録画人間の末路 -

人は記録をしながらじゃないと生きていけない

心臓の弱い方はご注意ください - 電人ザボーガー ー

2012-04-23 00:02:47 | 特撮・モンスター映画
ただのDVDレビューでございます。転載とかは無しで。


テレビや映画に登場する超人・ヒーローは、年を取ることはない。それらに変身する"正体"や"仮の姿"であっても、特に当時の役者本人が登場するときは、年齢を感じさせる演出を一切行わないのが普通である。いつからか、特撮界の"お約束"になっていた。

だが、映画「電人ザボーガー」はそのタブーを半分だけ破った。年齢を重ね、衰えたヒーローを描いたのである。もちろんかつてのテレビに登場した主人公・大門豊役の方をそのまま出演させたわけではない。第一オリジナルの大門豊役、山口暁氏は若くして亡くなられている。さすがにご本人がいたらこのような冒険はしなかっただろう。"熟年期"と評される大門豊を演じたのは板尾創路氏である。熟年と言っても映画内で想定された年齢は47歳で、老いと呼ぶにはまだ若い。体の衰えを感じ始める年齢、ということだろうか。監督の井口昇氏が想像できるギリギリの年齢というのもあったのかも知れない。

ただ、この熟年期を描く前に映画の前半部分を使って"青年期"を描いている。初見の時の青年期の感想を一言で書くと、「腹が立った」 これに尽きる。
予告編でも語っているように「現代風のアレンジなどしない直球勝負」なデザインやキャラクターは望むところである。だが、この作品はその演出の合間ににギャグを連発しているのだ。オリジナル「電人ザボーガー」はコメディではない。もちろん、昔の、特に特撮ヒーロー番組を、少々過剰気味の演出や低予算ゆえのチープ感・時代を感じる古臭いデザインをあえて揶揄し、バカにして笑う人種が存在することは知っている。だが、そうではなく、あえて頭の中を昔に、例え生まれる前だったとしても戻して楽しむ人種だって存在する。わたしは以前とある作品のリバイバル上映を見に行った際に、笑わせるシーンでもないのに技術の古さを、いちいち声をあげてわざとらしく笑う客が後ろにいたせいで映画に集中できなかったことがある。それ以来作品に、特にオリジナルに敬意を表さず、バカにする見方が大嫌いである。人がわたしの見ていないところでやるのは勝手だが、テレビ番組中など公共に近い場では絶対にして欲しくない。まして、リメイクを謳った作中でギャグを入れて、その意識を共用させようとしなくても良いではないか。細部がマジメに作ってあるだけに、余計腹立たしい。結局この監督も、客層は昔の作品のリメイクでもマジメに見ない、笑い飛ばす人が多くを占めるだろうという考えだったのだろうか。

第二部になっても、その流れは大きく変わらない。第一部で自分の正義を貫こうとしたものはみな落ちぶれ、往年の面影も無ければ明日の希望すら感じさせないものたちが醜態をさらす一方で、悪はますます栄え、手を組んで強大化していく様が描かれる。こうなると、もうギャグは笑うことすらできない。ただただ痛々しいのみである。
それでも、クライマックスに大門豊は再び立ち上がった。枯れたはずの正義の心を愛によって蘇らせ、悪を倒し平和のために、決して報われぬ戦いに赴く。自らよみがえらせたストロングザボーガーに跨って。
シュールでもあるが文字通り巨大な悪に立ち向かう画面構成、高らかに流れるオリジナルの主題歌(それもストロングザボーガーに合わせた恐竜軍団シリーズ版で!)。次の瞬間、


   死ぬかと思った。


前半を見て、頭ではあれだけ否定していたのに、わたしの心臓は大きく膨れ上がり、体内に熱い血を大量に送り込んだのである。これは例えではない、本当にそう感じた。体温が上がった気すらした。わたしは心臓にはあまり自信がないのに、これだけ震え上がらせて負担を掛けるとは、この作品、わたしを燃え殺す気か? 口ではなんと言おうとも、体は正直に反応してしまったようである。
ここからはギャグなど全く挟みようも無い展開が続く。どうやら、前半のギャグもこのための伏線であったようだ。アレンジにケチを付ける人のために前半はオリジナルのテレビに準じたキャラクターを、なるべく近い形で演出すると同時に、作品を揶揄される前にギャグを挟んでそっちで笑わせ、自然と作品に没頭していくように計算されたものだったのだ。それだけの考えのできる人でなければ、あの、おそらく本当に作りたかっただろう後半のクライマックスが作れるわけがない。前半は忠実にする代わりに後半はやりたいようにやったのだ。それが証拠に第一部のザボーガーは能力もオリジナルに準じているにもかかわらず、第二部のストロングザボーガーはオリジナルと似ているのは外見だけで、能力や戦いぶりはほとんど似ても似つかない。VFXに頼りすぎの面もあって、立派な「現代風アレンジ」になっているが、既存の他作品と違ってそこにケチを付ける気にならないのは元々のストロングザボーガーの戦いぶりが、ただ強いだけで面白みに欠けるものだったこともあるだろう。そこはアレンジしてでも直したかった、ザボーガーのバトルシーン本来の魅力であるザボーガーと大門豊のダブルマッチを再現したかったという思いは存分に感じさせていただいた。

見返してみて、さすがに二度目の死ぬ思いはしなかったが、それでも通常よりも強くなった心臓の鼓動が気になって夜眠れなくなってしまった。心臓に自信のない人は、それだけ覚悟を決めなければ見てはいけないソフトである。
この作品のターゲットはあくまで昔の作品のリメイクでもマジメに見ない、笑い飛ばそうとすることで己を偉く見せようとする自称"大人"や"通ぶったマニア"である。前者なら往年を作品を見るかのように笑い、後者なら苛立ちを覚えるだろう。そのいずれであろうとも途中でそれを忘れているに違いない。そして、知らないうちに自分の心臓にも電極回路が埋め込まれていたことに、きっと気がつくだろう。

電人ザボーガー スペシャルエディション [DVD]
板尾創路
キングレコード



ちなみに、本編で使われているオリジナル主題歌は「恐竜軍団」編のものだが、収録されている特典映像のうち「撮影打ち上げ用予告」と題されているものは映像が「Σ編」を意識して編集されているのにあわせているのか主題歌もΣ編のものである。なんという細かい気配り・・・。

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5 コメント

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Unknown ()
2012-04-23 01:03:20
TBできたでしょうか。
オリジナルは知らないので普通に楽しめました。

オリジナルに愛着のあるファンのかたが
どう感じるかの核となる意見なのかなぁ。
貴記事は。

返信する
Unknown (krmmk3)
2012-04-23 01:09:04
>谷さん
実はわたしはオリジナルをまだ見ていないうちに映画を見たんです。YouTubeとかでオープニングを見た程度ですね。映画鑑賞後DVDボックス買って全話見ましたけど。
ザボーガー以外も含んだ古い作品の総括という意味と、DVD買って見直した感想が初回のものと混じってます。あえて区別しなくてもいいかな~と思ったもので。
返信する
Unknown (ヘリキャット、ゴーは最初は偵察ヘリコプター出撃だったのか)
2012-04-24 00:27:03
まさに今、CSホームドラマチャンネルで
オリジナルの電人ザボーガーやってますね。
子供の頃、日曜の朝見ていました。
まだ2話までしかやってないのですが、
懐かしさもあり、面白いです。
映画も本編を見終わったら見てみたいです。
返信する
Unknown (emanon)
2012-04-24 00:41:22
 珍しくどこか琴線に触れるパッケージ画像ですね何故かカワサキのバイクが思い浮かぶ 

泥臭いような特撮は歓迎 枯れ木に最後の一花ぱっと散る路線ですか 基本は旅浪人と町娘w
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Unknown (krmmk3)
2012-04-24 01:31:35
>ヘリキャット、ゴーは最初は偵察ヘリコプター出撃だったのかさん
これが名前でいいのでしょうか?(^^;)終盤になると、マシーンザボーガーを引っ張り上げるなど偵察以外の活躍もしてますね、ヘリキャット。
戦略的にもストーリー的にもザボーガー不要に思えることがしばしばある大門豊の熱血アクションは必見です。映画も是非一度見てみてください。

>emanonさん
かっこよさと同時に若干の切なさも感じさせるパッケージですから、これだけでもちょっと気になりますね。
決して最後の一花で終わらなかったところが、この作品のミソなんです。「自殺を思いとどまらせる」こともこの映画の目標の一つだそうで。
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