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俺の礼と謝罪に、西田の顔が一瞬笑ったように見えた。
なんとなく、不気味な笑いに見えた。
マジで『脱童貞ならぬ、初イキソビレ』なんてことになんねーよな。
こんな不安を抱いたまま、機体は国内線の無い空港へと静かに着陸した。
移動中の車で、『信じられないほどの仕事がたまっている』と西田から聞いてはいたが…。
マジでシンガポール支社では、スゲー量の仕事がたまっていた。
まさかこんな状態になっていたのかっつー程だった。
これはヤバイ。
あまり考えたくねーが、シンガポール以外の支社はどうなっているんだ?
西田に聞かずとも、かなりヤバイ状態になっていることがわかる。
もしかすると、これからしばらくは出張が続くのを覚悟しねーといけねーのかもしんねー。
とりあえず、今の目標は28日には絶対に帰国。
あいつの誕生日を一緒に過ごす為に、俺は必死になって働いた。
マジで休憩どころか、殆ど睡眠もとらねーで働き続けた。
なんとか28日には間に合うだろうと判断した時─────。
西田も同じような事を言ってきた。
「28日の帰国は難しいかと思っていましたが、なんとかなりそうですね。」
西田のこの言葉に、俺は頷いた。
そんな俺を見て、西田がスゲー嫌なことを言ってきた。
「もうお気づきかと思いますが、シンガポール支社以外も同じ状況です。しばらくは出張が続くことを覚悟していてください。」
やっぱそうだよな。
覚悟はしていたが…。
つくしとこれからって時に、なんで出張が続くんだよとも思う。
この時─────。
俺はあることを思い出した。
「西田…。お前、俺がつくしと結婚した頃、自分は愛のある結婚だから出張は行きたくねーとか、言ってなかったか?」
「そうですね。確かに、そのような事を言いました。ですが、今は状況が変わったのです。」
西田の状況が変わった?
いよいよ嫁に、愛想をつかれたか?
それとも、見捨てられたのか?
俺的には、見捨てられたが濃厚だと思った。
が、西田からの返事はスゲー意外なモノだった。
「実は我が家に、赤ちゃんが来てくれたのです!」
興奮気味の西田が言ってきた。
あ"?
西田に赤ちゃん…?
唖然としている俺に、興奮気味の西田。
「来年の夏には、西田もパパになります!」
西田がパパ?
世も末だろ。
西田のガキだぞ。
能面で愛想も無く、俺に仕事と無理難題を押し付けてくるに決まってる!
「ガキが産まれるのに、出張なんて行っていていいのかよ?」
西田が無理なら、つくしが秘書になったらいいんだ。
こんな期待を込め聞いてみた。
が、帰ってきたのは、こんな期待外れの返事だった。
「ご心配には及びません。妻は悪阻がきつく、実家へ帰っております。妻の母が付いてくれているので心配はいりません。その為、私としましても心置きなく出張へ行くことが出来ます。」
なんだよ。
俺の期待を返せっつーんだ。
その上、
「産まれるのは7月です。その頃の出張は、司様お一人でお願いします。」
なんてことまで言ってきた。
俺は、今までに一度も『お前と一緒に出張に行きたい。』なんてことは言ってねー。
俺がこんなことを思ってるっつーのに─────。
「これからしばらく、妻と離れた上に、司様と一緒に出張。ため息が出そうになりますが、これも仕事です。仕方ありません。西田は、愛する妻と産まれてくる可愛いわが子の為に頑張ります!」
なんて言いだした。
俺が思ったことを、先に言うんじゃねーっつーんだ!
こんな西田とのやり取りを繰り返しながら、俺はシンガポールでの仕事に没頭した。
そして、いよいよ私の24歳の誕生日がやってきた。
今日が仕事納めの日。
残業が確定している日。
そして、道明寺が帰国する日。
どんな顔をして会ったらいいんだろ?
きゃー!
ドキドキしてきた。
この前は、西田さんの邪魔…。
じゃなくって!
西田さんが道明寺を迎えにきてくれたから未遂だったけど…。
でも、西田さんって本当に優しい人なの。
あの日、西田さんが突然迎えに来てしまって─────。
『道明寺と少しだけ時間を下さい。』ってお願いしたら、
『では、私は一足先に出てエレベーターホールで司様を待つようにします。』なんて言ってくれたから…。
触れるか触れないかくらいになってしまったけど、道明寺にキスすることが出来たの。
キスでもこんな状態なのに、大丈夫かな?
いよいよなんだ。
ドキドキしながら、私は仕事に集中した。
仕事が終わったのは20時過ぎ。
数日前から総務に纏わりついていた緊張感が一気に解けた。
「お疲れ様でした。」
「良いお年を。」
なんて言葉で挨拶が始まった。
私もそんな挨拶をしながら、会社を後にした。
晩ご飯、どうしよう…。
今日まで道明寺はシンガポールだから、和食だよね。
茶碗蒸し?肉じゃが?焼き魚?
それとも、親子丼?
私が晩ご飯のメニューを考えていると─────。
後ろから誰かに呼ばれる声がした。
振り返って見ると、そこには営業の織部くん。
「少しだけ良いですか?」
織部くんが私に声を掛けてきた。
営業部の人たちは、もっと早くに帰社しているはず…。
どうして?
私は、織部くんの真剣な顔が気になった。
いつもの明るい感じの織部くんじゃない。
私は織部くんに小さく頷いた。
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