「日本のおしゃれ展」を見た後、デパートの地下で食料を買って、日比谷の芸術座へ向かった。
千秋楽を翌日に控えた「放浪記」を観るためだ。
以前の記事でも書いたが、芸術座は、老朽化による建て替え工事のため、この3月をもっていったん閉鎖される。
もちろん、数年後には新しい劇場になって生まれ変わる予定なのだが、伝統のある現在の劇場とはこれでお別れとなる。
今月の、森光子主演「放浪記」が、「芸術座さよなら公演」となるのだ。
同劇場で数え切れないほどの公演を重ねてきた「放浪記」は、現・芸術座のさよなら公演にふさわしい演目と言えるだろう。
人気も高かったようで、発売からすぐにチケットは完売していた。
お芝居自体もさることながら、芸術座のさよなら公演ということも私にとってはかなりのウエイトを占めていたので、着物を着ているにもかかわらずデジカメを片手に芸術座を撮影しまくる。
まずは外観から。
芸術座の入っている建物には、映画館「みゆき座」も入っている。
ビルの外壁には、その月の芸術座の公演の大きな看板が掲げられている。
私は日比谷を歩くとき、いつもこの看板に目を向けていた。
外観をひとしきり撮った後、中へ入り、エレベーターで4階へ。
4階に着くと、「芸術座」という文字の横に、公演のポスターが。
入口でチケットを渡し、ロビーへと入る。
まだ開場前だったが、ロビーで待っている人が大勢いた。
私と同様、カメラ持参で場内を撮影している人もちらほらと見えた。
テレビ局も撮影に来ていた。
ロビーに入ると、いきなり「放浪記」初演時のポスターの写しが、大きく飾られていた。
撮影していると、係員のおねえさんが、「お客様」と言ってこちらへ寄ってきた。
「も、もしかして、撮影しちゃまずかったのかしら……。それとも、コンサートみたいに、カメラは預けないといけないのかしら……もちろん上演中は写真なんて撮らないけど……」とビクビクしていると、おねえさんの口からは意外なお言葉が。
「シャッターお押ししましょうか?」
何と、そのおねえさんは、私がその大きなポスターを撮っていたのを見て、そのポスターの前に立った写真を撮ってくれようとしていたのだ。
何というありがたいはからい。
私が、着物を着てパシパシ写真を撮っていたので、見るに見かねてくださったのかも……(笑)。
でも、芸術座の係員のみなさんには、こんなふうにあたたかみのある雰囲気の人が多い気がする。
何というか、「お高くとまっていない」という感じで、とても雰囲気がよいのだ。
制服を着た係員がたくさん並んでいても、威圧感がないのだ。
かといって、品性も保っているのだ。
係員のみなさんの雰囲気が、芸術座そのもののありかたと重なるのかもしれない。
係員のおねえさんに写真を撮っていただいたところへ、そばを通りかかった一人の女性が声をかけてくださった。
「あら、丈の長い昔風の羽織を着てらっしゃるのね。いいわねえ、『放浪記』にはピッタリの雰囲気! 楽しんでらしてね」
「ありがとうございます」と御礼を言いながら、うーん、見たことのあるお顔だなあ……と思った。
ひょっとして、役者さんだったかも……。とっさに思い出せなくて申し訳なかったかも……。
芸術座は、「演劇の殿堂」と言われるだけあって、客席のなかに役者さんの姿が見られることもしばしばある。
もちろん、出演されている役者さんが座っているのではなく、ほかの役者さんがお芝居を観にいらっしゃるのだ。それだけ、芸術座の公演が充実しているということだろう。
そうこうしているうちに開場時刻になった。
芸術座は、比較的小さな劇場である。この大きさが、演じるほうにも観るほうにもちょうどよいのだと思う。
ドレープのかかった幕に、ベルベット調の赤いシート。クラシックな劇場の雰囲気が、何とも言えず心地よい。
開演前の知らせも、ブザーではなくチャイム(学校風ではなく、「リンゴーン」という音のもの)である。
開演前から、芝居の雰囲気をこわさないよう、ゆったりとした時間が流れていく。
まさに「古き良き時代の劇場」といった感じである。
お芝居を楽しんだ後、出口に向かう階段を降りる途中に、次のような看板がかかっている。
私は、芸術座のこの看板がとても好きである。
劇場が壊されてしまう今、この看板の最後に書かれている「またのお越しをお待ちしております」の文字は、さびしく感じられた。
しかし、それと同時に、新劇場の完成への期待もふくらむ。
劇場リニューアル後の第一弾として、「放浪記」の上演が決まったそうだ。
生まれ変わった芸術座を見るのが、今から楽しみである。
<本日のキモノ>
青地にしだれ桜柄の小紋と、白地に四季の花模様の長羽織。帯は、白地に有職模様の織りの名古屋帯。しだれ桜柄の小紋は、叔母が若いころに着ていたもの。ちょっと派手になってきたかなあと思っていたのだが、白地部分の多いこの羽織をあわせると、派手さが抑えられてちょうどよい。
柄ものの着物に柄ものの羽織なので、帯は白地部分が多く色づかいも抑えたものに。
千秋楽を翌日に控えた「放浪記」を観るためだ。
以前の記事でも書いたが、芸術座は、老朽化による建て替え工事のため、この3月をもっていったん閉鎖される。
もちろん、数年後には新しい劇場になって生まれ変わる予定なのだが、伝統のある現在の劇場とはこれでお別れとなる。
今月の、森光子主演「放浪記」が、「芸術座さよなら公演」となるのだ。
同劇場で数え切れないほどの公演を重ねてきた「放浪記」は、現・芸術座のさよなら公演にふさわしい演目と言えるだろう。
人気も高かったようで、発売からすぐにチケットは完売していた。
お芝居自体もさることながら、芸術座のさよなら公演ということも私にとってはかなりのウエイトを占めていたので、着物を着ているにもかかわらずデジカメを片手に芸術座を撮影しまくる。
まずは外観から。
芸術座の入っている建物には、映画館「みゆき座」も入っている。
ビルの外壁には、その月の芸術座の公演の大きな看板が掲げられている。
私は日比谷を歩くとき、いつもこの看板に目を向けていた。
外観をひとしきり撮った後、中へ入り、エレベーターで4階へ。
4階に着くと、「芸術座」という文字の横に、公演のポスターが。
入口でチケットを渡し、ロビーへと入る。
まだ開場前だったが、ロビーで待っている人が大勢いた。
私と同様、カメラ持参で場内を撮影している人もちらほらと見えた。
テレビ局も撮影に来ていた。
ロビーに入ると、いきなり「放浪記」初演時のポスターの写しが、大きく飾られていた。
撮影していると、係員のおねえさんが、「お客様」と言ってこちらへ寄ってきた。
「も、もしかして、撮影しちゃまずかったのかしら……。それとも、コンサートみたいに、カメラは預けないといけないのかしら……もちろん上演中は写真なんて撮らないけど……」とビクビクしていると、おねえさんの口からは意外なお言葉が。
「シャッターお押ししましょうか?」
何と、そのおねえさんは、私がその大きなポスターを撮っていたのを見て、そのポスターの前に立った写真を撮ってくれようとしていたのだ。
何というありがたいはからい。
私が、着物を着てパシパシ写真を撮っていたので、見るに見かねてくださったのかも……(笑)。
でも、芸術座の係員のみなさんには、こんなふうにあたたかみのある雰囲気の人が多い気がする。
何というか、「お高くとまっていない」という感じで、とても雰囲気がよいのだ。
制服を着た係員がたくさん並んでいても、威圧感がないのだ。
かといって、品性も保っているのだ。
係員のみなさんの雰囲気が、芸術座そのもののありかたと重なるのかもしれない。
係員のおねえさんに写真を撮っていただいたところへ、そばを通りかかった一人の女性が声をかけてくださった。
「あら、丈の長い昔風の羽織を着てらっしゃるのね。いいわねえ、『放浪記』にはピッタリの雰囲気! 楽しんでらしてね」
「ありがとうございます」と御礼を言いながら、うーん、見たことのあるお顔だなあ……と思った。
ひょっとして、役者さんだったかも……。とっさに思い出せなくて申し訳なかったかも……。
芸術座は、「演劇の殿堂」と言われるだけあって、客席のなかに役者さんの姿が見られることもしばしばある。
もちろん、出演されている役者さんが座っているのではなく、ほかの役者さんがお芝居を観にいらっしゃるのだ。それだけ、芸術座の公演が充実しているということだろう。
そうこうしているうちに開場時刻になった。
芸術座は、比較的小さな劇場である。この大きさが、演じるほうにも観るほうにもちょうどよいのだと思う。
ドレープのかかった幕に、ベルベット調の赤いシート。クラシックな劇場の雰囲気が、何とも言えず心地よい。
開演前の知らせも、ブザーではなくチャイム(学校風ではなく、「リンゴーン」という音のもの)である。
開演前から、芝居の雰囲気をこわさないよう、ゆったりとした時間が流れていく。
まさに「古き良き時代の劇場」といった感じである。
お芝居を楽しんだ後、出口に向かう階段を降りる途中に、次のような看板がかかっている。
私は、芸術座のこの看板がとても好きである。
劇場が壊されてしまう今、この看板の最後に書かれている「またのお越しをお待ちしております」の文字は、さびしく感じられた。
しかし、それと同時に、新劇場の完成への期待もふくらむ。
劇場リニューアル後の第一弾として、「放浪記」の上演が決まったそうだ。
生まれ変わった芸術座を見るのが、今から楽しみである。
<本日のキモノ>
青地にしだれ桜柄の小紋と、白地に四季の花模様の長羽織。帯は、白地に有職模様の織りの名古屋帯。しだれ桜柄の小紋は、叔母が若いころに着ていたもの。ちょっと派手になってきたかなあと思っていたのだが、白地部分の多いこの羽織をあわせると、派手さが抑えられてちょうどよい。
柄ものの着物に柄ものの羽織なので、帯は白地部分が多く色づかいも抑えたものに。