【元日経新聞記者】宮崎信行の国会傍聴記

政治ジャーナリスト宮崎信行、50代はドンドン書いていきます。

菅首相、補正を指示 「財政法の特例法案」がカギに 玄葉キャプテンが政権の命運握る

2010年09月30日 06時28分49秒 | 第176臨時国会(2010年10月)熟議

[写真]民主党政調会長で国家戦略相の玄葉光一郎さん

 総理大臣で民主党代表の菅直人さんは27日、党本部での政府・民主党首脳会議で、ことしの国予算を補正するよう命じました。民主党が組んだ本予算(4月1日スタート)を民主党が補正するのは結党以来これが初めてのケースになります。

 しかし、7月11日の第22回参院選により国会がねじれましたので、与党以外の賛同が不可欠となりました。平成22年度(2010年度)の(第1次)補正予算案は、第176臨時国会に提出されます。衆参の本会議・予算委員会でおそらく2週間前後の審議時間をとられますので、なかなかタイヘンです。

 そして、16日発足した菅改造内閣で、新しく国家戦略相も兼ねることになった民主党政調会長の玄葉光一郎さん(福島3区)が、景気対策だけでなく、来年度当初予算案とその関連法案(日切れ法案)の成立の最大のキーパーソンになりそうです。後述しますが、玄葉さん見事です。

 菅内閣は、一般会計だけで歳入歳出(収支)総額92兆2992億円、そのうち私たちのくらしに役立つ一般歳出は53兆円を計上した、今の国の予算の歳入(収入)や歳出(支出)を増額させたり、ちょっと減額したりして補正予算案を編成します。おそらくですが、総額で、96兆~97兆円の一般会計予算に増額するというような議案を国会に提出するものと思われます。

 29日発表の日銀短観でもリーマン・ショック以来回復してきた日本経済が、円高や給料減による消費減で、年末に少し失速しそうな気配が出ていますが、これを未然に防ぐ景気対策が最大の狙いです。

 ところが、当選6回46歳の玄葉国家戦略相の最近の発言からは、来年の通常国会で迎える“3月危機”(予算関連法案が参議院で通らない、ないしは否決されること)を未然に防ぎ、政権を守ろうとする布石をいくつも感じます。

 例えば補正予算の財源ですが、今年度の税収の国庫への歳入は105%ほどで推移してきています。法人税、相続税が見積もりよりは多く、ジェット燃料税なんかは日航の件もあって歳入歩合は100%を切っていますが、その辺はそんなにウェートが大きくありませんから、おそらく4~6月期だけで2兆円近く、上半期では間違いなく2兆円を大きく上回る上ブレ分が出ています。

 そして、これが玄葉さんのすごいところは、前年度決算で余った不用額などの剰余金を使おうとしていることです。これも1・6兆円ほどあるようで、これを使えば、2兆円(ただし、一部は地方交付税に自動繰り入れ)+1・6兆円+αで4兆円ほどのお金が出てきます。ところが、このうちの1・6兆円のお金は「財政法の特例法案」を成立させないと使えません。

 財政法6条では、「各会計年度において歳入歳出の決算上剰余を生じた場合においては、当該剰余金のうち、2分の1を下らない金額は、他の法律によるものの外、これを剰余金を生じた年度の翌翌年度までに、公債又は借入金の償還財源に充てなければならない」としています。

 ですから、昨年度の剰余金をすべて今年度の補正予算にぶち込もうとするアイディアは、財政法違反なのですが、「他の法律によるものの外」となっていますので、「財政法の特例法案」を臨時国会で成立させれば可能となります。

 で、広い意味で、「財政法の特例法案」というのは、実は大平内閣以来、毎年通常国会で成立してきているのです。すなわち、赤字国債を発行するための臨時公債特例法案です。財政法4条「国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない」とする条項の但し書きに基づく立法です。財務大臣として3回本予算を組んで成立させた経験を持つ自民党総裁(シャドウ総理)の谷垣禎一さんは、この「臨時公債特例法案」を人質に取りたいとする趣旨の発言を繰り返しています。だから、財政法の特例法案」を「民公賛成で衆参可決」させるという実績を年内に早めに作っておこう、と玄葉さんが考えているのだ、と私は思います。ここに中期的な視野に立った玄葉さんの政策および政局両面での見通しの良さを感じざるにはいられません。

 第174通常国会の2010年3月2日の衆院本会議でも、臨時公債特例法案、ことしの名称は「平成二十二年度における財政運営のための公債の発行の特例等に関する法律案」でしたが、この法案が審議され、可決し、参議院に送られ、年度内成立しました。

 これについて、当時の衆議院財務金融委員長だった玄葉さんが本会議に登壇しています。そのときの議事録です。

(衆議院議事録より引用はじめ)

○議長(横路孝弘君) 平成二十二年度における財政運営のための公債の発行の特例等に関する法律案、所得税法等の一部を改正する法律案、租税特別措置の適用状況の透明化等に関する法律案、右三案を一括して議題といたします。

 委員長の報告を求めます。財務金融委員長玄葉光一郎君。

    〔玄葉光一郎君登壇〕

○玄葉光一郎君 ただいま議題となりました各法律案につきまして、財務金融委員会における審査の経過及び結果を御報告申し上げます。

 まず、平成二十二年度における財政運営のための公債の発行の特例等に関する法律案は、平成二十二年度の適切な財政運営に資するため、同年度における公債の発行の特例に関する措置を定めるとともに、財政投融資特別会計からの一般会計への繰り入れの特例に関する措置並びに外国為替資金特別会計及び食料安定供給特別会計からの一般会計への繰り入れの特別措置を定めるものであります。

(中略)

 各案は、去る二月十六日当委員会に付託され、十九日菅財務大臣から提案理由の説明を聴取した後、二十四日から質疑に入りました。二十六日には参考人から意見を聴取し、本日鳩山内閣総理大臣に対する質疑を行うなど、慎重に審査を行い、質疑を終局いたしました。次いで、討論を行い、順次採決いたしましたところ、平成二十二年度における財政運営のための公債の発行の特例等に関する法律案及び所得税法等の一部を改正する法律案はいずれも賛成多数をもって、租税特別措置の適用状況の透明化等に関する法律案は全会一致をもって原案のとおり可決すべきものと決しました。

 なお、平成二十二年度における財政運営のための公債の発行の特例等に関する法律案に対し附帯決議が付されましたことを申し添えます。

 以上、御報告申し上げます。(拍手)

(衆議院議事録より引用おわり)

 これに対して、自民党からは小泉進次郎さんが反対討論に立ちました。そして、公明党の石井啓一さんも反対討論に立ち、その理由を「平成二十二年度予算案は、鳩山内閣における中長期的な財政の見通しが全く示されない中で、将来への不安を増幅する場当たり的な予算案となっています」と述べました。

 しかし、その後民主党政権は「中期財政フレーム」を作り、中期的な財政の見通しは閣議決定しました。また、納税者に不信をいだかせた鳩山由紀夫さん、小沢一郎さんの代表・幹事長コンビは表舞台から去っています。

 ですから、玄葉さんとしては、この臨時国会で、剰余金の今年度補正予算への繰り入れの特例法案を民主党と公明党の賛成多数で衆参ですんなり通して、来年の通常国会では、「臨時公債特例法案」も民公の賛成多数で衆参ですんなり通したいという思惑があるということはほぼ間違いない、と私は推測します。

 玄葉さんは昨年5月16日の野党・民主党の代表選で、「総理大臣になる準備がイチバン出来ている」として、岡田克也副代表を引っぱり出し、敗北しました。このため小鳩ににらまれたようで、政権交代後も衆院財金委員長という、玄葉さんにしては不足に感じられる役回りとなりましたが、そのなかでもしっかりと勉強していたようです。

 ところで、民主党内で、来年3月末に菅内閣は窮地に立たされ、解散に追い込まれるという噂が流れていて、困ったものです。これはまったくおかしな話で、予算関連法案を3月中に成立させられなければ菅政権は確かに窮地です。しかし、参議院では過半数割れ、衆議院では単独過半数はあるが3分の2はないという状況で、衆議院を解散しても全く意味がありません。ですから、追い込まれた場合にあり得るのは総辞職であって、解散ではありません。

 で、予算関連法案が3月末に成立しなかった例としては、2008年の通常国会で福田康夫内閣が租税特別措置法案の成立に失敗し、4週間、揮発油税(ガソリン税)と軽油取引税の暫定税率分が失効し、2000億円以上の税源を失いました。このときに、福田首相は「困っている」とは言いましたが、「解散したい」と言ったことがあったでしょうか。このとき、ガソリン値下げ隊長としてがんばった川内博史さんには、これからもお国のために、国民のために、志を失わずにこれからもがんばってほしい。が、やっかいなのは、そのときの国対委員長だった山岡賢次さんです。与野党問わず、国対委員長を経験したベテランが「3月に解散に追い込まれる」と言えば、信じちゃう若手議員・秘書も一部にいるでしょう。たしかにあのガソリン値下げは素晴らしい実績でしたよ、山岡賢次さん。でも今のようなことをしていると、その実績も胡散霧消してしまいますよ。

民主党:菅総理が内閣総理大臣指示を発令 政府・民主党首脳会議

 政府・民主党首脳会議が27日午後、党本部で開かれ、政府側から菅直人総理(代表)、仙谷由人官房長官、玄葉光一郎内閣府特命担当大臣兼政策調査会長が、民主党側からは岡田克也幹事長、鉢呂吉雄国会対策委員長、輿石東参院議員会長が出席。古川元久、福山哲郎両官房副長官、枝野幸男幹事長代理が陪席した。

 会議後に福山官房長副長官は記者団に、会議では菅総理からニューヨークで開催された国連総会およびオバマ米国大統領との会談についての報告があったほか、鉢呂国対委員長から国会開会に際しての野党との協議についての報告、これに関連して提出法案や会期等について意見交換がなされたと語った。

 また、菅総理から内閣総理大臣指示が出されたとも報告。これは、「現下の円高と厳しい経済情勢に対応しデフレ脱却と景気回復に向けた動きを確かなものとするため、新成長戦略実現に向けた三段構えの経済対策を踏まえ緊急的な対応、ステップ1に続き22年度補正予算編成を含む経済対策ステップ2の実施を検討する」というもの。与野党の提言を踏まえ、(1)雇用・人材育成、(2)新成長戦略の推進、(3)子育て・医療・介護・福祉等(4)地域活性化・社会資本整備・中小企業対策、(5)制度規制改革――が5つの柱。22年度補正予算においては、経済の活性化や国民生活の安定・安心に真に役立つ施策を盛り込みつつ、その他緊要な経費の追加も行うこととするとして、上記の考え方を基本に、政調会長が中心となって官房長官、財務大臣および経済対策のとりまとめ担当である経済財政政策担当大臣と連携しつつ、与党および野党との意見交換を進められたいとしている。

 福山官房副長官は、これを踏まえどのようなかたちで進めていくか等について党側も含め活発に意見交換を行ったと述べた。



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