やっと脱童貞っつー時に、なんで邪魔が入るんだよっ!
しかも、シンガポールに出張ってなんだよっ!!
「行ってくる。」。
不機嫌全開の俺の声に、つくしが顔を曇らせた。
つくしが悪いんじゃねー。
こんなヘビの生コロガシなんてねーだろっ!!
そんな態度の俺を気にしながらも、つくしは外を確認した。
西田が先に行ったことを気にしてるのか?
あいつのことなんて心配いらねー。
寒い中、いつまでも俺を待ってろっつーんだ。
つくしは、俺を見上げ言ってきた。
「行ってらっしゃい。気を付けてね。」
『あぁ。』って返事は出なかった。
俺から出た言葉は、まさかの「おわっ。」だった。
つくしが、ネクタイを思いっきり引っ張ってきたからだ。
思わず、前かがみになってしまう俺。
この瞬間─────。
俺の唇にやわらけーモノが触れた。
つくしからのキスっつーのに、気付くのが遅れた俺。
気付いた時には、つくしの唇は離れて─────。
顔を真っ赤にしたつくしが、
「待ってるね…。」
なんてスゲー小さな声で言ってきたんだ。
この時の俺の顔は、締まりのねー顔をしていたと思う。
つくしからのキスに、待ってるの言葉だぞ!
すぐさま、俺はつくしを力の限り抱き締めた。
これ以上力を入れると、つくしの骨が折れるかもしんねーって不安に思った瞬間─────。
胸に閉じ込めているつくしから、くぐもった声。
「苦しい…。」
力を緩めると、つくしは
「もう、バカ力…。息できないじゃない!」
なんて、ブツブツと俺を見上げながら言ってくる。
そんなつくしの首筋に顔をうずめた俺は、つくしの耳元で囁いた。
「絶対、28日の夕方には帰る。」
コクンとつくしが頷くと─────。
つくし自身の香りとサラサラの髪が、俺の顔や首をくすぐった。
邸に向かう車の中で、
「年内に間に合ってよかったです。」
なんて、クソ真面目な表情で言ってくるクソ西田。
殺意を抱く。
やっと、俺の脱童貞の歴史的瞬間を邪魔した罪は重いぞ!
ジト目で西田を睨んでみたが…。
「いやー。良かったですね。これで正真正銘のご夫婦ですね。司様も、ようやく、やっと、遅いくらいの脱童貞となり、誠におめでとうございます。」
こんなことを言い出した。
あ"?
こいつ、今なんつった?
おめでとうございますじゃねーっつーんだよっ!
脱童貞の邪魔をしてきたのは、お前だっ!!
「いやー、それにしてもめでたい。実にめでたい!これで私は、これからも牧野さんと共に、司様の異常な生態を語り合えることが出来ます!!同じ悩みを持つ、同士がいるというのは実に素晴らしく心強いですね!!」
こんなことを、西田は話している。
あ"??
俺の異常な生態ってなんだ?
「そして!司様には、一日でも早く、結婚という墓場体験をしていただきたい!これに関しては、西田も司様の味方になれます。」
西田は力説している。
・・・・・。
このバカ秘書はなにを言ってんだ?
結婚という墓場?
つくしと結婚して墓場になんてなるわけねーだろっ!
「お前、今さっきから何言ってんだ?」
「は?」
俺の質問に、マヌケな返事をしてきたクソ西田に俺は話した。
「いいか?西田。俺は、あいつとマダ何もシてねー。」
この俺の言葉に、西田はバカ面をしながら言ってきた。
「はっ?今…なんと仰いました?」
「なにもシてねーっつったんだっ!なにが、脱童貞だっ!なにが、おめでとうございますだっ!!その邪魔をしたのは、お前だっつーんだよっ!」
俺の怒鳴り声に、西田は目を見開いた。
そして、ニンマリ笑いながら言ってきたんだ。
「あー、マダでしたか。そうですか。それは、仕方がないですね。仕事と同じで、そっちもすることが遅かったのですね。」
あ"?
仕方がない?
仕事と同じで、そっちもすることが遅い!?
コイツ…。
俺の秘書の分際で言いたい放題かよ?
俺がジト目で睨んでいると、西田は話し出した。
「日本に帰国した、その翌朝。司様は私をペントハウスに呼びつけました。覚えていますか?」
そんなの一年以上も前のことだろ。
覚えてねーっつーんだよ。
「私が妻と─────。その当時は、付き合っていたのですが…。久しぶりに過ごす貴重な朝を、司様は一通のメールで邪魔をしてきたのです。」
明らかに恨み節の西田。
「あの日、私を呼び付けたというのに…。司様は、まだ寝ていらっしゃいました。」
西田は静かに話しているが…。
怒っているのだけは伝わってくる。
やべっ。
一年前の俺は、そんなことしていたのか?
やべぇ。
流石(ナガレイシとは言わなくなった!)の俺も、西田と嫁に悪かったっつー思いが出てくる。
そんな俺に、西田は─────。
「恋人たちの貴重な時間を潰した罰です。司様の脱童貞の邪魔をすることが出来て、西田としましては最高に幸せです。いやー。まさか、脱童貞は昨日に済ませているとばかり思っていたので…。今日はタイミングを見計らって、司様のイきそびれを狙ったつもりだったのですが…。まさかの脱童貞だったとは(笑)」
なんてことを、嬉しそうに言ってきたんだ。
お読みいただきありがとうございます。