本朝徒然噺

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初春の賑わい・花のお座敷芸

2006年01月15日 | 伝統文化あれこれ
小正月の1月15日、有楽町のよみうりホールで「初春の賑わい・花のお座敷芸」という公演が催され、向島の芸者さんたちの踊り、幇間のお座敷芸、江戸曲ごまなどが披露されました。

お正月らしい「出の衣装」(黒紋付で裾を引いた着付け)に身を包んだ芸者さんや、後見結びの帯に「楽屋銀杏」の髪型という男舞姿の芸者さん、振袖姿のかわいらしい半玉(はんぎょく)さんなどが登場しました。もちろん、三味線は地方(じかた)の芸者さんが担当します。

以前にも書いたことがありますが、半玉さんというのは、京都でいう舞妓さんにあたるものです。
一人前の芸者さんになる前の見習い少女のことです。
関西では、芸妓さんや舞妓さんに払うお座敷代のことを「花代(はなだい)」といいますが、東京では「玉代(ぎょくだい)」といいます。一人前の芸者さんになる前は玉代が半分なので「半玉さん」なのです。

現在の東京の半玉さんは、京都の舞妓さんのように肩上げをした振袖を着ますが、舞妓さんと違って裾は引きません。帯も「だらりの帯」ではなく「後見結び」というすっきりした結び方です。
京都の舞妓さんは今でも地毛で日本髪を結っていますが、東京の半玉さんは「かづら(かつら)」を使う方がほとんどです。
半玉さんの髪型は桃割れが多く、ちょっとおねえさんになると結綿になります。

髪飾りも、京都の舞妓さんと東京の半玉さんでは細かなところでいろいろな違いがあります。
東京のほうは全体的にやや派手な感じで、平打ち(後ろにさす平たいかんざし)もつまみ細工になります。京都のほうが、どちらかというとシンプルです。
京都では、デビューして1年未満の新人舞妓さんは「ぶら」のついた花かんざしをつけるのですが、東京では新人さんでなくても「ぶら」をつけていることが多いです。
実はこの「ぶら」付きかんざしというのは、京都の舞妓さんはもともと使っていなかったのですが、女形の役者さんが始めたのがきっかけとなって東京で流行し、それが京都にも移っていったのだそうです。戦前の舞妓さんの写真などを見ると、幼い舞妓さんでも「ぶら」のついていない、丸いシンプルな花かんざしを使っています。

日本髪と舞妓さんの話になるとつい熱が入ってしまっていけません(笑)、閑話休題。
向島の芸者さんたちは、お正月らしい踊りを吹き寄せで披露してくださいました。
半玉さんは「梅にも春」や「獅子わ」などおなじみの曲を、かわいらしく舞ってくれました。基本をきちんと押さえた、しっかりした踊りでした。


芸者さんたちの華やかな舞台の後は、幇間(ほうかん)による楽しい踊りとお座敷芸です。
「幇間」とは、お座敷でお客の要望に応じてさまざまな芸をやったり、楽しい話でお座敷を盛り上げたりする役目の男性です。「男芸者」とも呼ばれていました。
かつては全国にたくさんいたそうなのですが、現在は数名のみです。
とにかくお客さんに気持ち良く楽しんでもらえるように気を配らなければなりませんから、「旦那の命令は絶対」なのだそうです。
昔はいろいろな無理難題をしかけて芸をやらせる(そしてそのぶんハンパじゃないご祝儀をくれる)お客さんもたくさんいたそうなのですが、今はさすがにそんなことはないようです(笑)。
でも、巧みな話術で場を和ませてお客を楽しませてくれるという点では今ももちろん変わっていません。

今回出演された幇間衆は、櫻川七好さんと悠玄亭玉八さん。
七好さんは、楽しい踊りや屏風芸のほか、狂言仕立ての芸まで、盛りだくさんに披露してくださいました。
玉八さんは、三味線を片手に登場し、都々逸(どどいつ)や声色(こわいろ:ものまねのこと)を次々と披露してくださいました。長唄のパロディーを盛り込んだ「あんこ入り都々逸」もあって、とても楽しかったです。
昔は、お座敷でリクエストされる芸の代表的なものが「役者の声色」(歌舞伎役者のものまね)だったそうですが(寄席でも声色をやる芸人さんがいたそうです)、今はなかなかそんなお客さんもいないようです。歌舞伎を観たことのないお客さんも多いのかもしれないし、仕方ないのでしょうか……。


そのほか、「江戸の遊芸」として曲ごまを披露してくださったのが、やなぎ南玉さん。
曲ごまは江戸の代表的な芸です。もともとは大道芸でしたが、現在は寄席芸としても定番になっています。
大道芸に由来しているということで、南玉さんは曲ごまの前に「口上」を披露してくださいます。大道芸の場合は往来の人を引き止めなければなりませんから、口上を述べるのです。
口上の後は、扇子の上にこまを立てる「末広がり」や、煙管(きせる)の上にこまを立ててくるくる回す「かざぐるま」など寄席でもおなじみのさまざまな芸を、楽しい話術とともに披露してくださいました。

ちなみに、大道芸から始まって寄席芸として定着したものは、ほかにも太神楽曲芸などたくさんあります。そしてそれらは、今でも大道芸と寄席芸という2つの側面を持っています。

たとえば太神楽曲芸では獅子舞をやりますが、これは今でも門付けの芸能として行われています。ご祝儀をあげてお獅子に頭をかんでもらい、厄を払う。門付けの芸能としては当たり前のことですが、門付け芸としての獅子舞を見たことのない人だと「その場でご祝儀を渡す」ということを思いつかないことも多いようです。
同様に、大道芸を見てお金を払わない人も最近は多いようです。寄席で芸を見るときには木戸銭を払うように、大道芸を見る時も「おあし」(お金)は払うのですが……。

1月14日の記事のなかでも書きましたが、古くから伝えられた芸能というのは、ジャンルを超えて影響しあいながら、さまざまな流れを汲んで今日に至っています。だから、1つの側面からだけで見ていたのでは、その真の意味もおもしろさも、完全にはわからないのです。
いろいろなものを幅広く「自分の目で」見て、文化の「引き出し」の数を増やしてこそ、真に「文化的趣味をもった人」になるのだと思います。

と、またまた話がそれてしまいましたが、芸者さんの華やかな踊りと粋なお座敷芸で、「初春の賑わい」のタイトルにふさわしい楽しいひとときを過ごすことができました。


<本日のキモノ>

無地結城紬に梅柄の塩瀬帯

無地の結城紬に、梅の柄の塩瀬帯です。
着物は淡い緑色、帯は朱という、洋服だとあり得ないような組み合わせですが、着物だと「赤と緑」の組み合わせはわりと定番で、意外と合うので不思議です。



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