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県医師会生涯教育講座「挑戦病という名の病にとり憑かれて」八戸学院大学学長・大谷真樹氏(要旨)

2014年10月11日 | SPORTS
※以下の文章は八戸市医師会報に掲載するために、講演の資料を元に要旨をまとめたものであり、内容には間違いはないと思いますが、単語や言い回し、話の順序等について少し手を加えてあり演者の意図するところと異なっている部分があるかもしれません。(文責・久芳)

県医師会生涯教育講座
平成26年7月18日(金) 八戸グランドホテル

「挑戦病という名の病にとり憑かれて」
       八戸学院大学 学長 大谷 真樹 氏

 今回あらためて振り返ってみて、「挑戦病」と表現しても過言ではない挑戦を繰り返してきたことに気づかされた。高2の時に陸上競技の中で最も苦しい400mであすなろ国体に出場し、大学ではロッククライミングに挑戦。NEC時代にはIBM製品を扱うという当時は考えられない(しかし現在では当たり前となった)手法で顧客本位の営業を実践し、バブル崩壊・脱サラ後に義父の会社を手伝って世界を飛び回った。

 1996年にインターネット・リサーチのインフォプラント社を創業し、約80社が淘汰されていく中で大手とゲリラ戦を展開し、社員500人にまで成長させ、2001年にはアントレプレナー・オブ・ザ・イヤー優秀賞を受賞した。

 2007年から自転車を始め、肉体改造に取り組んできた。2010年から八戸大学総合研究所、2012年には学長に就任し、生き残り競争が激化する中で、Gパン学長として差別化戦略を打ち出し、スポーツ、起業家養成、農業経営などに加えて、食事・運動・機能性ウェアを組み合わせたウェルネスプログラム(koar.jp)の発売などの新たな取り組みを発信し続けている。

「オートルート・アルプス」はジュネーブからニースまでの866km、獲得標高21000mを7日間で走破する世界一過酷なアマチュアレースである。2013年8月に出場し、途中棄権が4割、事故死者1名を出す中、元五輪選手の田代恭崇さん、俳優の筒井道隆さんと共に日本人として初めて完走することができた。

 準備のために9カ月間の禁酒と8kgの減量を自ら課した。禁酒により睡眠やトレーニングの質が向上し、肝臓における代謝の優先順位により減量効果が大きくなるものと考えている。

 トレーニングにはLSD(Long Slow Distance)やインターバルトレーニング、立命館大のタバタプロトコルなどを取り入れて、早朝60分という限られた時間の中で効率的な練習を追求した。週末には学生の合宿に参加し、大学で導入した低酸素装置も活用した。

 減量には朝食前のコーヒーと有酸素運動、筋トレの併用、夜の糖質の管理などが重要で、低速ジューサーでの野菜果物ジュース、焼き鳥やキムチ(乳酸菌)などがお勧めである。鯖の缶詰(ω3脂肪酸)は海外でも評価は高い。

 実際のレースでは毎日の疲労の蓄積に加えて、30℃から0℃まで変動する温度差や、過労による胃腸障害、脱水症状などに苦しめられ、集団落車に巻き込まれるというアクシデントもあったが、教え子のメッセージ入りのボトルを支えにして、ニースでは3人一緒にゴールすることができた(順位は上りのタイムで競われた)。

 ヒルクライムは人間の体を垂直方向に持ち上げる競技で、体重1kgの差を速度に換算することが可能であり、元々の体格によるハンディは埋めがたい。次なる目標はトラックレースに定め、日本マスターズ大会での新記録と2015年のマンチェスター大会出場を達成したい。

 目標を高く設定して宣言することで、有言実行を果たしてきた。限界に挑戦し続けることが抗加齢の妙薬であり、短命肥満県返上のヒントになるのではないか。トレーニングにより以前よりも若くなったと言われる。アスリートは短命と言われているので長生きできるかどうかはわからないが、イキイキ生きることはできる。

 青森は「ダメで何もない」土地などではなく、日本一幸せで豊かな土地へ「逆転ホームラン」で価値観を転換させること、道州制で八戸を北東北州の州都にすること、そして、八戸学院大から五輪選手を輩出することが夢である。

 自転車は多少(あるいは上を見ればきりがないほど)お金はかかるが、一回そろえれば運動負荷も大きくなく、膝の故障なども少ないので、生涯楽しめるスポーツとしてお勧めできる。

第26回東北学校保健・学校医大会「子どもの食とアレルギー」報告

2014年10月11日 | こども・小児科
第26回東北学校保健・学校医大会
日時 平成26年7月13日(日)
会場 仙台国際センター
主催 東北医師会連合会

 今年の東北学校保健・学校医大会は「子どもの食とアレルギー」をメインテーマに、一般演題「子どもの食を考える」の6題中3題、シンポジウム「子どものアレルギーを考える」の6題中5題で食物アレルギーが取りあげられた。ここでは特別講演の内容を中心に報告する。

特別講演
「食物アレルギーの基礎と社会的対応」
  あいち小児保健医療総合センター
     アレルギー科・内科部長 伊藤浩明

 2013年の全国調査で、公立小中高校の児童生徒のうち食物アレルギーは4.5%(約45万人)で、2004年の2.6%から約2%増加していた。アナフィラキシーの既往は0.5%、エピペン保持者は0.3%であり、300人規模の学校なら1人は保持者がいるという有病率になる。

 食物アレルギーの診断は、①明らかな症状の既往、②食物経口負荷試験陽性、③特異的IgE抗体などの検査結果が陽性の3項目からなされるが、IgE抗体陰性でも負荷試験で確認される場合もある。保護者の思い込みや、単に心配だからとらせていないケースも多い。誘発症状は詳細な問診で把握可能であり、医療機関の役割もそこにある。

 アナフィラキシーの診断基準は「食物アレルギー診療ガイドライン2012」に基づき、呼吸器・循環器症状の少なくとも1つを「それなりの重症度で」伴うことが必須である。食物依存性運動誘発アナフィラキシーは中高生6000人に1人の頻度で、食べても運動しなければ症状が出ないため、予期せぬ初発症状のことがある。経口免疫療法では治らないため除去しかない。増強因子としてアスピリンやカレーなどの香辛料にも注意が必要である。

 食物アレルギー対応の原則は「正しい診断に基づく必要最小限の除去」であり、そのポイントは、①不必要な除去をしない(正しい診断)、②確実に除去する(安全)、③食べられるものをたくさんみつける(快適)、④「食べられる範囲」まで積極的に食べる、の4つである。特異的IgE抗体価と経口負荷試験陽性率のプロバビリティカーブは食物の種類や年齢により異なり、エビでは高くても2割を超えない。陽性者の中で「食べられる範囲」を見つけ出して、少しでも摂取させることで早期に解除を目指すことに重点が置かれている。重症例には専門医療機関で経口免疫療法も実施されている。

 学校における対応は「安全な給食の提供」と「緊急時の対応」の2つが柱となる。名古屋市では、除去食(卵・マヨネーズ、乳製品、ごま)、副食の除去、単品の除去、副食の一部取り除き(自分で取り除く)の4つのレベルで対応している。基本献立や食材料調達の工夫により、自治体の状況によって合理的な対応が可能である。名古屋市教育委員会「食物アレルギー対応の手引き」に従って説明された。

 緊急時への備えとして、個別対応マニュアルを作成しておく。緊急時には5分ごとに緊急性が高い症状をチェックし、消化器・呼吸器・全身症状のうち一つでもあればエピペン使用の適応である(日本小児アレルギー学会2013)。日常の誤食・誘発事故はより軽微なレベルで起きており、「エピペンを使えば助かる、使わないと死ぬ」という過度の信仰は持つべきではないが、平成25年までの5年間に学校で実際に408回エピペンが使用され、そのうち106回は教職員が注射しているというのが現実である。

 2014年6月に可決された「アレルギー疾患対策基本法」は理念法であり、「医師はアレルギー疾患の予防や症状の軽減に寄与し、良質かつ適切な医療を行うよう努めなければならない」と努力義務が課された。現実には過剰な除去をしている可能性が高く、確認のための食物経口負荷試験を地域ごとにどこまで統一して対応していけるかが課題と考えられる。

(八戸市医師会報に掲載した原稿です)