気まぐれ翻訳帖

ネットでみつけた興味深い文章を翻訳、紹介します。内容はメディア、ジャーナリズム、政治、経済、ユーモアエッセイなど。

ウィキリークスの攻勢・1-----アサンジ氏へのインタビュー

2015年11月22日 | メディア、ジャーナリズム

今回は、以前の「ウィキリークスは死なず」、「ウィキリークスは死なず・2」と同様に、ウィキリークスの創設者ジュリアン・アサンジ氏に対するインタビューを訳出しました。

7月20日に掲載されたもので、私の方の時間がとれず、ずいぶん遅くなりましたが、訳出しておくべき価値はあると思います。

インタビューをおこなったのはドイツの代表的週刊誌『シュピーゲル』誌。
けっこう長いものなので、3回に分けてアップすることにし、まずは1回目です。

1回目の部分の主な話題は、
・最近の文書公開の波
・ウィキリークスが直面した困難
・ウィキリークスの新しい送信システム
・米国政府の対応
・ウィキリークスとメディアの関係
・現代のジャーナリストの実情
・ウィキリークスと学術界
などです。


原文(私が依拠した、転載先の『Znet』誌のサイト)はこちら↓
https://zcomm.org/znetarticle/we-are-drowning-in-material/


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‘We Are Drowning in Material’
(「ウィキリークスは今、情報素材の海でおぼれかけています」)


By Julian Assange
ジュリアン・アサンジ


初出: シュピーゲル・オンライン・インターナショナル
2015年7月20日


シュピーゲル誌
アサンジさん、ウィキリークスは最近、復活をはたし、さまざまな文書を公開しています。それによって、米国がフランス政府を盗聴していたことが明らかになりました。サウジアラビアの外交公電も公表しました。ドイツ政府に対する米国の諜報機関の大規模な盗聴行為の証拠も示しました。このような復活をはたせた理由はいかなるものでしょうか。

アサンジ
そう、ウィキリークスはこの2、3ヶ月で数多くの文書を公開しました。これまでにもずっとそうしてきた通りです。しかし、それらはすべてが欧米や欧米のメディアにかかわりのある文書というわけではありませんでした。たとえば、シリアに関する文書などです。ただ、皆さんに考慮していただきたいのは、ウィキリークスが米国政府と対立する面があったし、現在もあるという点です。対立は2010年に深刻になりました。ウィキリークスが米国の機密文書を数々公開し始めてからです。

シュピーゲル誌
あなたやウィキリークスにとって、それはどんな意味を持ったのでしょう。

アサンジ
結果として、数々の法廷闘争、経済封鎖、広報戦略面の攻撃などに直面しました。銀行口座の封鎖のためにウィキリークスは財源の90パーセント以上を絶たれました。それはまったく超法規的なやり方でおこなわれたのです。それで、私たちは法的措置に踏み切り、裁判で勝利を勝ち取りました。今ではふたたび寄付金の口座ふり込みが可能になっています。

シュピーゲル誌
どのような困難を乗り越えなければならなかったのですか。

アサンジ
技術的なインフラに複数回の攻撃を受けました。スタッフは40パーセントの報酬カットを余儀なくされました。けれども、誰ひとり辞めてもらう状況には追い込まれずに活動を続けることができています。私としては非常にほこらしい気持ちです。私たちは多少キューバみたいになったのです。経済封鎖を回避する方策をあれこれ探りました。封鎖の間は、ドイツのワウ・ホランド財団を初めとするさまざまな団体が私たちのために寄付金を受けつけてくれました。

シュピーゲル誌
獲得した寄付金はどのようにお使いになったのですか。

アサンジ
寄付金のおかげで新たなインフラ構築の費用がまかなえました。これは必要なことだったのです。NSAにかかわる文書を公開し始めてからすでに20年近くになります。ですから、NSAやGCHQ(訳注1)の大規模な盗聴活動についてはよくわかっていました。私たちの情報源を守るためには次世代の送信システムが不可欠だったのです。

(訳注1: GCHQは「英政府通信本部」等と訳される、イギリスの諜報機関)


シュピーゲル誌
それは今はもう稼動しているのですか。

アサンジ
そうです。数ヶ月前に次世代の送信システムを構築し、公開用の文書をそれに組み込みました。

シュピーゲル誌
では、近々、また文書が公開されるわけですか。

アサンジ
ウィキリークスは今、情報素材の海でおぼれかけています。経済的な観点から言えば、ウィキリークスの課題はあつかう情報量に見合うような実入りを増やせるかどうかです。

シュピーゲル誌
9年前、ウィキリークスが発足した際、そのウェブサイトにはこう書かれていました。「目指すものは社会正義、手段は透明性」、と。これは18世紀に登場した啓蒙主義のおなじみの考え方です。しかし、残虐な政府、冷酷非情な大企業を目の当たりにすると、このスローガンはあまりに理想主義的に感じられないでしょうか。「透明性」でこと足りるでしょうか。

アサンジ
正直に言うと、私は「透明性」という言葉は好きではありません。ガラスは透明ですが、冷たくて、生命を持ちません。私の好みは「教育」もしくは「理解」です。こちらの方がより人間的です。

シュピーゲル誌
ウィキリークスのおこなっていることには変化があったように思えます。最初は機密文書を公開するだけでした。最近では、文書をめぐる背景事情も提示しておられます。

アサンジ
それはこれまでもおこなってきたことです。私自身も解説を数千ページ分書いています。ウィキリークスは、世界でもっとも不当なあつかいを受けた文書群の一大保管庫です。私たちはこれらの文書に避難所を提供し、それらを分析し、流布し、さらに多くの文書を入手しようとします。今ではウィキリークスには1000万点を超える文書とその解説文が収められています。

シュピーゲル誌
米国政府や米軍の職員は、いまだに規則上、ウィキリークスの所蔵文書の利用を禁じられているのですか。

アサンジ
米国政府の一部の機関ではウィキリークスはいまだにご法度です。ファイアウォール(訳注2)が設けられています。連邦政府の職員や請負業者は全員、電子メールが送付され、ウィキリークス由来の文書-----ニューヨーク・タイムズ紙のサイトに掲載されたものも含め-----を読んだ者は即刻これを自分のコンピューターから削除し、事情を報告しなければならないと通知されました。けがれを洗い流し、罪を告白しなければならないというわけです。これは新たな「赤狩り」と言ってよい過剰反応です。

(訳注2: 外部からの攻撃や不正なアクセスからネットワークやコンピューターを防御するためのソフトウェア、機器、システムなどのこと)


シュピーゲル誌
ウィキリークスのサイトの閲覧者については何かご存知ですか。

アサンジ
大して知りません。スパイ活動をおこなっているわけではありませんから。けれども、閲覧者の大多数がインド、次に僅差でアメリカの人々ということは知っています。それから、人物について調べる目的でサイトを訪れる人がかなりの数にのぼります。妹が結婚することになっていて、その婿となる人物を調べたい人とか。あるいは、ビジネス上の取り引きを協議している最中で、将来の取引先となるかもしれない相手、担当窓口となる政府職員、等々について何か情報がほしい人などです。

シュピーゲル誌
これまでの活動の間に、ジャーナリストやメディアと協力するやり方について、何か変化はありましたか。

アサンジ
今では、以前よりはるかに多くの契約を取り交わしています。

シュピーゲル誌
それはどうしてでしょう。

アサンジ
あまり喜ばしくない経験を多少したからです-----主にこのロンドンで。ウィキリークスは今では世界中で100以上のメディア機関と契約を結んでいます。それで、世界のメディアに関して類のない視点を獲得しています。私たちはさまざまなジャーナリスト組織とメディア機関を異なったレベルで組み合わせ、公開する情報の衝撃度を最大限に高めようとしています。これまでに西ヨーロッパ、アメリカ、インド、アラブ世界のそれぞれのメディアと6年にわたってかかわり、同一の情報に関して彼らがそれをどうあつかうかを見守ってきました。その結果は信じがたいほど相違がありました。

シュピーゲル誌
エドワード・スノーデン氏はこう言っていますね。多くのジャーナリストが自分の文書を基に刺激的な記事を書いた。けれども、自分のことを本当に心配し、香港から脱する手助けをしてくれた組織はウィキリークスだけだった、と。

アサンジ
報道機関の大半は情報源を見捨ててしまいます。彼らはスノーデン氏を香港で見限りました-----特に『ガーディアン』紙は。同紙は独占的にスノーデン氏の話を掲載していたのですが。一方、私たちはこう考えました。スノーデン氏のような貴重な情報源が囚われの身とならないことこそが重要である、と。もしそうなっていたら、これから名乗り出ようとする人々を著しくひるませてしまうことになったでしょう。

シュピーゲル誌
確かに他の情報源の人々にとっては抑止力となっていたでしょうね。ただ、大半のジャーナリストは自分が自主独立的、客観的であると強く唱えています。また、自分は政治活動家ではないと好んで念を押します。

アサンジ
彼らのふるまいが示しているのは、彼らが現行のあり方を擁護するために働く人間だということです。

シュピーゲル誌
これまでに、ジャーナリストで、複雑な問題を追究し、的を射た分析を提供すべく努力しているような人物には出会わなかったのですか。

アサンジ
英国のさまざまな分野で、ジャーナリズムとはアマチュアの紳士が従事する仕事でした。アマチュアであることを彼らの一部はほこりにさえ思っています。しかし、その質は、諜報機関のそれと肩をならべることはできません-----諜報機関の大部分がたとえ腐敗と無能力に著しく侵食されているとしても。しかし、彼らアマチュアのジャーナリストたちでも、専門家の仕事についての理想のイメージは持っています。今、情報源の人物を守るためには、極度の慎重さと専門家意識が必要です。

シュピーゲル誌
10月に『ウィキリークス・ファイル-----アメリカ帝国から見た世界』というタイトルの書籍が刊行されると聞いています(訳注3)。そして、その序文をあなたがお書きになった、と。その意図としては、ウィキリークスが公開する文書を理解するために必要な文脈や分析、あるいは、支配的な言説と異なる解釈、等々を提示しようということでしょうか。

(訳注3: 現在すでに出版されています。原タイトルは『The WikiLeaks Files - The World According to US Empire』で、アマゾン、楽天その他で注文できます)


アサンジ
おおざっぱに申しますと、大局的な理解が欠けているのです。それはメディアの商業主義、ニュースを次々と提供しなければならない事情と関連しています。しかし、この点について私はメディアを責めようとは思いません。学術界の方は、現代の地政学上の展開とテクノロジーの発展、そして、この2つの分野の重なり具合を理解することにほとんど貢献できていません。ウィキリークスは米国政府とあからさまに衝突しています。それは今も続いていますし、多くの若者がこれにかかわっています。彼らは突如インターネットが政治と地政学の生起する場所であることを悟るのです。インターネットは学校で起こったことをあれこれおしゃべりするだけの場所ではなかったというわけです。ですが、進み出てこういうことの意味を解明してくれるような若手の教授はいったいどこに見出せるのでしょう。現代の権力がどのように行使されるかを究明しようとする、新しいミシェル・フーコーはどこにいるのでしょう。おかしなことに、秀逸な論評をいくつか書いているのは言語学者であるノーム・チョムスキー氏です。ですが、同氏はもう86という高齢です。

シュピーゲル誌
たぶん若い教授などはこのテーマをあつかうと自分の経歴に不利に働くと思っているのでしょう。なにしろひどく物議をかもす話題ですから。

アサンジ
その通りです。これはもともと物議をかもす性質をそなえています。ですがまた、主要な諜報機関相互の結びつきは、現代の世界を形成している大きな要素のひとつです。それは経済以外の国家間の関係のかなめを成しています。私は今、学術界、国際関係をあつかっている一部の学術界について非常な懸念を抱いています。ウィキリークスはこれまでに200万点を超える外交公電を公開しました。国際関係に関する一次資料の単一の保管庫としては世界最大であり、しかもすべてが検索可能です。いわば、ウィキリークスは国際関係を調べる上での大砲、重火器。傑出した存在です。そして、いくつかの研究がスペイン語あるいはアジアの言語で発表されています。しかし、アメリカやイギリスの専門誌の実情はどうでしょう。これには現実的な説明ができます。つまり、これらの専門誌は米国国務省に職を得るための予備校として機能しているのです。国際関係に関する5つの主要専門誌を発行している米国団体、つまりISA(訳注4)は、ウィキリークス所蔵の文書を利用した論文を受理しないという方針を、低い声ではあるものの公式に謳っています。

(訳注4: 「国際関係学会」のこと。原語は International Studies Association。米国とカナダの研究者による国際関係論・国際政治学の学会です)


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取りあえず今回はここまでです。



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