「自分に関する多くのことはおのずと変わるし、それ以外のこともやがて改善されていく」
– ベンジャミン・ホフ(アメリカの心理学者)–
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昔、ある国にとても優れたお坊さまがいらっしゃいました。
そのお坊さまは、長く修行を積んで高い位を授けられたばかりか、深い知性と優しい人格を兼ね備えていたので、寺の修行僧ばかりか、まわりの村人たちからも敬われていました。
年を重ねるごとに神々しさを増すその風貌を見て、人々は、
「あのお坊様さまは、きっと未来すら見通せる力をお持ちだ。
来世のこともわかるはずだ」
と囁きあっています。
そんな噂を聞きつけた修行僧たちで寺は賑わっていました。
誰もが、自分がいつ悟りをひらけるのか、いつまで修行を続ければいいのかを知りたがったのです。
あまりに同じことばかりを聞かれるので、お坊さまは少々うんざりしたのか、決まって同じ答えを繰り返すようになりました。
「お前は、あと7回生まれ変わったら大いなる悟りを得るだろう」
お坊さまはそれ以上何も言いません。
自分があとどれくらいで悟りをひらけるのかを知るよりも、今できる修行、与えられたことを精一杯打ち込むことの方が、よっぽど大事だと考えておられたからです。
しかし、修行僧たちは、お坊さまの答えを聞いて安心する者、がっかりする者、落ち込む者さまざまでした。
あるときお坊さまは、山の頂上のお寺にいる知り合いに会うために、お供の者を連れて出かけました。
険しい山道の途上、硬い岩の上で瞑想をしている修行僧に出会いました。
もう長い間修行をしているのか髪も髭も伸び放題。
頬はこけ、着ているものはボロボロで、断食をはじめて長いように見受けられます。
修行僧は、高名なお坊さまを認めると、両手を差し出してたずねました。
「私はもう長い間修行を続けています。
あとどれくらいで悟りをひらけるでしょうか?」
お坊さまはいつもと同じように答えて、その場を立ち去りました。
「お前は、あと7回生まれ変わったら大いなる悟りを得るだろう」
しばらく行くと、また別の修行僧に出会いました。
なぜかその僧は、何匹もの猿たちと木の枝にぶら下がっていたのです。
「お坊さま……
私は厳しい修行に耐えられず、ついつい猿たちと遊んでしまっています。
こんな私でも、悟りをひらけるのでしょうか」
お坊さまは、いつもと同じように答えます。
「お前は、あと7回生まれ変わったら大いなる悟りを得るだろう」
……山頂の寺からの帰り道。
お坊さまは、再び木の上で猿たちと楽しそうに遊んでいる僧に出会いました。
僧は、お坊さまを見ると、満面の笑みを浮かべます。
「お坊さま、私は何と幸せなのでしょうか。
こんなに楽しく遊んでいるのに、あと7回生まれ変われば悟りをひらけるなんて」
その様子を見守るお坊さまは、微笑んでこう言いました。
「さきほどは7回生まれ変わったら悟れるだろうと言ったが、それは間違いだったよ。
お前はもっと早く悟りを得るだろう」
さらに進むと、来るときと同じ岩の上の修行僧がいました。
見ると、座禅を組んだ膝の上に大きな石をふたつ乗せて苦悶の表情を浮かべています。
「これほど苦しい修行を積んでいる私が、まだ7回生まれ変わるまで悟れないなんて……
お坊さま、私は、もっと早く悟るために、さらに厳しく辛い修行をしようと思っています」
お坊さまは、ふと悲しげな表情になりました。
「さきほどは7回生まれ変わったら悟れるだろうと言ったが、それは間違いだったよ。
このままだとお前が悟るのは、もっともっと先のことになるだろう」
このお話の意味を感じていただけたでしょうか。
自分を自分のまま受け容れていれば、
『自分に関する多くのことはおのずと変わるし、それ以外のこともやがて改善されていく』
ということなのですよ。
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○「癒しのことば」from 1999/12/30
発行責任者:中村 慎一 shin@newage.ne.jp
– ベンジャミン・ホフ(アメリカの心理学者)–
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昔、ある国にとても優れたお坊さまがいらっしゃいました。
そのお坊さまは、長く修行を積んで高い位を授けられたばかりか、深い知性と優しい人格を兼ね備えていたので、寺の修行僧ばかりか、まわりの村人たちからも敬われていました。
年を重ねるごとに神々しさを増すその風貌を見て、人々は、
「あのお坊様さまは、きっと未来すら見通せる力をお持ちだ。
来世のこともわかるはずだ」
と囁きあっています。
そんな噂を聞きつけた修行僧たちで寺は賑わっていました。
誰もが、自分がいつ悟りをひらけるのか、いつまで修行を続ければいいのかを知りたがったのです。
あまりに同じことばかりを聞かれるので、お坊さまは少々うんざりしたのか、決まって同じ答えを繰り返すようになりました。
「お前は、あと7回生まれ変わったら大いなる悟りを得るだろう」
お坊さまはそれ以上何も言いません。
自分があとどれくらいで悟りをひらけるのかを知るよりも、今できる修行、与えられたことを精一杯打ち込むことの方が、よっぽど大事だと考えておられたからです。
しかし、修行僧たちは、お坊さまの答えを聞いて安心する者、がっかりする者、落ち込む者さまざまでした。
あるときお坊さまは、山の頂上のお寺にいる知り合いに会うために、お供の者を連れて出かけました。
険しい山道の途上、硬い岩の上で瞑想をしている修行僧に出会いました。
もう長い間修行をしているのか髪も髭も伸び放題。
頬はこけ、着ているものはボロボロで、断食をはじめて長いように見受けられます。
修行僧は、高名なお坊さまを認めると、両手を差し出してたずねました。
「私はもう長い間修行を続けています。
あとどれくらいで悟りをひらけるでしょうか?」
お坊さまはいつもと同じように答えて、その場を立ち去りました。
「お前は、あと7回生まれ変わったら大いなる悟りを得るだろう」
しばらく行くと、また別の修行僧に出会いました。
なぜかその僧は、何匹もの猿たちと木の枝にぶら下がっていたのです。
「お坊さま……
私は厳しい修行に耐えられず、ついつい猿たちと遊んでしまっています。
こんな私でも、悟りをひらけるのでしょうか」
お坊さまは、いつもと同じように答えます。
「お前は、あと7回生まれ変わったら大いなる悟りを得るだろう」
……山頂の寺からの帰り道。
お坊さまは、再び木の上で猿たちと楽しそうに遊んでいる僧に出会いました。
僧は、お坊さまを見ると、満面の笑みを浮かべます。
「お坊さま、私は何と幸せなのでしょうか。
こんなに楽しく遊んでいるのに、あと7回生まれ変われば悟りをひらけるなんて」
その様子を見守るお坊さまは、微笑んでこう言いました。
「さきほどは7回生まれ変わったら悟れるだろうと言ったが、それは間違いだったよ。
お前はもっと早く悟りを得るだろう」
さらに進むと、来るときと同じ岩の上の修行僧がいました。
見ると、座禅を組んだ膝の上に大きな石をふたつ乗せて苦悶の表情を浮かべています。
「これほど苦しい修行を積んでいる私が、まだ7回生まれ変わるまで悟れないなんて……
お坊さま、私は、もっと早く悟るために、さらに厳しく辛い修行をしようと思っています」
お坊さまは、ふと悲しげな表情になりました。
「さきほどは7回生まれ変わったら悟れるだろうと言ったが、それは間違いだったよ。
このままだとお前が悟るのは、もっともっと先のことになるだろう」
このお話の意味を感じていただけたでしょうか。
自分を自分のまま受け容れていれば、
『自分に関する多くのことはおのずと変わるし、それ以外のこともやがて改善されていく』
ということなのですよ。
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○「癒しのことば」from 1999/12/30
発行責任者:中村 慎一 shin@newage.ne.jp