怒りで体が震えだす。
そんな俺の耳に届いたのは、牧野の呑気な声。
「やっぱし痒いわー。熱持ってるし。私、ちっこい頃から虫に弱くて、噛まれたら直ぐ、こんな風に腫れてくんねんよなー。」
あ"?
こいつ、今なんつった?
ちっこい頃から虫に弱い?
俺は、一番重要なことを聞いてみた。
「お前、類に噛まれたっつーたよな?」
「なんでやねんっ!類が噛むわけないやろ。類の部屋で、虫に噛まれれたんや。」
こんなことを、俺をバカにしたかのように言ってくる牧野。
「虫は刺されるとか、食われるだろ?」
「蜂は刺すやけど、蚊は噛むやん。」
牧野は、当然のように言ってきたが─────。
紛らわしい事を言うんじゃねー!
だから、俺が勘違いしたんだっ!!
そうだよな。
類が俺を裏切るわけねーよな。
一瞬にして体の力が抜けていく。
俺は壁に寄りかかり、息を吐き出した。
自分がどれだけ緊張していたかっつーのが、よくわかる。
そんな俺を不思議そうに見ながら、
「なにしてん?怒鳴って疲れたんか?」
なんて言ってくるこいつ。
あぁ。
マジで気持ちが疲れた。
俺が黙っていると─────。
「しんどいん?」
心配そうに首を傾げながら聞いてくるこいつが、可愛くて仕方ねー。
俺が無言で首を振ると────。
「良かった。早よプール行こ。」
って言いながら、牧野は俺の腕に手を伸ばし引っ張ってきたんだ。
細いこいつが引っ張った所で、なんて思った。
が、その細腕に、どれだけ力があるんだよって思うような力で引っ張られた。
この瞬間─────。
牧野の力によって、俺の体が前のめりになる。
驚いた牧野のデケー目が、ますますデカくなる。
牧野にぶつかるっ!!
俺は全身の筋力を使って、体を制止した。
が、体は急に止まれねー。
牧野のデケー目が、これ以上ねーくらいデカくなった。
その牧野の瞳の中に、俺が自分自身の姿を捉えた時─────。
あと数センチでキスできそうな距離で、俺の体はピタリと止まった。
そうだよな。
好きな女との偶然のキスが、そんなに上手くいくわけねーよな。
惜しいような、悔しいような思いをしながら牧野を見てみると…。
「もう!早よ行くで。」
なんて可愛くねー口調で言ってるが…。
こいつの顔や耳は真っ赤で─────。
赤くなった顔を隠そうと俯いているからか、うなじが綺麗なピンク色になっていた。
俺の部屋で水着に着替えをさせ、プールへと向かう。
俺たちがプールサイドを歩きだした瞬間、
「つくし!ラッシュガードにハーフパンツとかありえねーだろ。色気が無い。ラッシュガードとハーフパンツは、脱いでこいっ!」
総二郎の怒鳴り声が、響き渡った。
確かにあきらや総二郎が連れてきた女たちとは、水着の面積が違うよな。
だからといって、面積の狭い水着なんて俺以外の男に見せたくねーし…。
「せやかて、恥ずかしいやん。」
困った顔をした牧野が、俺に助けを求めるような目線を送ってくる。
そして、あきらまでがダメ出しをしようと口を開けかけた時─────。
あきらと総二郎の視線を遮るように、こいつは俺の後ろに隠れた。
お前はなんでそんなに可愛いことをするんだよ。
庇護欲っつーの?
スゲー守りたくなる。
あきらと総二郎には、目線でそれ以上の追及を止めさせた。
こいつらの目的は、牧野の水着でもプールでもない。
そのうち、邸のどこかの部屋にしけこむはずだ。
その下準備中のあきらと総二郎は、女たちと際どいくらいイチャイチャしだした。
牧野は、恥ずかしそうに視界に入らねーようにしながら軽く準備体操をした後、浮き輪でプールを泳ぎだした。
しばらくすると、あきらと総二郎は、それぞれの女を連れて部屋へ向いだす。
そんなあいつらを、牧野はスゲー不思議そうに眺めていた
あいつらが邸に女を連れ込むなんて珍しくねーけど、こいつにとっては信じられねーことなんだろう。
プールには俺と牧野の二人きり。
なんとなく微妙な雰囲気だ。
この微妙な雰囲気を突破しねーといけねーよな。
俺が牧野の浮き輪を差しながら、
「泳げねーのか?ここは深いから、お前だと背が足りねーけど。」
言ってみると…。
「足、着かんでも泳げんで~。でも、プールで遊んだら眠くなるやろ。」
なんてガキみたいなことを言い出す牧野。
「眠たくなったら、さっきの部屋で寝るといい。帰りは車で送っていく。」
っつー、俺の言葉に、嬉しそうに子供のようにパーっと笑うこいつ。
さっきの部屋は、俺の部屋なんだぞ。
牧野の寝るタイミングで、俺も眠たくなるか?なんてことを秘かに思う。
牧野の浮き輪をひっぱたりしながら、二人で泳いだ後…。
俺は牧野に聞いてみた。
「なぁ。その下ってどんな水着なんだ?」
あいつらじゃねーが、やっぱ好きな女の水着は見たい。
俺だけが見てみたい。
それにこの浮き輪、さっきから邪魔なんだよ!
「普通の水着やで。」
「フツーってどんなんなんだよ。」
「教えへーん。」
「見せろ。」
「見せへんもーん。」
こんな可愛くねーことを言って、浮き輪を自由自在に使い俺から離れようとした。
そうはさせるかっ!
俺は浮き輪の動きを封じ込め、こいつのラッシュガードに手を伸ばした─────。
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