マグロチャンピオンの料理道場

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インジェクションビーフ(霜降り加工肉)について考えてみる

2011年07月14日 | 食品加工
昨夜、青島から3日ぶりに上海に戻ってきた。

青島へは「インジェクションビーフ」(霜降り加工肉)を作りに行ったのだが、工場は青島郊外にあって、食品加工の工場では規模は大きい方だろう。
もう、この食品加工工場にはまる2年程、毎月のように指導に行っている。

まず、「インジェクションビーフ」を知らない人の為に少し説明をしようと思う。

「インジェクションビーフ」とは、主に脂が無くて硬い赤身肉に脂を注入(インジェクション)し、サシを入れた牛肉でのことで、ブロック状の牛肉に巨大な注射針が60本から100本付いた「ピックルインジェクター」という機械を使用して牛脂を注入(注射)する。

ただ、牛脂は常温では固体なので、そのままで肉に注入するには、機械への負担も大きいので、牛脂を溶かし水と一緒に混ぜて「ピックル液」を作り肉に注入して冷凍すると、水は肉に吸収され脂が綺麗にサシとなって残る。

下の写真が注入前の牛肉の写真と、注入後の写真だ。

注入前の牛肉(青島牛のサーロイン)


注入後の牛肉(同じく青島牛のサーロイン)空気に触れて赤く発色している。

もう一枚、下の写真は脂をたくさん注入した牛肉だ。

青島牛のサーロインに脂を40%程注入し、A5クラスのサシになっている。

さて、今回は、このインジェクションビーフについて、賛否両論があるので、それを取り上げてみたいと思う。

実際、この仕事を引き受けた自分自身も、2年程前には「インジェクションビーフ」に付いては否定的だった。

それは、当時、日本の大手ステーキチェーンが、オーストラリア産サーロインに牛脂を注入した霜降り加工肉を「霜降りサーロインステーキ」と表示して販売して行政指導を受けたり、また「O-157」による食中毒も発生していたからだ。

今でも多くの消費者が「インジェクションビーフ」には否定的だと思うが、だが、実際にはファミリーレストランで食べている多くの「ビーフステーキ」はこの「インジェクションビーフ」だろう。
何しろ日本ではこの「インジェクションビーフ」が年間8000トン以上も生産され、その販売先の多くはファミレスや安いステーキレストランだ。

最近では表示に対してうるさいので、メニューの写真の下の方に「日本の技術を取り入れ精製を施し、安定した霜降りと味を高めた霜降り加工肉です。」などと書いてあったら100%「インジェクションビーフ」で間違いないだろう。

また、一人前500円以下のステーキの場合にはほとんどが、屑肉を接着した「結着肉」と呼ばれるものだ。安いサイコロステーキ等も同じで、原料にどんな肉が使われているのか分からない物が多く、また、接着する為の薬品に付いても有害なものが多いので食べない方がよいだろう。

この「インジェクションビーフ」だが、今から約35年以上も前に既に製品化されていたようだ。

そして、その技術は「ハム、ソーセージ」の加工技術が元になっているようだ。

本来、「ハム」とは豚のもも肉に味をつけて塩漬してから薫製して造る物だが、これを安く作る為に、植物性蛋白、澱粉、水などを多量にモモ肉に注射してプレスハムという本物のハムとは別物のハムが生まれた。
そして、日本ではサンドイッチ等には、ほとんどこのプレスハムが使用されている。

もし、ドイツやスペインやイタリア等を旅行して本物のハムを食べたことがある人なら分かるはずだ。

マーガリンにしても同じで、高価なバターの代用品として1869年にマーガリンの原型が生まれた。

それは、ドイツとの戦争でフランスでバターが不足したため、皇帝ナポレオン三世がバターの代用品を募集した。
これを受けて化学者メージュ・ムーリエ・イポリットが、牛脂に牛乳を混ぜたものを提案して採用された。

これの名前には「真珠のように美しい油の固まり」という思いを込めて、オレオマーガリンと名付けられたそうだ。
オレオoleoはオイルoil、マーガリンmargarineは真珠を意味するギリシア語margariteに由来するとのことだ。

そして、1912年 日本では、マーガリンの輸入量が増えてきた為に、山口八十八が国産化に着手。 価格の安さと使いやすさが人気を呼び、またたく間に一般家庭に広まった。

しかし、現在、そのマーガリンのトランス脂肪酸やその他の有害物による健康への害が問題視されているが、その事を知っている一般消費者が日本にはどれ位いるだろう。

マーガリンには価格の安い油を使用するので、老化、酸化しやすく日持ちが悪い。

そこで日持ちを良くする為にマーガリンやショートニングなどには水素を添加するが、それよって発生したトランス脂肪酸やその他の有害物が心臓病やガンの原因になっていることは多くの研究にて既に明らかになっている。

天ぷら油が老化すると飲食店では廃棄するが、実は日本で販売されているマーガリン30種類をカナダのSGS研究所が分析したところ、使い古しの天麩羅油よりトランス脂肪酸が10倍以上も多いと報告されている。
 
さて、話しがそれてしまったので「インジェクションビーフ」に戻るが、自分で作ってみて、これは、地球の限られた資源という観点から見ると、とても有効なことではないかと思うようになった。

それは、世界で生産されているトウモロコシなどの穀物の四分の一は、豊かな国の牛のエサになっているっていうことだ。

現在の世界人口は、約62億人だが、そのうちの8億人強の人たちが、今、この瞬間にも飢えで苦しんでいるのに、穀物の四分の一が牛のエサになっているという現実がある。

たとえば、脂の多い軟らかい牛肉を1キロ作るのに必要なトウモロコシの量は8キロだそうだ。牛を1キロ太らせるのに、餌にはその8倍の穀物が必要になり、高級和牛の場合には10キロのトウモロコシが必要になるという。

今の中国では、牛肉より豚肉の消費が多いが、しかし、日本も戦前は牛肉より豚肉の消費の方が多かったそうだ。
しかし、今の中国の牛肉の消費量を見ていると、必ず日本と同じように牛肉の消費が伸びてくるだろう。

13億人の中国人が牛肉を食べ出したとしたら?

アメリカ人や欧米人は、鶏は胸肉、牛肉は赤身肉を好むが、日本と同じように、赤身肉より脂肉の方が好きな中国人が脂の多い軟らかい肉を食べ出したら、いったいどの位の穀物が必要になるのだろうか。

「インジェクションビーフ」なら、草を食べさせて育てた牛に、脂を注射(注入)すれば良い。硬い肉は天然の酵素や酵母を使用して軟らかくすることも可能だ。

そろそろ、地球の限られた資源を考え、この瞬間にも飢えで苦しんでいる8億人強の人たちがいることを認識しなければならない時ではないかと思う。

次回は美味しくて、安心、安全な「インジェクションビーフ」の作り方に付いて説明しよう。






 

















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1 コメント

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飢えた難民より食べる日本人のほうが痩せている (a)
2019-03-06 16:59:34
人は、飢えで苦しんでる外国人のことは心配する偽善のそぶりを見せるが。

「日本人は嘘つきの偽善者だから嫌い」と外国人が言っていた。

一生飢えの苦しみを強制させられる、肥満体質の人間のことは誰も同情しない。

肥満者は、世界一痩せた国(日本)に生まれてひどい目に合わされる。
一生飢えて立ちくらみでも責められ続けるのだ。偏見で「悪者」にされる。

飢餓の国の難民より現地日本人ボランティアのほうが痩せている。日本人はガリガリ体型の特殊な人種だから。

助ける気もないのに偽善をするなら、開き直る悪人のほうがましです。日本人の最低なところはもっと他に山ほどある、しかし反省などないです。

マザーテレサは来日して「建物がきれいでも、夫婦や家族のいたわりがないなら、心が貧しい」と日本のことを言った。

失礼します。
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