伊藤 千尋さんFBより
コスタリカ報告、小学生でも落第する
訪問4日目のテーマは教育です。私たちが滞在していたホテルに、日本の文部科学省に当たる公教育省から5人が説明に来てくれました。午前中に2時間、コスタリカの教育システムをうかがいました。対外担当のクリスティーさんを代表に、小学校や中学校の顧問、中学校の数学教師の方々です。
コスタリカには4053の小学校があり、生徒数は40万1786人で先生の数は3万2368人います。農村部には先生が一人だけの学校もあり、それが1261校つまり小学校全体の31%を占めるというのですから、どんな僻遠の地にも、子どもがいれば通える学校を作ろうという意思を感じます。
先住民の地区では先住民の言語や文化の授業もあります。中南米の多くの国では農村部や先住民の地区の教育はほとんど放っておかれていますが、コスタリカでは子どもが一人でもいれば学校を建てるという姿勢です。
小学校の前にプレ・スクールという就学前の教育が1~2年あります。これを含めて中学校までが義務教育です。無償だし、給食も無償です。ただ小学校でも落第があります。6%が落第するそうです。これを聞いた訪問団の皆さんから驚きの声が上がりました。
「なぜ落第があるのですか?」と質問したら、「日本では生徒全員が授業を完璧に理解するのですか?」と逆に聞かれました。授業がわかってなくても出席したら進級させる日本と、落第させてでも生徒にとことん理解させようとするコスタリカの違いですね。小学校卒業時にだれもが求められるレベルまで理解しているよう、がんばって追いつかせるのだそうです。
4年前から進めているのが創造性と革新をキーワードに子ども自身が自分の人生を設計するプログラムです。生徒が幸せで満たされること、同級生と道徳的な価値観を共有し共存、信頼関係を築くこと、自然との間で持続可能な発展ができること、だれかの言葉をうのみにするのではなく批判的に考えて自分自身の考え方を抱くようになること、だそうです。
そのさいのコンセプトとして民主主義、人権、平和の三つを挙げました。民主主義では地域や国家の活動への参加、政治の透明性、国や地域独自の民主制度の尊重をうたい、人権では生徒の権利の保障、規範に従った人権の保護、家庭での権利と義務に基づく実践を、平和ではこの国に根を下ろした民主主義の価値としての自分と他人の自由、より調和のとれた関係を築くことに責任を負うこと、などを掲げています。すべてのカリキュラムにこれが含まれ、実践を通してこうした価値観を獲得してもらおうというのです。
このあと移民の子の教育について言及されました。コスタリカ憲法19条は「外国人も教育、健康ではコスタリカ国民と同じ権利を持つ」と、憲法33条は「人間は国籍や人種、宗教にかかわらず誰しも平等である」と規定しています。したがってコスタリカにいる外国籍の子どもたちもコスタリカの子と同じように無償で教育を受けられるのです。しかも子どもたちが育った国の文化を尊重します。たとえば隣国のニカラグアからの移民が多い地区ではニカラグアの文化を授業で教えます。
ちなみに、この国の移民政策には驚かされます。コスタリカの人口はつい最近まで400万人でしたが、今は500万人を超えました。つまり100万人規模で移民を受け入れたのです。このあたり、たった一人の移民の受け入れにもためらう日本政府や難民で右傾化する欧州、さらにはメキシコとの間に壁を築こうとするトランプ大統領と発想が雲泥の差ですね。
とはいえ、コスタリカの教育が万事うまくいっているのではありません。なにせ経済的には貧しい農業国です。学校を建てる建設費が不足しており、午前と午後で生徒が別々に校舎を利用する二部制や三部制さえもあります。教科書をすべての生徒に配ることもできません。ニカラグアからの移民の子の中には学校に行ったことがない子もいます。
そのような中で先生たちはどのように工面しているのか、このあと貧しい地区の現場の先生を訪ね、その活動に感激しました(続く)。
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H・Iさん
「なぜ落第があるのですか?」と質問したら、「日本では生徒全員が授業を完璧に理解するのですか?」と逆に聞かれました。
授業がわかってなくても出席したら進級させる日本と、落第させてでも生徒にとことん理解させようとする、これが国際的な教育の権利保障。日本では、落第すなわち悪い、誰が、となって等しく教育を、の憲法が生かされていないと思います。コスタリカの教育のほうが常識。
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