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アニメ及び周辺文化に関する雑感

【DCSS】初音島桜前線注意報(20) 枯れない桜の魔法のしくみ

2005年12月17日 | アニメ
 第23話ではアイシアの虚仮の一念からついに復活してしまった枯れない桜の効果で、純一と音夢の関係があやふやになってきてしまいました。
 この連載の初期の頃に純一の和菓子の魔法のメカニズムを考察してみましたが、それでは枯れない桜の木の魔法はどんなメカニズムで発動しているのでしょうか?

(1)魔法の主体

 最初に問題なのは、枯れない桜の木の魔法での魔法行為そのものの主体は誰かということです。桜の木が主体性を持ってるのか、それとも芳乃のおばあさんの意思なのか、あるいは魔法の効果を得た当事者の願望なのかということです。

 まず枯れない桜の木を考えましょう。桜の木が魔法の主体になるなら、桜の木自体に意思があるということです。確かに願いが叶う魔法の木の噂を考えたら桜の木自体に意思があると考えることが不自然ではないかもしれません。
 しかしながら、科学的に考えた場合、植物である桜の木に人間の感覚でいう意思があるとは思えません。たとえ精神的な活動が存在していたとしても、人々の願いを任意に選択してそれを叶えるような高度な情報処理能力を持って働くだけの主体的な意思は無いと考えた方が良いでしょう。
 従って、魔法の主体は桜の木ではありません。桜の木は魔力を溜め込み、それを発動させるための媒体にしか過ぎないと考えて良いと思います。

 次に桜の木を植え、人々の願いを叶えるという魔法を掛けた芳乃のおばあさん(純一とさくらの祖母)の場合を考えてみましょう。
 確かに枯れない桜の木に魔力を与え、人々の願いを叶えるという役目を与えたのはこのおばあさんの行為です。したがって枯れない桜の木そのものの存在に関する魔法の主体者であることは確実です。しかしながら、桜の木が叶える願いの個々の魔法行為に関してはおばあさんは関知しているわけでもなく、また前作の時点ですでに故人となっていたので、死後の出来事にまで主体性を発揮できるものとは思われません。
 枯れない桜の木の魔法を作ったのは芳乃のおばあさんにしろ、個々の願いを叶える魔法行為そのものには主体性を持っていないはずです。

 それなら、魔法の主体者は願いを叶えられた当事者本人なのでしょうか?
 枯れない桜は誰彼とも無く魔法で願いを叶えていたわけではなりません。一部の強い願いを持った者たちの願いを叶えていただけに過ぎません。それがことりであり、頼子であり、美春ロボであり、さくらだったわけです。純一と音夢は枯れない桜の下でお互いに誓い合いましたが、2人の関係はけっして枯れない桜の魔法の効果によるものではありませんでした。
 したがって魔法を発動させる最大の要因は当事者の願いそのものにあると言って過言ではないでしょう。その意味において、魔法の主体者はそれによって効果を得た当事者本人だということになります。

(2)願いを叶える仕組み

 それでは魔法の主体者が願いが叶う当事者本人だとして、いったいどういう仕組みで願いが叶う魔法が発動するのでしょうか?
 まず、当事者自身に魔法の能力があるかどうかは関係無いようです。潜在的な魔法能力の有無が選択の要因になってるかどうかということは不明ですが、少なくとも願いが叶えられる当事者自身が任意で魔法を使えるかとは関係ないことは、ことりや頼子や美春ロボに魔法の力が認められないことから明らかです。
 すなわち、魔法の発動は魔法以外の要因から行われるということです。

 しかしながら、願いを叶えられるという行為は科学的には説明できない超自然的な力で実現されています。これを作品中の呼称にしたがって魔法と呼ぶことにします。(厳密にこの考察を行うには魔法そのものの定義から始めなくてはいけませんが、そんなことは面倒なので、ここでは一般概念どおりの超常現象を引き起こす力を魔法と呼ぶことにします)
 願いが叶えられるという行為の実現は、魔法以外の要因によって発動され、魔法によって達成されているわけです。つまり、魔法以外の起動要因を魔法行為に変換する作業がどこかで行われているわけですが、それが枯れない桜の木です。
 この変換そのものが枯れない桜の木に掛けられた魔法の正体であり、枯れない桜の木はあくまで何らかの起動要因を受けて従属的に魔法行為への変換を行っているだけにすぎません。

 起動要因から魔法への変換の仕組みですが、桜の木に主体的な意思活動が無い以上は、枯れない桜の木が任意に変換行為を行っているとは考えられません。枯れない桜の木に掛けられた魔法は桜の木そのものの意思ではなく、最初に芳乃のおばあさんによって掛けられた当時の指示のまま、自動的に実行されている一種のプログラムに過ぎないと考えられます。
 しかしながら、枯れない桜の木によって叶えられた願いは様々です。とても予め用意されたプログラムで実現されてるとは思えません。
 プログラムでカバーできない膨大なデータを処理するというと、やはりデータベースの存在が欠かせません。入力情報である起動要因から、出力情報である達成されるべき魔法を引き出すデータベースがどこかに存在すると考えるべきでしょう。

 ところで、そのデータベースはどこにあるのでしょうか? 枯れない桜の木が持っているのでしょうか?
 枯れない桜の木が持っているなら、そのデータベースは芳乃のおばあさんによって作成されたことになります。しかしながら膨大な多種多様の願いとそれを実現させる魔法を収めたデータベースを個人レベルで作成できるとは思えません。あるいは、作成できたとしても枯れない桜の木、もしくはそれと地下で繋がった初音島の桜の木全体のネットワークの中に収められるものなのでしょうか?
 いや、実際には限られた願いを叶えるだけのデータベースしか存在しなくて、たまたまそれが「他人の心を読める」とか「猫が猫耳メイドさんになる」とかいう魔法を収めていただけなのかもしれませんが、もっと汎用性に富んだものだったと考えた方が自然でしょう。

 汎用性に富んだ魔法のデータベース、すなわちそれは宇宙の叡智そのものだといえます。そんなものを収めたデータベースといえば考えられるものは一つしかありません。和菓子の魔法が和菓子を構成するために参照していたものと同じデータベース、つまりアカシックレコードのようなものです。
 枯れない桜の木の魔法は、願う当事者からの何らかの起動要因の入力により、アカシックレコードを検索して、その願いを達成する魔法の手段を引き出し、それを自動的に実行しているだけということになります。
 ま、桜の木に自動実行させる仕組みそのものは芳乃のおばあさんのオリジナルな魔法なのでしょうが、枯れない桜の木自身は芳乃のおばあさんの魔法によってデータベース処理を自動的に繰り返してるだけのようです。

(3)願う心が望みを叶える

 それでは、この願いを叶えるという枯れない桜の木の魔法を発動させる、魔法以外の起動要因とはなんでしょうか?
 それは「強く願う心」です。
 厳密に言えば「強く願う心」そのものというよりは、それを作り上げている強い思念エネルギーでしょう。枯れない桜の木がその思念エネルギーを感じ取ったときに魔法のプログラムが起動し、その思念エネルギーが伝える心を解析し、データベース処理に掛ける仕組みだと思われます。
 芳乃のおばあさんが魔法の媒体として桜の木を用いたのは、植物の持つ生物の精神エネルギーの感知能力を利用するためだったのでしょう。ただ思念エネルギーを感知するだけならサボテンとかの方が効率的に行えると思いますが、初音島の自然環境とか媒体となる植物自身の存在価値とか、あるいは安易な願いは除外するとかいう目的もあって桜の木を選んだのかもしれません。

 したがって、枯れない桜の木が咲いていた初音島は、強い願いが望みを叶えることの出来た世界でした。いわば、一種の《異世界セフィーロ》が実現されていたわけです。もっとも初音島の存続は魔法とは無関係なので、自分を犠牲にしてまで世界の存続を願わなければならない《柱》などというものは必要ありませんが。
 でも、明確にそんな魔法が存在していることは魔法を仕掛けた当人の芳乃のおばあさんと、その孫であるさくらしか知りませんでした。したがって非現実的な願いを無理に願ったりする者はほとんどいなかったのでしょう。たまたま、ささやかな願いが叶った人の話が噂として流れていただけだと思います。
 他人の心が読めた少女はそのことが知られるのが怖くて(1人を除いて)他人に伝えようとはしませんでしたし、メイドさんになった子猫は最後になるまで自分が猫だったことを忘れていたようですし、自我と記憶を持ったロボットはそのこと自体が特殊な状況だとは気付いてなかったようで、いずれも他人に知られる事例とはなりませんでした。
 願いが叶うけれど、それが知られていない世界。純粋に願ったものの望みだけが叶う世界……それが一年中桜が咲いていた頃の初音島でした。したがって、そこには魔法への依存などという問題が存在しない、一種の理想郷だったわけです。

(4)さくらと枯れない桜の木

 ところが、枯れない桜の木の魔法はさくらによって無効化されてしまいました。
 さくらは自らの魔法で枯れない桜の木を枯らすことによって、その魔法の効力を無くしてしまったのです。
 枯れない桜の木によって自動的に叶えられる願いごと。それは必ずしも当事者によって望ましい形で実現されることが保障されていませんでした。自ら望んだ結果とはいえ、ことりは聞きたくもない他人の心の声に悩まされ、さくらの純一を思う心は音夢という存在を許さなくなってしまいました。
 誤った魔法を実行し続ける枯れない桜の木を止めるためにさくらが選んだ手段が、枯れない桜の木自身を枯らすことによって魔法の媒体を消滅させることだったのです。

 枯れない桜の木の暴走のきっかけは、純一がさくらではなく音夢を選んだことでした。表面上は平静に装ってるさくらでしたが、その満たされない思いは枯れない桜の木の暴走を呼び込んだのでした。そのことに気付いたさくらは自分しかこの暴走を止めることは出来ないと、魔法を使ったのです。
 さくらの魔法は成功したかに見えました。魔法の恩恵を受けていた他のヒロインたちの効果は失われてしまいましたが、音夢は小康を取り戻しました。
 しかし、枯れたはずの桜の木は一晩で復活し、音夢の容態はさらに悪化の一途をたどっていったのです。それはあたかもさくらの魔法に対する反動のようでした。
 さくらは自分に純一に対する強い思いがある限り枯れない桜の木の魔法の暴走は収まらないと考え、自分に気持ちを封印し、すべてを片付けると初音島を去っていくことを選んだのでした。
 枯れない桜の木は今度こそ本当に枯れ、音夢は健康を取り戻しました。

 音夢は枯れない桜の木の暴走が始まる前から病弱だという設定でした。これが体質的に病弱だったのか、枯れない桜の木の効果による病弱だったのかは定かではありませんが、現在の音夢がすっかり健康であるところを見ると、やはり元々から枯れない桜の木の影響を受けていたのだと考えられます。
 しかも、それは前作でさくらが初音島に帰って来る以前からのことですから、効果の発動はずっと以前の幼い頃からだということになります。その頃からさくらの願いに反応して魔法が発動していたとすると、さくらの執念も相当に根深くて怖いものだと思われますが、それはさておき、さくらが枯れない桜の木を枯らそうとした試みは、なぜ最初に失敗し、二度目は成功したのでしょうか?

 最初の試みが失敗した原因はさくらがアイシアに語っていた言葉から想像が付きます。魔法はそれを掛けた本人以外の干渉は受けないように出来ているということです。
 最初の試みではさくらは自分の魔法を使って強引に、自分の祖母の掛けた枯れない桜の木の魔法を打ち消そうとしたのです。しかしながら、さくらの魔法は祖母の魔法に干渉する事は出来ません。強力な魔法を使ったから一時的に効果があったように見えていただけで、(願いを叶えた魔法ではなく)枯れない桜の木の本体の魔法そのものを消し去ることは出来ていなかったのです。
 そこで、一時的に効果をもたらせていたさくらの魔法の力が衰えると同時に、枯れない桜の木の魔法は復活し、さらに反動で(あるいは他の願いを叶えていた分の魔力消費が無くなったため)よりいっそうの暴走が始まってしまいました。

 それでは、二度目はなぜ成功したのでしょうか?
 それは恐らく、さくらの魔法による効果で枯れたわけではないからでしょう。二度目の時点でさくらは枯れない桜の木の暴走の原因をちゃんと理解していました。すべては純一に対するさくらの思い、それを実現させようとする枯れない桜の木の魔法が暴走していたわけです。
 願いを叶えるために導き出した魔法手段の選択そのものが間違っていた(いや、音夢に配慮しなくていいという条件ならそもそも間違ってはいないし、それがさくらの嫉妬心から出てるのなら余計に誤りとは言い難い)のですが、願いを叶えるプロセスそのものは正常に働いているのです。
 すなわち、枯れない魔法の木のシステムそのものよりも魔法が叶えようとしている願いそのものがすべての元凶であるわけですから、それを解決する手段は自ずから決まってきます。さくらの純一への思いを魔法の発動するレベル以下に押さえ込むか、それ以上に強い願いで暴走状態の解決を願うかです。二度目の成功を実現したのはさくらの魔法ではなく、枯れない桜の木の魔法自体だったと思われます。
 さくらは純一への思いを心の底から諦め、そして枯れない桜の木自身が枯れることを強く願ったのです。

(5)アイシアと枯れない桜の木

 それから2年後、北欧からやって来た1人の魔法使いの少女が枯れない桜の木の復活を願いました。そして、他のヒロインたちの願いを叶えるとの思い込みで純一と音夢の関係のリセットを望んだのです。
 さくらが復活するはずはないと言っていた枯れない桜の木は復活してしまい、そして少女の望み通りに純一と音夢の関係は当事者の記憶の中なら消え去ってしまいました。

 アイシアの願いが叶って、枯れない桜の木は復活してしまい、さらにその魔法の効果で純一と音夢の関係に影響が出始めてしまったのですが、この現象はどういうことなのでしょうか?
 アイシアの魔法が枯れない桜の木を復活させたのでしょうか?
 アイシアは桜の木に対して魔法を使った形跡はありません。それに、さくらの魔法で枯らせられなかった枯れない桜の木がアイシアの魔法で復活できるとは思えません。やはり枯れない桜の木を復活させたのはアイシアの願いでしょう。
 2年前、さくらの願いによって枯れない桜の木は枯れてしまったのですが、枯れない桜の木に掛けられていた魔法は枯れた木とともに残っていたのでしょう。桜の木自身が枯れてしまって媒体となりえないため、願いを叶える魔法が発動することはありませんでしたが、アイシアの願いがその状況を変えたのです。
 枯れない桜の木の復活を願うことが1つの特異事項だったのか、それともアイシアの中に眠る潜在的な魔力を枯れない桜の木が利用したのかは知りません。あるいは桜の木が枯れることを望むさくらの願いの力より、復活を望むアイシアの願いの力が上回ったからかもしれません。それで復活した枯れない桜の木は以前と同じように願いを叶える力を身に付け、最初にアイシアの願いを叶えたということでしょう。

 ところで、アイシアの願いによって変わった純一を巡る人間関係はどうなってるんでしょうか?
 いくつかの仮定があります。1つは単に純一と音夢の関係にリセットが掛かった状態ということです。この場合は単にゲームが振り出しに戻っただけであり、どのヒロインにもチャンスがあるとはいえ、再び音夢が選ばれることもあります。
 あるいは、音夢だけが強制的に恋愛対象から排除されてるという場合もあります。この場合はいくら足掻こうとも純一と音夢が再び依りを戻すことはありません。ただし、以前のさくらと違ってアイシア自身は音夢に憎悪を抱いていた様子はありませんから、こんな状況までは願っていないでしょう。
 一番恐ろしいのは、ヒロインみんなに平等にチャンスがあるのだけど、けっしてその中の1人が選ばれることがないという状況です。いや、幸福の永久連鎖の中にあるラブコメの世界ではそういう状況が当然のごとく存在していますが、そういう世界観の作品ではありませんから。

 ま、どんな状況になったとしても、この状況がアイシアの願いによって引き起こされてる以上、さくらの魔法ではどうにもならないことは確かです。2年前にさくらが枯れない桜の木を枯らせたのと同じように、アイシア自身によってしか事態を収拾することは出来ないでしょう。

(6)美咲と枯れない桜の木

 いくら枯れない桜の木の復活でヒロイン全員にチャンスが戻って来たと言っても、自分から純一の前に現れない限り、おまえには永遠にチャンスは無いものと思え>美咲。

 いや、偲び見るだけの恋というのも認めないわけでは無いですけど、それならそれはずっと自分の胸の中にだけ仕舞い込んでるべきものでしょう。
 美咲の場合、そのことをアイシアに話してしまってて、それが確実にアイシアの行動の要因のひとつになっているわけですから、今回の事態を招いた重大な責任者の1人だと言えるでしょう。
 だから、美咲にもちゃんとはっきりした形で責任をとってもらわないと困ります。それなのに、さくら登場以来ずっと出番無しって……

 ちなみにアイシアのひねくれた対人意識は次の感じだと思います。

  ●ずるい
    →音夢
  ●敵
    →さくら
  ●何とかしなきゃ
    →ことり、美咲
  ●ついで
    →美春、眞子、萌、環、ななこ、アリス
  ●わからない
    →自分
  ●意味不明
    →杉並
  ●認識外
    →工藤、和泉子

 ことりも美咲同様にアイシアの行動に強い影響を与えてることは確かですけど、ことりはアイシアの誤解を解くためにそれなりの努力をしてますし、どちらかというと勝手に誤解してるアイシアの暴走って面がありますからね。
 それに比べると美咲は自分の勝手な思い込みを、さももっともらしげにアイシアに吹き込んでただけって感じですから。

 ま、アイシアの暴走ってのも、アイシア自身が自分の恋心を自覚したら解決しそうなものですけどね。
 でも、せめて暴走を止めるきっかけの1つには美咲がなってほしいものです。