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気まぐれ翻訳帖

ネットでみつけた興味深い文章を翻訳、紹介します。内容はメディア、ジャーナリズム、政治、経済、ユーモアエッセイなど。

核をめぐる嘘と守られなかった約束

2020年02月06日 | 国際政治

ご無沙汰しております。
体調その他の事情で、今回も短い文章です。

内容は核の問題。
問題点その他が簡潔にまとめられているようなので、勉強になると思って訳出してみました。その方面の常識を備えている方には、目新しい点はまったくないかもしれません。

原題は
Nuclear Lies & Broken Promises
(核をめぐる嘘と守られなかった約束)

書き手は、Conn Hallinan(コン・ハリナン)氏。
同氏はジャーナリスト、外交評論家。また、カリフォルニア大学サンタクルーズ校でジャーナリズムについて教えている方らしい。

初出は氏自身のブログ『ディスパッチ・フロム・ジ・エッジ(周縁からの短信)』。

原文サイトはこちら↓
https://zcomm.org/znetarticle/nuclear-lies-broken-promises/

(例によって、訳出は読みやすさを心がけ、同じ理由で、頻繁に改行をおこなった)


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Nuclear Lies & Broken Promises
核をめぐる嘘と守られなかった約束


By Conn Hallinan
コン・ハリナン

2019年11月25日
初出: 『ディスパッチ・フロム・ジ・エッジ(周縁からの短信)』ブログ


トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は、9月4日に開かれたトルコ東部の都市シヴァスでの経済会合において、政府が核兵器の開発を検討中であることを明らかにした。
大統領がこう発言したのは「守られなかった約束」への対応にほかならなかった。

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、核開発計画に関しイラン政府が嘘をついていると非難したが、そう発言した時、同首相は核兵器開発の歴史において、最大級の欺瞞を隠していたのだ。

アメリカ国民の圧倒的多数もまた、この問題に関して真実にふれる手がかりを持っていない。

1979年9月22日の早朝、米国のある人工衛星が南アフリカ沖インド洋のプリンス・エドワード諸島付近で「二重の閃光」を感知した。「ヴェラ5B」と呼ばれるこの人工衛星は、「バングメーター」なる機器を搭載しており、その使途は核爆発の感知である。1963年の部分的核実験禁止条約の調印を受けて打ち上げられたこの「ヴェラ5B」は、この条約の遵守状況を監視する役割をになっていた。条約は大気圏内、宇宙空間、水中における核爆発をともなう核兵器実験を禁止している。

核爆発は特異な足跡を残す。爆発の際にまず最初の閃光を発し、火球が拡大するが、数ミリ秒のうちにその温度は低下し、2度目の閃光を放つ。

「そのように2つの頂を発生させる閃光は自然界には存在しません」とヴィクター・ギリンスキー氏は語る。
同氏はかつて米原子力規制委員会の委員をつとめ、米国有数のシンクタンク、ランド・コーポレーション(ランド研究所)に所属していた物理学者である。
「2つの頂の間隔によって核爆発の放出エネルギーの量、すなわち核威力、の規模を推定することができます」。

核実験をおこなった国はどこかに関し、疑問の余地はほとんどない。
プリンス・エドワード諸島は南アフリカ共和国の領地である。そして、同国が核兵器開発のための研究は進めていたが、まだ保有するには至っていないことは米国の諜報機関の了解事項であった。一方、イスラエルは核を保有しており、イスラエルと南アフリカ共和国は軍事面で親密な協力関係を築いている。つまり、実験に使われたのはイスラエル製の兵器であったとほぼ断言してよい。むろん、同国政府はそれを否定したけれども。

「ヴェラ5B」が「二重の閃光」を捕捉した後、数週間のうちに、核実験実施を示す明らかな証拠が浮上した。
南大西洋のアセンション島近くの水中聴音装置のデータ、および、オーストラリアの羊における放射性ヨウ素131の濃度の急上昇などである(ヨウ素131は自然界では-----言い換えれば、人為的な核分裂によるほかは-----生成しない)。

しかし、核実験のタイミングはカーター大統領にとって不都合だった。再選に向けてのキャンペーンに本腰を入れ始めた矢先のことだったのだ。キャンペーンの軸はイスラエルとエジプトの和平協定だった。

イスラエルがもし部分的核実験禁止条約、さらにまた、武器輸出管理法に対する1977年のグレン修正条項に違反していると判断されたならば、米国はイスラエルへの武器売却をいっさい停止し、きびしい制裁措置を課さなければならなくなる。
違反の認定が選挙におよぼす影響をカーターはおそれた。選挙運動でかかげた政策綱領の中核は軍縮と核不拡散をめぐるものだったからである。

かくてカーターは、事件を調査するのではなく隠蔽することを役目とした、専門家から成る組織をあわてて発足させた。すなわち、ルイナ委員会である。
彼らは「流星塵」などを持ち出し、苦しい解釈を提示した。しかし、メディアはそれを受け入れ、自然のなりゆきとして、アメリカ国民もまたそれにならった。

けれども、核物理学者たちにしてみれば、ルイナ委員会が煙幕を張ろうとしていたことは明らかだったし、証拠は議論の余地がなかった。
つまり、核爆弾はプリンス・エドワード島とマリオン島の間の洋上に停留したハシケで爆発させられたのである(念のため、申し添えておくと、このプリンス・エドワード島をカナダの同名の島と混同してはならない)。核威力は3~4キロトンと見積もられている。CIAの極秘の専門家委員会も同様の見解であるが、ただし、核威力は1.5~2キロトンと推定している。ちなみに、広島に投下された原爆の核威力は15キロトンであった。

また、イスラエルがなにゆえこのような冒険に手を出したのかも判然としている。
同国は広島型の核分裂爆弾(原子爆弾)はふんだんに所有している一方で、熱核爆弾-----すなわち水素爆弾-----の開発・製造も推し進めていた。前者は取り扱いが容易であるが、後者はそれがむずかしく、実験が不可欠であった。
「ヴェラ5B」が核実験のしるしを感知したのはまったくの偶然であった。この人工衛星はすでにお役御免となっていたのだ。が、「バングメーター」はまだ機能を停止していなかった。

カーター大統領以後、米国大統領は一人の例外もなく、イスラエルが1963年の部分的核実験禁止条約、1968年の核拡散防止条約(NPT)に違反していることを隠蔽してきた。
そういう次第で、ネタニヤフ首相が核開発計画に関してイラン政府が嘘をついていると糾弾した時、世界の大多数の国が-----核に関与する米国のおえら方連中もふくめ-----あきれて言葉をうしなったのである。

トルコのエルドアン大統領の話にもどすと、大統領の認識はまったくもって妥当なものだ。つまり、核保有国は、1968年に核拡散防止条約に署名した際にかわした約束を反故にしたということである。
同条約の第6条は、核の軍備競争の停止および核兵器の廃絶を要求している。実際の話、第6条は多くの点で同条約のキモと言ってよい。
複数の非核武装国が同条約に署名した。が、結局、自国が「核アパルトヘイト(核差別)」の体制にがっちりと組み込まれてしまっただけであった。自分たちは核という名の大量破壊兵器を持つことを見合わせ、一方、中国やロシア、イギリス、フランス、アメリカはそれを手放さないでいられる在り方を彼らはうべなったのだ。

これら「核保有5大国」は核兵器を保有し続けているだけではない。みな、その性能向上と数量拡大に取り組んでいる。
米国はまた、関連する他の条約をもふり捨てつつある。たとえば、弾道弾迎撃ミサイル制限条約(ABM条約)、また、中距離核戦力全廃条約(INF条約)である。そして、今や、戦略兵器削減条約(START)までも廃棄に躊躇しない構えを示している。この条約は、米国とロシア双方が核弾頭や長距離ミサイルなどの数量を一定数以下に制限することを目指したものである。

おどろくべきことは、核拡散防止条約(NPT)に加盟していないのが4つの国しかないことである。すなわち、イスラエル、北朝鮮、パキスタン、インドである(このうち、イスラエル以外は米国の制裁措置の対象になった)。
このような状況は長く続くはずはない。とりわけ、上記の第6条が全面的な軍備縮小を求めているからには。この条項は違反することが名誉になっているありさまである。
米国は現在、同国の歴史の上で最大の防衛予算をほこっている。なおかつ、その支出額は、世界の他の国々の軍事支出額をすべて足し合わせたもののおよそ47パーセントに相当する。

このような巨大な軍事力を有しながら、米国は戦争に勝利できないように思われる。対アフガニスタンやイラクの戦争は惨状だった。が、一方で、米国はおそるべきダメージ、持ちこたえられる国はほとんどないようなダメージを相手国にあたえることができる。たとえ軍事力にうったえなくても、さまざまな制裁措置だけで一国の経済をめちゃくちゃにし、その国の一般市民を困窮させることが可能なのである。北朝鮮やイランがその好例だ。

仮に米国が1979年のイスラエルの核実験を進んで隠蔽し、一方で核兵器を獲得した他の国々に制裁措置を課するというのであれば、誰が考えないでいられよう、これが核拡散の点からいって欺瞞以外の何物でもない、と。
そして、もし核拡散防止条約(NPT)が他国の通常戦力や核戦力から自国を防衛する術をうばう枠組みと化するならば、いったいどの国がそれに調印したり、加盟を続けたりするであろうか。

エルドアン大統領はたんにハッタリをかましているだけかもしれない。大言壮語を好むし、また、敵側をかく乱すべくそうした物言いを効果的に使う人物でもある。今回の発言はもしかしたらイスラエルとギリシア-----この両国は地中海東部のエネルギー資源の開発を協働で進めている-----に対する米国の支援を手控えさせるための戦略の一環かもしれない。

とは言え、トルコには国家安全保障上の懸念もある。
エルドアン大統領は、発言の中で、こう述べていた。「わが国はイスラエルと境を接している。イスラエルは[核兵器を]保有しているか、むろん、しかりだ」と。そして、続けて、もしわが国がこの地域におけるイスラエルの「強迫的ふるまい」に対抗しなければ、「わが国の戦略的優位性をうしないかねない」と述べた。

イラン政府はたしかに嘘をついているのかもしれない。しかし、同政府が核兵器開発に本気で取り組んでいるという証拠は今のところ存在しない。そして、仮にそうだとしても、それはアメリカやイスラエルと同じことをしているにすぎないのだ。

遅かれ早かれ、どこかの誰かがこれらの核の一つに点火する事態が起きよう。その候補者の最右翼はインドとパキスタンである。もっとも、南シナ海における米国か中国の核の使用も考えられないことではない。同様に、バルト海におけるNATOとロシアの衝突による核使用の可能性も排除できない。

緊迫した世界情勢に関し、ホワイトハウスの目下の住人を非難するのはやさしい。しかし、核を保有する5大国は、半世紀以上にわたり、核と軍縮に関する誓約をないがしろにしてきた。

正気にもどる道はイバラにおおわれている。が、まったく進めぬわけでもない。

方途の一つは、弾道弾迎撃ミサイル制限条約(ABM条約)の再締結である。これによって、ロシアは中距離ミサイルが不要となり、また、日本や韓国の迎撃ミサイル・システムを廃棄することにより米国と中国間の緊張関係を緩和することができる。

もう一つの方途は、中距離核戦力全廃条約(INF条約)の再構築で、今度はどうにかして中国とインド、パキスタンをこれに参加させることである。そのためには、アジアにおける米軍の全体的縮小、および併せて、南シナ海のほぼ全域にわたる覇権に関し、中国に譲歩をうながすような協定が不可欠となるであろう。
インド・パキスタン間の緊張は、国連決議にしたがってカシミールの帰属を問う住民投票を実施できさえすれば、大きな緩和が期待できよう。パキスタン側はほぼまちがいなく独立を支持するであろうが。

方途の3つ目は、戦略兵器削減条約(START)を維持しつつ、「核保有5大国」が核兵器のこれ以上の性能向上を目指さないこと、そして、核戦力と通常戦力の双方に関し、核拡散防止条約(NPT)の第6条の規定の履行に向けて踏み出すこと、である。

「空に浮かんだパイ(絵に描いた餅)」とおっしゃるだろうか。しかし、キノコ雲よりはましである。


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圧政者を好む米国とそれを擁護する大手メディア

2017年07月28日 | 国際政治

トランプ大統領がフィリピンのドゥテルテ大統領やトルコのエルドアン大統領などの独裁的な元首を褒めたたえているのをリベラル派メディアが疑問視しています。
これらの元首は自由と民主主義を標榜する米国とは相容れないというわけです。
しかし、実際は …… 。

例によって、調査報道を得意とするネット・メディア『インターセプト』から採りました。
書き手は、おなじみのグレン・グリーンウォルド氏です。

タイトルは
Trump’s Support and Praise of Despots Is Central to the U.S. Tradition, Not a Deviation From It
(トランプ大統領の専制君主びいきは米国の伝統からの逸脱どころか伝統そのもの)

やや長いので2回に分けて掲載します。

原文サイトはこちら↓
https://theintercept.com/2017/05/02/trumps-support-and-praise-of-despots-is-central-to-the-u-s-tradition-not-a-deviation-from-it/


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Trump’s Support and Praise of Despots Is Central to the U.S. Tradition, Not a Deviation From It
トランプ大統領の専制君主びいきは米国の伝統からの逸脱どころか伝統そのもの


Glenn Greenwald
グレン・グリーンウォルド

2017年5月3日 2:13 a.m.


少なくとも第二次世界大戦以降、世界で指折りの専制君主を支持することが米外交政策の柱であった。決定的な特質と言っていいかもしれない。米国が支援してきた暴君のタイプは多岐にわたるが、その戦略的な根拠は一貫している。すなわち、反米的な感情が浸透している地域では、民主政体が採用されると、米国の国益に資するどころかそれを阻害する国家元首が登場しがちだからである。

米国の意向にしたがう独裁者を当該国に押しつけたり支援したりすることは、このような不都合な反米感情をがっちり封じ込めるために米国の為政者が昔からずっと好んで使ってき、今もなお使い続けている手口である。この事情はみじんも物議をかもさない。議論に値しない趣きさえ有する。米国の暴君支持は大方、白昼堂々とおこなわれ、一流の政策通や報道機関によって長年の間きっぱりと擁護され、うべなわれてきた。

ワシントン界隈でもっとも愛され、敬意を払われてきた外交政策の第一人者ヘンリー・キッシンジャー氏は、米国の意向に沿うという理由で極悪非道の暴君を歓迎し、下支えしたことにより名声を築いてきた。
その輝かしい経歴のいくつかを、歴史学者のグレッグ・グランディン氏はこう説明している。
キッシンジャー氏は「パキスタンのISI(パキスタン統合情報局)に力をつけさせるとともに、アフガニスタンの不安定化のためにイスラム原理主義を利用するよう彼らをそそのかした」。
「サウジアラビアおよび革命前のイランとの『兵器・オイルマネー引き換え政策』(訳注1)への依存を確立した」。
「南米中でクーデターや『暗殺部隊』を支援した」。
また、キッシンジャー氏は、大規模な民間人殺害をおこなったアルゼンチンの軍事政権を褒めたたえたし、米国の同盟国インドネシアの独裁者であり、20世紀屈指の極悪人と呼ぶべきスハルト氏による大量虐殺の遂行を積極的に幇助した。

(訳注1: 原文は arms-for-petrodollars です。取りあえず『兵器・オイルマネー引き換え政策』としておきました。これは、サウジアラビアなどがアメリカその他に原油を輸出して得た収益金(オイルマネー)を元手に、今度はその国から兵器を購入することです)

(注: 原文サイトでは、ここで、英『ガーディアン』紙の過去記事の画像が貼られています。
記事のタイトルは
「キッシンジャー氏、アルゼンチンの『汚い戦争』を是認」)

また、レーガン大統領の下で国連大使をつとめたジーン・カークパトリック女史は第一級の保守派知識人と考えられている。親欧米派、右派の独裁者をきっぱりと持ち上げたからである。イランのシャー(国王)やニカラグアの軍人独裁者アナスタシオ・ソモサ・ガルシアなど、米国が支援する非情な圧政者に賛辞を惜しまなかった。
「彼らは米国にすこぶる友好的です。子弟その他をわが国の大学に送り込んで教育を受けさせ、国連決議ではわれわれと同じ側につき、たとえ個人的なコスト、政治的なコストを払うことになろうと、つねに米国の国益と立場を支持してくれます」。
こうした次第で、レーガン政権時代の米外交政策は-----それ以前とそれ以後もずっとそうであったように-----、親米派の独裁者、「暗殺部隊」、あるいはテロリストにさえ経済的、軍事的、外交的な支援をおこなうことと了解することができる。

米国の主流派メディアは、米国政府によるこのような独裁者支持の姿勢をおおっぴらに称賛し続けてきた。
アウグスト・ピノチェトは、民主的な選挙によって就任したチリの左派系の大統領を米国が打倒して同国に押しつけた軍人独裁者であるが、その2006年の死去にあたって、ワシントン・ポスト紙は論説欄でカークパトリックとピノチェトの両人を褒めちぎった。
ピノチェト大統領は「凶悪至極で、政府当局の手によって3000を超す人々が殺害され、何万もの人々が拷問を受けた」と書く一方で、「チリに経済的奇跡をもたらしたその自由市場政策」を礼賛したのである。そして、締めくくりにこう記した。ピノチェトと同様に「カークパトリック女史もまた左派陣営から攻撃を受けた。が、今やもう明らかなはずだ。彼女は正しかった」と。

ニューヨーク・タイムズ紙も同様である。2002年に右派のクーデターによってベネズエラの左派大統領ウゴ・チャベス氏が一時的に失脚したとき、同紙の論説はそれを「民主主義の勝利」と評した。
「チャベス大統領の昨日の辞任をもって、ベネズエラの民主政はもはや未来の独裁者におびやかされる心配はなくなった。危険な民衆扇動家である同氏は、軍部が介入した後、著名なビジネス・リーダーに権力を引き渡してから職を辞した」。

[これに関して私が数年前に書いた文章を再掲しておく。

この論説の中でニューヨーク・タイムズ紙は、チャベス大統領の「排除はあくまでもベネズエラ国民が決定したこと]と述べた。ところが、ほどなく-----かつ予想されたことであったが-----、これにはブッシュ政権のネオコン(新保守派)幹部が非常に大きな役割をはたしていたことが明らかになった。
そして、11年後、チャベス大統領が逝去した際、同紙の論説員は「ブッシュ政権が南米における米国の声価をいちじるしく傷つけた」ことを認めた。「チャベス大統領に対する2002年のクーデターの試みをおろかにも称賛した」からである。
しかし、同紙は、クーデター当時、米国の威信失墜を認めなかったことはもちろん、同紙自身がクーデターを賛美したことについてもいっさい口をつぐんでいる。]

(注: 原文サイトでは、ここで、英『ガーディアン』紙の過去記事の画像が貼られています。
記事のタイトルは
「ベネズエラのクーデターにブッシュ政権幹部が関与」)

1977年にカーター大統領はテヘランで開かれたイランのパフラヴィー(パーレビ)国王との公式晩餐会に出席した。同国王は、米CIAが民主的な選挙で選ばれたモサデク首相を放逐した後、米国の支援を受けつつ何十年にもわたって同国に君臨した冷酷な独裁者である。この晩餐会の直前にはカーター政権が国王をホワイトハウスに招いていた。
席上でカーター大統領はこのイランの専制者を祝してグラスをかかげ、次のように述べた。

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両陛下ならびにイラン各界の著名なる指導者の皆様

皆様方のあたたかいもてなし、ならびに、今夕これまでに共にしました愉快な一刻について、短いながら感謝の言葉を申し述べたいと思います。私は何人かの方からたずねられました。ほんの一月かそこら前、私どもは両陛下の訪米という栄誉に浴したばかり。それなのに、なぜこれほど間を置かずに今回の訪問に至ったのか、と。先の訪米の折り、両陛下がお帰りになられました後、私は妻に聞きました。「新年を誰といっしょに過ごしたいと思う?」と。そうしますと妻は「ほかの誰よりもイラン国王、王妃ファラのお二人と」と答えました。そういう次第で、私どもは今回の旅程をととのえ、皆様方との面晤の栄を得たわけであります。
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多数の人間を殺してきたイラン国王に対するカーター大統領の賛辞は、しゃべるにつれて、いよいよきらびやかで追従的なものになった。
「イランは、国王の偉大なるリーダーシップによって、世界で問題をかかえた地域の一つに属しながら安定した孤島となっています。これはまったく陛下の、そしてまた、陛下のリーダーシップの賜物であり、イラン国民が陛下にささげる敬意と称賛と愛の所産であります」。
しかし、それから2年後、国王を崇敬しているとカーター大統領がのたまったその同じ国民は彼を追放し、この独裁者に長年支援と賛辞をささげてきた米国を今に至るも憎んでいるのである。

(注: 原文サイトでは、ここで、『アメリカン・プレジデンシー・プロジェクト』というサイトの画像の一部が貼られています。
タイトルは
「ジミー・カーター
第39代アメリカ合衆国大統領-----1977-1981
カーター大統領、テヘランでイラン国王と晩餐会
1977年12月31日)

世界指折りの悪逆な独裁者に対する米国の肩入れは、冷戦の終了とともに止んだわけではなく、それどころか弱まりさえしなかった。ブッシュ、オバマの両政権とも、これらの独裁者にあいかわらず兵器を供与し、資金を拠出して下支えし、称賛の言葉を呈し続けた。

2009年当時、国務長官であったヒラリー・クリントンは、米国の後押しするエジプトの独裁者についてこう語っている。
「ムバラク夫妻は自分の家族の朋友であると私は心の底から思っています」。
また、エジプト国防相兼軍総司令官アブデルファタフ・サイード・シシ氏が同国初の自由な選挙で成立した政権を打倒したとき、ヒラリーの後任者であるジョン・ケリー氏は、シシ氏を「民主制を回復した」と称えた。
シシ氏はその後いよいよ峻烈で圧政的な傾向を強めたが、オバマ政権はそれに兵器と資金の大盤ぶるまいで応じた。人権侵害で悪名高いバーレーン王国の独裁者に関しても同様の対応であった。

(注: 原文サイトでは、ここで、米『ABCニュース』の過去記事の画像が貼られています。
タイトルは
「国務長官クリントンの2009年の発言:『ムバラク夫妻は自分の家族の朋友であると私は心の底から思っています』
2011年1月31日 ABCニュース・コム)

選挙で民主的に成立したホンジュラスの左派政権に対する2009年の軍事クーデターにおいても、米国は、あからさまな後押しではないにしろ、少なくとも暗黙の承認をあたえた。
そしてその後、ヒラリーのひきいる国務省は、自分たちの支援するクーデター政権が批判者や反政府活動家に対する暗殺計画に従事していたあり余る証拠があるにもかかわらず、それをひたすら否定し続けた。
ワシントン・ポスト紙のカレン・アティアー記者は昨年、「今日のホンジュラスおよびハイチの騒乱と政治的不安定性に関して、[ヒラリーひきいる]米国務省が関与した反民主的な体制転換がいかなる寄与をはたしたか」を探った。記事の中では、ホンジュラスのクーデターを指揮した軍指導者たちを庇護するためにヒラリー国務長官の講じたさまざまな措置が具体的に取り上げられている。

サウジアラビアも忘れてはならない。同国は長い間、地球上で飛びぬけて圧政的な国の一つであり、米国がきわめて重要視する同盟国である。サウジの専制君主に対する米国の入れ込みぶりは、これだけでも、自由と民主主義の普及をめぐる米国の大義名分の綱領をほとんど全否定するに等しい。米歴代政権はこれまでずっとサウジの王政を維持し、強化することに倦むことなく取り組んできたからである。

オバマ大統領も、前任者のブッシュと同様、くり返しサウジの独裁者をホワイトハウスで歓待した。2015年にこの極悪な国王が亡くなったとき、オバマは急遽インド訪問を中断してリヤドに飛び、米国の親密なパートナーである国王のために弔意を表した。ほかにも米国から民主党、共和党双方の名だたる政治家が駆けつけた。
英『ガーディアン』紙は次のように書いている。
「オバマ大統領は、多数の議員をひきいてサウジの新国王との関係を深めるようとする中で、同国の専制君主に追従的な自分の姿勢を釈明せざるを得なかった。ほんの数時間前は、インドで宗教的寛容と女性の権利について講演したばかりだったが」。

国王の死去に際して、オバマ大統領は、批判者の殺害や収監をくり返したこの専制君主をこう評した。
「アブドラ国王の理念は故国では国民の教育および世界とのより深い関わりにささげられていました」。
もっとも、オバマ大統領の弔意の表し方は、英国政府のそれに比べるとまだ穏当だった。英国政府は、アブドラ国王の死を悼んで、すべての国旗を弔意を示す半旗にするよう命じたのである。
とはいえ、サウジの王政をおおっぴらに称揚するのにオバマが二の足を踏むというわけではまったくなかった。

(注: 原文サイトでは、ここで、米政治専門サイト『ポリティコ』の過去記事の画像が貼られています。
タイトルは
『オバマ、アブドラ国王を歓待する』)

要するに、第二次世界大戦以降の米外交政策は-----世界各地で何度となくくり返した膨大な人権侵害行為とは別に-----、民主的な選挙で成立した政権を打倒すること、さらには、残虐な独裁者を支持し、同盟関係を結び、力を貸すこと等、を土台としてきたのである。この行き方は世界のあらゆる地域に適用され、米歴代政権が例外なく奉じてきた行き方であった。この点を認識せずに世界における米国の役割をいささかでも理解することはまず不可能である。

(続く)


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[その他、補足など]

■本文で述べられているパフラヴィー(パーレビ)国王を含む、イランとアメリカの関係については、以下のサイトの文章が参考になります。

イランの核問題とは?  ~アメリカ・イスラエルとの関係を読み取る~
http://ocean-love.seesaa.net/article/382562077.html?seesaa_related=category


■ここでふれられているキッシンジャー氏の航跡については、このブログの以前の回でも話題になっています↓

元政府高官におもねる名門大学
http://blog.goo.ne.jp/kimahon/e/ba9ff3f6850bb44b97779b2ca5d73252


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新しい形の植民地主義-----ギリシアとウクライナの事例

2015年09月22日 | 国際政治

今回は、今、姿を明確にしつつある新しい形の植民地支配について。

書き手は、例によって、現代資本主義のさまざまな側面についてわかりやすい見取り図を提示してくれるジャック・ラスマス氏。

原題は
The New Colonialism: Greece & Ukraine
(新たな植民地主義: ギリシアとウクライナの事例)

原文のサイトはこちら↓
https://zcomm.org/znetarticle/the-new-colonialism-greece-ukraine/

(なお、原文の掲載期日は8月31日でした)


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The New Colonialism: Greece & Ukraine
新たな植民地主義: ギリシアとウクライナの事例


By Jack Rasmus
ジャック・ラスマス

初出: teleSUR English
2015年8月31日


新しい形の植民地主義が欧州で台頭しつつある。
それは19世紀のような、軍事的征服と占領によって強制する植民地主義ではない。
それはまた、1945年以降、米国が先駆者となった、より効率的な「経済植民地主義」でもない。
(経済植民地主義とは、直接的な統治と軍事占領の手間をかけず、収奪する富を現地の従順なエリートたちに分けあたえ、自分たちの代理人として統治を許すものである)

21世紀の植民地主義は「金融資産の移転による植民地主義」である。それは、当該国の支配層を支配することを通じて、その国の富を略取することである。当該国の支配層は金融資産を移転するプロセスを直接的に実行・管理する任務をあてがわれるのだ。
この直接的な運営管理と金融資産の移転という新たな形の植民地主義が目下ギリシアとウクライナで明確な姿を取りつつある。

最近のギリシア債務協議の看板の背後には、欧州の銀行家とその関係機関-----欧州委員会、欧州中央銀行、IMF、欧州安定化機構(ESM)-----が立ち働いている現実がある。彼らはまもなくギリシア経済の運営を直接引き受けることになる。それは、2015年の8月14日にギリシアとトロイカ(欧州連合、欧州中央銀行、IMFの3者から構成される債権団)が署名した「覚書(MoU)」での既定事項であった。その「覚書」には、直接的な運営のやり方が詳細に記されている。
ウクライナの場合には、やり方がはるかに直接的であった。昨年の12月に、米国と欧州は金融や経済を管轄するウクライナの大臣に自分たち懇意の「影の金融」マン(下の訳注を参照)を据えた。以来、彼らがウクライナの経済を日々、直接に差配している。

(訳注: 「『影の金融』マン」の原語は shadow bankers。元になる表現の shadow bank は通常「影の金融」または「影の銀行」などと訳出されます。
「影の金融・銀行」は、伝統的で厳密な意味での銀行業務とは違いますが、似たような機能を発揮するシステムまたは存在で、投資銀行(証券会社)、ヘッジファンド、証券化のための特殊な運用会社、年金基金などの業態の総称です。金融当局の規制が適用されず、実態が正確に把握されていないためにこう呼ばれます)

金融資産の移転という新たな植民地主義は、現実的な形態としては、いくつかの手法に分類できる。
ひとつは、拡大する債務に対する利子の支払いという形の富の移転。またひとつは、植民地を支配する側の投資家や銀行家に直接売却されることになる、植民地国の政府資産の叩き売りという形の富の移転。さらにまた、植民地国の銀行システムや銀行資産の実質的な乗っ取りという形による富の移転(これは、植民地支配する側の国の銀行や投資会社の株主に富を移転することが眼目である)、等々。


[ギリシアの場合]

ギリシアと上記トロイカの間で2015年8月14日に署名された、3度目となる直近の債務協定は、ギリシアに新たに980億ドルの債務をつけ加えることになる。債務総額はこれによって4000億ドル超に達する。980億ドルのほとんどすべては債務返済か、ギリシアの銀行の資本増強のために用いられる。
ギリシアから富を略取するやり方は、国民が総生産額を高めること、政府が歳出を削減すること、税収を増やすことなどを通じてである。これらは利子や元本の支払いに充てられるべき、いわゆる「基礎収支の黒字」を生み出すためにおこなわれる。

ギリシアがモノを生産して安い価格でドイツに売り、ドイツはそれをより高い価格で再輸出し、より高い収益をふところにするという展開-----19世紀の植民地支配-----にはならない。多国籍企業がギリシアに拠点を移してモノをより安い賃金、より低いコストを利用して生産し、それを世界中に輸出して収益を得るという展開-----20世紀後半の米国の植民地支配-----にもならない。
これからのギリシアはより少ない報酬で、より仕事に精を出して基礎収支の黒字を達成しなければならず、そして、その黒字分は、自分たちの膨れ上がる債務の利子を支払う形でトロイカに差し出さなければならない。
トロイカは仲介者であり、借金取り立て業者であり、銀行家や投資家のために利子を取り立てる国家当局の代表者である。彼らは国を超えた組織であり、金融資産の奪取と移転を実行する代理人なのである。

ギリシア・トロイカ間の「覚書」には、直接的な運営・管理のやり方とともに、いかなる富をいかなるプロセスで奪取し、移転するかについても詳細に規定されている。「覚書」の冒頭では、はっきりとこう記されている。ギリシアの政治機関による立法その他の行為は、たとえささやかなものであっても、トロイカの事前の承認を必要とする、と。かくして、トロイカは、実質的にギリシアのあらゆる政策措置、立法機関と行政機関のあらゆる意思決定について、ギリシア政府のあらゆるレベルで拒否権を有することになる。

その上、ギリシアは今後、財政政策を実施することが困難であろう。予算を決定するのはトロイカの役目になりそうだからだ。予算策定をトロイカがチェックするのである。「覚書」によれば、次回の予算策定において税体系と歳出に関する抜本的な改変が求められている。ギリシア政府は予算を策定することはできる。しかし、その予算はトロイカの望む予算でなければならない。また、トロイカの係官が遵守状況を監視し、トロイカの承認した予算に沿ってギリシア政府が確実に行動するよう注意する。ギリシアのあらゆる政府機関、立法府のあらゆる委員会は、かくして、ほとんど毎日「トロイカの人民委員」から肩越しに覗かれるような塩梅となる。

「覚書」によれば、トロイカはまた、ギリシアの銀行の取締役会につらなる「独立コンサルタント」を任命する権限を有する。取締役会の古参メンバーはかなりが排除されることになろう。つまり、トロイカから任命された人間が日常的にギリシアの銀行を運営・管理することになる。銀行の国外の子会社や支店は「民営化」される-----すなわち、欧州の他の銀行に売却される-----ことになろう。ギリシアの銀行はかくして名前だけの存在と成り果てる。トロイカという看板の背後で活動する欧州北部の銀行の付属物であり、その実質的な子会社であり、彼らに支えられる身となるのである。ギリシアの銀行の資本強化のために配分される数百億ドルはギリシアではなくルクセンブルクの銀行に鎮座することになろう。ギリシアはもはや金融政策を遂行できない。それはトロイカの役目である。

一方、ギリシアの福祉制度および新規の社会保障制度は、世界銀行により手が加えられることになろう。新しく労働省を管轄することになる人間はトロイカの承認を得なければならず、しかる後、教育制度の合理化に取り組むことになろう(つまり、教員の解雇と賃金カットである)。同じくトロイカの承認を受けた新任の労働大臣は、トロイカの「独立コンサルタント」の提案を受け入れ、「抗議行動」(すなわち、ストライキ)と団体交渉を制限する施策を推し進めるであろう。また、同様に、コンサルタントの助言にしたがって、集団解雇(すなわち、大量クビ切り)を可能にする新しい規則の策定に取りかかるであろう。年金額はカットされ、退職年齢は引き上げられ、労働者の医療負担額は増やされるであろう。地方政府はより高い効率性(つまり、解雇や賃金カット)を求められ、法制度全体が刷新されるであろう。

500億ドル規模の『ギリシア政府資産民営化基金』は一応ギリシア国内に創設される見込みである。しかしながら、「覚書」によれば、それは「関係する欧州機関の監督の下で」運営されることになっている。民営化される対象は何か、それがいかなる価格で売却されるか(いずれにしろ叩き売り価格であるが)、どの好ましい投資家に売却されるか-----これらはいずれもトロイカが決定するとされている。一方、すでに民営化による売却の過程にあるか、民営化が決定済みの資産については、その作業スピードが速められるであろう。


[ウクライナの場合]

ウクライナの場合、新たな融資が約束されたのは、2014年12月、同国の財務、経済を管轄する大臣のポストに米国と欧州出身の銀行マンが据えられた直後のことであった。米国と欧州は1月にさらに40億ドルを用意した。2月にはIMFが新たに400億ドルの支援策を発表した。この400億ドルを加えると、ウクライナの債務は、2007年度には120億ドルであったものが、2015年度では1000億ドルに達する。

この総計1000億ドルの債務は、結局、金融資産の略取の大幅な拡大を意味する。それは、その1000億ドルの利子を支払うという形で遂行される。

金融資産の移転のもうひとつの形態は、民営化の促進という形で表れるであろう。342にのぼる国営事業体が2015年度に売却される予定である。たとえば、複数の発電所や鉱山、13の港湾などであり、農場さえ勘定に入っている。売却は叩き売りと言ってよい価格でおこなわれる見込みだ。米国や欧州出身の新任の大臣たちの「友人連」-----やはり米国や欧州の人間-----がその恩恵に浴するであろう。
同様の事情は、これら新任の大臣たちが認可する、民間の企業の売却の場合にも当てはまる。ウクライナの企業の5社に1社は実質的に破綻しており、ジャンク債に属する社債でも100億ドルの融資を更新することは困難だ。多くは債務不履行に陥り、めぼしい会社は米国やEUの「影の金融」マンと多国籍企業がさらっていくことになろう。


ギリシアとウクライナの事例が示すものは富の奪取をより直接的に運営・管理する手法、および、その富を金融資産の形で移転する手法の登場である。これまでの政府債務の救済においては、IMFその他の組織が、必要な政策措置に関する数値目標等を被救済国に助言していた。その助言にしたがって行動するかどうかは当該国の意思にまかされていた。しかし、今は状況が変わった。直接的な管理手法が登場し、膨れ上がる債務から派生する金融資産を移転するにあたって、植民地国が躊躇したり、履行を遅らせたりしないよう万全の態勢がとられるのである。


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紛争、対立、戦争を期待する軍需産業

2015年04月29日 | 国際政治

今回はごく短い文章です。
軍需産業が世界の紛争、対立、戦争、等々を期待している心情をうかがわせるもの。

調査報道を得意とする新興のオンライン報道サイト『The Intercept』(インターセプト)から採りました。
書き手は Lee Fang(リー・ファン)氏。


タイトルは
Big Bank’s Analyst Worries That Iran Deal Could Depress Weapons Sales
(大銀行のアナリストがイラン合意による兵器販売の落ち込みを懸念)


原文はこちら↓
https://firstlook.org/theintercept/2015/03/20/asked-iran-deal-potentially-slowing-military-sales-lockheed-martin-ceo-says-volatility-brings-growth/

(なお、原文の掲載期日は3月20日でした。
また、原文で施されているリンクなどの仕掛けは訳文には反映していません)


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Big Bank’s Analyst Worries That Iran Deal Could Depress Weapons Sales
大銀行のアナリストがイラン合意による兵器販売の落ち込みを懸念


By Lee Fang @lhfang
リー・ファン (ツイッター: @lhfang)

2015年3月20日


イランと欧米の関係正常化と同国の核技術の開発抑止を目指した協議は、はたして中東をより平和にし、軍拡競争の熱を冷ますことにつながるだろうか。

イランとの協議を支持する人々はまちがいなくそれを願っている。しかし、安定への見通しは、少なくともひとりの金融アナリストをして、世界屈指の防衛関連企業におよぼすその影響をめぐり懸念を抱かしめた。

イランとの核協議が兵器販売の落ち込みをもたらす可能性について言及したのはマイルズ・ウォルトン氏。同氏はドイツ銀行のアナリストで、発言の場はロッキード・マーティン社の1月27日のアーニング・コール(電話会議形式の投資家向け収支報告会)であった。
ウォルトン氏はロッキード・マーティン社のCEO、マリリン・ヒューソン女史に質問した。イランとの合意は「海外向けの軍事関連売上高の増大という御社の見通しにとって障壁になり得るか」、と。
ウォルトン氏のような金融アナリストは、かかるアーニング・コールの機会を利用して、ロッキード社等の株式公開企業に対し、収益の障害となりそうな事柄についてただすのである。

ヒューソン女史は上の質問に対して「実際のところ、売上高増大にはまだ至っていません」と答えた。しかし、「当該地域全体の不安定性」は新たなビジネス・チャンスを継続してもたらすはずですと女史は強調した。中東とアジア太平洋地域の双方における「数々の変動、相当の不安定性、新たに生起しつつあるたくさんの事象」のために、この両地域はロッキード・マーティンにとって「成長市場」です、と女史は語った。

ドイツ銀行とロッキード社のやり取りは「兵器売買における長年の公理をあらためて浮き彫りにする。つまり、戦争-----もしくは戦争の脅威-----は兵器ビジネスに好都合ということです」。
こう述べるのはウィリアム・ハータング氏。同氏は『国際政策研究所』の「兵器・安全保障プロジェクト」の責任者である。
同氏は続けて言う。ヒューソン女史はイランとの関係正常化を将来に向けての明るい進展というより「障壁」のごとく捉えているようだ、と。「そして、女史の回答は要するに『心配はご無用。あの地域には不安定な要素が山ほどあります』ということであって、これは結局、国際的な兵器市場の中核に存するゆがんだインセンティブ構造を示しています」。


実際のやり取りのもようは以下の通り。
(訳注: 原文サイトに埋め込まれている音声ファイル共有サービス『サウンドクラウド』のボタンをクリックしてください)


中東の緊張の高まりのおかげで、各国政府は支出を大幅に増やし、米国のロビイストや米国産兵器にとっては消費ブームと言える状況が続いている。軍事専門ニュースサイトの『ディフェンスワン』によると、兵器のために今後5年間で1650億ドル以上を「サウジアラビア、アラブ首長国連邦、クウェート、カタール、ヨルダンなどが拠出すると見込まれている」。一方、アメリカでは、ISISおよびイランをめぐる懸念から防衛予算の増額を求める声が湧き上がっている。

今回のアーニング・コールにおいて、ヒューソン女史は社の2014年度売上高の20パーセントが「インターナショナル」に属すると誇らしげに述べた。それは、すなわち、米国外の顧客を意味する。「当社はこれを喜んでいます」と女史は述べ、続けて「今後数年間でこれを25パーセントにまで引き上げること」を社の目標に据えたと明かした。

ロッキード・マーティン社のスローガンは「私たちは誰のために働いているかを決して忘れません」である。その「誰」とは、一般に米国民であり、とりわけ退役軍人であるというのが同社の好んで示唆するところである。今回のアーニング・コールが浮き彫りにしたのは、同社が実のところはひどく類を異にする支持基盤を念頭に置いて対応している姿であった。


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[補足など]

■文章中に登場するウィリアム・ハータング氏について、また、米国の中東への兵器売却に関する話題は、以下のサイトが参考になります。
(例によって、私のブログとテーマがかぶることの多い『デモクラシー・ナウ』さんのサイトです。^^;))

・サウジアラビア、イエメン、エジプト、イラクへのオバマの記録的な武器売却が中東の混乱に火を付けているのか?
http://democracynow.jp/dailynews/2015-04-07


■米国の軍需産業の隆盛ぶりについては本ブログの以前の回を参照してください↓

・戦争を独占する国アメリカ
http://blog.goo.ne.jp/kimahon/e/02ee03b8f33673905a769eafd0e9aed6?fm=entry_awp


また、テレビで主戦論を唱えるコメンテーターを軍需企業が財政的に支えている点については、

・主戦派のコメンテーターを財政的に支える軍需産業
http://blog.goo.ne.jp/kimahon/e/d7293b6e6bf27ba4df795a95684f01e7

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チョムスキー氏語る・5(続き)-----人類は生き延びることができるか

2014年12月30日 | 国際政治

前回の続きで、後半の部分です。
ただし、タイトルが別につけられています。

こちらのタイトルは
The Prospects for Survival
(人類存続の見込み)
となっています。

原文はこちらで読めます↓
https://zcomm.org/znetarticle/the-prospects-for-survival/


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The Prospects for Survival
人類存続の見込み


By Noam Chomsky
ノーム・チョムスキー

初出: New York Times Syndicate

2014年4月2日

本文章は、『核時代平和財団』の後援により2月28日にカリフォルニア州サンタバーバラでおこなわれたチョムスキー氏の講演に手を加えたもので、2部構成の後半に当たる。


前半の文章では、政府当局者にとっていかに国家安全保障が重要な事項であるかを探りました。ただし、この場合の安全保障とは、国家権力とその主要な支持者、ごく少数の私企業にとってのそれです。かかるがゆえに、政府の政策は国民の精査から遮断されなければならぬということになります。

この見方に沿えば、政府のふるまいの数々はみごとに理にかなっています-----集団自殺にも理屈があるという意味と同様に。核兵器による瞬時の壊滅さえ、国家権力にとっては、懸念事項の中で高い位置を占めたことは決してありませんでした。

冷戦時代の後期から例をひっぱってみましょう。1983年の11月にアメリカの主導する北大西洋条約機構(NATO)は、ロシアの防空体制を探るために軍事演習を実施しました。空や海からの攻撃、さらには核兵器の使用を示唆する動きさえ模擬的な演習をおこないました。

この演習はきわめて緊迫した時期におこなわれたのです。欧州には戦略ミサイル「パーシングⅡ」が配備されつつありました。レーガン大統領は、あの「悪の帝国」のスピーチをおこなってまもなく「戦略防衛構想」、いわゆる「スター・ウォーズ」計画を発表していました。ロシア側はこれを実質的に先制攻撃のための枠組みと見なしました。しかし、ミサイル防衛なるものをこう解釈するのはすべての陣営の標準的な見方でした。

当然のことながら、これらの動きはロシアをおおいに警戒させました。米国と違って、ロシアは非常に脆弱な存在であり、歴史上何度も侵略をこうむっています。

あらたに公開された公式記録によると、この時の危機の深刻さは歴史家がそれまで考えていた程度をはるかにうわまわっています。昨年の『ストラテジック・スタディーズ』誌では、ドミトリ・アダムスキー氏がこう述べています。NATOの演習は「あやうく(ロシアの)予防的核攻撃を誘い出す前奏曲となるところであった」、と。

また、これが一触即発の唯一の例というわけでもありません。1983年の9月にロシアの早期警戒システムは米国からのミサイル攻撃を感知し、最高レベルの警報を鳴らしました。ソビエトの軍事要綱では、このような攻撃に対しては自身の核攻撃で報復する手はずが整えられていました。

ソビエト側の当時の担当係官であったスタニスラフ・ペトロフ氏は、これは誤作動であると直感的に判断し、上司に報告するまいと決めました。われわれが今こうして無事にこの出来事を話題にしていられるのは同氏の職務怠慢のおかげなのです。

一般市民の安全が最優先事項でなかったことは、レーガン政権だけでなくそれ以前の政権も同様でした。このような無頓着さは現在に至るまで続いています。それどころか、大惨事一歩手前の事故が何度となく起こっていました。それらは、最近上梓されたエリック・シュローサー氏による恐ろしい著書『指揮と統制: 核兵器、ダマスカス事故、安全という幻想』においてくわしく報じられています。

米戦略空軍の最後の司令官であったジョージ・バトラー氏は次にような感慨を記しています。人類がこれまでのところ核時代を生き延びることができたのは「技術、運、神慮が手を携えたおかげであった。私としては、後者が一番大きな役割を果たしたのではないかと考えている」、と。この見方に異を唱えるのはむずかしいでしょう。

人類の存続に対する脅威を米国政府が決まってほとんど意に介さない様子は実に常軌を逸していて、言葉では表現できないほどです。

1995年、すなわち、ソビエト連邦の崩壊からそれなりの時間を経過してから、米戦略軍(STRATCOM)-----これは核兵器を管轄する部署です-----は、『冷戦時代後の抑止力の骨子』と題する研究報告を発表しました。

その柱となる結論は、米国はたとえ核を持たない国に対してでも核の先制攻撃の権利を保有すべしというものです。さらには、核兵器はいつでも使用可能な状態でなければならぬとも述べています。なぜなら、それは「いかなる危機もしくは紛争に対しても影響力を発揮する」からです。

かくして核兵器は常時利用されます。強盗が店に押し入り銃を突きつけるものの決して発砲しない、ちょうどそういうような用いられ方ではありますが。この本質的な性格は、ペンタゴン・ペーパーズを暴露したダニエル・エルズバーグ氏がくり返し強調するところです。

米戦略軍の報告書はさらにこう助言しています。
「政策策定者は、敵が何に重きを置くかを判断する際、過度に理性的であるべきではない」。すべてを標的としなければならない。「われわれがまったく理性的であり、沈着冷静であると相手に思わせることは得策ではない。米国は、その重要な国益が攻撃された場合、理性をうしない、報復的な挙に出る可能性がある-----このようなイメージが、すべての敵対者にわれわれが投影する米国像の一部であるべきだ」。

また、こうも述べています。
「[我が国の戦略的観点からすれば、]いくつかの要素が『制御不能』の恐れありとの印象をあたえること」、そして、それにより核攻撃の脅威を常時相手に感じさせることは「好都合である」。

この報告書には、核拡散防止条約の要求する責務にふさわしい調子はほとんど見当たりません。条約は核兵器の惨禍を地球からなくすために「誠実な」努力をするよう求めているのですから。報告書から響いてくる声は、むしろ、ヒレア・ベロックが1898年にマキシム式機関銃について詠じたあの有名な二行連句をもじったものでしょう。すなわち、

Whatever happens we have got,
The Atom Bomb and they have not.
(何があろうと我らには原爆あり、
あいつらにはなし)

今後の展開もあまり期待できません。米連邦予算局が昨年12月に報告したことですが、核兵器の備蓄のために米国は向こう10年間で3550億ドルを必要とする見込みです。また、1月には、ジェームス・マーティン核不拡散研究所が、今後30年間で核兵器に1兆ドルが費やされるとの推計を発表しています。

そして、言うまでもなく、軍備競争の参加者はアメリカ一国だけではありません。バトラー氏が述べたように、私たちがこれまで破滅をまぬがれることができたのは奇跡に等しい。私たちが幸運を試し続ければ続けるほど、奇跡の継続を願って神の配慮を頼みにすることはむずかしくなります。

核兵器に関しては、人類絶滅の脅威を回避する術を私たちは少なくとも原理的には知っています。つまり、核兵器を廃棄することです。

しかしながら、将来を見据える時、もうひとつ、恐るべき危険が影を投げかけています。すなわち、環境災害です。これを回避する術があるかどうかさえ分明ではありません。しかし、私たちがぐずぐずすればするほど、その脅威は大きくなります。しかも、それは遠い未来のことではないのです。ですから、政府当局がこの問題にどのように取り組んでいるかを見れば、国民の安全に対する政府当局の配慮の真摯さが明確に浮かび上がってくるはずです。

ところが、米国は目下、「エネルギー自立の100年」を高らかに宣言しています。米国は「次の100年のサウジアラビア」になると鼻をうごめかしています。しかし、「次の100年」は、もし現行の政策が継続されれば人類の文明にとって「終わりの100年」になる恐れがあります。

オバマ大統領は2年ほど前、石油のおかげで栄えるオクラホマ州の町クッシングで演説しましたが、この演説を「地球上の生き物に死を告げる高らかな鐘の音」と感じる人さえいるかもしれません。

オバマ大統領は誇らしげに次のように述べ、それは盛大な拍手をもって迎えられました。
「現在、私の政権下において、アメリカの原油産出量は8年ぶりの高水準となっています。この点は皆さんにぜひ知っておいていただきたい。ここ3年間で、私は関係当局にうながし、天然ガスと石油の掘削のために、総計23の州において、広大な土地の開発を許可しました。また、現在、海底油田の候補地の75パーセント以上を調査、開発しています。稼動中の掘削装置数は4倍に増え、記録的な水準です。さらには、新規の石油パイプラインと天然ガスのパイプラインを敷設し、地球を一周しても余りあるほどの長さに達しています」。

これに対する拍手喝采は、安全保障に関する政府の取組みについても重要なことを物語っています。つまり、産業界の利益は確実に安泰を保障されるということです。「米国本土において原油と天然ガスの産出量を増やすこと」は、大統領が約束したように、今後もエネルギー戦略の「きわめて重要な構成要素」であり続けると考えられるからです。

その産業界は、目下、大規模なプロパガンダ作戦を展開中です。一般大衆に地球温暖化は、たとえ実際に起こっているにせよ、人間の活動に由来するものではないと信じ込ませるためです。これらの試みは一般大衆のよけいな理性を抑え込むことをねらっています。大衆は、科学者たちが総じてほぼ確実であり、見通しが暗いとするこの脅威について、ずっと懸念を抱き続けています。

つまり、乱暴に言えばこういうことです。今日の資本主義の倫理尺度においては、「自分の孫たちの運命よりも将来のボーナスが増えることが大事である」。

さて、そうすると、人類存続の見込みはいかなるものでしょうか。見込みが明るいとは言えません。けれども、より大いなる自由と公正のためにこれまで何世紀もの間努力したきた人々の成し遂げたことは、私たちに遺産として残されています。それを受け継ぎ、今後の世代にひき渡すことは可能ですし、しなければならないことです。それも、時をおかずに、です-----もし人類のまっとうな存続の希望を私たちが捨て去るのでないならば。この対処の仕方によって、私たちがどのような生き物であるかが何よりも雄弁に明かされるでしょう。


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[訳注と補足と余談など]

■訳文中の

「1983年の9月にロシアの早期警戒システムは米国からのミサイル攻撃を感知し、最高レベルの警報を鳴らしました。~」

の出来事については、以下のサイトでくわしく取り上げられています。

UKトピックス | BBCワールドニュース‐英国放送協会の国際 ...
https://www.bbcworldnews-japan.com/uk_topics/view/0000235


■訳文中の

「~最近上梓されたエリック・シュローサー氏による恐ろしい著書『指揮と統制: 核兵器、ダマスカス事故、安全という幻想』~」

については、下記のサイトで紹介されています。

先に少しばかり引用させていただくと、

事故により
「もし爆発していたら、半径27キロ圏の住民は確実に命を失い、ワシントン、ボルチィモア、フィラデルフィア、ニューヨークに死の灰が降り注ぎ数百万の犠牲者がでていたと推定されている。」

もうひとつの事故では
「もし、これが爆発していたら、当時ビル・クリントンが知事をしていたアーカンソー州は消滅していただろう。」

http://lgmi.jp/detail.php?id=2012
原爆事故、ニアミスの恐怖 ~フランス田舎暮らし(32)~:LGMI
lgmi.jp/detail.php?id=2012


また、いつものことながら、Democracy Now! Japan(『デモクラシー・ナウ・ジャパン』)さんもこの話題を取り上げていました↓

33年前に米国がかろうじて回避した核ホロコースト 
しかし今も破滅の危険が
http://democracynow.jp/dailynews/13/09/18/3


■上にふれたエリック・シュローサー氏のこの著書
(原題は Command and Control: Nuclear Weapons, the Damascus Accident, and the Illusion of Safety)
は、日本のどこかの出版社が翻訳にとりかかっていて近々出版される手はずにすでになっているのでしょうか。
これはまさしく「必読書」と言うほかありません。


■訳文中の

「その産業界は、目下、大規模なプロパガンダ作戦を展開中です。~」

に関連して言うと、この話題は本ブログの以前の回で取り上げました↓

地球温暖化の否定に躍起となる石炭・石油企業
http://blog.goo.ne.jp/kimahon/e/6ba08428bcd9343a2cad59b2a8b6fd56

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