ぐに大きなってきたんやろ。仕方ないやん。」
怒ってるのは俺だっつーのに、牧野まで怒りだした。
類も高校生男子なんだ。
一瞬でデカくなるだろ?
仕方ないってなんなんだっ!
お前は、付き合ってもねー奴とするのかよっ!
むっちゃ好きな人でないと無理って言ってたのは、どの口だ?
夏休み、俺たち殆ど一緒だったんだぞ。
だから、俺は─────。
もしかすると、お前も少しくらい俺のこと想ってんじゃねーかって思ってたんだ。
なんで、そんな所を噛ますんだよ。
なんで、よりによって類なんだよ。
お前の体についたキスマークなんて見たくもねぇ。
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