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クロコ? アリゲ? 不遇な扱いのワニ映画たち

2024-02-14 14:17:18 | 特撮・モンスター映画
最近になってようやく怪獣映画が復権してきた感のある現代ですが、近年の怪獣もののみならぬ怪物ものまで支配している映画ジャンルと言えばご存じの通りサメです。しかし、恐るべき殺傷能力を持つ生物はサメばかりではありません。本来ならばサメに勝るとも劣らぬ一大勢力を作り上げてもおかしくないほどの力と人気を持ちながら映画としてはサメの亜流に押しやられている生物がいるではないですか。それはワニ。大きさも顎の持つ破壊力も決してサメに引けを取りません。それどころかかつて、中生代の三畳紀と呼ばれる時代で覇権を握っていたのは初期の恐竜ではなく陸ワニであったと言われるほどの強さを持った地球史上最強生物の一角と言っても過言ではない生物なのです。それがどうも扱いが悪い。ヘタすれば「愉快な仲間たち」の一角を占めるくらいかるーい動物として扱われています。確かにワニはサメのように空も飛ばなければ竜巻を操ることもなく、宇宙や雪山に出現することも出来ませんし、ロボ化してスーパーチェンジすることもありません。登場すると死ぬことが運命付けられているマイナス要素があるのである意味弱い生物と言えるくらいです。しかし、サメに会える機会は襲われなければなかなか無いですが、ワニは割と動物園に居ることが多いですから平和に会うことができます。現代に存在するワニは例外なく水陸両用ですし、その優れた皮は財布やハンドバッグの素材として重宝されているほど強さ美しさを兼ね備えているのです。サメの皮はと言いますとワサビを擦る時くらいしか使われず、"鮫肌"などという言葉があるくらい強さはともかく美しさの面ではマイナス評価しかされていないじゃないですか。うむ、そう考えるとワニの扱いが悪いのはサメ映画信者に嫉妬されたからではないでしょうか。特に我が国の「古事記」にある有名な神話、「因幡の白兎」において登場する生物が"鰐(わに)"と書かれているのに「日本にはワニはいないのでこれはサメのことである」などという説がまかり通っていて、出雲大社ですらその説を採用しているのは嫉妬したサメ映画の信奉者の陰謀に違いありません!と、ワニ復権のために少しワニ映画を取り上げましょう。ようするに最近ワニ映画のBDが立て続けに出たのでそれを買って観た話が書きたかったわけなんです。

ワニを取り上げるにあたり、デリケートな問題があります。それはその作品に登場するワニがアリゲーターなのかクロコダイルなのか、という問題です。日本語で言えばどっちでもワニなのでワニと呼んでおけばいいんですが、生物の分類としては一応アリゲーターとクロコダイルは分けて考えられる存在なので、そこは注意する必要があります。よく口を閉じたときに下の歯が外にはみ出るのがクロコダイルでそうでないのがアリゲーター、って区別の仕方が言われますがどう考えても分かりにくい区別です。個人的には「歩く際に腹が地面に着く文字通りの腹ばいをするのがクロコダイルで、持ち上がって足だけで歩けるのがアリゲーター」説を取ります。クロコダイルの方がアリゲーターより大きくなる傾向が強いようですが、映画の場合どちらも巨大になります。今回取り上げる映画は全部タイトルにアリゲーターが付きます。

・パニック・アリゲーター 悪魔の棲む沼
多分最初のワニ主役パニック映画。製作はイタリア。インタビューによると「ジョーズ」に便乗した映画とのこと。別映画「ドクター・モリスの島・フィッシュマン」撮影の時にスリランカにいった際に連続で撮ったらしく、スタッフはもちろん出演陣もほぼ同じ。そのせいか、印象強めに登場するのにストーリーには大して意味がない登場人物が何人いたりしてややチグハグ。主演女優はのちに「おかしなおかしな石器人」での共演がきっかけでリンゴ・スターと結婚するバーバラ・バック。
映画内クレジットにタイトルらしき表記で「IL FIUME DEL GRANDE CAIMANO」とあり。「グランドケイマンの川」と訳せる気がするので舞台は西インド諸島? パッケージにはアマゾン奥地と書かれているんだが。昔のビデオパッケージではアフリカが舞台と書かれていたらしいので結構いい加減、場所はどうでもいいらしい。特典映像のスタッフインタビュー内の英語字幕によると「The Big Aligator River」をタイトルとしていたので海外ではこちらのタイトルで輸出された模様。ちなみに作中でのワニは"クロコダイル"としか呼ばれず、かつメインとなる個体は"偉大な神"扱いで"クルーガー"と呼ばれ、舞台も川なので日本語のタイトルは偽りだらけ。
クルーガーは全長12mという扱いで実物大ハリボテとミニチュアで表現、あまり動かないので出来はイマイチ。ミニチュアを使った特撮が数か所あって、特に自動車が橋から落下するシーンは実際の橋を破壊したシーンを挟むことで迫力が増してなかなか見ごたえあり。イタリア映画と言えばマカロニ・ウェスタン。他国の映画に便乗する形式で輸出を前提とした"偽りの大作映画"の印象が、失礼ながら強いけど本作はその典型をあえて狙ったものと思われる。なにせ現地民族のクーマ族によって殺害された人数はどうみてもクルーガーに殺された人数より多いし、襲われるシーンなど古典的西部劇のソレそのまま。なのでクルーガー倒して終わりでいいの?と少々後味が悪い。輸出しか考えなかったのかイタリア映画なのに英語でしゃべってるし登場する看板の文字も全部英語なので吹き替えではなさそう。なお、本作以降のイタリア映画は「食人族」などホラー映画に路線を切るが、まだ本作では残酷表現がイマイチなのが残念。序盤でワニ(本物のクロコダイル)のエサにするために縄を付けて河に放り込まれる本物の子豚がちょっとかわいそう。さすがに本当に食わせたりはしてないけど。

・アリゲーター
アメリカにあるらしい"下水道のワニ"の都市伝説をそのまま使って作った映画。トイレに捨てられた子ワニが下水道の中で生き延び、とある理由から10年かけて12m(またか)にまで巨大化し、ついに地上に出てくるお話。ワニは本物と実物大モデルを使い分け、その造形の出来が非常によくて、「パニック・アリゲーター~」より格段に上。人間を喰うシーンでは完全な全身をさらしながら細部が動いているところは一見の価値あり。実物ワニはちゃんと腹を持ち上げているところからタイトル通りアリゲーターを使っていて、かつ登場人物も「アーリゲータ」と呼んでいる。クロコダイルとそんな簡単に区別つくかなぁと思うのだけど、これは"下水道のワニ"伝説のワニがアリゲーターだからだろう。残酷表現は全開で、足を食いちぎられる犠牲者くらいはまだしも、ストーリー上必要ではあるが随所に犬の死骸がやたら出てくるのが人によっては受け付けられない。一番ひどいシーンではドブネズミがソレ食ってるし、これは来ます、いろんな意味で。それでもワニ映画としては一番おすすめ。

・アリゲーターⅡ
前作から10年後に作られた続編。と、言っても前作とのつながりは希薄。本作で顕微鏡で観察している細胞の組織に使った画像が前作のソレの使いまわしなのがあるくらい。つまり原因が同一であるということ。前作で失敗した研究が凝りずに継続されていたストーリーと言いたいのかも。
やはり本物のワニと造形物を使い分けているが、造形の出来は前作に及ばず、また上半身ならぬ前半身と尻尾くらいしか作っていないようで引いた画での大暴れがないのは残念。本作は珍しく"クロコダイル"と"アリゲーター"呼びの両方が使われており、字幕はそれに合わせ"クロコダイル"は"ワニ"、"アリゲーター"は"アリゲーター"と区別していていいかんじ。多分正体不明の段階では"クロコダイル"、ある程度分かっているときは”アリゲーター"呼びで区別していると思われる。
死骸やちぎれた手足と言った残酷表現は控えめでラストの倒し方も「え?」と言いたくなるほどあっけなく、それまでの戦いや兵器の投入はなんだったんだ! と脱力するほど。その割に鑑賞途中の感触が割と心地いいのは、演出や構成が「ジョーズ」そっくりだからか。

立て続けにワニ映画を鑑賞してみると、ワニはサメと違ってファンタジーの素材として見づらい生々しい対象だから作りづらいのかなぁって感想になってきます。もちろん現在でもB級の低予算映画としてワニ映画は細々と作り続けられていますが、質量が感じられず、空気感もないCG表現ではワニは難しいか、それとも残酷表現の憚れる現在ではワニの良さが出しにくいのか、印象に残る作品は全然ないとしか言いようがありません。むしろ80~90年代のころの方が面白いです。
これ以外にもまだワニ映画はあるんですよ。もちろん「クロコダイル・ダンディー」とかじゃなくて。日本人としては、シリーズ化されてそのうちの一本が日本が舞台である「キラークロコダイル」シリーズとか、「極底探検船 ポーラーボーラ」で特撮やった佐川和夫氏が特撮をやったらしいタイ映画「ジャイアントクロコダイル」が見てみたい。


 
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