八十八夜

学生時代から大好きなマンガの2次小説です

まやかし婚 179

2022-09-16 08:00:00 | まやかし婚(完)

 

 

俺が欲しかった以上の言葉を、恥ずかしそうにつくしは言ってきた。

 

これ以上の我慢なんて無理だ。

今直ぐ、つくしを寝室に連れ込むっ!

ガタン!!

俺は席を立った。

 

が、次の瞬間。

俺の動きは、完全に止まった。

俺の気付かねー間に(ベッドに連れ込むことばかり考えていたからか?)

何故か、つくしが隣に来ていた。

 

そして、満面の笑みで言ってきたんだ。

「ね、道明寺。ケーキ、食べよ。」

 

なんでこの流れでケーキになるんだ?

絡まり合いながらベッドに移動だとか(お互い初心者だから無理か?)

お姫様抱っこっつーのでベッドに移動するのがフツーだろ!

 

忌々しい気持ちで、テーブルに視線を落とすと─────。

デザートプレートには、つくしの片手くれーの小さなホールケーキと、フォークが2つ。

ナイフや、ホールケーキを分けて入れる皿がねー。

 

「ケーキ、切らねーの?」

「うん。切らない。」

 

「このまま食うのか?」

「そうだよ。このまま食べるの。はい、道明寺も早く座って。」

なんて言いながら、つくしは俺にフォークを渡してきた。

 

男女の関係になってなかった俺たちは─────。

食い物のシェアなんて殆どしたことなんてねー。

それなのに、急にどうしたんだ?

どっちかっつーと、つくしはそんなことを自ら進んでする女じゃねーはずだ。

 

「なんで切らねーんだ?」

俺の疑問に─────。

 

つくしの目が不自然に動いた。

そして、明らかに変なこいつからの返事。

「なんでって…。えっと、そのまま食べた方が、より一層美味しいかなーとか思ったりしたんだっけ?それより、早く食べよ。」

 

俺が、そんな返事で納得するわけねーだろ。

なにが『より一層美味しい』だ。

お前は、いつも、どんな食い物も『美味しい』って言いながら食ってるだろっ!

ジト目で睨んでみても─────。

 

そんなことでビクともしねー、こいつは、

「いただきまーす。」

なんて言いながら、ホールケーキに一口目のフォークをさした。

 

つくしが、美味そうにケーキを食いだした。

そして、俺に話しかけてきた。

「おいしー。道明寺が甘いの苦手なのは知ってるけどさ…。一口だけでもどう?」

 

目の前のつくしは、美味そうにケーキを食い続けている。

つくしが、ケーキをフォークですく─────

った、瞬間、俺はこいつの右手を固定した。

 

一瞬で目をデカくしたつくしが、俺を見上げてきた。

ここまでは、いつかの鍋の日と同じだ。

 

つくしと目線を合わせた俺は─────。

そのままつくしのフォークを、俺の口まで運んだ。

 

その間もつくしは、

「えっ?あー!ちょっ、自分で食べてっ!」

なんて言ってるが、無視だ。

 

俺の口の中に入った瞬間、ふわふわした生クリームの甘さと、フルーツの甘みと酸味が重なった。

と、同時にスポンジがなめらかに溶けていく。

 

この甘過ぎるケーキを食った後、つくしを見ると…。

つくしは、明らかに恥ずかしそうな顔をしている。

ここまでも、いつかの鍋の日と同じだ。

 

この次に─────。

あの鍋の日には言わなかったことを、俺は口にした。

「間接キス。」

 

たったこれだけの言葉に─────。

つくしは顔だけじゃなく、耳や首まで真っ赤にさせた。

 

おい…。

間接キスくれーで、なんで真っ赤になってんだよ?

今夜、俺たちはそんなモノじゃすまねーことするだぞ!!

こんなことを思いながらも、男慣れしてねーのに顔がニヤけてくる。

 

「間接キスの次は、口移しで食ってみるか?」

っつー俺の言葉に─────。

 

一瞬で半泣きになったつくしは、必死になって言ってきた。

「くっ、くくく、口移しっ!?ムリ。そんなの絶対無理っ!」

 

「そこまで嫌がるんじゃねー。凹むっつーんだよ。」

ジト目で言ってみれば…。

 

「あっ、ごめんなさい。」

なんて素直に謝ってくるつくし。

 

「俺とのキスが嫌なんじゃねーよな?」

確認するように聞いてみると…。

俺の顔を上目遣いで見てきたつくしは、小さく頷いた。

 

ホッとしながら、俺は気になることを口にした。

「なぁ。なんでホールのままだったんだ?」

 

「願掛けって程でもないんだけど…。なんとなく切りたくなかっただけ。私がそう思っただけで、道明寺が気にするようなことじゃない。」

つくしの言ってきたことが気になった。

 

願掛けで、ケーキを切りたくねー?

しかも、俺が気にするようなことじゃねーって…。

俺は、お前の旦那なんだ!

旦那に言えねーことなんて、許されるわけねーだろ!

 

「言えねーんなら、口移しな。」

俺の言葉に、つくしが困った顔をした。

 

つくしの視線を感じながら、俺はケーキを口に含んだ。

そして、つくしの両頬を固定しながら、顔を近づけていくと─────

 

「ちょっと、待ってよ!!言う!言うからっ!!」

焦ったつくしの声。

 

そして、恥ずかしそうに話し出した。

「今日、ケーキを選んでいる時に…。今は小さいけど…。いつか、家族が増えたりして…。大きなケーキを選ぶ日が来るのかなって思ったの…。だから、そう思ったケーキを切りたくなかったというか…。」

 

 

 

 

お読みいただきありがとうございます。