本朝徒然噺

着物・古典芸能・京都・東京下町・タイガース好きの雑話 ※当ブログに掲載の記事や写真の無断転載はご遠慮ください。

歌舞伎座 寿初春大歌舞伎(昼の部再び)

2006年01月21日 | 歌舞伎
1月21日。前日からの予報にたがわず雪が降りました。
しかし、雪にも負けずにまたまた歌舞伎座へ。今月は昼夜あわせてこれで4回目です。
もはや藤十郎襲名披露の「追っかけ」と化しています……。

朝起きた時には雪が降り始めており、屋根や木の上にはすでに積もっていました。道路にはまだ積もっていないけれど、時間の問題。やはり、前日に「雨雪用草履」を入手しておいて正解でした。
雪で電車が遅れる可能性もあるので、早めに支度をして出かけることに。
雨ゴートを着て、ファーマフラーで首をガードして、替えの足袋と劇場内用の草履をバッグに入れ、前日に買った雨雪用草履を履いて、いざ出陣!

幸い、交通機関はまだ乱れていなかったので、開場時間ちょうどに歌舞伎座へ着きました。
歌舞伎座もうっすらと雪化粧です(冒頭写真)。
席に着いたら、1)裾をまくるのに使っていた着物クリップをはずし、裾を下ろす、2)雨ゴートとその下に着ていた道行コートを脱いで袖だたみにする、3)雨雪用草履を普通の草履に履き替える、4)コートやマフラー、履き替えた草履をコインロッカーに入れる、という一連の作業があります。そのためにも、雨や雪の日は早めに会場に着いておくのが大切。

準備も万端に整え、お弁当の予約をしたり舞台写真を買ったりしながら開演を待ちました。
雪だから着物の方は少ないかなあ……と思っていたのですが、意外と着物姿の方が目立ちました。

まもなく開演……というその時、思わぬ問題に直面。前の席に座られた男性が、やたらとデカイ……。隣に座っていた女性と、頭1つぶん違います。しかも体格もがっちり。
舞台を斜めから見る席だったら、前の人が大きくてもほとんど支障がないのですが、あいにく真正面の席。
でも「背低くしてください」とは言えないし(笑)、自分で何とか工夫して見えるようにするしかありません。ほかの席が空いていれば、係員に頼んで席を替えてもらうこともできるかもしれませんが、あいにく席はうまっている様子。

余談ですが、以前、失礼ながらすごく体臭の強い(あるいはものすごく汗かきの)方の隣に座ったことがあります。その時もあいにく席がうまっていたので「私風邪引いてます」みたいな顔をして、ハンカチで鼻を押さえてひたすらガマンしました。
そうしたら、芝居を見て泣いてるように見えてしまったのか(もちろん芝居にも感動しましたが、泣いてはいなかった……)、花道にいた團十郎丈と思いっきり目が合ったことがあります(笑)。ケガの功名というか、思わぬところで得をしました。

そんなわけで、自分一人で劇場を貸し切っているわけじゃないから何が起こるかわからないし、相手を責めても仕方ないので(ずっとしゃべってるとかイヤホンガイドの音が思いっきりもれてるとか、言ってすぐに直してもらえることなら別ですが……)、座る位置を微妙にずらしながら対応。
舞台の中央で座って所作をすることは意外に少ないので、まったく見えなくなってしまうことはまずありませんでした(腰はちょっと痛くなったけど……)。結構なんとかなるものです。


話を芝居に戻して……。
各演目のストーリーや説明は、1月7日の記事をご参照いただくことで割愛させていただきます。

「鶴寿千歳」は、やはり中村梅玉丈と中村時蔵丈のお二人がとても優雅できれいでした。この幕が終わった後、またロビーに行って「鶴寿千歳」の舞台写真を追加購入したほどです(笑)。

坂田藤十郎襲名披露狂言「夕霧名残の正月」も、とにかく素晴らしかったです。
何とも言えない幻想的な雰囲気に、今回も客席が引きつけられているのがわかりました。
劇中口上では、藤十郎丈が「本日は雪の降るなかをお越しくださいまして、まことにありがとうございます」と挨拶をしてくださって、客席もわきました。

「奥州安達原」には、雪の降るなかで親子が抱き合う場面があるのですが、雪の日なので一層雰囲気が盛り上がった感じです。
中村吉右衛門丈の迫力あるダイナミックな演技と、市川段四郎丈、中村吉之丞丈、中村歌昇丈などベテラン勢のどっしりした演技で、観ていて気持ちのいい、とても印象に残るお芝居だと思います。

「万才」は、お正月らしくて軽快な義太夫の詞章と節が、何度聴いてもいいものです。
踊りも華やかできれいで、とにかく楽しい気持ちになる一幕でした。

そして、「曽根崎心中」。
ズバリ言います! 今回の襲名披露興行で「曽根崎心中」を観るのは、南座から通算して3回目でしたが、この日に観たのが私はいちばん好きです!
今を去ること約7年前、歌舞伎座の一幕見で毎日のように観た、あの時の「曽根崎心中」でした。あの時の感動がよみがえりました。

はじめからおしまいまで、あらゆる意味で「絶妙のバランス」のお芝居でした。
お初、徳兵衛、九平次、そのほかありとあらゆる登場人物、そして義太夫と、すべての調和がとれているのです。決して主役のお初だけが目立っているわけではない。だから、どの場面も印象に残る。

昨年12月24日に南座で観た時と1月7日に歌舞伎座で観た時は、お初を演じる藤十郎丈がやや浮いてしまっている感じがしたのですが、今回は違いました。
特にそれを感じたのは、お初と徳兵衛が生玉神社の境内で語り合う場面と、天満屋の中でお初が徳兵衛とともに自害することを決意する場面です。

生玉神社でお初と語り合っていた徳兵衛は、主人の勧める縁談を断ってタンカを切った時の様子を話します。喜んだお初は「もう一度聞かせてくださんせ」と少女のようにはしゃぎます。
ここで力んでしまうと、お初のかわいらしさが消えてしまうなあ……と気になっていたのですが、今回はそのかわいらしさがとてもよく出ていました。

天満屋の場では、敵役の九平次の前で静かな怒りをあらわし、徳兵衛とともに自害する決意を固める場面があります。台詞を張り上げたり間(ま)を多くとったりしない抑えた演技でしたが、それによってお初の強い意志と覚悟がより伝わってきました。

いざ心中する時のお初と徳兵衛も、死に向かう者の静かな覚悟がよく表れていました。そして静かななかにも鬼気迫るものが感じられて、息をのみました。
ほかにも印象に残った場面は枚挙にいとまがありませんが、とにかく感動しました。無意識に涙をこらえていたようで、終わったとたんに鼻水が出てきました……(本当)。
今回はとにかく素晴らしい舞台だったと思います。がんばって何度も劇場へ足を運んで、本当によかったと思いました。

それにしても、お初は19歳という設定の役なのですが、74歳の藤十郎丈が演じてそのかわいらしさがとてもよく伝わってくるのです。本当にすごいです。
「年を取ると若い女性の役をやるのには無理があるのではないか」とおっしゃる方もいるかもしれませんが、私はそうは思いません。なぜなら、歌舞伎は「究極のバーチャル&デフォルメ」だと思うからです。
映画やドラマの世界では、実年齢や性別にあった配役をしなければリアリティーが出せない。しかし歌舞伎(ほかの芝居や落語も同様ですが)では、それらを超えたところで人物を表現できる。だからおもしろいし、様々な可能性があるのだと思います。
「年を取ったら若い役はできない」というなら、男性が女性の役をやることだってできなくなってしまいます。

藤十郎丈はまだまだお初を演じ続けられると思いますし、まだまだ演じ続けていってほしいです!
またどこかの劇場で(できればまた歌舞伎座でやっていただきたいですが……)、「曽根崎心中」を観て今日と同じ感動を味わえることを、今から楽しみにしています。


<本日のキモノ>

花の丸の小紋に星梅鉢の帯

花の丸模様の緑色の小紋に、星梅鉢の帯です。
小紋は千總で帯は川島織物という、「京都」なコーディネートです(笑)。
初代坂田藤十郎が京都で活躍した役者であり、現藤十郎丈も京都のお生まれなので、それにちなんでみました。
扇子も京都・宮脇賣扇庵のものです。藤十郎の名前にちなんで藤の柄にしました。

藤の柄の扇子

寒い日なので扇子を開いて使うことはありませんでしたが、たとえ見えなくても細かなところに凝った日は不思議と気分がいいです。

雪対策として、外を歩く時は着物の裾を下の写真のように処理しました。
この上から雨ゴートを着ます。雨ゴートは足元までの長さがあるので、外からは全然わかりません。
目的地に着いたら、雨ゴートを脱ぐ前にクリップをはずします。そのまま裾が下に落ちるので、着物の裾を整えてから雨ゴートを脱ぎます。

雨や雪の時の裾処理

ちなみに、前日に買った雨雪用草履、なかなかのスグレモノでした。
雪が積もった道やシャーベット状の道をツカツカ歩いても、滑りませんでした。
さすがに雪国では無理だと思いますが、5~10センチ程度の積雪なら大丈夫そうです。



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