夏休みに入って数日─────。
俺は、どうしたら牧野と会えるのかってことばかり考えていた。
やっぱデート…だよな。
なんて言って誘ったらいいんだよっ!
そもそも、なんで夏休みがあるんだよっ!
それ自体が間違いだっ!!
俺は、らしくねーのもわかっていながら─────。
スマホをタップしては戻すっつーことばかり繰り返していた。
そのタイミングで俺のスマホからコールが響き渡った。
うぉっ!
クソ忙しい時だっつーのに、誰だよ?
こんなことを思いながら、スマホの画面を見てみると─────。
うぉっ!!
俺の心臓が跳ねあがる。
スマホの画面には間違いなく【牧野つくし】の文字。
どうしたらいいんだ?
バクバクしながらも、直ぐに出ると待っていたみたいか?
なんて思いながらも、俺はスマホをタップした。
牧野との通話が始まったっつーのに、なんて言ったらいいんだ?
「もしもし。」だとか、「はい。」なんておかしいだろ?
あいつらでもねーんだから、「なんだよ?」っつーのも変だ。
なんか気の利いた日本語はねーのかっ?
「・・・・・。」
せっかくの牧野のコールに応じたものの、まさかの無言状態。
『あれ、道明寺?繋がってんかな?もしもーし。』
ずっと聞きたかった牧野の声に、思わず顔がニヤける。
「おう。どうした?」
『どうしたんって、こっちが言いたいわ。』
「何かあったのかよ?」
『あったから電話してんや。』
『道明寺って、今、何してん?』
「あ?俺…は、俺か?」
まさか、お前をデートにどう誘うかを考えてたなんて言えねーし。
いや、いっそのこと今、言ってしまう方がいいのか?
『あんた、今、どこにいてん?』
「あ?俺か?邸にいる。」
『邸ってなに?』
「邸って邸だろ。」
『お家のこと?』
「あぁ、そうだな。家だな。」
『へー。あんたん家ってすごいんやな。お邸なんや。』
この牧野の返事で、邸に誘うか?なんて思ったのも束の間。
牧野は信じられねーことを言いだした。
『家にいてんやったら、学校おいでよ。』
あ?
家にいるなら学校に来い?
だと??
学校は夏休みじゃねーのか?
そんな俺の疑問は、牧野の言葉で一瞬にして消える。
『先生言うてたやろ。忘れたん?コロナでいつ学級閉鎖とか学年閉鎖になるかわからんから、7月中とは8月の最後は学校あるでって。進むだけ進みましょう言うてたやろ。』
・・・・・。
そういえば、あの薄幸そうな顔の担任が、そんなことを言っていたような気がしねーでもねー。
『思い出した?』
「あぁ。」
『じゃ、早よおいでよ。電話してもなー、花沢類は昼寝せなアカン言うし。西門くんは、夏やから一期一会に忙しい言うし。美作くんは、マダムと会うのは白昼が基本とか、訳分からんわ。昼寝はマダわかるけど、一期一会とかマダムと会うのは白昼っておかしいやろ?』
おいっ!
電話してもなーって、あいつらにも電話したのかよっ!!
なんで俺に掛けてくるのが、一番最後なんだ?なんて思いながらも…。
俺は直ぐに登校する約束をした。
あきらはマダム。
総二郎は一期一会。
類は昼寝。
っつーので、あいつらは、夏休み中に一度も登校することは無かった。
ま、俺たちは衛星(英才)教育を受けているから問題ねーけどな。
それが良かったのか、俺と牧野の距離が夏休みの間にスゲー近くなった。
盆の間は牧野も大阪に帰ったが、毎日のように電話やメールした。
登下校は常に一緒。
そして、クラスでも殆ど一緒に過ごしている。
周りからは、俺たちは付き合っていると思われているのかもしれねー。
正直、ちゃんと牧野と付き合いたい。
他の男に俺の女だと牽制したい。
でも、まだ告白もしてねー俺。
付き合う前に、あの言葉を聞いてみてー。
二学期に入ったからといって、急に涼しくなんかならねー。
片手にハンディファンを持ちながら、牧野が突然、暑さに文句を言いだした。
「むっちゃ暑いー。もうこんな暑いの嫌やー。」
確かに今年の夏はスゲー暑い。
毎日、普通に35度以上の気温が続く。
まるで、外国みてーな気温。
ただ、日本は湿度が高く蒸し暑いのがキツイ。
こんな暑い中、俺と牧野が徒歩で登校しているがスゴイだろ?
何度か『邸から車を出す。』っつーのに
『えー。そんなん悪いわ。そんな遠ないし、うち歩くで。道明寺、歩くのしんどかったら、あんたは車で来たらいいねん。』
なんて返されてからは、車の話はしてねー。
それどころか、朝はこいつのマンションの前まで迎えに行き、帰りはマンション前まで送っている。
それでなくてもこんなに細いこいつが、この暑さの中、歩いてウロウロしたりなんかしたら熱中症になるのが心配だろ。
牧野が、制服のブラウスの胸元をパタパタさせている。
その横で、俺は─────。
そのブラウスの胸元を見てーけど、見れねーのに悶々としながら…。
他の男の前でそれはするなって、念力を送った。
「ホンマ暑い。プール行きたいなぁ。」
牧野が呟いた独り言。
あ?プール?
邸に誘うか?
そんな時─────。
隣に歩いているこいつが、俺を見上げながら聞いてきたんだ。
「道明寺んちってお邸なんやったら、プールあるん?」
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