墨工房日記

墨職人の楽しみながらの、奮闘記

墨はいい加減が大事

2007年12月08日 | Weblog
以前、俳優の松村雄基さんが当工房で墨作りを体験しました。

その時、3種の墨を作りましたが、その中の1つに

“”清く、正しく、いい加減 に“”

なる文を木型に彫り、墨を作りました。
所属事務所のモットーだそうで・・


いいかげん??
聞き返すと~~
良い、かげんです。とのことでした。

“”清く、正しく、良い加減に“”

墨についてこの標語を考えるとおもしろいです。
清く、正しくは当たり前として・・

~いいかげん(良いサジ加減)~~が問題です。

墨は、煤と膠でできています。
煤すなわち炭素ですが、その炭素にはイロイロの種類があります。

しかし、製法、原料、・・・・ナドナド異なっても・・どんな炭素でも、おそらく墨になりますが。

品質では一番“ 清く、正しく、加減無し ”はカーボンです
"加減なし”です!!

カーボンとは身近ではコピー機のトナーなどに使われており、
大会社が年間何百万トンも作っており、安価で、均一で簡単に手に入ります。

カーボンが主に使われる用途に、タイヤがあります。
タイヤ?? そう、車のタイヤです。

車のタイヤはゴムでできていますが、色が黒いでしょう・・
ゴムにカーボンを混ぜると、強度が飛躍的に強まります、
このために、カーボンを混ぜるので、タイヤは黒いのです。

どのタイヤも安定して、一定の基準で作るためには混入するカーボンの基準はミクロ単位で均一が求められます。すなわち、同じものです。
このカーボンはどこまでも黒く、物性も均一です。

ところで、

墨は和紙に書くとなぜ?滲むのでしょう??

それは、和紙がミクロの世界では何枚もの網目の異なる網からできており、
そこを、膠に包まれた、炭素の粒子(墨汁)が通る、

大きい粒子は手前の大き目の網に掛かり、小さい粒子は先にあるより小さい目の網に掛かる、・・・・・そして最後は一番小さい粒子が掛かった後は・・もう何も煤系がないので、水だけが広がっていきます。

墨で線を描くと筆に近いところから遠のくにしたがい、だんだん薄くなり、最後は水のみが広がります。

このことから、仮に炭素の粒子が均一だと、一定のところの網の目でみんなストップ!!単調な滲みになります。

逆に、バラバラの大きさの粒子が多いほど、いろいろの網目を潜り抜け、
複雑に広がり、ニジミが複雑で、おもしろくなります。

 松煙墨の滲み 赤っぽいのは写真の為
松煙は木を燃やしますので、木の焚き始めは炎が大きく、燃え終わるころは小さくなり、これを繰り返して煤を作ります。


さらに、木は均一ではありませんし、油分以外の木の燃えた灰が入ります。
このために煤の粒子はかなりバラバラになります。

おまけに、煤以外のわけの解らない色が付きます。
これが、松煙墨のにじみのおもしろさです。そして複雑な墨色!!
松煙はタイヤの世界では、とんでもない不良品ですが、

墨の世界では
“清く、正しく、良い加減!!”と言うところです。

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