マグロチャンピオンの料理道場

人気バラエティー番組、TVチャンピオンの「マグロ料理人選手権」優勝者が、本格料理を分かりやすく教えるブログ。

あん肝の酒蒸しと工場での思い出(1)

2008年03月13日 | 酒肴
今回は「あん肝の酒蒸し」(あんこうの肝臓に酒と塩を振り蒸した料理)の作り方の説明をするが、この商品には食品加工での辛い思い出もあり、まずはその話からしよう。

以前、筆者がプーケットのマグロ工場に居る時に、ひょんなことから上海の浦東空港の近くの中国人経営の水産加工工場を見に行くことになった。

バンコク発、上海行きの am 02:30発のMG(中国東方航空)の飛行機の離陸が2時間も遅れて、また飛行中の大きなの揺れに一睡もできずに眠たい目をこすりながら上海の浦東空港に昼前に着いたら工場の中国人通訳の「将さん」が笑顔で待ってくれていた。

工場は本当に浦東空港からすぐ近くの、車で10分程の距離にあったが、新しい開発区なのか周りには商店も何も無い寂しい場所だった。

工場に着くと早速、中国人社長の出迎えを受け、工場内に案内されたのだが、驚いたことに工場内には何の設備もなくガラガラの状況だった。

その日の昼は、眠くてボ~っとしているところに、近くのレストラン(食堂?)に食事に行くことになり、ぬるいビールの乾杯を受けながら工場のいきさつを聞くことになった。

まず、工場に-60℃の超低温の冷凍庫があるのが不思議だったので聞いてみた。(実は超低温があるのは分かっていたので、この工場を見に来たのだが)

その社長の話では、どこか日本の商社から「中国マーケット向けにマグロの販売を一緒にやらないか?」と持ちかけられたとの事だった。しかし、その日本の商社は自分達で独自に新たに大きな工場を建ててしまって、せっかく建てたこの工場を何とか稼動させなければならないが、何をしたら良いか分からないとの事だった。(日本人だけが騙されているのではなく、中国人も騙されるケースもあることを知った。)

何とかプーケットのマグロを中国向けに販売したいとの思いでここまで来たものの、社長の話を聞くと、中国でのマグロの関税が異常に高い上に、COマグロという質の悪いマグロに一酸化炭素ガスを吹きかけて赤く発色させた安価なマグロが既に中国国内にたくさん流通していて、マグロではとても中国では勝ち目は無さそうだ。

そこで、水産物でどんな原料をたくさん集められるか、明日、工場で原料を見せて欲しいという話を伝え、その日の夜の食事でも乾杯の洗礼を受けたが、早めに帰してもらい工場の2階の一応は客室?で爆睡ということになった。

次の日、工場のスタッフが朝食ができたと呼びにきてくれて、工場の食堂で朝飯を食べた。若布が少し入った水のようなスープと、瓜と卵の炒め物だったが、その時はまだ、これから何度もこの工場に来て、この料理を何度も食べるようになるとは思ってもいなかった。

朝飯が終わってから白衣に着替えて工場に入る。(何も設備が無いのだから白衣を着る必要もないのだが、いつもの習慣だ。


工場に届いていた原料は、河豚、あんこう、あん肝、だった。確か11月頃だったからこれだけしか集まらなかったのだろう。

工場長だという背の高い男が出てきて、まず、この河豚を捌き始めた。
それが、けっこうな包丁さばきだったのだが、解体が終わった後で、日本向けの河豚の加工品の輸出はこの工場では無理なことを社長に伝え、身の方は良く洗えば食べられるが、内臓は天然だと毒があり危険なので庭に埋めてもらうよう話をした。

そして、今度は自分であんこうを解体して、身は小さく一口大にし、あん肝は血菅を取り除き掃除をして工場のキッチンに持ち込み、あんこうの唐揚とあん肝の酒蒸しを作って、それを昨夜と同じ料理店に持ち込んで、工場の社長と工場スタッフ達と一緒に、また宴会となった。

しかし、中国人の「乾杯!」という習慣だけは、きっとこれから何十年経っても変らないのではないだろうか?
こちらが一人で相手がたくさんでは、どう見てもこちらが不利だろう。

あんこうの唐揚とあん肝をつまみに飲みながら社長の話を聞くと、あんこうの冷凍は日照市の友人が経営している工場の冷凍庫に200トンの在庫があるという。

また、あん肝は、中国の舟山など3箇所の漁港から入手でき、社長も既に日本に毎年、60トン以上も空輸していると言うではないか。
また、荷が多い時には相場も急落し、小さいサイズは日本に送っても値が付かないので現地で二束三文で売られるいると言う。

「もし、小さいサイズを結着して製品まで作ったらどうだろうか?」

という考えが浮かび、翌日は工場であん肝の加工に必要な物、設備と工場の作業レイアウト等の図面を書いて、そのまま一度日本に急いで帰ることにした。

念の為、工場にはかなり細かく加工に必要な物のリストを渡した。

あん肝を蒸す為の大型の蒸し器、作業台、真空包装機、それから、あん肝の血管を取り除くピンセットから、必要なプラスティクのトレーの枚数まで細かく指示をして日本に帰ってきたのだが、思った以上に工場側の対応は早かった。

1月初旬には、既に全部用意できたとの連絡が入った。

日本はお正月だが、中国は旧暦なので、1月1日位しか休まないだろうし、中国の突貫工事は仕事は手抜きが多いが本当に早い。

こちらは、まず日本で類似品があるかどいうか調べてみたが「あん肝の缶詰」はあるが、最終商品を冷凍したものは見つからなかった。
また、あん肝は築地市場では高い時には、生のままで1キロが2,000円以上もする時があり、北海道物では4,000円以上もする。ということが、築地の荷受の友達からの情報で分かった。

もし、中国から値が付かないので日本に送らない小さいあん肝を使って、最終商品(カットすれば直ぐに食べられる商品)を作ったら必ず勝算があるはずだ!

当時、とても胸が高鳴っていた。製造フローは、こうだ。

あん肝原料を水洗い後に、100ppmの次亜塩素酸ナトリウム(次亜)で殺菌して、塩を振り、再度、水洗い後に水切りをし、血菅をピンセットで取り除き、ソーセージを作る時のように豚か羊の腸に積めて、20分間蒸してから冷却し、皮(腸)を取り除いてから、軽量してサランラップに包み冷凍し、その後は真空包装すればよい。

原料には小さいあん肝ばかりを使うので、念の為に結着剤として千葉製粉の「ミートボンド」と、味の素のアクティバも用意することにした。どちらも粉末の結着剤だ。
結着剤とは、くず肉とくず肉を貼り付けてステーキにしたり、魚等の身と身を貼り付ける接着剤のような物だが、以前「骨無し魚」で、太刀魚を半身に卸して中骨を取り、再度、身と身を貼りり付けて元の形にする商品を作っていた時にたくさん使ったことがあるので、メーカーの知り合いの担当者に連絡すると、翌日には直ぐにサンプルが届いた。

ソーセージ用の豚か羊の腸は、東急ハンズにでも行って趣味の「手作りソーセージ」のコーナーに行けば、取りあえず実験用のサンプルが入手できるかも知れないと思ったのだが、その前に工場から既に現地で調達したとの連絡が入った。

直ぐに、旅行会社に電話をして、3日後の上海行きのチケットも準備した。

頭の中では既に製品のイメージも出来上がっていて、後は大量に作る方法を見つけるだけだ!

そういう気持ちで勇んで工場に飛んで行ったのだが、その時は、これから待ち受ける失敗の連続など思ってもいなかった。

続きは次回にしよう。。。












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