不機嫌な太陽―気候変動のもう一つのシナリオ― No.3
§4.雲の形成を左右する宇宙線は、どこから発生しているのか。どうして変動するのか。
概説より再掲
天の川銀河内での太陽系の周回
宇宙線が、爆発した星から放出されて地球に到達し、地球の3つの遮蔽層をくぐりぬけて地球の低空の大気迄到達して雲を作り、気候に影響を及ぼしていたのである。宇宙線の変動によって、地球にいろいろな気候の変化を生じていた。 地球への宇宙線の流入量は、太陽の状態によって変化するだけでなく、太陽系が天の川銀河のどの位置にいるかによっても変化している。 太陽は地球を伴って、天の川銀河の中心の周りを周回する軌道に乗って、星の間を通過している。その時に、時々暗黒領域に入ることがある。そこは熱くて明るい爆発性の星が少なく宇宙線が少ないので、地球の気候は温暖になる。この時期を温室相と呼ぶ。逆に、星の光が明るく宇宙線が強い時には、地球は氷室相(氷河期)に入る。
〇天の川銀河の明るい「渦状腕」を太陽が通過することにより、地球の大きな気候変動が.起きることがこれで説明された。地球上に動物が生存した5億年の歴史の間に4つの腕を通過し、温室相から氷室相への切り替えが4回起こっている。 [腕(スパイラル・アーム)とは、銀河系公転運動において『恒星系および星間ガスの渋滞』によるらせん腕型の偏在部分が生じる。ウィキペディアより] (図参照)
〇それでその時にいた恐竜の一部の小さな恐竜が、体温を保持するために羽をはやして、その後、鳥に進化したという。
スターバースト
約23億年前と7億年前の2回、「全球凍結」が起こった。これは熱帯までも氷河や氷山であふれ、地球全体が凍結したのである。これは、天の川銀河が他の銀河と軽く接触することにより、天の川銀河でスターバースト(星の誕生や死が頻発したすさまじい状態)が誘発された時期と同じ時期に起こった。宇宙線が極めて多くなり、雲が地球を覆い、世界を暗くしたために、地球全体が凍結したのである。〇これに対して、その度に生物が緊急の適応をして、大きな進化をし、最後の全球凍結期に動物が出現した。
他方、地球が誕生した初期の頃は太陽も若く、光量も少なく、地球も温暖だった。太陽は宇宙線を払いのける能力が今よりはるかに強かった。〇それで38億年前のグリーンランドの岩石から、最古の生物が発見されている。生物が棲みやすい条件が創り出され、それ以来生物は、常に変化する気候に耐えて適応してきた。生物の歴史は、宇宙線の強烈な時と少ない時との間で、生物圏は拡大と縮小との間を揺れ動いていた。
近くで超新星爆発 (二足歩行の人類の登場)
最近では過去300万年前からの間に、数個の星団が超新星爆発を続いて起こし、すぐ近くにいた太陽と地球を奇襲し、宇宙線が強くなった。この大異変が、アフリカの乾燥化を引き起こし、それにより石器の製作と人間の初舞台(二足歩行の人類の登場)が誘発された可能性がある。(日経サイエンス2022年8月号の「気候が形作った人類進化」参照) 天の川銀河
日経サイエンスより
2章 宇宙線の冒険
宇宙線は、太陽の磁場と地球の磁場によっても一部しか遮蔽できないが、宇宙線に含有される高エネルギーの原子核以外はすべて地球の大気によって食い止められる。気候変動を引き起こす宇宙線は地球磁場の変動を受けない。
1節 宇宙線の概要
宇宙線の発見と命名
1912年ウィーンのヘスは熱気球により、空気の伝導性は上空ほど高くなるということを確認し、それを高空の放射線によると考えた。それをシカゴのミリカンは宇宙線という名前を付けた。すぐにそれは未知のものを含む荷電粒子であることが判った。
研究方法と成果
その後、粒子加速器によって研究され、宇宙線が「灼熱の発生源(超新星の爆発)を出発してから、空気中を通過し、我々の体の中を通り抜け、そして地面の岩石の中に消滅するまで」の全過程はようやく明らかになった。
2節 宇宙線の発生源のつきとめ
発生源の確認
2003年ナミビアの観測所で、爆発した超新星の残骸の中から宇宙線が作られて、ガンマ線、つまり宇宙線やってくることが確認された。
宇宙線の発生源の確認方法
宇宙線が、宇宙空間で原子と衝突した際に発生するものの中にガンマ線がある。宇宙線の生成場所には、宇宙線の濃度が高いのでガンマ線も強い。ガンマ線は光と同じ形態なので、光と同じように発生源から直線状にやってくる。ガンマ線は人工衛星で確認でき、宇宙線の生成している場所からの放射されるガンマ線は約1000倍程度に強力である。その強力なガンマ線は、空気中で放射光をとらえることのできる大きな望遠鏡で検出できる。この原理で1989年アリゾナの天文台で超新星の残骸からの高エネルギーのガンマ線を初めて確認した。
改良した望遠鏡による観測
8カ国の科学者の協力で作られた、ヘスという名前の望遠鏡を使ったナミビアの観測所で、超新星の残骸を10時間にわたり観測した。非常に高いガンマ線により、未知の星が初めて明らかにされた。見つかった超新星の残骸物の星は、誕生して千年しかたっていないので、宇宙線の発生を始めたばかりであった。
3節 星の燃えかすから出るもの
宇宙線を生成する超新星
新星は、それまであった星が突然極めて明るくなり夜空で確認できるようになったものである。超新星は大異変が起こって1つの星が爆発したものである。宇宙線を生成するのは特に大きく、太陽より大きい星が爆発して超新星になったものである。
星の一生
太陽内部では、核融合が起き、水素をヘリウムに融合してエネルギーを生み、それが地球の生命を育んでいる。水素が使いつくされてヘリウムになると、それが燃焼して炭素と酸素を作る。燃焼はここで終わり、その後次第に冷めて死んでいく。これを白色矮星(わいせい=小さい星)という。 太陽より大きい星は、原子核の燃焼は続き、炭素と酸素が燃焼して、最終的にケイ素(シリコン)が融合して鉄を作れば、核の燃焼によるエネルギーは止まる。熱が無くなると鉄の中心核はつぶれ、その星は崩落する。その崩落により超新星爆発が起こり、星の上部の大部分を宇宙空間に吹き飛ばす。それにより解放されたエネルギーにより核反応が起こり、鉄より重い金やウラン (ウラニウム)などを生じる。 この超新星は数週間、10億個の太陽と同じくらいの明るさに輝く。あとに残った死んだ星は白色矮星よりずっと密度の高い中性子星になる。空には太陽より大きな星が死んだ中性子星が点在している。
爆発で飛散した原子状物質
星の爆発で飛散した原子状物質は、光速の1/30の速度で宇宙空間に広がり、膨大な運動エネルギーを持っているので、その1/5が光速に近い速さで飛ぶ宇宙線に変換していく。 このように飛散した残骸が存在する領域内に、宇宙線の生成工場が散在する。 宇宙線とは、宇宙に存在する物質(水素、ヘリウム、炭素、酸素、他)が非常に高速で飛行しているものである。その中で遅いものは光速の90%で、速いものは光速に近い。それ以上早くならず、運動のエネルギーは質量の増加になる。
爆発後に起こる各種の変化
ウィーンの天文学者ドルフィは、「超新星の爆発後しだいに宇宙線を生成し、膨張が減速し始めるのは200年後である」という。宇宙線のピークは10万年後で、それが数十万年間宇宙線を作り続ける。約100万年後にはエネルギーを使い果たして中性子星となり、宇宙をさまよう。それまでの間、宇宙線を出し続ける。数千もの超新星の残骸が宇宙線を放射し、天の川銀河に銀河宇宙線を放射している。
宇宙線の種類
銀河で生じる宇宙線を銀河宇宙線と呼ぶが、ここでは単に宇宙線と呼ぶ。超高エネルギー宇宙線は他の銀河で生じるものである。太陽の宇宙線は弱く地上には影響しない。また(一次)宇宙線とそれに他の爆発した星からやってくる(一次)宇宙線がぶつかって二次宇宙線ができるが、地上にはこの二次宇宙線が届き、1秒間に2個ほど人体を通過している。
4節 宇宙線はあってもなくても良いものではない
宇宙線に対する見方の変化
2001年フランスのミディピレネー天文台のカティア・フェリエ―ルは宇宙の見方についてのマニフェスト(宣言書)を出し、宇宙の成り立ちの上で宇宙線を位置付けた。 「天の川銀河の各星は、希薄な媒体(星間物質)の中にある。この星間物質は、①宇宙に存在する通常の物質、②宇宙線(相対論的荷電粒子)、③磁場、が含まれている。この3つの要素は同じ圧力をもち、電磁力により緊密に連結している」という。(宇宙線は、光速に近い速度で運動していて、相対性理論で補正が必要な粒子であるため、こう呼ぶ)
天の川銀河内を飛び回る宇宙線
超新星の残骸中から発生した宇宙線は、一部の高エネルギーのものは天の川銀河を出て広大な宇宙へ出ていくが、多くの宇宙線は数百万年の間、この天の川銀河内を飛び回る。 天の川銀河は円盤状で、横から見ると天の川として見える。重力によって両側から強く押し付けられている。円盤の中を縫うように磁場の力線は走り、その磁力は弱いが数千光年の長い距離の間、作用し続けるので、宇宙線は円盤内の磁力線に沿って飛んで行く。磁場の強さと宇宙線の数は、天の川銀河の場所によって違う。太陽と地球は、銀河内を絶えず移動しているので、地球が受ける宇宙線の強さと数(カウント又は強度)も変化している。 宇宙線の平均寿命は1000~2000万年であり、地球の46億年前の誕生から数百回更新されている。宇宙線の銀河内の量は一定ではなく、爆発性の星の生成率が変化していて、その爆発星のベビーブームの時期は、地球の歴史の中での極端な気候変動が起きた時期と結びついている。
銀河に対する宇宙線の作用
星間ガスと磁場と宇宙線が、相互に作用して滑りやすくなり、そこへ重力が作用して磁場は局所的に形が変わり、宇宙線の経路が変わる。星間ガスは半分に圧縮され、更に宇宙線と磁場の力を受け、高密度化し星が生成される。
星の誕生に対する宇宙線の役割
暗黒星雲は、星間ガスが蓄積して、石質状、氷状、タール状の粒子群になったもので、新しい星の誕生地となる。銀河内の空間では様々な化学反応が起き、紫外線により多くの物質が作られ、そして分解されている。しかし、暗黒星雲の中では化学反応は続き、紫外線で始まり、宇宙線に引き継がれ、化学反応は数万年かかって一酸化炭素を製造する。 宇宙線は太陽と地球とを創造する仕事と、水や炭素化合物を作り地球を肥沃にする仕事に関わっている。
5節 母なる太陽はいかにして我々を守るのか
概要 大群でやってくる宇宙線は、太陽系の周りの部分に強い力でぶつかるが、太陽系を取り巻く巨大な磁場の内側のシェルターで、宇宙線の半分がはじき返されて、太陽系の惑星は守られている。
太陽風
太陽風が発見され、太陽が地球を守る方法が分かった。太陽風は、太陽から放出された荷電粒子の絶え間ない流れであり、太陽と地球を結び付けている。太陽の大気は、太陽の磁場で広い範囲に広がり、その内側に我々は住んでいる。 太陽は主に水素から構成されているが、太陽風は陽子が主だが、他の元素も、さらにそれを中和する原子も含んでいるので、電気的に中性を保っている。太陽風はそれと共に太陽の磁場を引きずっていて、太陽系の空間は磁気で満たされ、宇宙線に対抗している。 太陽風は風速350~750km/秒の間で変化し、太陽を出てから2~3日で地球を横切り、1~2年後に太陽圏から出て星間空間中に入って行く。
太陽圏
外側の星間ガスが太陽風を止めるところが太陽圏の境界で、そこから宇宙線が地球に届くのには約20時間かかるが、太陽からの光は8分しかかからない。 太陽圏の大きさは、太陽風の吹き方の強さで変化する。太陽表面の黒点が少ない時は、太陽活動は静かであり、太陽風の密度は低下するが、風速は増加し太陽圏の外側の境界を広げる。太陽は4週間周期で自転している。外からやってくる宇宙線を押し返したり、屈折させる太陽圏の仕事は、磁場の強力で小規模な不規則性によってなされる。これを生み出すのは、衝撃波である。衝撃波の出る原因は、一つは太陽の異なる部分から出る速い太陽風と遅い太陽風の衝突であり、もう一つは太陽の磁気爆発である。その爆発により巨大なガスの塊の放出が起こり、強烈な太陽風の噴出が起こる。太陽が激しく活性化すると、磁気活性の強い領域が存在して黒点を作り、衝撃波は強力になる。太陽圏で宇宙線は半分になるが、黒点数の多い期間の後には、さらに宇宙線が約30%減少することも判った。
6節 最後の2つの防衛線
地球の磁場圏 (1つ目)
太陽圏内に入った宇宙線は、太陽風による磁気衝撃を1~2日かけてジグザグ状に通り抜けた一部だけが地球に接近する。次にその宇宙線をはばむのは、地球が創り出す磁気遮蔽である。地球の液状の鉄芯内の発電装置が地磁気を作り出し、この地磁気が地球の周囲に磁気圏を作る。 オーロラは、太陽風が高速で来て磁気圏に当たり、磁気圏が変形して磁気嵐を起こし、磁石の針はふらつき、極地の空に輝かしたものである。 1868年から英国のグリニッジと豪州のメルボルンで開始された地球の反対側同士での磁気変動の監視は、無意識に太陽風の活発度を測定していた。太陽で起こった大きな質量放出は、地球の近くへ来て磁気の傘のようになり、宇宙線は1日以内に20%も減少し、回復には数週間かかる。宇宙線はばらついた軌道で到達するが、高エネルギーの宇宙線は地球のどこへでも到達する。低エネルギーの宇宙線は地球に接近できないが磁極の近くには落ちる。
地球の大気 (2つ目)
星空から来る一次宇宙線は、地球の大気に衝突して終る。厚さ25kmの空気層は大切な役割を果たしている。一次宇宙線は大気に衝突して停止するが、それに変わって現れる二次宇宙線は互いに衝突し合い、高エネルギーになる。二次宇宙線は地表から15kmでピークに達し、その後大気により減弱し、海面につく時には1/20までに弱められる。 旅客機は海抜10~12kmを飛行し、特に極地は磁場が高いので、北極横断航路を通過すると搭乗員特に女性(特に妊娠中の)は影響を受けやすい。 高地で生活している人もまた、高レベルの宇宙線放射を受けている。世界で最も海抜の高い首都であるボリビアのラパスは3600mあり、海抜150mのペルーのリマより、宇宙線の強度は12倍も高い。アンデス山脈の高高度の高原には800万人も住んでおり、インカ人とその祖先は数千年間繁栄した。したがってこの高い宇宙線放射レベルをうけることは致命的ではない。(だが、高地のボリビア人は速く老化してしまう)。 宇宙線は、自然の放射能に加えて発熱や化学物質の影響と共に、奇形や癌を引き起こす遺伝子変異を助長する。しかし、宇宙線はまた気候の変動と共に、種の進化を起こしうるものである。
7節 地球に到達するミューオン
大気の上層部で起こる宇宙線の原子破壊で生じるもので、地球に大量に到達し、エネルギーの損失が少ない荷電粒子は1種類しかない。それをミューオンという。
ミューオンに関連する粒子
ミューオンは電子の200倍質量が重く、不安定であるが、それ以外は電子と同じである。宇宙線が大気と衝突した時に、初めに核力粒子であるパイオンが大量に生産され、それが崩壊する時にミューオンが生じる。ミューオンは、ニュートリノを2つ放出して、1つの通常の電子になるが、寿命は200万分の1秒である。
星の情報を盗み出す工作員としての素質
大気を通過する粒子の中で電子は地上まで届かず、陽子や中性子は各分子中で相互作用をし、エネルギーを放出して上空に1500個あっても、海面に届くのは1個だけである。 大気への侵入者で、①いかなる物とも反応しにくく、②軽量で、③空気分子の中をかいくぐり、何も奪われずに通り抜け、大きな運動量を保有しているという粒子は、ミューオンしかない。ミューオンは地上に届くと、炭素原子、水素結合、水分子と結合して化合物群を生み出す。ミューオンは光速に近いので、内部時計は遅れ、寿命は伸ばされ、アインシュタインの相対性理論のお蔭で海面の高さまで到達し、二次宇宙線の98%を占める。ミューオンは水中や岩石の中にも入り込む。それを避けるために実験装置を深い鉱山(日本のカミオカンデなど)やトンネルの中に作られる。それでも雑音として現れることがある。
◎スべンスマルクにとってのミューオン スべンスマルクにとってミューオンは、気候に最も影響を及ぼす宇宙線である。ミューオンは大気の最も低いレベルに到達し、世界を寒冷化させる低い雲の形成に影響を及ぼす。
8節 直感の裏付け
ベーアの反論 1章でのユルク・ベーアの反論は、「14Cや10Beの生成率によって、宇宙線の大量流入が示されたにもかかわらず、気候の著しい寒冷化を伴わなかった」という、4万年前のラシャンプ期のことである。
スベンスマルクの対応 2005年までに、アルゼンチンのピエール・オージュ観測所で、天の川銀河またはその向こうからの超高エネルギーの粒子によって、広範囲にわたる二次粒子のシャワーを生じ、大気中を雨のように降りそそぐことを観測した。これがスベンスマルクの予想を証明した。
ドイツの宇宙線模擬プログラム
ドイツに作られたカスケードと呼ばれる観測施設で、コルシカ(CORSIKA)と呼ばれるプログラムが作られ、コルシカはどの粒子が最終的に地表の検出器に到達するかを計算して、気象の問題とも関連した。コルシカは、高エネルギーのミューオンを大量に含む二次粒子の大規模なシャワーが生じることを相対性理論で証明した。
スベンスマルクによるプログラムの実行
標高2000m以下の大気中の宇宙線の活動に焦点を当てコルシカに計算させたら、ミューオン生成量の60%は、高エネルギーを持って天の川銀河外からやって来た宇宙線の生成物なので、太陽の磁場でも阻止できない宇宙線に由来した。それ故、これは数世紀の間は一定なので、太陽活動の変動に起因する気候変動には関係しないものであった。
〇寒冷化を引き起こす低い雲の形成に影響を及ぼすミューオン生成量の残りの40%だけが、太陽の磁気活動の変動により変化する。気候変動を起こすミューオンは、地球磁場が消失しても3%しか増加しない。だが地球磁場が減少するとベーアが測定した10Beと36Cl(塩素)の原子は50%以上も上昇した。スベンスマルクの予想は正しかった。
9節 ラシャンプ磁極周回期への再移行
再移行の理由 コルシカで得たのは計算上で、ラシャンプ期の頃の宇宙線と気候の関係を再調査する必要があると考えられた。
ラシャンプ期の状況
この時期には、太陽の磁気が強くなったため、低い高度まで届く宇宙線が遮蔽されて雲が減少し、それと同時に、地磁気が弱くなったために14C、10Beその他の放射性原子が増加したのだろう。もちろん雲が減少したので温暖化が起こった。 これは氷床コアの測定から、この時の温暖化は、最後の氷期の間に繰り返し劇的な温度上昇が起こったダンスガール・エシュガー温暖期群の1つで、この温暖化は太陽活動が活発化した結果であった。
年代の修正 年代の決定に14Cを用いる場合、地磁気が弱くなった時は、14Cの生成が増加しているので補正が必要である。当時の誤差は5千年にものぼった。2004年にマサチューセッツにある海洋学研究所のヒューヘンらは海底調査の結果を基に、修正された14Cデータを出版し、その後はそれによって修正された。
考察 1996年スベンスマルクが「宇宙線が気候に直接影響を及ぼす」ことを提唱して以来、ベーアの反論が最も説得力があったが、それを論破できたことは進歩である。 もう1つの主役は「雲についての発見」である。
(注:これは、この書の要約と解説とまとめを、多くは原文の引用ですが、一部は短くまとめたり、書き直したりしています。詳しくは原著をお読み頂きたい。図は後ほど掲載します。 黒部信一)
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