恋、ときどき晴れ

主に『吉祥寺恋色デイズ』の茶倉譲二の妄想小説

話数が多くなった小説は順次、インデックスにまとめてます。

帰港

2014-12-21 09:08:37 | ハル君ルートで茶倉譲二

ハルルートの譲二さんの話の続編
突然クロフネに現れた
ヒロイン。もうハルくんのところへは帰らないという。

☆☆☆☆☆

焦燥~その5~その7の続き




帰港~その1

〈譲二〉
美緒が俺の隣りで眠っている。

あまりの嬉しさに暗闇の中、本当にそこにいるのか、何度もさぐってしまう。

もちろん、美緒はまだ人妻のままだし、ハルは弁護士なのだから、法的な措置をとるなどして、何としても美緒を取り戻そうとしてくるだろう。

先はバラ色とはとても言えないのに、俺の心は湧き上がる喜びで満たされている。

あれから8年、いや9年か…。

美緒が俺の元を去ってから、彼女と一夜を過ごすことはなかった。

もちろんクロフネに戻ってからは彼女と逢瀬を重ねることはあったが、いつも慌ただしい別れが待っていた。

こんな風に美緒が俺の隣りで眠るなんてことはなかった。

あまりの嬉しさに今夜は眠れそうもない。

そして、俺の目からは温かい涙が、滲み出ている。

俺って情けない男だよなぁ。

でも今は、この喜びにただただ浸っていたい。


〈春樹〉
美緒が俺を捨てて、譲二さんの元へ行ってしまった…。

どうして…。

美緒が残した置き手紙をもう一度読み返した。


『大好きなハル君へ

ごめんなさい。本当にごめんなさい。

私がハル君を好きな気持ちは昔も今も変わりません。

それだけは信じてください。

でも、私の心の中にはもう一人の男性が住んでいます。

大学時代にハル君と再会して、ハル君の元へ走った時、私の心に迷いはありませんでした。

ハル君のことが大好きだったからです。

譲二さんのことも好きでしたが、ハル君への気持ちには叶わなかったからです。

今もその選択には間違いはなかったと思っています。

でも、私の心が不安になったり弱まった時、私の心は譲二さんを求めてしまうのです。

私の心が小さく小さく縮こまって、傷ついた動物のようになった時、船が港に帰るように譲二さんの元へ帰りたくなるのです。

一番大好きなのはハル君。私が色々世話をしてあげたいのもハル君。

でも、私が必要としていたのは譲二さんなのです。

そのことについ最近やっと気がついたのです。

我儘を言ってごめんなさい。たくさん傷つけてごめんなさい。

許してくださいとは言いません。

一生恨んでくれて構いません。

でも、私は譲二さんの元へ行きます。

ごめんなさい。
                              美緒』

何度読んでも納得できない。

俺たちが過ごして来た年月はなんだったんだ…。

俺たちが重ねてきた愛には何の意味もなかったのか?!美緒。



〈譲二〉
明け方、少しまどろんでいたようだ。朝の光で目を覚ます。

俺の傍らには愛する美緒が眠っている。確かめるように彼女の髪を優しく撫でた。

夢じゃなかった…。

また、身体の底から喜びが湧き上がってきた。

美緒「…う…うん」

美緒が可愛い声をあげて寝返りを打った。

俺は彼女を背中から抱きしめた。


☆☆☆☆☆

帰港~その2

〈譲二〉
 春樹がクロフネにやってきた。

 覚悟はしていたが、胸の動悸は止まらない。

春樹「譲二さん。美緒と2人だけにしてください。」

 美緒が少し不安げに俺を見た。

 俺は微笑んで少し頷いた。

譲二「俺がいたのではだめなのか?」

春樹「これは俺たち夫婦の問題なんです。譲二さんには関係ない」

譲二「分かった…。ただ美緒ちゃんを責めないで欲しい」

春樹「俺がそんなことをするわけないでしょう」

 そこまで言われては立ち去らないわけにはいかなかった。

 美緒を安心させるため微笑んだ。

譲二「俺は二階にいるから2人の話が終わったら呼んでくれ」



☆☆☆☆☆

 美緒が俺の部屋に来た。

美緒「ハル君が譲二さんと2人で話がしたいって…。私は自分の部屋にいるね」

 美緒の頬には薄っすらと涙の後があった。

俺はそんな美緒を抱きしめて額にキスをすると、階段を降りた。



 ハルがソファーに座ってぼんやりしていた。

譲二「コーヒーでも飲まないか?」

春樹「いいえ、いいです」

譲二「俺が飲みたいから付き合ってくれ」

春樹「それなら…」

 コーヒーをいれ、ハルと自分の前に置いた。

春樹「譲二さん。何て言って、美緒を誘惑したんですか?」

譲二「信じてもらえないかもしれないが、俺から誘惑したわけじゃない」

春樹「…」

譲二「二週間位前、急な仕事でハルが午前様になった日があったろ?」

春樹「どうしてそれを?」

譲二「夜の10時過ぎに美緒ちゃんから電話がかかって来た」

春樹「まさか…あの携帯には俺の番号しか入ってないのに…」

譲二「俺の携帯じゃなくクロフネの電話にかかって来た。
クロフネの番号は語呂合わせになっているから、そらで覚えていたんだろう」

春樹「その時に誘惑したんですか?」

譲二「誘惑なんかしていない。ハルの帰宅が遅くなるというだけで、パニックになってすすり泣いていた。
俺と話しているうちに落ち着いてきたから、もう休むように言っただけだ」

春樹「それだけで、どうして美緒が譲二さんのところに家出するんですか?」

譲二「俺にもわからない…。だが、考えられるとしたらそれしかないんだ。
美緒ちゃんと話してみて、かなり精神的に脆弱になっているなとは思った。
ハルと喧嘩したわけでもなく、ハルが遅くなるのもメールと電話で連絡をもらっていて、それであんなに取り乱していたから…」

春樹「俺が美緒を誰にも会わせないようにして閉じ込めたせいですか?」

譲二「そういうわけでもないと思う。ハルと結婚した直後から美緒ちゃんはかなり不安定だったから」

春樹「俺と結婚したせいとでも言いたいんですか?」

譲二「いや…。俺が美緒ちゃんを諦めきれなかったせいかもしれない。
もっと前にハルを好きな美緒ちゃんを俺が自分のものにしたからかも…」

春樹「…」

譲二「とにかく、俺とお前の間で美緒ちゃんの気持ちが揺れ続けたことで、美緒ちゃんの精神はかなりすり減ってしまったのかもしれない」

春樹「かもしれないばかりじゃないですか…」

譲二「そうだな…。でもとにかく美緒ちゃんは自分から俺のところに来た。
そして、俺のところにいたいと言った。今はかなり落ち着いている…。
そんな美緒ちゃんをハルに引き渡すわけにはいかない」

春樹「…美緒は俺にずっと謝ってました。
そして、手紙でも…さっきも…俺のことが一番好きだといいました」

譲二「…そうだろうな…」

春樹「そんな美緒を諦めることが出来るわけないじゃないですか。
なぜ一番好きな俺ではなく、譲二さんを選ぶんですか?」

譲二「俺にもよくわからない…」


 しばらく沈黙が続いた。


春樹「俺は…美緒の夫であることをやめるつもりはありませんから。
そして、不貞をした側の美緒からは離婚を請求することはできません」

譲二「美緒ちゃんはずっとハルの妻のままなんだな…」

春樹「そういうことになりますね」

譲二「それは…俺に対する復讐なの?」

春樹「そんな風にとってもらってもかまいません。
俺は美緒を諦める気はありませんから…。
譲二さんだって同じでしょう?」

譲二「…ああ」

春樹「だから、その時々に美緒がどちらを選ぶかというだけのことです」

譲二「…いつかまた俺を捨てて、ハルのところにいく日が来ると思ってるんだな…」

春樹「もちろんです」

 春樹は挑戦的な視線を投げると踵を返して出て行った。



☆☆☆☆☆

春樹が去った後、美緒を思い切り抱きしめた。

譲二「本当に俺でいいの?」

美緒「譲二さんでないとだめなの」

譲二「でも、美緒はずっとハルの妻のままなんだよ…。」

美緒「うん…」

譲二「だから…、俺たちの子供は欲しくても持つことができないんだよ…」

美緒「それでもいい…」

譲二「今は良くても、年取った時に寂しくなるよ」

美緒「譲二さんは嫌なの?」

譲二「俺は…、美緒がいてくれるなら子供を持てなくても構わない。
美緒が来てくれなくても一生結婚しないつもりだったし…」

美緒「それなら、私も大丈夫…」

譲二「美緒……もし年取って子供がいなくて寂しくて、誰かを恨みたくなったら…、俺を恨むんだよ」

美緒「譲二さん!」

譲二「一番初めに種をまいたのは俺なんだから…」



 何年も夢見て来た愛する人を両手で抱きしめるのはなんと甘美なことだろう。

 しかし、その甘さには一握りの苦みがまじっている。


『帰港』おわり

続きは『決意』~その1~その5です。



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