正月2日目。
朝早く起きて支度をととのえ、美容院へ行った。
お正月なので、本来はお店が休みなのだが、前もって相談をして予約をしておいたのだ。
美容師さんは休日出勤になってしまうので、心付けと、その「台」にするお年賀のお菓子を用意し、かんざしや鹿の子などのマイ髪飾りと一緒に、忘れないように持っていった。
美容師さん、お休みのところ本当にありがとうございました(感謝感謝)。
向かった先は都内某所の美容院だが、ここでは、京風の日本髪を本式で結ってくれるのだ。
「本式」というのは、いわゆる「新日本髪」の結い方ではなく、鬢(びん)付け油や「かもじ」(いわゆる「つけ毛」のようなもの)を使って結い上げる、昔ながらの方法のことである。
それに対して新日本髪は、鬢付けやかもじを使わず、内側に逆毛を立てることによって形を作っていく。
「新日本髪」というと、日本髪を現代的な形にアレンジしたヘアスタイル、と考えられていることが多いようだが、結い方が本式と異なるだけであって、新日本髪でも古典的な日本髪と同じようなスタイルを作ることは可能。
ただ、最近の美容室では、新日本髪でさえ結えないところも多いようだ。
新日本髪は、本式の日本髪に比べると結髪料金が安いのが魅力だが、髪型を何日ももたせることはできない。成人式などで一日だけ結うという場合は、新日本髪がいいだろう。
反対に、本式の結髪は、料金は高くなるが、髪型は数日間もつ(ただし、寝方が悪いとくずれてしまう)。
私は、本式の日本髪を結ってもらった。
先に「京風の」日本髪を結ってくれる美容院と述べたが、一口に「日本髪」と言っても、江戸風と京風では髪型も結い方も異なる。
京風の日本髪の大きな特徴の一つは、鬢(びん。顔の横の部分の髪のこと)の形。
江戸風の結髪では、この「鬢」が横に張り出すようになっているのだが、京風の場合は「引き鬢」と言って、後ろへ向かって流れるようになっているのが特徴。

現代の京都の芸妓さんのカツラは、江戸風の髪型になっているが、舞妓さんは地毛で髪を結っているので、京風の鬢の形になっている。
私はこの京風の「引き鬢」の形がとても好きだ。丸みのある良い形をしているし、鬢が横に張り出さないので、頭がそれほど大きく見えず、普通の着物にも調和しやすい。
今回私が結ってもらったのは、「奴島田(やっこしまだ)」という髪型。

これは、現代においては、デビューから何年か経った舞妓さんがお正月など紋付の正装をする時だけ結う髪型。
もともとは、江戸時代、武家の未婚女性が結っていた髪型だったが、それが花柳界などにも広まったのだ。
「島田」という髪型は、現代でも耳にすることがあると思う。最も有名なのは、花嫁さんのカツラにもなっている「高島田」だろう。この「高島田」と「奴島田」は、もともと同じものを指した。
「島田」には、後ろの「髷(まげ)」の部分の形のちがいによって、「投げ島田」「つぶし島田」など、さまざまなバリエーションがあるのだ。
そして昔は、身分や職業、年齢によっても髪型がちがっていた。
「奴島田」は主に武家の未婚女性が結ったが、「投げ島田」は芸者さんの髪型で、町人の女性は「つぶし島田」を結うことが多かった。
日本髪を結って歩いていると、とりわけ年配の女性から好評を博す。「私たちのころは、お正月になると必ず日本髪を結っていたのだけど、最近はほとんど結わなくなったものねえ。うれしいわ」と喜ばれた。
昔は、お正月のほか、節分にも「厄払い」のために日本髪を結っていたそうだ(今でも京都の舞妓さんたちは、節分になると厄払いのために普段とちがう髪型を結える)。
数年前にも、歌舞伎座の新春興行初日の中継を見ていて、会場に日本髪の女性がうつっていて「いいなあ」と思った。
最近は、初心者向けの歌舞伎入門書などで、「歌舞伎の時には観劇の妨げにならないよう、髪を高く結い上げないように」などとまことしやかに書かれているようだが、お正月興行の時にまでそんなことを言っているのは野暮というもの。第一、昔の人は一年じゅう日本髪で芝居見てたのだから(笑)。
まあ、さすがに花魁みたいな大きな髪型や、かんざしをたくさんさすというのはやめておいたほうがいいと思うが……。
今日の着物は、またまた紺の江戸小紋。
お正月なので華やかな着物にしようかとも思ったのだが、髪型との調和を考えると、無地に近い着物のほうがよさそうだったので。
そのぶん帯で勝負。
ピンクに松の柄の、織りのなごや帯。

着物が地味なぶん、帯の色柄が目立つ。
以前は、着物の色柄で季節感を出したいと思っていたのだが、最近では帯でお正月らしさをあらわすのもいいなあと思っている。
お正月だし、江戸小紋に織りのなごや帯というきっちりしたコーディネートなので、帯には扇子を差した。祝儀のときだけでなく、あらたまったところへ出る場合や人の家を訪問する場合は、帯に扇子を差すのが正式。この場合、あおぐためのものではないので、祝儀用の扇子(末広)か、それに代わるような黒塗りの骨の扇子を使う。
根付は、お正月らしく干支の酉(とり)をモチーフにしたものにした。
ちなみにこの根付は何につけられているかというと、懐中時計である。着物のときに腕時計は見た目もあまりよくないし袖口にひっかけるおそれがあるので、私はいつも懐中時計にしている。和装小物店で買ったもので、小ぶりなので帯のなかに入れやすい。
洋服のときの腕時計は、高校生のころから使っているものだというのに(さすがにベルトだけはときどき交換しているが)、着物のときの懐中時計につける根付は、ついつい集めてしまう……。
髪結いが終わったら、国立演芸場へ。
今日はお正月興行の初日。
はじめに、落語家や講談師、奇術師などの女性メンバーによる「木遣り」が披露された。
「木遣り」はもともと、木場から材木を運ぶ時にうたわれていたものだが、それが、鳶の人々のたしなみとして婚礼などの席で祝儀としてうたわれるようになった。
黒の紋付を着流しにして裾をからげ、ステテコをはき、左手には自分の名前の入った提灯、右手には扇子を持ったいでたちの女性が居並ぶ様子は、なかなか風情があった。
ほかにも、獅子舞が披露されたり、寄席の踊りが披露されたり、三味線漫談の師匠が黒留袖で登場したり、お正月ならではの高座だった。
客席でも、着物を着ている人をちらほらと見かけた。
場内には数々のお正月飾りが飾られ、初春らしい雰囲気だった。
家に帰ってから、寝るときが大変。
髪をくずさないように寝るのが一苦労である。
本当は、「箱枕」という、時代劇に出てくるような高い枕を使うのだが、今どきそんなものがある家は少ないだろう。当然のことながら、わが家にもない。箱枕を買うくらいだったら、今話題の低反発性安眠枕を買う(笑)。
そこで、どうしたかというと。
ふだん使っている枕の上に、小さくて固めの枕を重ね、その上にアゴをのせて、うつぶせになって寝た。寝返りをうたないように、腕を組んだ姿勢で。
はっきり言って、熟睡はできない。起きたらアゴは痛いし。こんな寝方を毎日していたら、あっというまに顎関節症になってしまうだろう。
でも、この寝方のおかげで、髪もくずれず無事に翌朝を迎えた。
朝早く起きて支度をととのえ、美容院へ行った。
お正月なので、本来はお店が休みなのだが、前もって相談をして予約をしておいたのだ。
美容師さんは休日出勤になってしまうので、心付けと、その「台」にするお年賀のお菓子を用意し、かんざしや鹿の子などのマイ髪飾りと一緒に、忘れないように持っていった。
美容師さん、お休みのところ本当にありがとうございました(感謝感謝)。
向かった先は都内某所の美容院だが、ここでは、京風の日本髪を本式で結ってくれるのだ。
「本式」というのは、いわゆる「新日本髪」の結い方ではなく、鬢(びん)付け油や「かもじ」(いわゆる「つけ毛」のようなもの)を使って結い上げる、昔ながらの方法のことである。
それに対して新日本髪は、鬢付けやかもじを使わず、内側に逆毛を立てることによって形を作っていく。
「新日本髪」というと、日本髪を現代的な形にアレンジしたヘアスタイル、と考えられていることが多いようだが、結い方が本式と異なるだけであって、新日本髪でも古典的な日本髪と同じようなスタイルを作ることは可能。
ただ、最近の美容室では、新日本髪でさえ結えないところも多いようだ。
新日本髪は、本式の日本髪に比べると結髪料金が安いのが魅力だが、髪型を何日ももたせることはできない。成人式などで一日だけ結うという場合は、新日本髪がいいだろう。
反対に、本式の結髪は、料金は高くなるが、髪型は数日間もつ(ただし、寝方が悪いとくずれてしまう)。
私は、本式の日本髪を結ってもらった。
先に「京風の」日本髪を結ってくれる美容院と述べたが、一口に「日本髪」と言っても、江戸風と京風では髪型も結い方も異なる。
京風の日本髪の大きな特徴の一つは、鬢(びん。顔の横の部分の髪のこと)の形。
江戸風の結髪では、この「鬢」が横に張り出すようになっているのだが、京風の場合は「引き鬢」と言って、後ろへ向かって流れるようになっているのが特徴。

現代の京都の芸妓さんのカツラは、江戸風の髪型になっているが、舞妓さんは地毛で髪を結っているので、京風の鬢の形になっている。
私はこの京風の「引き鬢」の形がとても好きだ。丸みのある良い形をしているし、鬢が横に張り出さないので、頭がそれほど大きく見えず、普通の着物にも調和しやすい。
今回私が結ってもらったのは、「奴島田(やっこしまだ)」という髪型。

これは、現代においては、デビューから何年か経った舞妓さんがお正月など紋付の正装をする時だけ結う髪型。
もともとは、江戸時代、武家の未婚女性が結っていた髪型だったが、それが花柳界などにも広まったのだ。
「島田」という髪型は、現代でも耳にすることがあると思う。最も有名なのは、花嫁さんのカツラにもなっている「高島田」だろう。この「高島田」と「奴島田」は、もともと同じものを指した。
「島田」には、後ろの「髷(まげ)」の部分の形のちがいによって、「投げ島田」「つぶし島田」など、さまざまなバリエーションがあるのだ。
そして昔は、身分や職業、年齢によっても髪型がちがっていた。
「奴島田」は主に武家の未婚女性が結ったが、「投げ島田」は芸者さんの髪型で、町人の女性は「つぶし島田」を結うことが多かった。
日本髪を結って歩いていると、とりわけ年配の女性から好評を博す。「私たちのころは、お正月になると必ず日本髪を結っていたのだけど、最近はほとんど結わなくなったものねえ。うれしいわ」と喜ばれた。
昔は、お正月のほか、節分にも「厄払い」のために日本髪を結っていたそうだ(今でも京都の舞妓さんたちは、節分になると厄払いのために普段とちがう髪型を結える)。
数年前にも、歌舞伎座の新春興行初日の中継を見ていて、会場に日本髪の女性がうつっていて「いいなあ」と思った。
最近は、初心者向けの歌舞伎入門書などで、「歌舞伎の時には観劇の妨げにならないよう、髪を高く結い上げないように」などとまことしやかに書かれているようだが、お正月興行の時にまでそんなことを言っているのは野暮というもの。第一、昔の人は一年じゅう日本髪で芝居見てたのだから(笑)。
まあ、さすがに花魁みたいな大きな髪型や、かんざしをたくさんさすというのはやめておいたほうがいいと思うが……。
今日の着物は、またまた紺の江戸小紋。
お正月なので華やかな着物にしようかとも思ったのだが、髪型との調和を考えると、無地に近い着物のほうがよさそうだったので。
そのぶん帯で勝負。
ピンクに松の柄の、織りのなごや帯。

着物が地味なぶん、帯の色柄が目立つ。
以前は、着物の色柄で季節感を出したいと思っていたのだが、最近では帯でお正月らしさをあらわすのもいいなあと思っている。
お正月だし、江戸小紋に織りのなごや帯というきっちりしたコーディネートなので、帯には扇子を差した。祝儀のときだけでなく、あらたまったところへ出る場合や人の家を訪問する場合は、帯に扇子を差すのが正式。この場合、あおぐためのものではないので、祝儀用の扇子(末広)か、それに代わるような黒塗りの骨の扇子を使う。
根付は、お正月らしく干支の酉(とり)をモチーフにしたものにした。
ちなみにこの根付は何につけられているかというと、懐中時計である。着物のときに腕時計は見た目もあまりよくないし袖口にひっかけるおそれがあるので、私はいつも懐中時計にしている。和装小物店で買ったもので、小ぶりなので帯のなかに入れやすい。
洋服のときの腕時計は、高校生のころから使っているものだというのに(さすがにベルトだけはときどき交換しているが)、着物のときの懐中時計につける根付は、ついつい集めてしまう……。
髪結いが終わったら、国立演芸場へ。
今日はお正月興行の初日。
はじめに、落語家や講談師、奇術師などの女性メンバーによる「木遣り」が披露された。
「木遣り」はもともと、木場から材木を運ぶ時にうたわれていたものだが、それが、鳶の人々のたしなみとして婚礼などの席で祝儀としてうたわれるようになった。
黒の紋付を着流しにして裾をからげ、ステテコをはき、左手には自分の名前の入った提灯、右手には扇子を持ったいでたちの女性が居並ぶ様子は、なかなか風情があった。
ほかにも、獅子舞が披露されたり、寄席の踊りが披露されたり、三味線漫談の師匠が黒留袖で登場したり、お正月ならではの高座だった。
客席でも、着物を着ている人をちらほらと見かけた。
場内には数々のお正月飾りが飾られ、初春らしい雰囲気だった。
家に帰ってから、寝るときが大変。
髪をくずさないように寝るのが一苦労である。
本当は、「箱枕」という、時代劇に出てくるような高い枕を使うのだが、今どきそんなものがある家は少ないだろう。当然のことながら、わが家にもない。箱枕を買うくらいだったら、今話題の低反発性安眠枕を買う(笑)。
そこで、どうしたかというと。
ふだん使っている枕の上に、小さくて固めの枕を重ね、その上にアゴをのせて、うつぶせになって寝た。寝返りをうたないように、腕を組んだ姿勢で。
はっきり言って、熟睡はできない。起きたらアゴは痛いし。こんな寝方を毎日していたら、あっというまに顎関節症になってしまうだろう。
でも、この寝方のおかげで、髪もくずれず無事に翌朝を迎えた。

私も、一生に一度ぐらいやってみたかったですが、時既に遅しです。
ありがとうございますーー。
ミセスの方向けの髪型も結構あるらしいので、ぜひ一度おためしください~!
私が行った美容院では、七五三の時にお母さまの髪も結ったことがあるそうです。そのときは「江戸先笄(えどさっこう)」という髪型(時代劇などにも時々出てくるミセスの髪型なのですが)で、お母さまのほうが注目を集めたらしいです(笑)。
友人も以前は大晦日に日本髪を結って元旦に初詣に行っていたようです。大晦日はほとんど徹夜で横にならず、柱にもたられて座ってうたた寝していたらしいですよ。おまけに頭の頂点部あたりに三角禿げが出来たとかで日本髪を結うのを止めたとか・・日本髪って綺麗だけど、綺麗を維持するには苦労があるんですよね。
たしかに、いちばん元になっている結び目の部分はかなりきつく結ぶので、けっこう引っ張られる感じで、痛いですね……。
私も、髪をほどいたとき、結び目の部分の地肌がヒリヒリしてました……。
舞妓さんは毎日日本髪を結っているので、やはり頭頂部にハゲができてしまうことが多いそうです……。舞妓さんも大変ですね……。