恋、ときどき晴れ

主に『吉祥寺恋色デイズ』の茶倉譲二の妄想小説

話数が多くなった小説は順次、インデックスにまとめてます。

決意~その1~その5

2014-12-27 08:05:36 | ハル君ルートで茶倉譲二

ハルルートの譲二さんの話の続編
クロフネで
ヒロインと暮らし始めて1ヶ月が経った

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『帰港』の続き



決意~その1

〈譲二〉
美緒が俺の所に来てくれてから一ヶ月がたった。

楽しそうにクロフネを手伝ってくれて、精神状態も安定していた。

ところが、この2、3日、時々ぼんやり考え込んでいる事がある。

そんな時、「どうしたの?」と尋ねても、曖昧に笑って誤魔化されてしまう。

夜もひどく怯えたように抱いて欲しがる。

もしかして、もうハルのことが恋しくなってしまったのだろうか?

ハルのところへ帰りたいと言われるのが怖くて、美緒を問い詰めることができなかった。

ハルに最後にいわれた言葉が頭から離れない。

春樹『俺は美緒を諦める気はありませんから…。ジョージさんだって同じでしょう?』

春樹『だから、その時々に美緒がどちらを選ぶかというだけのことです』



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 そんなある朝、美緒が思い詰めたような顔で「ちょっと出かけたい」と言った。

譲二「どこへ?」

 何気無く尋ねたのだが、赤い顔をして答える。

美緒「ちょっと気になることがあって…。昼までには帰れると思うから…」

 どこに行くかは教えてもらえないまま、美緒は出かけて行った。

 訳がわからない。まさか、ハルを訪ねて行ったとか…。

 悶々としていたが、どうしようもない。




 昼になり、ランチのお客さんで忙しくしていると、青ざめた顔の美緒が帰ってきた。

譲二「お帰り…。どうしたの?」

美緒「ちょっと気分が悪いので、二階で休んでいてもいい?」

譲二「ああ、いいよ。大丈夫?」

美緒「疲れが出ただけだから、心配しないで…横になっていたら治るから…」

譲二「後でココアでも持って行ってあげるね」




 ひと段落して、客足が途絶えると急いで二階に上がった。

 美緒は自分の部屋ではなく、俺の部屋のベッドに横になっていた。

譲二「気分はどう?大丈夫?」

美緒「…譲二さん」

 美緒はいきなり抱きついてきた。

譲二「どうしたの?」

美緒「お願い…私を抱いて…」

 驚いた。

 俺と暮らすようになってからは、昼間から抱いて欲しがることなどなかったからだ。

譲二「体調が悪い訳じゃなかったの?」

美緒「うん。体調は悪くないよ」

譲二「悩みごとなら、俺にちゃんと話してよ」

美緒「…」

譲二「一緒に暮らし始めた頃に約束したじゃない。隠し事はしないって…。
もし、俺と暮らすのが嫌になって…ハルのところに戻りたくなったとしても、ちゃんと話してくれるって…。
ハルのところに戻りたくなったのじゃないの?」

美緒「そんなことないよ…」

譲二「ちょっ、美緒!」

 美緒の目から涙が溢れている。

 俺はしっかり抱きしめると、囁いた。

譲二「何があったの?教えて?」

美緒「…」

 チャイムが鳴り、客の入る気配がした。

 俺は後ろ髪を引かれながらも、「後で来るからね」と言って一階に降りた。


その2へつづく


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決意~その2

〈譲二〉
 夕方、客足が途絶えると、今日はもう店を閉めることにした。

 ミルクティーとサンドイッチを作ると二階へあがる。

 美緒は昼間と同じように涙を流したままベッドに横たわっている。

譲二「お腹が空いたろ?」

美緒「…ううん」

譲二「朝から何も食べてないだろ?何か口に入れないと」

 美緒はミルクティーを一口飲み、サンドイッチを一口齧ると「もういい」と言った。

 美緒の額にそっとキスして、額と額をくっつける。

譲二「どうしたの?昼にも言ったけど、悩みごとは俺に全部話して?
俺には解決出来ないことでも、話すだけで随分楽になるよ。」

美緒「譲二さん…私を抱いて…。めちゃくちゃにして…」

譲二「本当にどうしたの?」

 ずっと昔にもこんな風に言われたことがあったな…と思い出した。

 美緒に優しくキスをした。

 美緒が求めてくるので、深いキスを何度も繰り返す。

 そして彼女を丹念に抱いた。

 俺に抱かれる間も美緒は静かに涙を流していた。

 彼女の涙を口づけて吸い取る。



譲二「ねえ、美緒。そろそろ俺にも訳を話して?」

美緒「…譲二さん…ごめんなさい…」

 そういうとまた涙をながす。

 俺は胸騒ぎを感じて言った。

譲二「一体どうしたの?」

美緒「ごめんなさい…私…妊娠してるの…」

譲二「え?!それは!」

美緒「6週だって…多分ハル君の子供だと思う…」

 美緒の言葉に衝撃を受けた。

 俺たちは一応避妊していたし、妊娠の週数からハルの子であるのはほぼ間違いがないだろう。



 泣きじゃくる美緒を抱きしめながら、俺は決心した。

 美緒もこの子も決して手放さない。

 法律上でもこの子はハルの子になるだろうが…それでも何としても美緒と2人で育てよう。

 俺の子では無いかもしれないが、美緒の子だ。

 美緒の子は大切に育てたい。

その3へつづく


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決意~その3

〈譲二〉
 一週間後、産婦人科の診察に出かけた。

 前回の診察では胎児の心拍が確認できていないということで、一週間後に来なさいと言われたのだという。

 クロフネを臨時休業にして、俺も付き添う。

 美緒はひどく恐縮していたが、俺は1人でいかせたら、子供を下ろしてしまうのではないかとそちらを心配していた。

 妊娠が分かったことで美緒の精神状態はまた悪化していた。

 軽いつわりも始まり、かなり神経質になっていた。


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 美緒がついた産婦人科はまだ新しい病院だった。

 明るい待合室には可愛らしい絵やイラストが架けてあり、何人かの妊婦さんがいた。

 俺はなんだか場違いな気がして居心地が悪かった。

看護師「種村さん、どうぞお入りください」

 アナウンスを聞くと、「ああ美緒はやはりハルの妻なのだ」と現実を突きつけられた。

 美緒の主治医は40歳くらいの女医さんで、優しそうな人だった。

 診察室に通された後、美緒は隣の部屋に入り内診された。

医師「今7週です。順調に育ってますよ。心拍も確認できました」

 ディスプレイで俺にもエコー写真を見せてくれる。黒い空洞の中に蛹のようなものが見えた。

 診察室に戻って来た美緒は青ざめている。

美緒「下ろすとしたらいつまでに決断したらいいですか?」

譲二「!」

 女医さんはそれまでの柔和な表情を強ばらせた。

医師「22週以内です。しかし、一度下ろすと母体をかなり傷つけることになりますし、先のことを考えるとお勧めできません。
産めない事情でもおありですか?」

 最後の言葉は俺に向かって言われた。

譲二「いえ…そんなことはありません。
…それで、先生。少し教えて欲しいのですが、この子が受胎したのは正確にはいつ頃ですか?
 7週というのは7週間前なのですよね?」

医師「7週というのは奥さんの最終月経の日から数えたものです。ですから実際の着床は…」

 手元のカレンダーを見ながら、この辺りという日付を教えてくれた。

 それは美緒が俺のところへ来た頃だった。

(ということは俺の子という可能性も0ではないのか…)

医師「着床時期がそんなに重要ですか? 」

譲二「いえ、そういうわけでは…。ありがとうございました」

医師「心拍も確認できましたし、そろそろ母子手帳をもらっておいて下さい。
安定期にはいるまでは重いものを持ったり、激しい運動は避けて下さい。
タバコやアルコールも禁止です。詳しいことはここに書いてありますから、よく読んでくださいね。次の診察は…」

 帰りは二人とも会話が無かった。

 今、美緒は何を考えているのだろう。

 子供を下ろせるのはいつまでかと聞いた時には驚いた。クロフネに帰ったら、2人でよく話し合わないと…。



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 美緒と向かい合って話し合う。

譲二「出来た子を下ろすなんて考えなくていいからね。2人で育てよう…」

美緒「そんなことを言っても、ハル君の子供だし。
出生届けも出さないといけないし…。
そうしたらこの子の父親はハル君になるんだよ」

譲二「出産までには間があるし、それまでにハルと離婚できれば、実子ではなくても俺の養子にはできるだろ?」

美緒「ハル君が離婚を承知してくれるとは思えない」

 確かに、ハルは『美緒の夫であることをやめるつもりはない』と言っていたし、自分の子供が出来たとなればなおさら離婚してはくれないだろう。

 しかし、俺はそれでもハルに頼んでみるつもりだった。

 俺が身を引いて美緒がハルともとの鞘におさまるという選択肢もあったが、俺はそれを一顧だにしなかった。

譲二「ハルと話し合って、離婚を認めてくれるよう頼んでみるつもりだ…。」

美緒「そんなこと…」

譲二「やってみなければわからないだろ?」

美緒「でも」

譲二「俺はお腹の子ごと美緒を自分のものにしておきたい。
…それに…、先生に着床時期を聞いたけど、俺の子供だという可能性もわずかだけどあるんだ…。
そんな子を下ろさせるわけにはいかないよ」

美緒「譲二さん…ごめんなさい…」

譲二「美緒が謝ることなんか無いよ…。美緒が悪いわけじゃないんだから…」

 美緒をしっかりと抱きしめた。

 もう、決して美緒を手放したりはしない。決して…。


その4へつづく
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決意~その4

〈譲二〉
 夕方、意を決してハルに連絡を取った。

 8時過ぎなら、事務所で会ってくれるという。

 夜、美緒を1人にするのは気がかりだったが、何としてもハルと話をつけなければならない。

 少し早いが美緒をベッドに寝かせた。

美緒「遅くなりそうなの?」

譲二「わからない…。でも、しっかりハルと話し合ってくるから、心配しないで。
表の鍵は俺がかけて出るから誰か訪ねて来ても出なくていいよ。
店への電話も取らなくていいからね」

美緒「分かった」

譲二「ゆっくりお休み…」

 美緒の額にそっと口づけた。



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 ハルの事務所を訪ねるとハルは1人で待っていてくれた。

譲二「時間を取ってくれてありがとう」

春樹「今頃なんの用ですか?」

 俺は思い切って単刀直入に答えた。

譲二「実は…美緒が妊娠した」

春樹「え!! それはもしかして俺の子供なんですか?」

譲二「はっきりは分からないが、その可能性が高い…」

 ハルは少し考えて言った。

春樹「それなら…、美緒を俺のところに返してくれるんでしょうね?」

譲二「いや…。美緒も子供も俺が面倒を見たい」

春樹「そんな! 法律上も実質的にも俺の妻と子供なんですよ!」

譲二「それは…分かっている。それでも俺に譲って欲しい…美緒と離婚して欲しいんだ」

春樹「そんな虫のいい話、聞けるわけはないでしょう」

譲二「もちろん、勝手な話だとは分かっている」

春樹「それに、今更離婚しても子供は譲二さんの子供にはなりませんよ」

 ハルは冷たく言い放った。

譲二「それも分かっている。しかし、改めて美緒と結婚できれば、家族になることはできる」

春樹「そんなこと…。俺が許すと思っているんですか?」

譲二「俺たちだけなら、一生不倫のままでもでもいいと思っていた…。
しかし、子供が出来れば別だ…。生まれて来る子にはなんの罪も無い…。
その子には普通の家庭を用意してやりたい」

春樹「なら、譲二さんが諦めれば済むことじゃないですか?
 戸籍を汚すことも無く、俺たち親子3人で暮らすことができる」

 俺を見つめるハルの目には俺への憎しみが籠っていた。



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 話は結局平行線のままに終わった。

(美緒になんて話そう…)

 やはり…俺が身を引くしか無いのだろうか?

 しかし、今の美緒の精神状態は不安定なままだ…。

 俺と別れてハルのところへ帰らなければならないと思ったら、思い詰めて何をするかわからない。

 無茶をして流産しようとするかもしれない…。



 一抹の不安がよぎる。

 それとも…喜んでハルと元の鞘に収まるだろうか…?

 …とにかく、安定期に入るまでは美緒の気持ちを不安にさせることは避けなければ…。


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 寝室を覗くと美緒はすやすやと眠っていたので、俺はシャワーを浴びて来た。

 パジャマに着替え、美緒の横に潜り込むと美緒は眠たそうに俺にしがみついて来た。

美緒「譲二さん…お帰りなさい…」

譲二「ごめん…。起こしちゃった?」

美緒「ううん。よく寝たから大丈夫だよ…。ハル君はなんて言ってた?」

譲二「うん…。なかなか一筋縄ではいかなかったよ…」

美緒「そう…。やっぱり…」

譲二「でも、また日を改めてお願いしに行こうとは思ってる。きっと悪いようにはならないよ」

美緒「ごめんね。譲二さんばかりに辛いことをさせて…」

譲二「そんなことないよ。俺は美緒が側にいてくれるだけで嬉しいから…」

 俺は美緒の額にキスをした。

譲二「さあ、もうお休み。しばらくこうしてあげるから」

 美緒は大人しく俺にしがみついて目をつぶった。




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 美緒のつわりは日に日にひどくなった。

 量を食べられないばかりか、大抵のものが食べられなくなって、ゼリーのような口当たりのいいものか、小さく切った果物のようなものしか食べようとしない。

 お客がいない時はクロフネのソファーで休ませ、お客が入ると厨房に置いた椅子に座らせるようにした。

 極力1人にはしないようにして、美緒の気分が落ち込まないように気を配った。

 夜は俺に抱いて欲しがった。

 しかし、普通にセックスするわけにもいかないので、キスしたり抱きしめたりして過ごした。

 美緒はまたしても小さな子供のようになっていた。



☆☆☆☆☆

 春樹とはあの後も電話や事務所で話し合ったが平行線なのは変わらなかった。

 俺は慰謝料を払ってでも美緒を離婚させたいと思ったが、それを口に出すことはなかった。

 それを言えば春樹は返って意固地になるだろう…。

 ハルが欲しいのはお金ではなくて美緒なのだから…。


その5へつづく
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決意~その5

〈譲二〉
 美緒の衰弱が激しいので、次の検診日にも俺は付き添った。

美緒「ごめんね。私のためにクロフネをお休みにさせてばかりで…」

譲二「そんなことないよ。今は美緒の体の方が大事なんだから。
それにもう少ししたらつわりは終わるんだろ?」

美緒「だと思うんだけど…。」



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 胎児は順調に育っていたが、美緒の体重の減りがひどく貧血もあったので点滴を受けた。


医師「できれば、入院して一週間ほど安静にした方が安心なのですけどね…」

 しかし、美緒が俺と離れるのを不安がったので、入院はしないで済むように頼んだ。

譲二「家ではなるべく安静にさせますし、消化のよいものを少しずつでも食べさせますから…。
私は妻の側でいつもいることができる仕事なので、体調も気をつけてやることができます。」

医師「そうですか…。ご主人がいつも側にいらっしゃるのなら…まあ大丈夫でしょう。
つわりも今がピークでしょうから徐々に収まって来ると思います。
 戻しても少しはお腹に残りますから、気にせずに食べられるものを食べて下さいね。
脱水になるのが一番怖いですから、水分は必ず取って下さい。
お白湯にレモン汁を絞ったものを入れて飲むのもおすすめです。」

譲二「分かりました。水分の補給には気をつけるようにします」

医師「種村さん、優しいご主人でよかったですね」

 女医さんはにっこりと美緒に微笑んだ。




☆☆☆☆☆

 ネットでつわりの時の食事レシピを検索して、美緒のためのメニューを考えた。

 意外にもサンドイッチを欲しがったので、作ると少しずつだが食べられるようになった。
それでも、時々は戻していたみたいだ。

 美緒のことだけ考え、美緒のためだけに過ごす毎日。

 俺は生き生きと毎日を過ごしていた。
 


☆☆☆☆☆

 美緒のお腹はだんだん目立ってきた。

 2人で買い物に出かけた時など、傍目には幸せそうな夫婦にみえるだろう。

 夕食後2人でくつろいでいる時に美緒が声をあげた。

美緒「あ!」

譲二「どうしたの?」

美緒「今、お腹の赤ちゃんが動いたの。…あ、また」

 美緒は俺の右手を取るとお腹を触らせる。

美緒「ほら!」

譲二「…んー、なんかよくわからないな…」

美緒「もう少し触ってて、…ほら!」

譲二「あ!」

 今度は俺にもわかった。

譲二「本当だ。すごく元気なんだな」

 2人で顔を見合わせて微笑んだ。

 美緒が愛おしくなって、そっと抱きしめた。

 この頃、美緒は母性愛が目覚めて来たようで、とても穏やかな顔をしている。

 そして、妊娠してから以前にも増して美しくなった。

 肌のキメは細かく、つわりのせいでおもやつれした顔は少し上気している。

 お腹の子供ごと美緒を抱きしめながら、この子が俺の子なら言うことは無いのにと思う。

 ああ、こんなことになるなら…もっと以前に無理矢理ハルから奪っておけば良かった…。

 ハルと結婚してしまう前に…。

 後悔してもどうにもならないけど…。


決意~その6~その11へつづく




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