八十八夜

学生時代から大好きなマンガの2次小説です

まやかし婚186

2022-09-30 08:00:00 | まやかし婚(完)

 

 

俺の礼と謝罪に、西田の顔が一瞬笑ったように見えた。

なんとなく、不気味な笑いに見えた。

マジで『脱童貞ならぬ、初イキソビレ』なんてことになんねーよな。

こんな不安を抱いたまま、機体は国内線の無い空港へと静かに着陸した。

 

移動中の車で、『信じられないほどの仕事がたまっている』と西田から聞いてはいたが…。

マジでシンガポール支社では、スゲー量の仕事がたまっていた。

まさかこんな状態になっていたのかっつー程だった。

 

これはヤバイ。

あまり考えたくねーが、シンガポール以外の支社はどうなっているんだ?

西田に聞かずとも、かなりヤバイ状態になっていることがわかる。

もしかすると、これからしばらくは出張が続くのを覚悟しねーといけねーのかもしんねー。

 

とりあえず、今の目標は28日には絶対に帰国。

あいつの誕生日を一緒に過ごす為に、俺は必死になって働いた。

マジで休憩どころか、殆ど睡眠もとらねーで働き続けた。

 

なんとか28日には間に合うだろうと判断した時─────。

西田も同じような事を言ってきた。

「28日の帰国は難しいかと思っていましたが、なんとかなりそうですね。」

 

西田のこの言葉に、俺は頷いた。

そんな俺を見て、西田がスゲー嫌なことを言ってきた。

「もうお気づきかと思いますが、シンガポール支社以外も同じ状況です。しばらくは出張が続くことを覚悟していてください。」

 

やっぱそうだよな。

覚悟はしていたが…。

つくしとこれからって時に、なんで出張が続くんだよとも思う。

 

この時─────。

俺はあることを思い出した。

 

「西田…。お前、俺がつくしと結婚した頃、自分は愛のある結婚だから出張は行きたくねーとか、言ってなかったか?」

「そうですね。確かに、そのような事を言いました。ですが、今は状況が変わったのです。」

 

西田の状況が変わった?

いよいよ嫁に、愛想をつかれたか?

それとも、見捨てられたのか?

俺的には、見捨てられたが濃厚だと思った。

 

が、西田からの返事はスゲー意外なモノだった。

「実は我が家に、赤ちゃんが来てくれたのです!」

興奮気味の西田が言ってきた。

 

あ"?

西田に赤ちゃん…?

 

唖然としている俺に、興奮気味の西田。

「来年の夏には、西田もパパになります!」

 

西田がパパ?

世も末だろ。

西田のガキだぞ。

能面で愛想も無く、俺に仕事と無理難題を押し付けてくるに決まってる!

 

「ガキが産まれるのに、出張なんて行っていていいのかよ?」

西田が無理なら、つくしが秘書になったらいいんだ。

こんな期待を込め聞いてみた。

 

が、帰ってきたのは、こんな期待外れの返事だった。

「ご心配には及びません。妻は悪阻がきつく、実家へ帰っております。妻の母が付いてくれているので心配はいりません。その為、私としましても心置きなく出張へ行くことが出来ます。」

 

なんだよ。

俺の期待を返せっつーんだ。

 

その上、

「産まれるのは7月です。その頃の出張は、司様お一人でお願いします。」

なんてことまで言ってきた。

 

俺は、今までに一度も『お前と一緒に出張に行きたい。』なんてことは言ってねー。

俺がこんなことを思ってるっつーのに─────。

 

「これからしばらく、妻と離れた上に、司様と一緒に出張。ため息が出そうになりますが、これも仕事です。仕方ありません。西田は、愛する妻と産まれてくる可愛いわが子の為に頑張ります!」

なんて言いだした。

 

俺が思ったことを、先に言うんじゃねーっつーんだ!

こんな西田とのやり取りを繰り返しながら、俺はシンガポールでの仕事に没頭した。

 

 

 

そして、いよいよ私の24歳の誕生日がやってきた。

今日が仕事納めの日。

残業が確定している日。

そして、道明寺が帰国する日。

 

どんな顔をして会ったらいいんだろ?

きゃー!

ドキドキしてきた。

 

この前は、西田さんの邪魔…。

じゃなくって!

西田さんが道明寺を迎えにきてくれたから未遂だったけど…。

 

でも、西田さんって本当に優しい人なの。

あの日、西田さんが突然迎えに来てしまって─────。

『道明寺と少しだけ時間を下さい。』ってお願いしたら、

『では、私は一足先に出てエレベーターホールで司様を待つようにします。』なんて言ってくれたから…。

触れるか触れないかくらいになってしまったけど、道明寺にキスすることが出来たの。

 

キスでもこんな状態なのに、大丈夫かな?

いよいよなんだ。

ドキドキしながら、私は仕事に集中した。

 

仕事が終わったのは20時過ぎ。

数日前から総務に纏わりついていた緊張感が一気に解けた。

 

「お疲れ様でした。」

「良いお年を。」

なんて言葉で挨拶が始まった。

私もそんな挨拶をしながら、会社を後にした。

 

晩ご飯、どうしよう…。

今日まで道明寺はシンガポールだから、和食だよね。

茶碗蒸し?肉じゃが?焼き魚?

それとも、親子丼?

 

私が晩ご飯のメニューを考えていると─────。

後ろから誰かに呼ばれる声がした。

 

振り返って見ると、そこには営業の織部くん。

 

「少しだけ良いですか?」

織部くんが私に声を掛けてきた。

 

営業部の人たちは、もっと早くに帰社しているはず…。

どうして?

 

私は、織部くんの真剣な顔が気になった。

いつもの明るい感じの織部くんじゃない。

私は織部くんに小さく頷いた。

 

 

 

 

お読みいただきありがとうございます。



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