11月26日、国立劇場小劇場で「京阪座敷舞の会」が行われました。
昼夜2部制で、山村、吉村、楳茂都(うめもと)、井上、川口の各流儀の第一人者が競演する豪華な会です。
昼の部には、山村流の大御所・山村楽正さんや京舞井上流の重鎮・井上かづ子さんなど、夜の部には、京舞井上流宗家の井上八千代さん、京都・宮川町の芸妓さんで楳茂都流の名取でもある楳茂都梅加さん、川口流宗家の川口秀子さんなどが登場。
どちらを見るか迷った末、思い切って昼夜通しで観ることにしました。
舞踊にも東西の違いがあり、歌舞伎舞踊から生まれた江戸の日本舞踊に対して、京阪の舞はお座敷つまり花街から生まれました。
座敷で舞うのですから当然、動く範囲も狭く、動きも静かになります。狭い座敷の中で、ほこりをたてないように舞うためです。
伴奏となる唄も、江戸の舞踊の場合は長唄や清元、常盤津などが中心であるのに対して、京阪の舞は地唄が中心です。
歌舞伎舞踊の華やかな風情ももちろんよいのですが、地唄の静かな調子にあわせて舞われる舞は、何とも言えない風情があります。動きは静かですが、よく見るととても表現力があります。
歌舞伎舞踊と座敷舞。それぞれ違った良さがあると思うのですが、最近はその垣根が低くなってきているようです。
京阪の座敷舞でも、背景の大道具を使ったり衣装付き(紋付袴姿や芸者姿ではなく、役の衣装をつけること)で舞ったりすることがしばしば見られます。井上流京舞の「都をどり」や「温習会」でも、そのパターンが増えています。
今回の舞の会でも、そういった試みがいくつかなされていました。
個人的には、座敷舞には座敷舞の良さを生かしたものをやってもらえるといいなと思います。
新しいことに挑戦することも大事だとは思いますが、そのものが元来持っている良さを大切に守っていくこともまた大事だと思うのです。
決められた枠の中で新しいものを表現していくことこそ、伝統芸能の醍醐味なのではないでしょうか。
着物が、さまざまな決まり事のなかでもアイデアとセンスしだいで自分らしさを表現できるのと同じように、古典の枠を守りつつ新しい何かを表現していくことは十分可能だと思います。
昼の部に出演された山村楽正さんは、長唄の「越後獅子」を地唄にアレンジした曲に乗せて舞われたのですが、髪形も洋髪、着物も裾を引かず普通の着付けというシンプルないでたち、いわゆる「素踊り」の形です。
舞台にも、屏風と燭台が行われているだけ。お座敷にあるものしか使用しません。
それでも、地唄の文句や調べ、そして楽正さんの舞の力で、越後獅子の世界は十分に表現できていたと思います。むしろ、大道具を使い衣装をつけて踊るよりも却って唄の世界や舞の世界がよく伝わってくる感じがしました。
当日のパンフレットに、山村楽正さんの師匠であった山村流四世宗家・山村若さんの言葉が書かれていました。「座敷で舞うものやから、大道芸の獅子をまねているという気持ちを忘れてはいけないのです」
この言葉が、すべてを表していると思います。
背景の大道具を使い、衣装もつけて越後獅子に「なりきる」のが歌舞伎舞踊、それに対して座敷舞はあくまでも越後獅子を「座敷でまねる」ように舞うべき、ということなのでしょう。
その四世宗家の言葉を、山村楽正さんは忠実に守って「越後獅子」を舞っておられたと思います。
そして、そんなシンプルな楽正さんの舞が、当日の数々の演目のなかで最も印象に残りました。
もちろん「芸の力」でしょうが、余分なものをそぎ落としても十分に曲の世界を表現し、観る者に感動を与えられるということの証明でもあると思います。
<本日のキモノ>
何を着ていこうかな……と迷っていたのですが、前日の夜になって思いつきました。
「踊りの会→出演者のお弟子さんなども客席にたくさんいるに違いない→きっとみなさん『ええべべ(いいキモノ)』をお召しになっているに違いない!」
着物を着て劇場などのパブリックスペースに何度も足を運んでいると、しだいにこういった「勘」が働いてくるようになります(笑)。
自分で納得のいくものを着ていても、周囲とあまりにもアンバランスになっているとどうしても気後れしてしまうものです。「これだとまずかったかな……」と思うと、頭のどこかでずっとそれが引っかかって、十二分に楽しめなくなってしまうことがあります。
心おきなく舞台を鑑賞するためには、どんな装いが場に合っているかをあらかじめ察しておくことも大切ではないかと思います。
そんなわけで、自分の持っている着物のなかでは生地などがそれなりに良いと思われ、かつ格も低くない着物にしました。
![絵羽羽織](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/23/b2/77c1d356a24196fa784cd6938994ebb2.jpg)
11月なのでちょうどよいと思い、母からもらった菊の柄の付け下げにしました。
ベージュの羽二重の生地に、赤や白の菊の花を描いています。
私が中学生の頃まで母がよく着ていたのですが、柄に赤が入っているので「私にはもう派手やからあげる」ということで10年くらい前に私にくれました。
古いものですが、胴裏の取り替えと生洗い(仕立てをほどかずに洗うこと)をやっていただいたら、生き返りました。
着物って、良い物をきちんとメンテナンスしていけば長く愛用できるのが、本当にすごいと思います。
付け下げだとちょっと仰々しくなってしまうかなあ……と思い、羽織を合わせました。
付け下げの上から羽織を着ると、着物の裾模様だけがちらっと見える程度になるので、少しおさえた感じになります。
反対に、小紋などのおしゃれ着や色無地などのシンプルな着物に華やかな雰囲気の小紋羽織をあわせると、羽織を前面に押し出した着こなしができます。
羽織って「足し算の着こなし」にも「引き算の着こなし」にも使えて便利だなあ……と思います。
付け下げの上から着る場合は小紋羽織は適さないので、絵羽羽織(背中の部分の柄が一幅の絵のようにつながっている羽織)にしました。組紐の柄が描かれています。
この絵羽羽織は、実はインターネット呉服店のオークションで手に入れたものです。絵羽羽織は自分で誂えようと思うと高いので、ネットオークションなどを活用しています。
少し古いもののようですが、未使用とのことでしつけも付いており状態もよかったので、お得でした。
しかも!
菊の付け下げと、生地の質感がとてもよく似ているのです。付け下げと同様、光沢のある羽二重のようです。
サイズもぴったり合っていて、まるで付け下げとセットであつらえたかのようでした。
両方とも古い物なので、柄の色あせ具合まで合っています(笑)。
そんなわけでこの絵羽羽織は、菊の付け下げ専用という感じで使っています。
帯は、有職模様の織り名古屋帯にしました。場内で羽織を脱いでもあらたまった感じに見えるようにするためです。
さて、当日の客席ですが、予想的中でした。
ほとんどの方が染めの着物で、訪問着や付け下げが多く見られました。
なかには、パーティーに着て行くような豪華な訪問着をお召しの方も……(さすがにそれだと、演者より目立ってしまう気がするので微妙ですが、でもとてもきれいな着物で目の保養になりました)。
「この着物にしておいてよかった……」と、胸をなでおろした私でした。
井上八千代さんや井上かづ子さん、宮川町の芸妓さんでもある楳茂都梅加さんが出演されていたため、客席には舞妓さんの姿もちらほらと見られました。これもまた目の保養になりました。
昼夜2部制で、山村、吉村、楳茂都(うめもと)、井上、川口の各流儀の第一人者が競演する豪華な会です。
昼の部には、山村流の大御所・山村楽正さんや京舞井上流の重鎮・井上かづ子さんなど、夜の部には、京舞井上流宗家の井上八千代さん、京都・宮川町の芸妓さんで楳茂都流の名取でもある楳茂都梅加さん、川口流宗家の川口秀子さんなどが登場。
どちらを見るか迷った末、思い切って昼夜通しで観ることにしました。
舞踊にも東西の違いがあり、歌舞伎舞踊から生まれた江戸の日本舞踊に対して、京阪の舞はお座敷つまり花街から生まれました。
座敷で舞うのですから当然、動く範囲も狭く、動きも静かになります。狭い座敷の中で、ほこりをたてないように舞うためです。
伴奏となる唄も、江戸の舞踊の場合は長唄や清元、常盤津などが中心であるのに対して、京阪の舞は地唄が中心です。
歌舞伎舞踊の華やかな風情ももちろんよいのですが、地唄の静かな調子にあわせて舞われる舞は、何とも言えない風情があります。動きは静かですが、よく見るととても表現力があります。
歌舞伎舞踊と座敷舞。それぞれ違った良さがあると思うのですが、最近はその垣根が低くなってきているようです。
京阪の座敷舞でも、背景の大道具を使ったり衣装付き(紋付袴姿や芸者姿ではなく、役の衣装をつけること)で舞ったりすることがしばしば見られます。井上流京舞の「都をどり」や「温習会」でも、そのパターンが増えています。
今回の舞の会でも、そういった試みがいくつかなされていました。
個人的には、座敷舞には座敷舞の良さを生かしたものをやってもらえるといいなと思います。
新しいことに挑戦することも大事だとは思いますが、そのものが元来持っている良さを大切に守っていくこともまた大事だと思うのです。
決められた枠の中で新しいものを表現していくことこそ、伝統芸能の醍醐味なのではないでしょうか。
着物が、さまざまな決まり事のなかでもアイデアとセンスしだいで自分らしさを表現できるのと同じように、古典の枠を守りつつ新しい何かを表現していくことは十分可能だと思います。
昼の部に出演された山村楽正さんは、長唄の「越後獅子」を地唄にアレンジした曲に乗せて舞われたのですが、髪形も洋髪、着物も裾を引かず普通の着付けというシンプルないでたち、いわゆる「素踊り」の形です。
舞台にも、屏風と燭台が行われているだけ。お座敷にあるものしか使用しません。
それでも、地唄の文句や調べ、そして楽正さんの舞の力で、越後獅子の世界は十分に表現できていたと思います。むしろ、大道具を使い衣装をつけて踊るよりも却って唄の世界や舞の世界がよく伝わってくる感じがしました。
当日のパンフレットに、山村楽正さんの師匠であった山村流四世宗家・山村若さんの言葉が書かれていました。「座敷で舞うものやから、大道芸の獅子をまねているという気持ちを忘れてはいけないのです」
この言葉が、すべてを表していると思います。
背景の大道具を使い、衣装もつけて越後獅子に「なりきる」のが歌舞伎舞踊、それに対して座敷舞はあくまでも越後獅子を「座敷でまねる」ように舞うべき、ということなのでしょう。
その四世宗家の言葉を、山村楽正さんは忠実に守って「越後獅子」を舞っておられたと思います。
そして、そんなシンプルな楽正さんの舞が、当日の数々の演目のなかで最も印象に残りました。
もちろん「芸の力」でしょうが、余分なものをそぎ落としても十分に曲の世界を表現し、観る者に感動を与えられるということの証明でもあると思います。
<本日のキモノ>
何を着ていこうかな……と迷っていたのですが、前日の夜になって思いつきました。
「踊りの会→出演者のお弟子さんなども客席にたくさんいるに違いない→きっとみなさん『ええべべ(いいキモノ)』をお召しになっているに違いない!」
着物を着て劇場などのパブリックスペースに何度も足を運んでいると、しだいにこういった「勘」が働いてくるようになります(笑)。
自分で納得のいくものを着ていても、周囲とあまりにもアンバランスになっているとどうしても気後れしてしまうものです。「これだとまずかったかな……」と思うと、頭のどこかでずっとそれが引っかかって、十二分に楽しめなくなってしまうことがあります。
心おきなく舞台を鑑賞するためには、どんな装いが場に合っているかをあらかじめ察しておくことも大切ではないかと思います。
そんなわけで、自分の持っている着物のなかでは生地などがそれなりに良いと思われ、かつ格も低くない着物にしました。
![菊の付け下げに絵羽羽織](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/73/66/d4d50880509edaed1263377ca0c51416.jpg)
![絵羽羽織](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/23/b2/77c1d356a24196fa784cd6938994ebb2.jpg)
11月なのでちょうどよいと思い、母からもらった菊の柄の付け下げにしました。
ベージュの羽二重の生地に、赤や白の菊の花を描いています。
私が中学生の頃まで母がよく着ていたのですが、柄に赤が入っているので「私にはもう派手やからあげる」ということで10年くらい前に私にくれました。
古いものですが、胴裏の取り替えと生洗い(仕立てをほどかずに洗うこと)をやっていただいたら、生き返りました。
着物って、良い物をきちんとメンテナンスしていけば長く愛用できるのが、本当にすごいと思います。
付け下げだとちょっと仰々しくなってしまうかなあ……と思い、羽織を合わせました。
付け下げの上から羽織を着ると、着物の裾模様だけがちらっと見える程度になるので、少しおさえた感じになります。
反対に、小紋などのおしゃれ着や色無地などのシンプルな着物に華やかな雰囲気の小紋羽織をあわせると、羽織を前面に押し出した着こなしができます。
羽織って「足し算の着こなし」にも「引き算の着こなし」にも使えて便利だなあ……と思います。
付け下げの上から着る場合は小紋羽織は適さないので、絵羽羽織(背中の部分の柄が一幅の絵のようにつながっている羽織)にしました。組紐の柄が描かれています。
この絵羽羽織は、実はインターネット呉服店のオークションで手に入れたものです。絵羽羽織は自分で誂えようと思うと高いので、ネットオークションなどを活用しています。
少し古いもののようですが、未使用とのことでしつけも付いており状態もよかったので、お得でした。
しかも!
菊の付け下げと、生地の質感がとてもよく似ているのです。付け下げと同様、光沢のある羽二重のようです。
サイズもぴったり合っていて、まるで付け下げとセットであつらえたかのようでした。
両方とも古い物なので、柄の色あせ具合まで合っています(笑)。
そんなわけでこの絵羽羽織は、菊の付け下げ専用という感じで使っています。
帯は、有職模様の織り名古屋帯にしました。場内で羽織を脱いでもあらたまった感じに見えるようにするためです。
さて、当日の客席ですが、予想的中でした。
ほとんどの方が染めの着物で、訪問着や付け下げが多く見られました。
なかには、パーティーに着て行くような豪華な訪問着をお召しの方も……(さすがにそれだと、演者より目立ってしまう気がするので微妙ですが、でもとてもきれいな着物で目の保養になりました)。
「この着物にしておいてよかった……」と、胸をなでおろした私でした。
井上八千代さんや井上かづ子さん、宮川町の芸妓さんでもある楳茂都梅加さんが出演されていたため、客席には舞妓さんの姿もちらほらと見られました。これもまた目の保養になりました。
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