本朝徒然噺

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語りの世界

2006年01月14日 | 伝統文化あれこれ
1月14日、国立劇場で「語りの世界」と題した特別企画公演が行われました。
昼夜2回の公演で、それぞれ声明(しょうみょう)、平家琵琶、節談説教、絵解きが演目を変えて披露されます。
私は、昼の部へ行ってきました。

「語りの芸能」と一口に言っても、語り部、僧侶による説教、義太夫節から落語、浪花節まで多種多様です。
しかしそれらの間には少なからず関わりがあります。

たとえば、僧侶の説教と落語。お寺と落語には深い関わりがあります。
噺家さんたちが上がる舞台のことを「高座」と呼びますが、もともとは、お寺で僧侶が説法などをする時に座る、一段高い席のことです。
また、僧侶の説法にも、落語や浪花節のようにユーモアや節を交えたものがあります。それが、今回の公演でも演じられた「節談説教」です。

民衆に仏法を説く時に、難しい理念を語ってもなかなか伝わりません。そこで、仏教の教えをわかりやすく説くための手法の一つとして「節談説教」が生まれました。そしてそれが、落語や講談、浪花節(浪曲)へとつながっていったのです。

「節談説教」はもともと浄土真宗で盛んに行われていたのですが、最近は他宗派でもその手法を取り入れられているお坊さんがいらっしゃるそうです。
今回の公演に出演されたのも真言宗のお坊さんで、空海上人(弘法大師)の入定(にゅうじょう:高僧が亡くなること)の話を語ってくださいました。
噺家さんも顔負けの堂々とした「高座」で、お説法というよりも講談や浪曲、落語を聴いているように楽しめました。もちろん、随所に空海上人の教えが盛り込まれていて、印象に残りました。

「仏教の教えをわかりやすく」説くための別の手法が「絵解き」です。
曼陀羅や仏教絵巻などを見ながら、ユーモアや節も交えて解説をしていく、いわば紙芝居のようなものです。
今回見たのは、奈良・當麻寺(たえまでら)の曼陀羅絵解きです。當麻寺の建立者である中将姫の話やお釈迦様の話を、わかりやすく伝えてくださいました。

平家琵琶(平曲)も、仏教と密接な関係があります。
もともと、平家琵琶を語っていたのは目の見えない僧侶(琵琶法師)で、以後、琴や三味線音楽など様々な方面において、目の不自由な僧侶が座を組んで活躍しました。

芸能や鍼灸を生業とする盲人僧侶のなかで最も高い官位とされるのが「検校(けんぎょう)」です。「検校」の下に「別当」「勾当(こうとう)」「座頭」と続きます。
江戸時代には、これらの官位がお金と引き換えに授与されるケースが多かったようで、芝居や時代劇などでもそういった場面がよく出てきます。
歌舞伎の「蔦紅葉宇都谷峠(つたもみじうつのやとうげ)」では、貧しい按摩・文弥が座頭の官位を得られるようにと、姉が身売りしてお金を整えます。お金を盗まれ殺された文弥が、恨みを晴らそうと化けて出てくる場面は有名です。

閑話休題。
今回の公演でもわかるように、宗教と芸能との間、ジャンルの異なる種々の芸能の間には、少なからぬ結びつきがあります。
僧侶の説法から落語や講談、浪花節が生まれていったように、能、狂言、歌舞伎、人形浄瑠璃、義太夫節、浪花節、講談、落語……ほかにも枚挙にいとまがありませんが、さまざまなジャンルの芸能には相関性があるのです。

このように、長い歴史のなかでいろいろな流れをたどり、ある時は形を変え、ある時は発展しながら連綿と続いてきている芸能の多くは「古典芸能」と呼ばれています。
「古典芸能」という言葉の響きから「堅いもの、高尚なもの」と思って、食わず嫌いになっている方も多いと思います。「古典芸能」と「娯楽」は相反するものだと思っている方もいらっしゃるかもしれません。
しかし「古典芸能」とは読んで字のごとく「古くから伝わっている芸能」、ただそれだけのことです。たとえば新派だって新劇だって、あと100年もすれば「古典芸能」になっているでしょう。

「歌舞伎は演劇だ」「歌舞伎は娯楽だ」「落語はお笑いだ」、そうです、そのとおりです。でもそれだけではない。
「昔から伝わっている演劇や娯楽やお笑いそのほかいろいろ」を包括した定義が「古典芸能」なのですから、歌舞伎は「古典芸能であり演劇であり娯楽」、落語は「古典芸能でありお笑いであり娯楽」なのです。
「歌舞伎は演劇ではなくて古典芸能」「落語はお笑いでなくて古典芸能」という考えが片手落ちであるように、その逆もまた然りなのです。

日本でも海外でも、「芸能」にはさまざまなものがあります。劇場で行われるものだけではなく、大道芸や門付の芸能もみな「芸能」です。そしてそれらはみなお互いに影響しあっており、1つの定義でくくれるような単純なものではありません。だからおもしろいのです。


<本日のキモノ>

染大島に白の塩瀬帯

この日は雨でしたが、「雨が降ろうと槍が降ろうと」の意気込みでキモノで出かけました。
普段用の染大島に、白地の塩瀬帯です。同じ着物でも、帯が白地になるとガラっと雰囲気が変わります。
「語りの世界」という公演にちなんで、文机と書物が描かれた帯にしました。
根付も、三味線の撥(ばち)をかたどったものをあわせて気分を出してみました。

白地に文机・書物柄の塩瀬帯

三味線の撥をかたどったべっ甲の根付

雨に備えて、厚手の雨ゴート着用&足袋カバー着用&草履カバー持参で完全防備です。

雨ゴート



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