本朝徒然噺

着物・古典芸能・京都・東京下町・タイガース好きの雑話 ※当ブログに掲載の記事や写真の無断転載はご遠慮ください。

雪対策

2006年01月20日 | 着物
明日21日は、関東地方の平野部でもうっすらと積雪があるかもしれない、との予報が出ています。

明日は、またまた歌舞伎座へ行くことになっていて当然着物を着る予定。
いつもなら、雪が積もる時はさすがに洋服で行くことを考えるのですが、坂田藤十郎襲名披露興行なので何としても着物で行きたい!

「雨の日の着物」は何度も経験してすっかり慣れています。しかし、雪となると勝手が違うのが「足元」。
雨の時は草履カバーを使えば、普通の草履を雨用草履として使えます。しかし、草履カバーはビニール製なので、雪の上を歩くと安定感が悪そう……。
それに、ある程度草履の高さがないと、雪を踏んだ時に足が濡れてしまうし……。

うーむ、やはり「備えあれば憂いなし」、少々の雪に対応できる履物を探してみるべし!

……と考えたまではいいのですが、銀座や浅草の履物屋さんは、仕事が終わってからでは間に合いません。
かといって、会社の周辺には若い人向けのおしゃれな「靴屋さん」はあれど、「履物屋さん」なんて粋なものは見当たりません。
さてどうしたものか……。

そこでふと思いついたのが「麻布十番商店街」です。
麻布十番は、繁華街六本木の近くにありながら、老舗や地域密着型のお店が並ぶ商店街があって何となく落ち着ける雰囲気の街です。
商店街なら、きっと履物屋さんの一軒くらいあるはず!

ランチを食べながら、さっそくケンサク、検索。
ちゃんと、麻布十番商店街のホームページがありました。
しかも、なかなかしっかりと作られているホームページです。見やすいし、情報も探しやすいし、きれい。
さっそく履物屋さんを探してみたら……ありました!「だいこくや」さんというお店です。

お昼休みはもうすぐ終わってしまうから行ってこられないし……よし、今日は何としてでも仕事を定時で終えてだいこくやさんへ行くのだ! と決意して、サクサクと仕事。しかし、打ち合わせなどが入ったため、会社を出るのが7時半になってしまいました。
急げば10分ちょっとで麻布十番商店街に着けるはず、お店は8時までだから、道に迷わなければ間に合うはず!
会社を出て、とにかく走る、走る、走る……。
途中、イルミネーション輝く「けやき坂」を転がるように駆け下りていたら、若いカップルからけげんそうに見られましたが、なりふりかまっちゃいられません。
それもこれも、みんな着物のためや!(←「浪花恋しぐれ」風)

やはり気合いの入り方が違ったのか、方向音痴の私が、夜目にもかかわらず迷うことなく麻布十番商店街へたどり着きました。
夏に「麻布十番納涼まつり」へ行っておいて本当によかったです……。
「豆源」さんで揚げおかきを買ったついでに、だいこくやさんの場所を聞きました(本当はそれが主目的……)。
豆源さんから目と鼻の先だったので、すぐにたどり着きました。よかった、まだ開いてる……。

さっそくお店に飛び込んで、「雨用草履で、雪にも使えるもの」を尋ねてみました。
すると、ありました!

雨雪用草履

雨草履と同様、ビニールのつま先カバーがついていますが、普通の雨草履と違う点は、草履の底です。
真ん中の部分が少しくびれた右近下駄のような形になっていて、底面には滑り止めのゴムが貼ってあります。つま先に比べてかかとの部分が高くなっています。

時雨下駄(雨用の下駄)とどちらにしようか迷ったのですが、履いてみるとやはり下駄よりもずっと安定感があったので、こちらにしました。

これで、雪でも槍でもかかってこい! という感じです(笑)。
襦袢の裾は残して着物の裾をまくり、帯の上部に着物クリップでとめます。
その上から道行コート(寒いのでベルベットのコート)を着て、さらに上から雨コートを着ます。
衿も、ショールなどでガード。
足元は、まず足袋の上に「足袋カバー」を履きます。そしてこの雨雪用草履で完全武装。
普通の草履を持っていき、劇場に着いたら履き替えます。
足袋も、濡れてしまった時のために替えを持っていきます。
雨や雪の日は、荷物が多くなって面倒だけれど、やはり「備えあれば憂いなし」です。

だいこくやさんのおかげで、明日は心おきなく着物で出かけられます。
応対してくださったおかみさんもとても気さくな感じで、気持ちよく買い物ができました。やっぱり商店街っていいなあ……。

それにしても、麻布十番商店街までダッシュしたら、その後しばらく足がガクガクしていました……。寄る年波には勝てない……。

そういえば、明日は大学入試センター試験が行われる日なのだとか。
受験生のみなさん、お家を早めに出て、気を付けて試験会場へ行ってくださいね。サクラサク! 健闘を祈ります!



観劇のキモノ

2005年08月28日 | 着物
最近、古典芸能ブームと着物ブームのためか、歌舞伎座で着物姿の若い女性を多く見かけるようになりました。
それはとても良いことだと思うのですが、この夏、歌舞伎座で「ちょっとどうかなぁ……」と思う着こなしが多く見られ、少し複雑な気分です。
半衿・襦袢つきの着物を着ているのに、足元は素足に下駄など、全体のバランスがちぐはぐになっていたり(綿紅梅や綿絽も含めて、半衿つきで着物を着た場合は、足袋を履きます)。
あるいは、浴衣に半幅帯・素足に下駄ばきなど、TPOにかなっていなかったり。(浴衣は基本的に「寝間着兼部屋着」という位置づけのものです。浴衣を「カジュアルな夏キモノ」として着る方法については、6月24日の記事「浴衣の着こなし」をご参照ください)
着物の世界だけの常識ではなく、一般的な基準から考えてもちょっと疑問に思ってしまう着こなしが、残念ながら増えてきた気がするのです。

私が歌舞伎座に通い始めたのは、着物ブームが始まるずっと前のことでした。
そのころは、着物を着た人の割合こそ少なかったものの、素敵な着こなしをした人がたくさんいました。
ここでいう「素敵な着こなし」とは、色柄が上品で質の良い着物を着て、帯や小物との取り合わせも洗練されていて、TPOもきちんとわきまえられていて、着付けもきちんとしていて、着姿が自然で、そこはかとない品がある……ということです。

歌舞伎座のロビーや客席、特に1階席にはそういった人が何人もいて、思わず見とれてしまったものです。
そして「私もああいうふうに着物を着て歌舞伎を観たい」と思ったのが、私の「キモノ好きへの道」への第一歩でもありました。

もちろん今でも、そういった「素敵な着こなし」をしている方はいらっしゃいます。
しかし、歌舞伎座における着物人口の増加に伴い、そういった人の密度が低くなってきているのも事実です。

自由な感性で着物を着るのはとても良いことだと思いますが、そうはいってもやはり「時と場所に合っていること」「周囲と調和していること」「相手に対して失礼のないこと」は、着物を着るうえでとても重要なことです。これらを包括的に捉えることができてはじめて、着物を「着こなしている」と言えるのだと思います。

「じゃあどうすればそういった着こなしができるの?」と思われるかもしれませんが、これはもう、「素敵な着こなし」を数多く見て目を肥やしていくしかありません。私にとって、お手本にしたい方がたくさんいたのが、歌舞伎座でした。
あとは、最低限の着物の決まり事を、身をもって覚えておくことだと思います。常に、「この場にこの格好でよいだろうか」「この組み合わせで全体のバランスはおかしくないだろうか」と考えて周囲と自分とを比較し、もしも「失敗したかな、変かな」と思えば、それを教訓にしていけばよいのです。

私は、これまで歌舞伎座でたくさんの先達を見てきて、とてもよい勉強になりました。着物を着て歌舞伎を観に行って、最初は気おくれして落ち着かないこともありました。しかし今では、着物姿の人に混じってそれなりに堂々と、落ち着いて構えていられるようになりました。
この「気おくれせずに堂々としていられる」というのは、お芝居を楽しむためにとても重要なことです。
仮に、どんなにちぐはぐな格好をしていても自信たっぷりでいられる人がいたとしても、周囲の視線は正直です。同じ注目されるのでも、「あら素敵」という視線と「何あれ?」という視線はちがいます。後者の視線で見続けられたら、さすがに居心地の悪さを感じることでしょう。
せっかく着物を着てお芝居を観に行くのですから、お芝居を存分に楽しむために、「どこに出ても恥ずかしくない着こなし」を心得ておく必要があると思います。

「今度歌舞伎を観に行くことになって、着物を着ようと思うけれど、どんなものを着て行けばいいの?」と迷う方は多いと思います。
そこで、これまでの経験と観察から、観劇の時の着物についてまとめてみました。
「面倒くさいなあ」と思うかもしれませんが、せっかく「キモノで観劇」を志すなら、周りの人をよく見て着こなしのワザを磨き、いずれ自分が人からお手本とされるようになれば素敵だと思います。


■季節に合った装いを

観劇の場では、着物を着慣れた人、着物を見慣れた人がたくさんいますので、季節に合ったものを着ることは大変重要です。

まず、単(ひとえ)、袷、薄物の着用時期を守ることが大切です。
特に、単(ひとえ)の時期に袷(あわせ)を着ることは絶対に避けましょう。
真夏は、6月や9月に着るような単ではなく、きちんと夏物=薄物を着ましょう。
単の着物や薄物を持っていないならば、思いきって洋服にすればよいのです。

5月下旬は、本来は袷の時期ではありますが、着慣れた雰囲気の人はほとんど単を着ています。
10月の初めも、着慣れた雰囲気の人のなかには単を着ている人がいます(ただしこれは、当日の気候などさまざまな条件による判断が必要となりますので、初心者は10月になったらとにかく袷を着るのがよいと思います)。

着物や帯の柄が、季節を限定するようなものである場合は、それに合った季節に着用するようにします。
東京の場合だと、半月か1か月くらい季節を先取りした柄選びをすることが多いです。ただし先取りと言っても、たとえば2月に桜の柄など、あまりにも早すぎるものは似つかわしくないので、避けたほうがよいでしょう。
ただし、ひいきの役者さんの紋を意匠化した柄や、ひいきの役者さんにゆかりの柄などの場合は、必ずしも季節と合っていなくても構いません(ただし、ひいきの役者さんがらみの着物や帯を身にまとうのは、その役者さんが出演されている時だけにするのが演者への礼儀だと思います)。


■座席や興行内容によって着分ける

歌舞伎座の客席は、グレードの高いほうから順に桟敷席、1階席、2階席、3階席、一幕見席となります(2階席の前列が「1等席」で1階席後部が「2等席」になる場合もありますが)。

歌舞伎座はジーンズでも入場可能ですので、本来は1階席でカジュアルな格好をしていても構わないのですが、着物の場合はやはり目立ちますし、ほかの人の着物とバランスが合わないとどうしても浮いてしまいますので、なるべく座席にあった装いをすることが望ましいです。

以下に、座席別に装いの目安をまとめました。
ただしこれはあくまでも目安ですので、「大勢で、ドレスコードを決めていくことになった」など趣向のある場合は、それに合わせるのがよいでしょう。

<1階席>

普段の興行ならば、格の高い着物は却って大げさになってしまいます。小紋か、紋なしの色無地が最適です。
ただし桟敷席の場合は、客席からも見られる位置にありますので、付け下げ、飛び柄の上品な小紋などで、少しあらたまった感じを出すのが望ましいです。
お正月興行や襲名披露興行の場合は、平場(ひらば:桟敷以外の席)でも訪問着や付け下げ、紋付の色無地を着ている人が多くなります。そのため小紋も、飛び柄の上品なものか総柄の華やかなものにするとよいでしょう。

観劇には本来、染めの着物が適しているといわれますが、最近は織りの着物を着ている人も多く見られます。ただし1階席の場合は、格子や絣(かすり)などカジュアルな柄の紬は避け、無地紬など少しあらたまった感じのものにしたほうがよいです。
桟敷席の場合は、染めの着物のほうがよいです。

夏は、絽の小紋・色無地・付け下げ、紗などが適しています。平場なら、絹紅梅でもよいと思います。
木綿や麻の着物は、1階席では適しませんが、麻でも「上布(じょうふ)」など高級感のあるものなら、あまり違和感がないと思います。ただし、紬と同様、柄ゆきによります。桟敷席では避けたほうがよいでしょう。平場でも、襲名披露興行の時は避けたほうがよいでしょう。

<2階席>

基本的には、1階席の平場と同じです。
ただ、お正月興行や襲名披露興行などの場合でも、訪問着や付け下げを着ている人はやや少なめになります。

夏は、絽の小紋・色無地、紗、絹紅梅などが適していると思いますが、麻の着物でも違和感はないと思います。
麻の場合、上布だけでなく縮(ちぢみ)でも構わないと思いますが、やはり格子や絣などカジュアルな柄は避け、無地に近いものにしたほうがよいです。1階席と同様、襲名披露の場合は避けたほうがよいでしょう。

<3階席>

1階席や2階席に比べると着物を着ている人も少なくなりますが、着物を着た人が「ちらほら」とでもいると、やはり場が華やぎます。
3階席は、とにかく「気軽に歌舞伎を観る」ための場所なので、あらたまったものにする必要はありません。紬、小紋などがちょうどよいでしょう。
3階席は座席も狭くなりますし、床もじゅうたん敷きではありませんので、汚れて困るものは着て行かないほうがよいと思います。

夏は、絽の小紋や夏紬のほか、麻の着物や木綿ものでも構いません。縮(ちぢみ)や綿紅梅、綿絽を、半衿・襦袢・名古屋帯・足袋・草履とあわせて着ます。
襲名披露興行の時は、麻や木綿は避けたほうがよいです。

浴衣(この場合、綿コーマの浴衣に素足に下駄履きという、いわゆる「浴衣姿」のこと)は、あまり適しません。1階席や2階席では当然避けるべきですが、3階席の場合、夜の部ならばさほど違和感がないかもしれません(ただし、襲名披露興行などの場合は、3階席でも浴衣は避けるべきです)。ただ、客席だけでなくロビーや食堂も利用しますから、やはりなるべく避けたほうが無難です。
半幅帯を締める場合は、文庫結びは避けたほうがよいです。椅子の背もたれにぴったりと背中をつけられないからです(3階席の場合、かなり上のほうから舞台を見下ろす形になりますので、前かがみになると後ろの人が見づらくなってしまいます)。貝の口や吉弥(きちや)などに結ぶのがよいでしょう。歩く時に大きな音が立たないよう、下駄も、裏にゴムの貼られたものにします(本来、劇場では下駄履きは避けたほうがよいです)。



舞妓さんのキモノ

2005年08月07日 | 着物
舞妓さんがお座敷で着る着物や帯、帯留は、どれも大変に手の込んだもので、とても見応えがあります。
これらは舞妓さんが自分で用意するのではなく、すべて置屋さんが用意するのですが、帯留などは、置屋さんに代々伝わる家宝だそうです。
お座敷には目の肥えたお客さんが来ますから、当然、良いものをそろえています。ですから、舞妓さんの着物を間近で見ることは、着物好きにとっては「目の肥やし」とも言えます。
もしも舞妓さんと会う機会があれば、せっかくですから着物や帯、帯留もよく見てみてください。
素敵な着物だと思ったら素直にそう言ってあげると、舞妓さんも喜ぶと思います。

それにはまず、自分自身もよく勉強して、見る目をもっていなければいけません。舞妓さんの着物や帯は置屋さんの財産なのですから、「素敵な着物ですね」とほめこそすれ、正しい知識をもっていないのに安易に批判してしまうようなことは、無粋を通り越して失礼になりかねません(まあ、お座敷で面と向かって批判するような人は、普通はいないと思いますが)。

舞妓さんや芸妓さんの正装は、黒の紋付です。
次に色紋付、その次が、紋の入っていない絵羽(えば)模様の着物という順にフォーマル度が下がっていくのは、一般の女性の着物と同じです。
紋付や絵羽模様の着物の場合、なりたての舞妓さんは肩口にも柄のある着物を着ますが、年数が経つにつれて、袖や裾のみに柄が入ったものを着るようになります。
紋付を着るのは、お正月など改まった時だけで、普段のお座敷では、紋の入っていない絵羽模様の着物を着ます。
舞妓さんの場合、普段のお座敷だと小紋柄の振袖を着ることも多いです。

京都には5つの花街がありますが、祇園甲部と宮川町では、舞妓さんのお座敷着(振袖に「だらりの帯」)の着付けは「男衆(おとこし)さん」が行います。
舞妓さんがお座敷着を自分で着付けることはありません。
また、どんなお座敷でも、「お座敷」に出てお客様の相手をする時は、舞妓さんは振袖に「だらりの帯」、白塗りという格好が基本です(北野の上七軒で夏季だけやっているビアガーデンでは、舞妓さんが浴衣にお太鼓の帯、白塗りなしという「夏の普段着姿」で応対してくれますが)。

舞妓さんのお座敷着は、季節に応じて細かく変わります。
7月と8月は絽、6月と9月は単というのは一般の人と同じですが、袷の時期も、通常の袷のほかに、裾に綿の入った着物を1枚着る「一つぶき」、裾に綿の入った着物を2枚重ねて着る「二つぶき」など、月によって細かくわかれます。夏物や通常の袷ならまだしも、裾に綿の入った着物は大変重く、着付けるのにも力がいるのです。

とりわけ大変なのが、「だらりの帯」です。
丸帯、しかも通常よりも長いものを使うので、これを締める作業に最も力が必要です。
なので、男衆さんが着付けをするのです。
男衆さんは、舞妓さんのお座敷着の着付けを、わずか10分ほどで行うそうです。

男衆さんがいない花街では、置屋のお母さんが舞妓さんのお座敷着の着付けをします。
この場合、だらりの帯は女性が2人がかりで締めます。

舞妓さんだけでなく芸妓さんの場合も同じで、裾を引くお座敷着は必ず男衆さんか、男衆さんのいない花街では置屋のお母さんが着付けます。
東京の花柳界でも、半玉さんや芸者さんのお座敷着は、着付け師さんか置屋のお母さんなどが行います。

舞妓さんの着物の大きな特徴は、「肩上げ」と「袖上げ」がされている点です。
これは、子どもの着物でするものですが、舞妓さんは「芸妓さんになる前の見習い」で、もともとは小学生くらいの女の子がなっていたものなので、その名残として現在も「肩上げ」「裾上げ」がされているのです。

舞妓さんのお座敷着の場合は、襟元(衣紋ではなくて、前のほうです)を深めにあわせ、帯も胸高に締めますが、芸妓さんのお座敷着になると、襟元を少し開きぎみにして、帯も少し下のほうで締めます。
舞妓さんも芸妓さんも、お座敷着の場合は、衣紋は非常に大きく抜きます。「繰り越し」を一般の着物よりもかなり多くとって仕立てているのです。普通の着物では、舞妓さんや芸妓さんのお座敷着と同じくらい衣紋を抜くことは不可能です。
お座敷着の半衿は、舞妓さんも芸妓さんも、一般の人に比べてかなり多く出します。

もしも、一般の女性が、芸妓さんのような襟のあわせ方や半衿の出し方をして、帯を低く締めていたら、おそらくだらしなく映ってしまうことでしょう。こういった、ある意味「ゆるめ」の着付けは、島田のカツラをかぶって白塗りにした芸妓さんだからこそ似合うものなのです。
「花街の着付けと町方(一般の女性)の着付けには区別がある」というのは、本来はそういうことなのだと思います。

舞妓さんの半衿は、豪華な刺繍の半衿です。一般にはまず手に入らないようなものです。
最初は赤の入ったもので、年数が経つと白に変わります。真っ白に見えても、実は白糸でびっしりと刺繍がされている、大変手の込んだものなのです。
芸妓さんになる時、「衿替え」といって、刺繍の白衿ではない、塩瀬の白衿に変わります。


普段着(小紋などの普通の着物にお太鼓の帯、白塗りなし)の場合は、舞妓さんも芸妓さんも自分で着付けます。


祇園祭のキモノ

2005年08月04日 | 着物
大変遅くなりましたが、祇園祭の宵山、山鉾巡行に出かけたときのキモノをまとめて掲載します。

<7月16日(宵山)>

竹の柄の綿絽

白地に竹の柄の綿絽(めんろ)の浴衣です。半衿、襦袢をつけてキモノ風にしました。
帯は博多織の献上八寸名古屋帯。
帯締めは、着物の柄の色に合わせて、若竹色の三分紐にしました。

帯留は、江戸べっ甲細工の「ふくら雀」。着物の柄と合わせて「竹に雀」の組み合わせにしたのです。
日本の文様には、「竹に雀」「波に千鳥」「梅に鶯」など、相性がよいとされる組み合わせがいろいろとあります。着物の柄や小物で、こんな風に組み合わせを楽しむのも、また一興です。

ふくら雀の帯留

根付は、象牙でレンコンをかたどったものです。
このレンコンの根付、京都で何人もの人が「あら、レンコンですか、うわあ、珍しいですね、初めて見ました!」と声をかけてくださいました。舞妓さんにまで声をかけてもらえたので、結構うれしくなりました。

レンコンの根付


このキモノを着て歩いていたら、宵山の時、沿道でイカ焼きを売っていたコギャル風のお嬢さん(ガングロ、茶髪、顔になぜかペインティング)が、「見て見て、めっちゃかわいい、あのキモノ!」とほめてくれました。
とても気に入っているキモノなので、ほめてもらえると素直にうれしいです。しかも、コギャル風のお嬢さんが気に入ってくれるとは意外だったので、なおさらうれしくなりました。
キモノをほめてくれたので、本当は御礼を言いたかったのですが、そうするとイカ焼きを買わざるを得ない状況になってしまいそうなので、気づかないふりをしてしまいました(お嬢さんゴメンナサイ……)。
イカ焼きが嫌いなわけではないのですが、あまりの暑さに食べる気がしなかったのと、お嬢さんたちのフェイスペインティングがあまりにも大々的だったからです……。食べ物商売は、キレイゴトでなくっちゃあいけません……。それに、フェイスペインティングしないほうが絶対カワイイと思うんだけどなあ……。


<7月17日(山鉾巡行)>

波に千鳥の浴衣

最初は3日間とも「浴衣+半衿・襦袢のカジュアル夏キモノ」にしようかと思っていたのですが、母が浴衣を持ってくると言っていたので、この日は私もそれにあわせて綿コーマの浴衣にしました。

母娘で、竺仙(ちくせん)の千鳥の浴衣でそろえました。
白地のほうが私、藍地のほうが母です。
私の浴衣を見て「いい柄ねー」と母が言っていたので、昨年、日本橋にある竺仙の本店で反物を買って母にプレゼントしたのです。
母は、せっかくなので祇園祭で着ようと、旅行の前にがんばって仕立てたようです。
母娘でおそろいというのも、なかなかいい気分でした。


<7月18日>

この日は、お寺を少し見て、ゆっくり食事やお茶をして過ごしました。
7月2日のコーディネートと同じ、濃紺地に朝顔柄の綿紅梅(めんこうばい)浴衣、博多織の紗献上八寸名古屋帯です。
帯締は三分紐にして、帯留は夏向きの金魚の帯留にしました。

金魚の帯留




大人の着こなし

2005年07月15日 | 着物
ある時、インターネットで着物関連のサイトを検索していて、偶然、木下明美さんという方のホームページを見つけました。

木下明美さんのホームページ

ジャーナリスト・コラムニストである木下さんは、ご自身のホームページでも様々な分野のことを幅広く取り上げておられるのですが、そのなかで、着物に関する話題も大きく取り上げられています。

着物でお出かけをされた時の写真を、わかりやすく楽しい解説とともに掲載されていて、いつも楽しみに拝見しています。
木下さんご自身はもちろんのこと、ご友人やご家族の着物姿もたくさん紹介されています。
みなさん素敵な着こなしで、とても勉強になります。
木下さんは、50代になられてから着物ライフをエンジョイしはじめたとのことなのですが、とてもそうは思えないほど、自然な着物姿なのです。洗練された「大人の着こなし」といった感じで、見ていてとても勉強になります。
私も将来はこんな着こなしができるようになりたい!と、目標にしています。

京都にお住まいの木下さんは、京都の歳時記にちなんだお着物姿や、京好みの着物・小物を折にふれて紹介してくださっているので、とても楽しみにしています。

また、着物でお仕事に出かけられることも多いそうで、洋服のかたが多い場でもとても自然に見える素敵な着こなしが、たくさん紹介されています。
「着物でお仕事」、あこがれです。

着物ビギナーの方はもちろん、これからは「大人の着こなし」を目指したい!と思う方にも、とても参考になるホームページだと思いますので、ぜひごらんになってみてください。


※以前、一度メールをお送りさせていただいたら、とてもうれしいお返事をいただき、「ぜひ、お江戸の着物の写真をお送りください」とおっしゃってくださいました。
そこで、先日、絽の江戸小紋を着た際の写真をメールでお送りさせていただいたところ、さっそく「着物日記 着物でお遊び編」のコーナーで「江戸好み」と題してご紹介くださいました。ありがとうございます!
この着物を着た日は、落語会と歌舞伎座へ行ったのですが、その詳細については、近々このブログ(7月10日の記事)でご報告したいと思います。今しばらくお待ちを……。


結城紬のラベル偽装

2005年07月12日 | 着物
結城紬のラベル偽装事件が発覚した。

地機(じばた)で織られたものだけが「重文指定」の表示を付けられるのだが(ほかにももちろん細かな基準はあるらしい)、地機で織られていないものにまで「重文指定」のラベルが貼られていたらしい。

最近、インターネットで激安の結城紬が販売されている。
以前私が買ったものも、激安だった(あまりにも安いものだったので、さすがに重文指定のラベルは付いていなかったと思う……ラベルなんてよく見てなかったけど)。
安価な紬の多くは、機械で織られているようだ。つまり、地機では織られていない。
機械で織られて大量生産が可能になっているから、当然、安価での流通が可能になる。

もちろん、機械織りがいけないのだというわけではない。
買うほうだって、安価なのには理由があることくらい承知のうえで買うのだろうし。

地機で織られていないなら、それに合った適切な表示をすればよいのだ。
機械織りのものを安価に提供したり購入したりできること自体は、悪いことではないはず。
それを正直に表示しない業者があったことが問題なのであろう。

個人的には、法律や規則に違反しない限り、安く物を提供して利益をあげるのは、資本主義経済においては当然のことだと思う。
洋服と同じように、安く買ってどんどん着て着たおす、というスタンスで着物を買ってもおかしくないと思う。

ラベルを偽装する悪質な業者が出てしまうと、「『安い物を売る』のがいけない」というふうにはきちがえられてしまうことが多い。牛肉のときだってそうだ。まるで、輸入牛肉そのものを目の敵にするような世論になっていた。
近年のインターネットショッピングの普及により、せっかく若い世代の人が着物を手軽に買えるようになって着物が注目されるようになってきたのだから、着物を扱う業者が自らそれを壊してしまうような真似はしないでもらいたいものだ。



浴衣の着こなし(2)

2005年06月30日 | 着物
絵羽模様(広げるとひと続きの絵になっている柄ゆき)の浴衣は「最近のもの」のように感じられるかもしれませんが、なんと、江戸時代からあったのです。

入浴の時や湯上がりに着るものだった浴衣が、お祭りなどの際のおしゃれ着として着られるようになったのも、江戸時代からだと言われています。
それに伴い、浴衣の柄や染め方にも様々なこだわりが出てくるようになりました。

裏にも色柄がきれいに通っている「注染(ちゅうせん)」という技法で染めた浴衣や、表と裏で違う柄を染めた浴衣など、「浴衣なのに凝っている」ものが、江戸で流行したのです。
これらの技法を使った浴衣は、今もなお、竺仙などの老舗で染められています。
度重なる「ぜいたく禁止令」に対する抵抗という意味もあったようですが、「さりげないところに凝るのが粋」とする江戸の人々の美意識も影響しているのだと思います。

そんな「凝った浴衣」として、絵羽模様の浴衣も登場しました。
「首抜き浴衣」と呼ばれるものです。
首回りに役者の紋などの模様が大きく染められており、裾にも模様が染められています。

「首抜き」の柄の衣装は、歌舞伎の世界から始まったものですが、しだいに一般の人の間でも流行し、おしゃれな江戸っ子は、ひいきの役者の紋などを染めた「首抜き浴衣」をあつらえ、祭礼の時に着たりしました。祭礼、つまり「ハレ」の日に着る、よそゆきの浴衣だったわけです。
現代の「よそゆき浴衣」の着こなしに、通じるところがあるのではないかと思います。
祭礼のたびに、わざわざ首抜きの浴衣を染めさせるのですから、ぜいたくなものです。
江戸時代にはすでに、浴衣が単なる寝間着ではなく、「おしゃれ着」となっていたのです。

現代でも、東京のお祭りで、首抜き浴衣を着ている方を時々見かけます。
今年の三社祭でも、首抜き浴衣を着ている女性を見ました。もちろん、氏子として参加している人でした。

江戸の三大祭の一つ「神田祭」の時、老舗うなぎ店「神田川」の女将さんは、必ず首抜き浴衣を新調してきたそうです。
この「神田川」の女将さんの首抜き浴衣の着こなしは、これまでにも何度か着物雑誌で紹介されていますので、興味のある方はぜひごらんください。
ひいきの役者の紋や、その役者にゆかりの柄などを染めている首抜き浴衣を、すらっと粋に着こなしていて、とても素敵です。

現代では、役者の紋を染めてしまうと着こなしが難しいというせいもあるのでしょうか、それ以外の柄を染めた首抜き浴衣も作られているようです。
「らくや」の首抜き浴衣
千鳥の柄がとても素敵です。
しかし、高い……。着物と同じくらい、いや、それ以上にかかりますね。
(私が持っている絵羽模様の浴衣は、もちろん、これよりもず~~っと安いです)

「首抜き浴衣」には、「たかが浴衣」にお金と手間をかけておしゃれを楽しむという、江戸の人々の心意気が感じとれます。

それを考えると、「浴衣=花火大会に着て行くもの」という図式が成り立ってしまっていた現代において、「おしゃれ着としての浴衣の着こなし」が注目されつつあるのは、「最近のブーム」というよりもむしろ「古典回帰」なのかもしれないなあ、と思います。



浴衣の着こなし

2005年06月24日 | 着物
先日、地下鉄の駅に置かれているフリーペーパーのなかに、浴衣に関する記事がありました。
読んでみると、どうやら、「これまでと違った、ワンランク上の浴衣の着こなしをしよう」というような主旨のものでした。

しかし……。残念ながら、その記事を書かれた人は、どうやら、「浴衣の着こなし」について正しく理解できていないようでした。なぜなら、次のような言葉があったからです。
「半衿をつければ、ちょっとあらたまったところへも着て行ける」

これは、まったくの間違いではないけれど、正しくもありません。
着物ビギナーが万一、この記述を鵜呑みにしてしまうと、とんだ恥をかいてしまうことになりかねません(もちろん、誰でもビギナーのうちは失敗するし、失敗に気づくことによってしだいに着こなし上手になれるのだけれど)。

そこで今回は、盛夏を目前にして「今年は浴衣で夏キモノ気分を楽しもう!」と思っている「夏着物ビギナー」の方のために、「夏のふだん着キモノとしての浴衣の着こなし」についてご説明したいと思います。

さきの記述で出てきた、「半衿をつければ、ちょっとあらたまったところへも着て行ける」
この言葉がなぜ正しくない(あるいは言葉が足りない)のかと言いますと……。

1)浴衣は、本来「あらたまった」ところへ着ていくものではない
2)どんな浴衣でもよいというわけではない
3)半衿をつければよいというわけではない

からです。


まず、1)について。
ご周知のとおりかと思いますが、浴衣はもともと「湯帷子(ゆかたびら)」といって、入浴(湯浴み)のときに着る衣服だったのです。それが発展して、湯上がりに着る、寝間着兼部屋着になりました。
洋服に例えるなら、「パジャマ兼用のジャージ」とでもいったところでしょうか。
ジャージを着て出かけるところというのは、限られていますよね。
スポーツの試合に行くようなときでもない限り、ジャージのまま電車に乗って出かけるという人はあまりいないと思います。せいぜい、近くのコンビニくらいまででしょう。
浴衣も同じで、本来は、家の中や、せいぜい町内を歩くときくらいしか着ないものだったのです。

今でも、「浴衣を着て電車に乗るもんじゃない」という方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、現代において、そこまで厳しく考える必要はないのでは、と、個人的には思います。
だって、花火大会に電車に乗らずに行けることなんて、ほぼないですよね。

電車に乗っちゃいけないとまでは言わないけれど、「本来はジャージみたいなもの」と考えればおのずと、「あらたまったところへは、普通は着て行けないもの」ということは想像できますよね。
それを大前提として理解しておくことは大切だと思います。


次に、2)について。
「本来はあらたまったところへは着て行けない」浴衣ですが、最近では、いろいろな浴衣があって、なかには「着方しだいでは、カジュアルなおでかけ着として、ちょっとした場所に着て行ける」もの、つまり、ジーンズかチノパンくらいの役割を果たせるものがあるのです。

浴衣は、生地の織り方や素材によって主に次の7つに分けられます。

ア)綿コーマ
イ)綿絽(めんろ)
ウ)綿紅梅(めんこうばい)
エ)奥州紬(おうしゅうつむぎ)または綿紬、綿麻
オ)絞り
カ)縮(ちぢみ)
キ)絹紅梅(きぬこうばい)

このうち、1つだけ、半衿などをつけて着ないものがあります。
ア)の綿コーマです。これは、いわゆる「普通の浴衣」です。温泉旅館などで出てくる浴衣と、素材や生地の織り方は同じです(もちろん、生地の厚さや柄の染め方などによってピンキリですが)。
浴衣売り場で売られているものの大半は、この綿コーマです。

綿コーマは、素肌の上か、浴衣用スリップなどの下着の上にじかに着るものです。当然、半衿や長襦袢はつけません。したがって、「ちょっとしたおでかけ着」にはできません。
綿コーマは、花火大会やお稽古、近所へちょっと買い物、といった場面だけで着ます。

しかし、綿コーマ以外の6種類の浴衣は、「高級浴衣」とされていて、これならば、着方によっては「ちょっとしたおでかけ着」にできるのです。


最後に、3)について。
上で述べたとおり、綿コーマ以外の6種類の浴衣ならば、着方によっては「ちょっとしたおでかけ着」にできます。
しかし、この場合に必要な4つの条件があります。

・半衿をつける
・襦袢(袖のあるもの)をつける
・足袋をはく
・名古屋帯を締める

この4つの条件をすべて満たしてはじめて、浴衣が「ちょっとあらたまった場所にも着ていける」ものに昇格するのです。
これらの条件を満たせば、ちょっとしたレストランでの食事や旅行などにも十分着て行くことが可能です。
縮や絹紅梅なら、観劇にも通用します(ただし、公演の種類や座席、着物の柄ゆきなどにもよります)。

レストランや観劇に着ていくならば、履き物にもそれなりに配慮をしなければいけません。
レストランや劇場は本来、下駄履きでは入れないところですので、草履を履くのが望ましいでしょう。
どうしても下駄を履く場合は、右近型や草履型で、裏にゴムの貼られているものにします。
草履は、夏向きの淡い色で、台の高くないものを合わせます(しょせんは浴衣ですから、礼装用の台の高い草履だとバランスが合いません)。

帯とのバランスも必要です。
木綿にあわせてもおかしくないもの、博多の献上帯や麻の帯などが定番です。


これまでの話を要約すると、

・綿コーマ「以外の」浴衣に、半衿、袖つき襦袢、足袋を合わせてはじめて、「ちょっとあらたまった」場所へも着て行ける。
・そうは言っても、しょせんは浴衣。着て行ける場所には上限がある。
・着て行く場所にあわせて、素材や小物を選ぶ必要がある。
・全体のコーディネートのバランス、周囲との調和を考えることが大切。

というのが、「夏のカジュアルキモノ」として浴衣を着る際におぼえておくべき基本事項と言えるでしょう。


「いろいろメンドウだなあ」と思うかもしれませんが、浴衣以外の着物を着るときも、着物の素材や種類によって、合わせる帯や履き物、着て行く場所などのバランスを考えますよね。それと同じですので、着物に関する基本的な知識を身に付けて、普通のセンスがあれば、着こなしは決して難しいものではありません。

浴衣の素材はほとんどは木綿や麻ですので、家庭で洗うことができ、しかも、天然素材ですので肌触りもよくて快適です。麻などは、ほかの素材に比べるとやはり涼しいです。
バランスやTPOをきちんと考えて着れば、こんなに便利な夏の外出着はありません。

「基本的知識」をもとに、まずはとにかく着てみましょう。
いきなり高級レストランや観劇に着て行くのではなく、ちょっとした外出からチャレンジすれば安心できると思います。
いろいろなところに着て行って、場の雰囲気とのバランスを見れば、しだいに要領がつかめてきて「こういうところへも着て行けそうだな」というのがわかってくると思います。


夏に絹を着るのはちょっと……と思っている方は多いと思います。
もちろん、ポリエステル着物という選択肢もあると思いますが、ポリエステルだけが「洗える着物」というわけではないのですから、選択肢は多いに越したことはないでしょう。
暑さの度合いや着て行く場面に応じていろいろな素材の着物を使い分けられれば、さらに快適な夏のキモノライフが楽しめるはずです。






高層ビルとキモノ

2005年06月10日 | 着物
今朝、会社の最寄り駅の改札を出たら、いきなり、袴をつけた男性が立っていた。
手には、「○○会会場→」と書かれた案内板。
品のよい単(ひとえ)の色無地を着た女性も近くに立っている。
ふだん、着物を着て歩く人にめったに出くわさない駅なので、ちょっと驚いた。

そのまま進んでいくと、ビルに向かうエスカレーターの下、エスカレーターを上がりきったところ、さらには、ビルの入り口付近にも数名。
女性はほとんどみな単の色無地、男性は紬の着物と紬の袴だったので「もしやお茶会?」と思っていたら、案の定、帯に袱紗(ふくさ)をはさんでいる方が。

それにしても、案内の人の数も多くて、ずいぶん盛大な会だなあ……、しかも、みんな正統派のお茶席の装いだし……と思っていたら、それもそのはず、その会は、某流儀の宗家直轄の団体によるものだった。
きっと、その流儀の師範クラス以上の人が一堂に会する、盛大な会なのであろう。

やはり、お茶を長年やっている人の着こなしや身のこなしは、どこか違う。
それは踊りをやっている人にも言えることだとは思うが、お茶の世界はまた独特な感じだ。
踊りの人は「はんなり」(上品な華やかさがあること)、お茶の人は「しっとり」といったところ。

そういった人たちの着こなしを見ていると、とても勉強になるので、失礼を承知で「チラ見」。
歩きながら横目で見るだけだったが、それでも、ほんの一瞬目をやっただけで、洗練されていることがわかる着こなし。

高層ビルの下に、しっとりとしたキモノ姿の人々。
一見、似つかわしくないようだが、不思議と溶け込んでいた。

品のよい着物姿を見た後は、高速エレベーターの重力も普段より軽く感じられた。


 関東地方は今日梅雨入り

池田重子「日本のおしゃれ展」

2005年03月26日 | 着物
銀座・松屋で開催されている「池田重子コレクション 日本のおしゃれ展」へ行った。

池田重子さんは、日本有数のアンティーク着物コレクター。その彼女のコレクションを展示したものだ。会場には、着物姿の女性もたくさんいた。

池田さんもお芝居好きと見えて、歌舞伎にちなんだ帯や着物が多く展示されていた。
私の目にとまったのは「歌舞伎定式幕写し帯締」。
この帯締は、歌舞伎の定式幕(じょうしきまく)の色である黒、茶、緑の3本の細い組紐をあわせたもので、池田重子さんのオリジナルなのだそうだ。
池田重子さんは、ご自身のブランドを作っておられるので、市販されていたら買いたい! と思ったのだが、よく見ると一つ気になることが。
歌舞伎の定式幕は、舞台の上手(客席から見て右)端から茶、黒、緑の順で並んでいる。「茶汲み」という語呂あわせで覚えるとよいのだが、この帯締は、端から黒、茶、緑の順番に並んでいた。そう、実際の定式幕と、色の並び順が微妙にちがうのだ。これじゃ「茶汲み」じゃなくて「くちゃみ」になってしまう……。惜しい!

いちばん印象に残ったのは、昭和初期のものとされる花嫁衣装。
裾引きの振袖なのだが、まったく同じ柄で地色が色ちがい(黒、赤、白)のものを作り、それを三枚がさねにして着るのだ。
おそらく、大きな商家の娘さんの花嫁衣装と思われるが、婚礼貸衣装が一般的となってしまった現代では、ここまでの贅沢はなかなかできないだろう。
こういったものこそ、アンティークの醍醐味といったところである。
裏地にも紅絹が使われているため、白地の着物の場合は裏の赤が表にすけて、とても美しい。
ちなみに、かさねる順番は、下から赤、白、黒の順である。つまり、いちばん上に黒が来る。
一枚一枚が薄手に作られているので、三枚重ねても重くなりすぎることはないらしい。

展示会場を出ると、同じフロアで着物や和装小物などの販売が行われていた。
そのなかに、池田重子さんのオリジナルブランドの着物もあったのだが、なかなかいいお値段だったので、「見てるだけ~」にした(笑)。
池田重子さんのコレクションにあるアンティーク着物を写したデザインの着物もあった。
歌舞伎の定式幕の帯締は、似たようなものはあったのだが、3色の紐の組み合わせではなく、1色で両端にほかの2色が入っているものだったので、購入はせず。

品物を見ていたら、近くにあった試着スペースから「いいわよ、すごくいい!」という大きな声が聞こえてきた。
お客さんに商品を試着させた販売員さんの声である。
いわゆる「呉服展示即売会」のようなノリで、押しの強そうな売り声だった。
試着していたお客さんは、30代半ば~後半くらいの女性で、販売員の女性よりも若い。
その後、「だからあ、この帯は、いろんな着物に合うんだからあ、絶対いいわよお、まちがいないって!」という声も聞こえてきた。
私は、いくら相手が年下だからといって、客に向かってこんなふうになれなれしい口をきく販売員が、非常に嫌いである。
売りつけようとしている帯をちらっと見てみたが、はっきりいって「どんな着物にも合う」とは言い難かった。たしかにシックな色ではあったが、おしゃれ着用という感じで、人によっては飽きが来るかもしれない。

そのお客さんが普段どんな着物を着ることが多いのか、どのくらいの頻度で着るのか、どんな場面で着るのかを考えて、どのくらいの予算でどんな品を買うのがいいのかを適切にアドバイスしながら売るのが、良い呉服屋さんである。
呉服屋さんならそんなふうにいろいろなアドバイスをしながら「身の丈に合った」着物をすすめてくれるのだろうが、こういう「展示即売会」のようなところの販売員さんだと、「とにかく売りたい」「ノルマを達成したい」というのが見え見えの売り方をしていることが多いように思う。
「とにかく高い着物を押しつけたい」と考えるなら、もっと相手を見るべきだと思う。
ふつうの、30代の女性で、数十万もする着物をポンと買える人なんて、そうはいないと思うのだが……。

そのお客さんは賢く断ったようだが、お客さんがいなくなった後、その販売員さんが「売れなかったわ」みたいな態度を示していたのも気に入らなかった。
はっきり言って、品のある販売態度とはお世辞にも言えない。
やみくもに売りつけようとするよりも、適切な説明やアドバイスをしながらすすめたほうが、お客さんの信頼も得られて、結果的には売れるかもしれないのに……。
やはり、どんな商売でも「誠意」が売り上げに通じるのだと思う。

その販売員さんは、期間中だけその会場にいる人なのかもしれないが、たとえその期間だけでも店やブランドの看板を背負っているのだから、もう少し自覚を持つべきだと思う。
その販売員さんの態度を見ているうちに購買意欲もすっかりなくなり、ウインドウショッピングをする気さえも萎えてしまったので、そのままデパートを後にして、次の目的地へ向かった。