恋、ときどき晴れ

主に『吉祥寺恋色デイズ』の茶倉譲二の妄想小説

話数が多くなった小説は順次、インデックスにまとめてます。

ハル~その1~その4

2015-01-20 08:42:09 | ハル君ルートで茶倉譲二

ハルくんルートの譲二さんの話も大詰め、一気にいくよ~(^O^)/


ハルくんから離婚届が送られて来て、ヒロインは自由の身に…。

出産も近づき、クロフネで二人だけの静かな時を過ごしている。
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決意~その11の続き


ハル~その1

〈譲二〉

ハルから電話がかかって来た。

少し時間を取れないかという。

美緒が不安がるので、夜間に家を留守にはしたくない。

昼間の時間帯でもいいかと聞くと構わないというので、翌日の2時頃にハルの事務所を尋ねることにした。

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奥の応接室に通される。

事務員さんがお茶を出してくれた。

事務員さんが出て行くとハルと2人になった。

譲二「先日は離婚届をありがとう。こちらの我がままで申し訳なかった」

春樹「お礼を言われる筋合いはありません。美緒が俺を好きではないという以上、名目だけの結婚を継続する意味はないですから」

 相変わらず、取りつく島もない対応だ。ま、仕方が無いが…。

譲二「それで…。俺に話というのは?」

春樹「譲二さん…。美緒のお腹の子のことですが、もし俺の子だということがわかっても大切に育ててくれますか?」

譲二「もちろんだ。そのために美緒と結婚して育てていこうと思ったんだから。それにたぶんお前の子の可能性の方が高い…」

春樹「それを聞いて、安心しました。自分の子かも知れない子が不幸になるのは見たくないですからね。」

譲二「話というのは…それだけ?」

春樹「いえ、ここからが本題です。美緒とはいつ結婚するつもりですか?」

譲二「女性は離婚後6ヶ月は結婚できないだろう?」

春樹「通常の場合でしたらね」

譲二「通常の場合…?」

春樹「これは民法733条第1項によるもので、離婚後に生まれて来る子がどちらの父親の子か不明になるのを防ぐための規定です。
同じ民法733条の第2項には『女が前婚の解消又は取消しの前から懐胎していた場合には、その出産の日から、前項の規定を適用しない。』とあります。」

譲二「というと?」

春樹「つまり、美緒は俺と離婚前に妊娠していたので、法律上お腹の子は俺の子と推定されます」

譲二「…ああ」

春樹「だから父親が不明になることはないので、6ヶ月の再婚禁止期間を置くこと無く、子供の出産と同時に結婚することができるということです」

譲二「そうなのか?」

春樹「ただし、生まれた子は出生の届け出と同時に俺の籍に入ります」

譲二「そうか」

 俺は少し落胆した。やはりそれはどうしようもないのか…。

春樹「子供が生まれたら…、俺は嫡出否認の訴えをおこそうと思っています」

譲二「それは?」

春樹「さっきも言ったように子供は自動的に俺の籍に入るので、譲二さんが自分の子として認知するためには、俺の嫡出子ではないということにしないといけないわけです」

譲二「そうなんだ」

春樹「ただ、あくまでも訴えなので、家裁で調停をしてということになります。」

譲二「長くかかるの?」

春樹「ようは話し合いですから、そんなに長くはかからないでしょう。
それが認められれば、俺の戸籍からは子供の名前が消されますし、その後は譲二さんたちの好きなように認知するなり、養子にするなりしてください。
それは弁護士に相談してください。ただし、俺に相談するのはやめてください」

譲二「わかった。ありがとう」

春樹「話はそれだけです」

譲二「ハル、俺たちはハルにひどいことをしたのに、ありがとう」

春樹「譲二さんのためではないです。美緒が少しでも苦しまずにすむならとアドバイスをしただけですから」

譲二「ああ。それと…ハル、本当にすまなかった」

 俺は頭を深々と下げた。

春樹「今更譲二さんに謝ってもらっても仕方が無いです。美緒は帰って来ないんですから」

譲二「今のことだけじゃない。俺が謝らなければならないのは、ずっと昔のことだ。
ハルと好きあっていた美緒を無理やりに自分のものにしてしまった。
それに、美緒が不審者に襲われた時はハルに助けてもらったのに、そのお礼も言ってなかった」

春樹「美緒を助けたのは俺が助けたかったからで、譲二さんにお礼を言われる筋合いはないです。
そして…、譲二さんが美緒を恋人にしたことは、俺に謝る必要なんか無いでしょう? 
あの時、俺と美緒は恋人でもなんでもなかったんですから…。
むしろ、恋人同士だった譲二さんから俺は美緒を奪ったわけで、俺の方が謝るべきなんでしょう。
ただ、今の俺はとても譲二さんに謝る気にはなれませんが…」

譲二「ハルは…謝る必要なんかないよ…。
俺が告白なんかしなければ、お前たちはすんなり恋人になっていたはずなんだから…。
でも、もう一度あの時に戻っても俺は同じことをするだろうと思う。
美緒だけは…誰にも譲れないんだ…。すまない」

春樹がため息をついた。

春樹「もう一度戻れるなら、俺も初めの時点で譲二さんから美緒を奪っています」

俺はもう一度頭を下げた。

譲二「本当にすまなかった…」


 俺には今のハルの気持ちが痛いほどわかった。

というより、今のハルが苦しんでいるそのままの気持ちと俺は9年間過ごして来たのだ。

そして、今のハルも昔の俺の気持ちを理解してくれているのだということが、わかった。

 以前は俺を見る目にいつも憎しみが籠っていたのに、今のハルの視線からそれは無くなり、ただ哀れむような悲しみだけを感じた。

 俺たちは美緒を中に挟んだライバルだが、同志でもあった。


その2へつづく


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ハル~その2

〈譲二〉

 40週をまたず、39週で無事に男の子が生まれた。

3,050g、特に異常もなく、初産にしては安産だった。

 美緒は何時間も続いた陣痛で疲れていたが、俺の顔を見るとニッコリ微笑んだ。

美緒「赤ちゃんには会った?」

譲二「いや、まだだよ。お疲れさま。頑張ったね」

美緒「男の子だったよ」

譲二「うん。譲(ゆずる)だね」

美緒「看護師さんが産湯で奇麗にして見せてくれたんだけど、譲二さんにそっくりだったよ!やっぱり譲二さんの子だと思った」

譲二「…そうなんだ」

 赤ん坊の顔をみて、そんなにすぐにわかるものなんだろうか?

 その時看護師さんが譲を連れて来た。

看護師「お腹が空いてるみたいなのよ。お白湯じゃ満足できないみたいだから…。おっぱいをあげてみましょうね」

 譲は新生児にしては黒々とした髪を持っていた。

 目はつぶったままで、顔はシワシワで小猿のようだ。

 美緒がいうように俺にそっくりかどうかはよくわからない。

 看護師さんに補助されながら、譲を抱いて美緒はぎこちなく乳を含ませている。

 親子とも新米でなかなか上手くはいかないようだ。


☆☆☆☆☆

 


 新生児室の窓から見えるようにベッドが置かれ、赤ん坊たちが並んでいる。

 譲はさっきのおっぱいとの格闘で疲れたのかスヤスヤと眠っている。

 美緒が言うには目と鼻の辺りが俺似だというのだが…。

(そう言えば…まだ譲の目は見ていないな)

 もう一度、譲を覗き込んで美緒の病室に行った。


美緒「譲二さん」

譲二「お疲れ様。譲の出生届けを出して来たよ…。俺たちの婚姻届も…」

美緒「ありがとう」

譲二「だからね。俺たちの結婚記念日は譲の誕生日と同じ日なんだ」

美緒「なんだか…嬉しい」

譲二「絶対に忘れない日だね」

美緒「でも、譲はまだ種村譲なんだね」

譲二「ああ。でも、ハルにも連絡したから、ハルは『嫡出否認の訴え』というのをしてくれると思う。調停して認められれば、俺が譲を認知するから…」

美緒「うん」

譲二「もう少しだよ…。もう少しで親子3人一緒になれるから…」

 
 そっと美緒を抱きしめた。

 
譲二「そうだ、前に言っていた美緒の『賭け』というのをそろそろ教えてくれる?」

 美緒はにっこり笑った。

 

譲二「もしかして…、賭けには勝ったの?」

美緒「そうだよ。あのね、生まれて来る子が男の子なら譲二さんの子で、生まれて来る子が女の子ならハル君の子という賭けだったの」

 

 美緒は嬉しそうだが、俺は絶句した。


…それで、譲は俺にそっくりだなんて言っていたのか…。

 
美緒「だから、譲は譲二さんの子供なんだよ」

 

美緒はキラキラした瞳で俺を見つめた。

 


その3へつづく


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ハル~その3

〈譲二〉

 あれから1年が経った。

 今日、譲(ゆずる)……ユズは1歳の誕生日を迎えた。

 今日は俺と美緒の結婚記念日でもある。

 あの後、調停ではDNA鑑定をすることになり、冷や汗をかいた。

が、結局ユズは俺の子供だった。

美緒の賭けは本当に勝ったのだった。


 ユズをベビーカーに乗せて3人で散歩しているときなど、知らない中年女性から「僕は本当にパパそっくりね」などと声をかけられることがよくある。

 俺は半信半疑だったが、自分の小さい頃のアルバムの写真と比べてみると、確かにユズは俺とよく似ていると認めざるを得なかった。



 出産後、医者からの許しもあって、夜の生活をするようになったが、以前と同じという訳にはいかなかった。

 ユズは夜中にしょっちゅう泣くし、俺たちがいい感じになっている時にユズに邪魔されることもしばしばだった。

 美緒が一番好きな男が『俺』という期間は本当に短かった。

今は強力なライバルの出現に戸惑いつつも幸せを感じている。


 ユズはつかまり立ちで立ちたがり、2本の足でしっかり立つことも増えたから、歩き出すのも間もなくのことだろう。

 


 

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 今日はクロフネを昼までで閉めて、3人のお祝いの準備をしている。

 一護からはユズの誕生日のケーキが届けられた。

『ユズくん、一歳のおたんじょうびおめでとう』の文字が書かれている。


美緒「あれ、結婚記念日のプレートも頼んだんだけど…」


美緒はケーキの箱を覗き込んで探している。


譲二「一護はそんなことを認めたくないから、わざと忘れたんだろう」


俺は苦笑した。

 

美緒「そんなー。あんなに確認したのに…」

譲二「プレートなんかどうでもいいよ…。それより、俺はこっちの方が…」

 


 美緒を抱き寄せてキスをする。

 

深くて長いキスに、ユズから抗議の声があがった。

 

その4へつづく

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ヒロインは男の子を出産し、譲(ゆずる)と名付けられた。

 

それから1年。

 

今日はユズの誕生日で、二人の結婚記念日。

 


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ハル~その4

〈譲二〉

 
 料理を並べていると、チャイムが鳴った。


譲二「すみません。今日は午後から臨時休業なので…」

 
 俺は絶句して固まってしまった。

 一護にタケ、リュウにりっちゃん、そしてハルまでが酒瓶やジュース、オードブルの包みなど下げて入って来た。


りっちゃんが天使のような微笑みを浮かべて言う。

理人「マスターにばかり料理させるのは申し訳ないから、自分たちの飲み食いするものは全部持って来たよ」

剛史「だから、お構いなく」

一護「ケーキも追加を持って来たぞ」

竜蔵「やあ、ユズ。4、5日見ないうちに大きくなったな」

 


 リュウが大好きなユズは這ってリュウのところに行こうとして、リュウにすぐに抱き上げられた。

ハルは居心地悪そうな顔をしている。

 

春樹「俺まで…無理に連れて来られて…すみません」

譲二「謝ること無いじゃないか…。さあ、座って…」

 

 2週間に一回くらいはどのメンバーもクロフネに顔を出していてくれたが、ハルは最後の調停で会ったきりだった。

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 親子3人でお祝いするつもりが、結局古馴染みの大宴会になってしまった。

 途中でぐずり始めたユズを連れて美緒は二階に上がった。

 ユズを寝かしつけているうちに美緒も眠ってしまって…、きっと今日も生還は無理だろう。

 後は男だけの飲み会になる。

 

理人「マスターはずるいよね。結局美緒ちゃんを自分のものにするし、ユズくんみたいな可愛い子まで生まれて」

剛史「マスターの粘さは、誰にも負けないな」

 
(ああ、ひどい言われようだ…)

 

一護「ハル、リベンジはないのか?」

春樹「勘弁してくれよ。やっと古傷が塞がりかけているのに…」

竜蔵「ジョージもハルも長期バトルだったなあ」

理人「僕はまだ、エントリーしてもいいよ」

一護「エロガキは相変わらずだな…」

理人「いっちゃんだって、諦めては無いくせに…」

 
たまり兼ねた俺は声をあげた。

 

譲二「おいおい、俺を前にしてそういうのはもう止めてくれ…」

 

 後はそれぞれが近況の交換をしはじめた。

 俺は酒の追加を持って、ハルの隣にそっと座った。

 

譲二「調停の時には色々とありがとう」

春樹「DNAを調べたら、ユズくんは俺の子供という結果がでるかと思ったのに…譲二さんには完敗です」

譲二「本当にすまなかった…」

春樹「前も言ったけど、譲二さんが謝る必要なんか無いですよ…。俺も同じ穴の狢だ…」

譲二「厚かましいようだけど…、ハルが…ハルが平気だったら…またこんな風にクロフネに訪ねて来て欲しい」

春樹「譲二さんが留守の時に美緒にちょっかいを出すかもしれませんよ?」

譲二「それは…困るが…。何のわだかまりも無しにというのが無理なのは分かってる。でも、俺はハルとも話がしたいなと思うことが時々あるんだ」

春樹「…」

譲二「10年前は俺たちは年の差があって、お前らを見守るような気持ちで接していたけど…。
今はお前らはみんな立派な大人になっていて、ともすれば俺よりも出来た部分がたくさんある。
それでなんだか古馴染みの友人という気がしてる。
あいつらとそんな風に話している時、『ああ、ここにハルがいたらなぁ』と思わずにはいられないんだ…」

春樹「俺のことを怒ってないんですか?」

譲二「えっ?どうして?怒るとしたら…ハルの方だろ?」

春樹「俺はもう吹っ切れました…」

 

 しかし、ハルが決して吹っ切れていないのは…俺にはよくわかる。

 

譲二「…吹っ切れたのなら、また顔を見せに来てくれ…。

みんなとだけでなく…1人だけでもな…」

春樹「!」

 

 ハルが驚いた顔で俺を見つめた。

 

春樹「いいんですか?」

譲二「ああ…、俺は…、お前と話をしたいとずっと思ってた」

 

 言葉を切って、ビールを飲み干すと俺は言った。

 

譲二「昔みたいにな…」

春樹「…」

 

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 それから春樹は時々訪ねて来るようになった。

 みんなとだけでなく、1人だけでも。

 そして、そんな時には俺と夜遅くまで酒を酌み交わすようになった。

 そう、俺とハルの間には奇妙な友情が育まれつつあった。

 


ハル~その5~その7へつづく





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