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気まぐれ翻訳帖

ネットでみつけた興味深い文章を翻訳、紹介します。内容はメディア、ジャーナリズム、政治、経済、ユーモアエッセイなど。

チョムスキー氏語る・5-----国家安全保障とは何を意味するか

2014年12月22日 | 国際政治

今回も、例によって、私の「ひとりチョムスキー翻訳プロジェクト」です。

原文は今年の3月3日にネットに掲示されたものですが、訳出しておく価値はあると思ったので、遅ればせながらアップさせていただきます。

もともとは講演で語った内容に手を加えたものらしいので、訳文はです・ます調を採用しました。
2つに分けて掲載されましたが、とりあえず前半の方をアップします。


タイトルは
An Ignorant Public Is the Real Kind of Security Our Govt. Is After
(無知な国民こそ米国政府が追求する真の国家安全保障)


原文はこちらで読めます↓
http://www.alternet.org/chomsky-staggering-differences-between-how-people-and-powerful-define-security?paging=off¤t_page=1#bookmark


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Chomsky: An Ignorant Public Is the Real Kind of Security Our Govt. Is After
無知な国民こそ米国政府が追求する真の国家安全保障


国民を無知蒙昧なままにしておくことが急所

2014年3月3日



国際関係論における主原則によれば、国家の至上の任務は安全保障の確保です。冷戦時代の戦略家ジョージ・F・ケナンは標準的な見解を次のように表現しました。政府は「国内には秩序と公正を確保し、外に向かっては共通防衛策を用意すべく」樹立される、と。

この定義はいかにももっともらしく、ほとんど自明のことのように感じられます。しかし、私たちはもっと近寄ってこれを仔細に見つめ、問いを発してみましょう。国家安全保障とは誰のためのものなのか。一般市民のためのものなのか。国家権力それ自身のためのものなのか。選挙における国内の強力な支持勢力を意識してのものなのか。

私たちの意図する意味次第で、上の定義の信頼性はほとんど無意味なものからきわめて高い程度までの間を揺れ動きます。

国家権力のための安全保障は現在、極端なレベルに達しています。このことは、国民の精査の目から自らを守ろうとする政府当局のさまざまな試みに如実にあらわれています。

エドワード・スノーデン氏は、ドイツのテレビ局のインタビューに答えて、こう述べました。自分の「心をついに突き動かしたのは、国家情報長官のジェームズ・クラッパー氏が議会証言の際にあからさまな嘘をついたことでした」、と。クラッパー氏は当初、国家安全保障局による米国民に対する盗聴プログラムの存在をきっぱり否定したのです。

スノーデン氏は丁寧に説明してくれます。
「国民はこれらのプログラムについて知る権利があります。米国政府が米国民の名においておこなっていること、そしてまた、米国民の意思に反しておこなっていることを知る権利があります」、と。

これらの言葉は、ダニエル・エルズバーグ氏やチェルシー・マニング氏、その他同じ民主主義の原則に基づいて行動した気骨のある人々の口から発せられてもおかしくありません。

ところが、政府当局の考えはこれとはまったく異なっています。国民には知る権利などない、なぜなら、知らせた場合、安全保障が減殺されてしまうからだ-----それも著しくそうなる。こう担当係官は説明します。

このような申し開きには、懐疑的になるべき十分な理由がひとつならずあります。まず、この申し開きはほとんど常に決まり文句になっていることです。政府の行状が明るみに出された場合、即座に持ち出されるのが安全保障という護符です。かかる決まり文句的対応には実質の情報がはなはだしく欠けています。

懐疑的になるべき2つ目の理由は、明らかにされた証拠の内容です。国際関係理論の学者であるジョン・ミアシャイマー氏は次のように書いています。
「オバマ政権は、予想されたことではあるが、当初、米国に対する54件のテロ行為の防止にNSAの盗聴が重要な役割をはたしたと主張した。合衆国憲法修正第4条にそむくについては相応の根拠があると示唆した形である」。

「しかしながら、これは嘘であった。NSA長官のキース・アレクサンダー氏は最終的に議会に対し成果は1件だけであったことを認めた。その成果とは、サンディエゴ在住の、ソマリアからの移民男性ひとりと協力者3名を逮捕したことで、彼らの罪状はソマリアのテロ組織に8500ドルを送金したというにすぎない」。

また、政府はNSAの盗聴プログラムを検証するために「プライバシー・市民的自由監視委員会」を設立し、機密情報とそれをあつかう職員に対して広範な調査権限を付与しましたが、この委員会もミアシャイマー氏と同様の結論に到達しています。

もちろん、一般市民が広く知ることによって安全保障がおびやかされるという意識は存在します。もっとも、それは、行状を暴露されることによって国家権力の安泰がおびやかされるという意味での意識ですが。

これをめぐる根源的な洞察を、ハーバード大学の政治学者サミュエル・ハンチントン氏がみごとに示してくれています。
「米国の権力の構築者は、存在を感取することはできるが見ることはできない力を創造しなければならない。権力はそれが闇に隠れている場合、強力な存在でいられる。白日の下にさらされるとそれは消散してしまうのだ」。

他のいかなる国とも同じように、米国でも、権力の構築者はこのことを十二分に認識しています。公開された膨大な文書、たとえば、米国務省の公的歴史記録である『米国外交文書史料集』などを精査してみれば気づかずにはいられないでしょう-----国家権力を国民から隔離し、安泰に保つことがいかにしばしば主要な関心事であるかを。実質的な意味において一般国民の安全は主要な関心事ではないのです。

秘密主義を維持しようとする政府当局の試みは、多くの場合、国内の力の強い業界の安寧を確保する必要性によっても後押しされます。この例で昔からおなじみになっているのは、不適切な呼び名のついた「自由貿易協定」です。不適切と呼ぶゆえんは、これらが実際には自由貿易の原則にいちじるしく反しているからです。また、同時に、これが実は実質上、貿易とはまったくかかわりがなく、投資家の権利をめぐるものだからです。

これらの企ては決まって秘密のうちに交渉が進みます。目下話題となっている「環太平洋連携協定(TPP)」もその一例です。もちろん、完全に秘密というわけではありません。つまり、何百人という企業お抱えのロビイストや法律家にとっては秘密ではありません。協定中の細かい部分を作成、記述しているのはほかならぬ彼らなのですから。この協定の深刻な影響はごく一部を瞥見することによっても認識できますが、それが一般市民に明かされたのはウィキリークスのおかげでした。

経済学者のジョセフ・スティグリッツ氏はいみじくもこう述べています。米通商代表部が国民のためではなく「企業の利益を代表している」からには、「今後の協議の結果が米国の一般庶民のためになるという見込みは薄い。他国の一般庶民にとっての展望はいよいよ荒涼たるものだ」、と。

企業の安泰は、政府の施策において、常に関心の対象です。とはいえ、これは驚くべきことではありません。そもそも、政策を策定する段階で彼らは一枚かんでいるのですから。

これとは対照的に、米国で暮している一般市民の無事・安全-----「国家安全保障」なる言葉は通常この意味であると一応考えられていますが-----は、国の政策において重要な関心事項ではない、そう判断すべき堅固な証拠があります。

たとえば、オバマ大統領の推進する無人攻撃機を使用した世界規模の暗殺計画を考えてみてください。これは、世界で突出して大規模なテロ作戦ですが、同時にテロ行為を増殖させるふるまいでもあります。スタンリー・マクリスタル陸軍大将は、アフガニスタン駐留軍の司令官を務めた人物ですが、同氏は「蜂起者の数学」なる言い回しを使っています。それは、「アメリカが無辜の人間をひとりあやめるたびに10人の敵があらたに生まれる」という意味です。

この「無辜の人間」という概念をふり返ってみれば、われわれがマグナ・カルタ以来、この800年でどれだけ進歩したのかがわかります。マグナ・カルタでは「無罪推定」という原則が確立され、この原則は英米法の礎石を成すとかつては考えられていました。

今日では、「有罪」とは「オバマ大統領が暗殺対象に指定した」を意味し、「無辜(無罪)」とは「(それに)いまだ指定されず」の謂いにすぎません。

つい最近ブルッキングス研究所が『アザミと無人攻撃機』というタイトルの書籍を出しました。著者は Akbar Ahmed氏で、さまざまな部族社会をあつかった文化人類学の研究書であり、おおいに評判となりました。サブタイトルは「アメリカの対テロ戦争がいかにイスラム部族に対する世界戦争に変貌したか」です。

米国によるこの世界戦争は、複数の専制的な政府に対して、米国政府の敵である部族に攻撃を加えるよううながしました。Ahmed氏は次のように警告しています。この結果、部族によっては「死に絶える」かもしれない。それは社会自身にとっても深刻な打撃であり、今まさしくアフガニスタンやパキスタン、ソマリア、イエメンで起こっている事態である。そして、その打撃は最終的には米国民に波及する、と。

部族の文化は名誉と報復の上に成り立っていると Ahmed氏は指摘しています。「これらの部族社会で起きたいかなる暴力行為も反撃を呼び起こす。部族の人間に加えられた攻撃が激しければ激しいほど、反撃は強烈で凶悪なものとなる」。

テロに対する選択的、集中的攻撃は確かに有効であるかもしれません。英『インターナショナル・アフェアーズ』誌において、デビッド・ヘイスティングズ・ダン氏が解説するところによれば、いよいよ高度化した無人攻撃機はテロ集団に対するうってつけの兵器です。安価で、調達が容易で、「数々の美点を有しており、それらを組み合わせれば、21世紀の対テロ兵器として理想的な手段となり得る」。

一方、上院議員のアドレー・スティーブンソン3世は、上院情報委員会での長年の務めをふり返りつつ、こう述べています。
「ネット監視と大量のデータ収集は、9月11日のテロに対する反応の一環です。しかし、テロリストの発見にはほとんど寄与しませんでしたし、世界中から多くの非難を浴びました。米国はイスラム教徒に対し、シーア派、スンニー派の区別なく戦いを挑んでいると広く認識されています-----地上で、あるいは無人攻撃機を使って空から、また、パレスチナでは代理人を立てて。ペルシャ湾から中央アジアに至る各地でです。ドイツとブラジルはわれわれの盗聴行為を憎んでいます。これらの成果は一体いかなるものでしょうか」。

その答えは、テロの脅威の増大と国際的な孤立です。

無人攻撃機を使った暗殺作戦は、国家の政策策定者がそれと知りつつ国民の安全を危険にさらすふるまいのひとつです。同じことは特殊部隊による殺害計画にも当てはまります。また、イラク侵攻も同様です。その結果、欧米におけるテロ行為は大幅に増加しました。しかし、これは英米の諜報機関が最初から予想していたことでした。

くり返しますが、これらの攻撃行為は政策策定者にとってはほとんど頭をなやます対象ではありませんでした。彼らをみちびいているのはまったく異なった安全保障の概念です。政府当局にとっては、核兵器による瞬時の壊滅さえ最上位の留意事項には属していません。この点については次回のコラムで論じましょう。


本文章は、2部から構成される文章の最初のパートであり、『核時代平和財団』の後援により2月28日にカリフォルニア州サンタバーバラでおこなわれたチョムスキー氏の講演に手を加えたものである。


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[訳注と補足など]

■訳文中に

「この協定の深刻な影響はごく一部を瞥見することによっても認識できますが、それが一般市民に明かされたのはウィキリークスのおかげでした。」

と書いてあるとおり、ウィキリークスは「環太平洋連携協定(TPP)」の知的財産権(知的所有権)の章の草案を入手し、公表しています。
すでに皆さんご存知とは思いますが。

これもウィキリークスの大きな功績のひとつです。

アサンジ氏に対する人権侵害の是正を各国団体が国連に要請

2014年10月08日 | 国際政治

ご無沙汰しました。
夏は毎年体調が思わしくなく、今年は涼しかったにもかかわらずやはりダウンしていました。


今回は久々にウィキリークス関連です。

世界各地の団体が連帯して、アサンジ氏に対する人権侵害の是正を求め、国連に文書を提出しました。
それを伝える短い文章で、3ヶ月以上前のものです。

最近は、アサンジ氏を追及しているのが米国防総省や国務省、司法省であることがはっきりとしてくるにつれて、報道のトーンが冷めてきているように感じます。
米国政府の意向にそむくことを恐れて報道を自粛しているのではないかと疑われます。

今回の件が大手メディアで取り上げられたかどうか。少なくとも大きな話題にはなっていないでしょう。

短いものの資料的な意味で誰かが訳しておいた方がいい、「誰もやらないのであれば、しょうがない、自分が」ということで、時間が開いてしまいましたがここにアップする次第です。


タイトルは
59 International Organizations Call Upon UN to Remedy Human Rights Violations in Pre-Charge Detention of Wikileaks Publisher Julian Assange
(ウィキリークスの代表者ジュリアン・アサンジ氏の未起訴の幽閉状態をめぐる人権侵害の是正を世界各地59の諸団体が国連に要請)

原文はこちら
https://wikileaks.org/59-International-Organizations.html

(原文の掲載期日は6月16日でした)


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59 International Organizations Call Upon UN to Remedy Human Rights Violations in Pre-Charge Detention of Wikileaks Publisher Julian Assange??
ウィキリークスの代表者ジュリアン・アサンジ氏の未起訴の幽閉状態をめぐる人権侵害の是正を世界各地59の諸団体が国連に要請



報道関係各位: 2014年6月16日

複数の団体が、ジュリアン・アサンジ氏に対するスウェーデン政府の人権および法的手続き上の侵害を問い、国連の『普遍的・定期的レビュー』のために報告書を提出

… 報告書の詳細は後段のリンクを参照 …


(スイス、ジュネーブ発)
今週日曜の国連会合を目前に、人権団体、公正な裁判を訴える団体、法曹団体など26の国際的な組織、および、南米の33の市民団体が、ウィキリークスの編集代表者ジュリアン・アサンジ氏の基本的人権に対するスウェーデン政府の侵害を非難した。アサンジ氏はスウェーデン当局の調査に由来する幽閉状態に長く置かれているが、同当局はいまだアサンジ氏に罪状を問うていない。この状態のままほぼ4年が経過している。一方、米国の連邦大陪審はウィキリークスとその幹部らに対して刑事訴訟の手続きを進めている。

米国法律家協会(AAJ)、ナショナル・ロイヤーズ・ギルド(NLG)、国際民主法律家協会(IADL)、インド法律家協会、等々、世界各地の法律家の団体に、スウェーデンの2つの団体も加わり、国連に対して2つの報告書を提出した。1つは英語で、もう1つはスペイン語で書かれている。いずれもアサンジ氏に関する法的手続き上のさまざまな権利侵害に光を当てている。これは、スウェーデンの歴史において、未起訴でありながらもっとも長期に自由が奪われた事例である。

また、3つ目の報告書が、「女性グローバル・マーチ」(Marcha Mundial das Mulheres)を初めとする人権擁護団体、報道機関、市民団体、組合等の33の組織によって署名され、国連人権委員会に提出された。同報告書は、「政治犯」であるジュリアン・アサンジ氏の幽閉状態を解くべく事態に介入することを訴えている。

これらの報告書は国連の『普遍的・定期的レビュー(UPR)』に向けて提出された。UPRは国連の人権調査の中核的な制度であり、4年ごとに各国の人権状況を検証している。報告書では、スウェーデンの公判前の法的手続きにおける数々の制度的不備が指摘されている。例えば、いかなる罪も問われていない人物を慣習的に期限未設定、孤立状態もしくは説明なしに拘禁するといったやり方である。

16の組織が署名した上記の英語の報告書によれば、「アサンジ氏の事例を担当する検察官の用いた手法は同氏の基本的人権を明白に侵害している。にもかかわらず、それらは司法審査の対象になっていない」。

2つ目の報告書-----こちらには国際的な人権団体や公正な裁判を求める団体、法曹団体など10の組織が署名している-----では、以下のように書かれている。
「スウェーデン当局は事情聴取のためにアサンジ氏が同国に戻ることを要求しているが …… それは、[米国との関連で同氏の亡命によって付与される保護]に関する固有の権利を放棄することを意味するであろうし、さらには、実質的に、同氏が自身の生命と身体上の健全性を危険にさらすことをも意味する」。

3つ目の報告書はブラジルやアルゼンチン、メキシコ、エクアドルの人権団体、報道機関、市民団体、組合など33の組織によって署名され、国連人権委員会がアサンジ氏の幽閉状態からの即時の解放を求めてスウェーデン当局に働きかけるよう嘆願している。

「国際社会はアサンジ氏に対する恣意的に加工されたさまざまな非難を目にして来ました。これは同氏の評判を損ない、同氏の政治的なふるまいの自由と能力を抑止しようとの試みです。この前代未聞の状況は、スウェーデンで行われたとされる行為の帰結ではなくして、アサンジ氏の報道行為と政治的活動に対抗する、強力な利害関係者らの露骨な政治的干渉によるものであることが判然としています。かかるがゆえに、アサンジ氏は政治犯の資格を得ることとなりました。同氏は現在、なんら罪を問われず、正当な法的手続き上の権利を奪われたまま、実質的に軟禁状態を余儀なくされています」

2014年の6月19日の時点で、アサンジ氏は、ロンドンのエクアドル大使館にこもって2年が経過したことになる(イギリスで活動の自由が制限された状態になってから数えるとほぼ4年である)。同氏は、ウィキリークスの代表者として米国が訴追する動きに関連して政治亡命者の資格を認められている。しかし、スウェーデン政府はアサンジ氏を米国に移送しないと確約することを拒んだ。同国の検察官は予備調査を開始してから4年近くになるが、アサンジ氏に対していかなる罪状も問えていない。また、同氏をロンドンで事情聴取するという選択肢も拒絶している。そのために現在の膠着状態が生じた。検察側にはこれまでアサンジ氏をロンドンで直接もしくは文書、電話、テレビ会議システムなどを介して事情聴取する案が少なくとも4度正式に提示された。これらはいずれも拒否された。この膠着状態のおかげで、英国だけでも1000万ドル以上の費用がかかっている。同国では、エクアドル大使館、そして、アサンジ氏に会うすべての人間を、警察の別働隊が24時間体制で見張っている。


・『普遍的・定期的レビュー(UPR)』に向けた英語の報告書はこちら
(訳注: 原文サイトのHEREの部分をクリックしてください)

・スペイン語の報告書はこちら
(訳注: 原文サイトのHEREの部分をクリックしてください)

・同じく『普遍的・定期的レビュー(UPR)』に向けた、市民団体による提出文書(スペイン語)はこちら
(訳注: 原文サイトのHEREの部分をクリックしてください)


以下に、文書に署名した全組織の名称をかかげる。

1.連帯して英語の報告書に署名した人権団体、公正な裁判を求める団体、法曹団体は以下の通り

・American Association of Jurists(AAJ)(米国法律家協会)

・Arab Lawyers Union(ALU) 

・Association des Avocats Africains Antillais et Autres de France(5AF) 

・Association Droit Solidarite 

・Bangladesh Democratic Lawyers Association 

・CAGECHARTA 2008 

・European Association of Lawyers for Democracy and World Human Rights(ELDH)(民主主義と世界人権のためのヨーロッパ法
律家協会)

・Eva Joly Institute for Justice & Democracy(EJI) 

・Giuristi Democratici Italy(Italian Democratic Lawyers Association) 

・International Association of Democratic Lawyers(IADL)(国際民主法律家協会)

・Indian Association of Lawyers 

・Movimento dos Trabalhadores Rurais sem Terra(MST)(土地なし農村労働者運動)

・National Lawyers Guild(NLG)(ナショナル・ロイヤーズ・ギルド)

・National Union of People’s Lawyers of the Philippines 


2.連帯してスペイン語の報告書に署名した10の人権団体、公正な裁判を求める団体、法曹団体は以下の通り

・ILOCAD 

・Asociacion Latinoamericana de Derecho Penal y Criminologia

・The Center for Justice & Accountability 

・Asociacion Pro Derechos Humanos de Espana 

・Comite de Apoyo al Tibet 

・Fundacion Internacional Baltasar Garzon 

・Instituto Mexicano de Derechos Humanos y Democracia A.C. 

・Colectivo de Abogados "Jose Alvear Restrepo" 

・Vortex 

・Union de Juristas Independientes de Andalucia 


3.連帯してスペイン語の提出文書に署名した33の市民団体は以下の通り

・Articulacao de Empregados Rurais do estado de MG(ADERE-MG)

・Asamblea Nacional de Afectados Ambientales - Mexico 

・Associacao de Radios Publicas do Brasil(ARPUB) 

・Comissao Pastoral da Terra(CPT)  

・Confederacion de Trabajadores de la Economia Popular - Argentina  

・Consulta Popular - Brasil  

・Executiva Nacional dos Estudantes de Biologia(ENEBIO)

・Federacao dos Estudantes de Agronomia do Brasil(FEAB)  

・Fora do Eixo  

・Forum Nacional pela Democratizacao da Comunicacao(FNDC)  
・Frente Popular Dario Santillan(FPDS - Argentina)  

・Fundacion Pueblo Indio del Ecuador  

・Grupo Tortura Nunca Mais - Rio de Janeiro  

・Intersindical Central da Classe Trabalhadora

・Jovenes ante la Emergencia Nacional - Mexico  

・Coletivo Juntos! - Por outro futuro  

・Levante Popular da Juventude  

・Marcha Mundial das Mulheres(MMM)

・Movimento dos Atingidos por Barragens(MAB)

・Movimento Nacional de Radios Comunitarias(MNRC)

・Movimento de Mulheres Camponesas(MMC)  

・Movimento dos Pequenos Agricultores(MPA)

・Movimento dos Trabalhadores Rurais Sem Terra(MST)(土地なし農村労働者運動)

・Movimiento de Liberacion Nacional - Mexico  

・Movimiento de Trabajadores Excluidos - Argentina

・Organizacion de Solidaridad de los Pueblos de Africa, Asia
y America Latina(OSPAAAL)

・Pastoral da Juventude Rural(PJR)

・Red Nacional Communia  

・Rede Ecumenica da Juventude(REJU)

・Uniao Nacional dos Estudantes(UNE)

・Uniao da Juventude Socialista(UJS)  

・Uniao da Juventude Rebeliao(UJR)  

・Sindicato Unificado dos Petroleiros de Sao Paulo


問い合わせ先: アンディ・ステパニアン 
631.291.3010 andy@fitzgibbonmedia.com


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[その他の訳注と補足など]

■組織・団体名は、ネットで検索しても日本語の定訳がほとんど見つかりませんでした。
少数の例外を除いてやむを得ず原語のままです。

また、その正確な表記については原文サイトで確認してください。
テキスト形式でコピーしているために表記が正確に反映されていません。


■訳文中の
「さらには、実質的に、同氏が自身の生命と身体上の健全性を危険にさらすことをも意味する」
の「身体上の健全性を危険にさらす」は、もちろん「拷問を受ける」の意でしょう。



今回の件を理解するのに役立つ文章を以前のブログで訳出しています。
特に
・スウェーデン政府が米国からの圧力に弱いこと
・ウィキリークスを圧殺する動きは米国防総省が発端であるように思われること
について興味深い記述があります。
こちらもぜひ一読を。

気まぐれ翻訳帖・ウィキリークス壊滅作戦?
http://cocologshu.cocolog-nifty.com/blog/2011/02/post-ba4d.html


また、アサンジ氏追及がジャーナリズムその他におよぼす影響については、

マイケル・ムーア、オリバー・ストーン両監督による声明
http://cocologshu.cocolog-nifty.com/blog/2012/08/post-925b.html

など。

その他、ウィキリークスをめぐるメディアの偏向報道については以前のブログで何度も取り上げています。時間のある方はぜひお読みください。


チョムスキー氏のコラム-----ウクライナ情勢にからんで

2014年07月10日 | 国際政治

今回も、例によって、私の「ひとりチョムスキー翻訳プロジェクト」の一環(笑)。

今回はインタビューではなく、コラム、というかエッセイというか、とにかく、ウクライナ情勢にからんでのチョムスキー氏の一考察です。

タイトルは
The Politics of Red Lines
(レッド・ラインをめぐる政治力学)

red line とは、
「越えてはならない一線、平和的解決から軍事的解決へと移るその一線」
と、『英辞朗』には出ています。


原文はこちら
http://zcomm.org/znetarticle/the-politics-of-red-lines/

(なお、原文の掲載期日は5月3日でした)


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The Politics of Red Lines
レッド・ラインをめぐる政治力学



By Noam Chomsky
ノーム・チョムスキー

初出: New York Times Syndicate

2014年5月3日



目下のウクライナ危機は深刻で剣呑であり、コメンテーターの中には、それを1962年のキューバ危機になぞらえる者さえいる。

コラムニストのタナシス・カンバニス氏は、ボストン・グローブ紙において、問題の核心を次のように集約してみせた。
「ロシアの大統領ウラジミール・プーチン氏によるクリミア併合は、冷戦終了後に米国とその同盟国が依拠してきた秩序を乱すふるまいである。その秩序とは、すなわち、大国が軍事介入に踏み切るのは、国際的な合意が自分の側についた場合か、さもなければ、対立する側のレッド・ラインを越えない場合のみである、というものだ」。

現代のもっとも深刻な国際犯罪、つまり、米国と英国によるイラク侵攻は、したがって、世界の秩序を乱すものではないというわけである。あの時、国際的な合意は得られなかったが、侵攻国側はロシアもしくは中国のレッド・ラインを踏み越えたわけではなかった。

これと対照的に、プーチン氏によるクリミア併合とウクライナに関する野心は米国のレッド・ラインをつき破ってしまう。

したがって、
「オバマ大統領はロシアの外部世界との経済的、政治的紐帯を断ち切り、周辺地域への拡張主義的野心を押しとどめ、実質的にロシアを『のけ者国家』とすることを通じてロシアの孤立化を目指している」。
これは、ニューヨーク・タイムズ紙に載ったピーター・ベイカー記者の文章である。

要するに、米国のレッド・ラインはロシアの国境にどっしりと据えられている。かかるがゆえに、ロシアの「周辺地域への」野心は、世界の秩序を乱し、危機を創出するものとなるのだ。

その事情はロシアのみにとどまらない。他の国々は時に自国の国境にレッド・ラインをひくことが許される(米国のそれと一致する場合である)。しかし、たとえば、イラクについてはそうではなかった。また、イランに関しても事情は異なる。イランに対しては、米国は再々、軍事力の行使をほのめかした(「すべての選択肢を考慮する」と米国政府は宣言した)。

このような脅迫は国連憲章に違反しているだけではない。米国がつい先頃賛同したばかりの、ロシアを非難する国連総会決議にもそむいている。決議の冒頭では、国際問題における「武力による威嚇又は武力の行使」を禁じる国連憲章の一節が強調された。

米国のレッド・ラインは、キューバのミサイル危機においても、はっきりと浮き彫りになった。世界はあやうく核戦争に突入するところであった。フルシチョフ首相の危機打開の申し出をケネディー大統領が撥ねつけたからである。ソビエトがキューバからミサイルをひき揚げるのと並行して米国はトルコからミサイルを撤去するという提案であった(ちなみに、米国のミサイルは、はるかに破壊力の強大な潜水艦発射弾道ミサイル「ポラリス」に置き換えられることがすでに決まっていた。ロシアの潰滅を念頭に置いた大がかりな体制の一環である)。

この時においても米国のレッド・ラインはロシアの国境に設定されていた。そして、それはあらゆる陣営の了解事項であった。

インドシナに対する米国の侵攻は、イラク侵攻と同様に、レッド・ラインを破るものではなかった。世界各地における米国のその他多数の破壊行為も同様である。重要なポイントをもう一度述べさせていただく。敵対国はその国境にレッド・ラインを設定することが許される-----米国のレッド・ラインが同様にそこに設定されているかぎり。しかし、米国のレッド・ラインを踏み越えるような「周辺地域への拡張主義的野心」を敵対国がもし抱いた場合は、世界は危機に直面することになるのだ。

オクスフォード大学の教授である Yuen Foong Khong氏は、ハーバード大学とMITが協力して発行する『インターナショナル・セキュリティ』誌の最新号において、次のように述べている。
「米国の戦略思考には、長い(かつ、党派を超えた)伝統がある。すなわち、敵対的な覇権国が世界の主要地域で支配権を握るのを阻止することが米国のもっとも重要な国益である-----そう歴代の政権はくり返し強調してきた」。

その上、一般にはこう信じられている。米国は「その優位性を維持する」必要がある。なぜなら、「米国の覇権こそが地域の平和と安定の礎石となってきた」からである、と。この後者の言い回しは、米国の要求に従うことを意味する業界用語にすぎない。

ところが、実際は、世界の見方は別であり、ある世論調査によると、米国は「鼻つまみ者」、「世界の平和に対する最大の脅威」であって、どうにかこうにか肩を並べられそうな存在さえまったく見当たらない。しかし、「しょせん、こいつらは何もわかっていない」のである。

Khong氏の文章はアジアの危機をめぐるものであった。それは中国の台頭に起因し、中国は「アジアにおける経済的首位」を目指して歩を進めつつあるとともに、ロシアと同様に「周辺地域への拡張主義的野心」をかかえている。かくして、米国のレッド・ラインを踏み越えることになる。

オバマ大統領の最近のアジア歴訪は、外交用語で言うところの「長い(かつ、党派を超えた)伝統」を再確認するためであった。

西側諸国はほぼ一様にプーチン大統領を非難するが、その際にはプーチン大統領の「感情的な声明」がひきあいに出された。プーチン大統領は自嘲気味に不満をもらす-----米国とその同盟国は「われわれを再々あざむいた。われわれをのけ者にして事を決した。東欧へのNATOの拡大を既定事実としてわれわれに差し出し、ロシアとの国境に軍事拠点を構築した。われわれはいつも同じ台詞を聞かされた。『おあいにくさま、この件は貴殿には関係ない』、と」。

プーチン氏のうらみ節は事実の上ではまちがっていない。ゴルバチョフ大統領はNATOの枠組みの中でのドイツの統一を認めた。歴史上、驚嘆すべき譲歩であった。ただし、見返りが前提としてあった。東ドイツに言及する中で、NATOを「1インチたりとも東方へ」拡大しないとの趣旨が米国政府と合意されたのである。

この約束はあっという間に反故にされた。ゴルバチョフ氏は異を唱えたが、『あれは口約束にすぎない。だから、強制力を持たない』と諭される始末であった。

クリントン大統領はNATOをいよいよ東方へ、ロシアとの国境へと拡大することに専心した。今ではウクライナさえNATOにふくめようとする声が挙がっている。同国は歴史的にロシアの「近隣諸国」の主柱であった。にもかかわらず、この件はロシアには「関係ない」のだ。なぜなら、「平和と安定の礎石」たるべき責任を果たすには、米国のレッド・ラインがロシアとの国境に据えられるのが必須だからである。

ロシアによるクリミア併合は不法行為であり、国際法と特定の協定に反するものであった。これと同等のふるまいを近年の事例から見つけることは容易ではない。イラク侵攻はこれより度外れに深刻な犯罪行為であった。

しかし、同等の事例をひとつ、記憶から呼び起こすことができる。キューバ南東部グアンタナモ湾の米国による支配である。グアンタナモは1903年に米国の武力によってキューバからもぎ取られた。キューバは1959年に独立して以来、その返還を求めてきたが、今なおそれは果たされていない。

理は、まちがいなく、ロシアの方にずっと強力に存在する。併合を是とする地域の強い声ばかりではなく、クリミアは歴史的にロシアに属している。ロシアにとって唯一の不凍港をかかえ、ロシア艦隊の駐留地となっている。戦略上の要衝である。ところが、グアンタナモに関しては、米国は、圧倒的な軍事力を除いて、すがるべきものを持ち合わせていない。

米国がキューバにグアンタナモを返還しない理由は、ひとつには、こう考えられる。グアンタナモが同国のかなめとなる港を擁しており、この地域を牛耳ることで同国の発展を大幅にじゃま立てできるということである。それは、大がかりなテロ活動と経済戦をふくんだ、米国の半世紀にわたる主要政策目標であった。

米国は、キューバにおける人権侵害には言葉をうしなうと言う。ところが、次のような事実には目をつぶっているのだ。このような侵害の最悪の例がグアンタナモで行われていることを。キューバに対する非難がたとえ正当であろうとも、南米の親米政権下で日常的に遂行されていることと比べれば取るに足りないことを。キューバが独立以来、米国から苛烈で絶え間ない攻撃を加えられてきたことを。

しかし、以上のことはどの国のレッド・ラインも越えない、あるいは危機を惹起しない。それは、米国によるインドシナやイラクに対する侵攻と同じカテゴリーに属する。すなわち、お決まりとなった、議会制度の粉砕と邪悪な独裁制の導入である。そして、その他の、「平和と安定の礎石を据える」という米国のおぞましい行跡である。


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[補足]

ウクライナの話題に関しては、以前のブログの文章もぜひ参照してください。
主なものは以下の通りです。

・米国のメディア監視サイト・2-----ウクライナをめぐる英米メディアの偏向

・英国のメディア監視サイト・4-----クリミアをめぐる英米メディアの偏向

・チョムスキー氏語る-----超金持ちと超権力者たちの妄想


チョムスキー氏語る・4-----日本について

2014年05月29日 | 国際政治

今回もチョムスキー氏の語りです。
私の「ひとりチョムスキー翻訳プロジェクト」の一環です(笑)。

定期的にのぞいているオンライン・マガジンの『Znet(Zネット誌)』に載ったチョムスキー氏の文章はなるべくファイルに保存するようにしていますが、今回はその中から日本をめぐっての発言を取り上げてみました。
(初出はジャパン・タイムズ紙のようです)

話題は、原爆投下時の自分の行動の思い出、日本の平和憲法、中国への対応、米国の覇権、安倍政権、沖縄問題、原子力、等々さまざまです。


タイトルは
Truth to Power
(権力者に真実を)

インタビューの聞き手は David Mcneill(デビッド・マクニール)氏。

原文はこちら
http://zcomm.org/znetarticle/truth-to-power/

(なお、原文の掲載期日は2月23日でした)


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Truth to Power
権力者に真実を


By Noam Chomsky & David Mcneill
ノーム・チョムスキー、デビッド・マクニール

初出: ジャパン・タイムズ

2014年2月23日


政治理論家でもあるノーム・チョムスキー氏は、世界でも際立って物議をかもす思索家のひとりである。来月の訪日に先立ち、本紙は、近年のアジアの地政学的動向をめぐり同氏の考えをうかがった。


日本とのかかわりについてうかがいたいのですが。

日本については1930年代からずっと興味を持っていました。満州や中国における非道な犯罪行為について読んだからです。1940年代前半には、私は10代の若者でしたが、人種差別的で国粋主義的な反日プロパガンダの熱狂にまったく呆然としました。ドイツ人は悪者とされましたが、それでもいくらかの敬意を持ってあつかわれました。結局のところ、彼らは色白のアーリア人のタイプでした-----米国人の抱く自分自身のイメージにぴったりの。一方、日本人は虫けらにすぎず、アリのように踏みつぶされる存在として受け取られていました。日本の各都市に対する爆撃はくわしく報じられていました。それを読めば、重大な戦争犯罪が進行中であることは明らかでした。多くの点で原爆よりも深刻なものです。

こういう話をお聞きしました。あなたが広島への原爆投下、そしてそれをめぐる米国民の反応にあまりにショックを受け、まわりの人間から離れて、ひとりになって悲嘆にくれた、と。

そうです。1945年8月6日のことです。私は子供のためのサマー・キャンプに参加していました。拡声器を通じてヒロシマに原爆が落とされたことが伝えられました。全員が耳を澄ませて聞いていました。が、すぐに自分たちの活動に戻りました。野球やら水泳やらです。誰も何も言いませんでした。私はショックでほとんど口がきけない状態でした-----原爆投下という恐ろしい出来事とこれに対する無反応の両方のおかげで。『だから、どうしたっていうの? またジャップが大勢焼け死んだっていうだけ。それに、アメリカは原爆を持ち、よその国は持たない。すばらしいじゃないか。僕たちは世界を支配することができる。それでみんなハッピーさ』。こんな具合です。

その後の戦後処理についても、私は同様にかなりの嫌悪感を持って、注意を払ってきました。もちろん、当時は、今自分がしていることを予想してはいませんでした。けれども、十分に情報は得られたのです。「愛国的なおとぎ話」の嘘を見抜ける程度の情報は。

日本を初めて訪れた時は妻と子供が一緒でした。50年ほど前のことです。純粋に言語学をめぐるものでした。けれども、その時、自分の一存で『べ平連』(『ベトナムに平和を!市民連合』)の方々とお会いしました。それ以降、日本には何度も足を運んでいます。いつも言語学に関する用向きですが。私には非常に印象深く感じられることがあります。私が訪問したことのある国-----それはけっこうな数にのぼりますが-----、その中では日本だけなのです。「世界が燃えているさなか」(訳注1)でさえ、講演やインタビューがもっぱら言語学とそれに関連する事柄だけをあつかうという国は。

今回の訪日は日本にとって決定的な岐路となる可能性のある時期と重なりました。日本の現政権は、60年におよぶ平和主義的姿勢を転換しようとする動きを見せています。海外からの脅威に対しては「より柔軟な」対応が必要との主張です。中国や韓国との関係は険悪なものになっています。戦争の可能性さえささやかれています。懸念すべき状況でしょうか。

懸念すべきであることは非常にはっきりとしています。日本は平和主義的姿勢を捨てるのではなく、世界を勇気づけるモデルとしてそれを誇りに思うべきなのです。そしてまた、「戦争の惨害から将来の世代を救うため」という国連憲章の理念を率先して追求するべきです。この地域におけるさまざまな問題は切実なものです。しかし、必要とされる手段は、政治的な折り合い、および、平和的な関係の確立に向けた取り組みです。それほど昔ではない過去に悲惨な結果をまねいた政策へと回帰することではなく。

ですが、その政治的折り合いとは、具体的にどのように達成できるでしょうか。アジアで現在私たちが直面している状況、つまり、各国ともナショナリズムが高まっている状況。また、不透明な軍事費、それに国力を誇示したいという欲望を持った、急成長しつつある反民主的な国があり、一方に、国力が衰退しつつある国があり、後者の国は、このような展開が何をもたらすかについてますます不安をつのらせているような状況です。同様の状況における歴史的な前例はかんばしいものではありませんでした。

確かに問題は切実ですが、その問いは多少違った角度からとらえるべきではないかと思います。中国の軍事支出は米国によって注意深く見張られています。なるほど、それは確かに増大していますが、米国の支出に比べればちっぽけなものにすぎません。米国のそれは、同盟国を考慮に入れれば、いよいよ途方もないスケールになります(中国にはそのような同盟国は存在しません)。また、中国は太平洋における「封じ込め」から逃れようと努めています。それは、自国の貿易と太平洋への自由なアクセスに欠かせない海域に対する支配力を削ぐからです。このような事情は明らかに紛争の種となります。それは、しかし、それぞれの自国の利害をかかえるアジアの一部の国との紛争の種となり得ますが、中心となる対立国は米国です。米国は、無論のこと、いささかでも自分と肩を並べるような存在など夢にも考えようとしないでしょう。それどころか、世界を牛耳ることを目指しています。

米国は「衰退しつつある国」であり、その衰退は1940年代後半から始まっていました。けれども、覇権国家としては依然他国を寄せつけません。その軍事支出は実質上、他国すべてを合わせたものに匹敵します。その上、技術的にははるかに進んでいます。また、世界中に何百もの軍事基地を置き、連携をとるなど、他国にとっては夢のまた夢です。世界でもっとも大規模なテロ作戦を展開している点でも同様です。この「もっとも大規模なテロ作戦」という表現は、オバマ大統領が進める無人航空機による暗殺行為にまさしく当てはまります。そして、言うまでもなく、米国は過去に侵略や体制転覆をおこなったおぞましい経歴の所有者です。

これらは、政治的な折り合いを模索する際に欠かせない背景です。具体的には、中国の利害は、アジアの他の国々の利害と並んで尊重されるべきです。しかし、世界的な覇権国家による支配を受け入れる正当な根拠は存在しません。

日本の「平和主義的」憲法をめぐる周知の問題のひとつは、それが実態とあまりに食い違っているという点です。日本は米国の「核の傘」の下に行動し、米軍基地を何十とかかえ、多数の米軍兵士を駐留させています。これは、憲法9条の平和主義的理想を体現したものと言えるでしょうか。

日本のふるまいが正当な憲法上の理念と齟齬をきたしているのであれば、変えられるべきはふるまいの方です。理念ではなく。

安倍晋三氏が首相として政界に復帰したことについてはおくわしいでしょうか。安倍首相を国粋主義者として非難する者もいます。一方で、支持派は、安倍首相はただ単に時代遅れになった日本の3つの根本的な枠組み、すなわち、教育基本法、1947年の平和憲法、日米安全保障条約を時代に即したものに変えようとしているにすぎないと主張しています。これら3つの定めはいずれもその淵源を戦後における米国の占領に求めることができます。安倍首相についてどうお考えですか。

日本が世界の中でもっと独自の役割を追求するのは理にかなっています-----南米その他の国々にならい、米国の支配から脱しようとするのは。けれども、そのやり方は、安倍首相の国粋主義とは実質的に正反対のものであるべきでしょう。安倍首相のやり方を国粋主義と形容するのは、私には妥当であるように感じられます。平和主義的な日本国憲法、それは戦後の占領の遺産のひとつですが、とりわけ、この憲法を強く擁護すべきだと思います。

ナチス・ドイツの勃興と中国の急成長を同等視する見方については、どうお考えでしょうか。このような見方は日本の国粋主義者などからしばしば提示されるのですが。また、最近ではフィリピンの大統領、ベニグノ・アキノ氏からも同様の趣旨の発言がありました。中国の急成長は、日本の譲歩的姿勢を改めよという主張の一根拠として頻繁にひき合いに出されます。

中国は確かにいちじるしく国力を増し、「屈辱の世紀」(訳注2)から抜け出して、アジアだけでなく世界におけるひとつの勢力になろうとしています。このような成長には、かんばしくない、時には他国をおびやかすような側面がともなうことが通例です。けれども、ナチス・ドイツと結びつけるのは馬鹿げています。ここで、2013年の終わりに発表された国際的な世論調査にふれた方がいいでしょう。「世界の平和に対するもっとも大きな脅威」はいずれの国であるか、という問いが提示されました。他国をひき離して米国が断然トップでした。中国の4倍の票を集めたのです。このような結果になるのは、相応の強固な理由があるからです-----それについては先ほど多少ふれました。にもかかわらず、米国をナチス・ドイツになぞらえるのはまったく馬鹿げたことでしょう。その上、中国は米国よりはるかに暴力や体制転覆、その他さまざまな介入手段に訴えることが少なかったのです。

中国をナチス・ドイツと同等視するのは、実際のところ、過剰反応と言うべきでしょう。日本の皆さんは多少でもご存知なのだろうかと私は不思議に思います-----米国が第二次世界大戦後に、世界の覇者としての役割を英国からひき継いで以後、世界中で何をしているか、何をしてきたか、また、その覇者としての役割をいかに拡大したかについて。

人によっては、アジアに地域主義が台頭している兆候を見出しています。中国や日本、韓国を軸とし、さらにアジア全域に拡大しつつある密接な貿易関係を原動力としてです。このような動向はどのような条件の下で米国の覇権とナショナリズムを押しとどめることができるでしょうか。

それは可能性にとどまりません。すでに現実の事態です。中国の近年の急成長は、周囲の工業国から供給される先進的な部品、設計、その他の高度技術の産物に相当の程度依存しています。他のアジアの国々もこの枠組みにいよいよ組み込まれつつあります。米国はこの枠組みの重要な構成要素であり、西欧も同様です。中国に向けて米国は、先端技術を含め、さまざまなものを輸出しています。そして、同時に完成品を輸入しています。いずれも途方もない規模で、です。中国による付加価値は今のところ微々たるものですが、高度な技術を習得するにつれてそれは高まらざるを得ません。これらの展開は、適切に対応されさえすれば、政治的な折り合いを手助けすることになるでしょう。深刻な衝突を避けたいのであれば、それは至上命題です。

近年、尖閣諸島をめぐる緊張によって、中国と日本が軍事的に衝突する恐れが取りざたされています。大多数のコメンテーターは、今のところ戦争に発展する可能性は低いとなお考えています。甚大な損失、この2国間の経済、貿易をめぐる深い結びつきなどを考慮してです。あなたのお考えはいかかでしょう。

目下生起している対立はきわめて危険なものです。中国が論争中の地域に防空識別圏を設定したこと、米国がその後すぐにその識別圏を侵犯したこと(訳注3)も同様にきわめて危険なふるまいです。私たちは歴史によって確かに教えられたはずです。火をもてあそぶのは賢明なふるまいではない、と。強大な軍事力を所有している国についてはとりわけそうです。ちっぽけな出来事が急速にエスカレートし、経済的なつながりをも圧倒してしまう、そういう可能性があります。

これらの事態に関して米国の役割はどんなものでしょう。米国政府が中国との紛争にひき込まれることを望んでいないのは明らかなようですが。また、安倍首相の歴史認識、そして、日本の歴史修正主義のかなめである靖国神社への参拝という行為に接して、オバマ政権は憤慨したと私たちは理解しています。もっとも、米国を「私心のない仲介者」と呼ぶことはためらわれるのですが …… 。

そうは呼べないでしょうね。米国は中国を軍事基地で取り囲みつつあります。中国はそんなことはしていません。米国の安全保障の専門家はこの地域に関して「典型的な『安全保障のジレンマ』(訳注4)」という言葉を使っています。米国と中国がお互いに相手の姿勢を自国の基本的な利害に対する脅威と感じているからです。しかし、問題の焦点は、中国に接する海域の支配力をめぐるものです。カリブ海あるいはカリフォルニア沖の海域ではありません。米国にとっては、世界を制することが「重大な国益」なのです。

ここで、鳩山由紀夫首相がどうなったかを思い起こしておきましょう。同氏は、米国政府の意向をものともせず、大多数の沖縄県民の意思に従おうとしました。結果は、ニューヨーク・タイムズ紙によるとこうです。「鳩山首相は日曜、重要な選挙公約を守れなかったことを怒りに満ちた沖縄住民に向けて陳謝し、米軍基地を米国との当初の合意通り、本島の北方に移設することを決めたと語った」。同氏の「降伏」-----これはもっともな表現です-----は、米国政府からの強い圧力によるものです。

防空識別圏にとどまらず、中国は南シナ海で日本やフィリピン、ベトナムと領土をめぐり対立しています。これらの問題すべてに米国は直接的か間接的にかかわっています。これらは中国の拡張主義の表れとしてとらえるべきでしょうか。

中国は地域的な影響力を拡張しようとしています。それは、世界の覇者として受容されることを求める米国の慣習的な意向と衝突します。アジアの国々の地域的な利害とも衝突します。「中国の拡張主義」という言葉は適切です。ですが、それはむしろ人を誤解に導くものでしょう。世界の覇者としての米国の圧倒的な力を考慮すれば。

第二次世界大戦が終了したばかりの頃をふり返ってみてください。米国の世界戦略の上では、アジアが米国の支配下にあることは当然のことと考えられていました。中国の独立は、これらの想定にとって深刻な打撃でした。米国における議論の場では、この中国の独立は「中国を失った(中国の喪失)」と表現されています。そして、この「喪失」の責任の所在は誰にあるのかが、マッカーシズム(赤狩り)の台頭とともに、大きな国内問題となりました。この言葉遣いそのものが示唆的です。私の財布を私がなくすことはあり得ます。でも、あなたの財布を私がなくすなんてことはできないでしょう。米国における議論では、中国はハナから米国のものだというのが暗黙の了解になっているのです。「拡張主義」という言葉を持ち出す場合には慎重でなければなりません。この米国の覇権的な考え方、そして、その醜悪な過去にしかるべき注意を払うべきなのです。

次は、沖縄についておうかがいしたいと思います。中央政府および沖縄の地方当局に対して地元住民が反発し、大きな対立が生み出されつつある様相です。前者は辺野古に米軍基地を移設する案を支持していますが、後者は先月、基地反対をかかげる市長に圧倒的な票差で再選を勝ち取らせました。事態がどのように収束するかについて、何かお考えはおありですか。

名護市の人々と稲嶺進市長の勇気には敬服するしかありません。住民が圧倒的に反対している基地を安倍政権は無理やり押しつけようと嘆かわしい努力をしましたが、それを拒絶したのですから。また、嘆かわしいだけでなく、恥ずべきであるのは、住民の民主的な決定を中央政府が即座に踏みにじったことです(訳注5)。どんな結末をむかえるかについては、私には確たることは言えません。しかし、民主主義の行く末、また、平和への道筋にとって、それは小さからぬ重要性を持つでしょう。

安倍政権は原子力利用をふたたび推進し、停止中の原子力発電所を再稼動させようとしています。賛成派は、原発の休眠状態が発電コストと化石燃料の使用率の大幅な上昇につながると言い、反対派はその危険性を訴えています。

原子力をめぐる問題は総じて一筋縄ではいきません。フクシマの事故のことを考えれば、それがいかに危険なものであるかはあらためて強調するまでもないでしょう。事故は収束したどころではありません。一方、化石燃料をこのまま使い続けることは世界的な災厄につながる恐れがあります。それも、遠くない将来に、です。賢明な道筋は、できるかぎり早く持続可能なエネルギーに移行することでしょう。目下ドイツが進めているように。他の選択肢はあまりに破滅的で、考慮に値しません。

ジェームズ・ラブロック、ジョージ・モンビオなど熱心な環境保護論者の活動についてはご存知のことと思います。地球が焼き焦がされるのをふせぐ唯一の方法は原子力だと彼らは主張しています。短期的には、この判断はそれなりの根拠を有しているように思われます。フクシマの事故後の直接的な影響のひとつは、石炭や天然ガス、石油などの輸入の大幅拡大でした。再生可能エネルギーの開発は、急激に進行している気候変動を食いとめるのに間に合わないと彼らは唱えています。

すでに申し上げた通り、これらの見解には多少の根拠があります。もう少し正確に言えば、原子力-----放射性廃棄物の処分を初めとする、あらゆる深刻な危険と未解決の問題をかかえたこの原子力-----に限定的、短期的に依存することが、持続可能なエネルギーの早急かつ広範な開発のための機会としてとらえられるならば、という話です。それはもっとも優先されるべき事項であり、かつ、一刻も早く取り組むべき事項です。環境が崩壊する深刻な脅威は遠い未来の話ではないからです。


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[訳注と補足と余談など]

■タイトルの Truth to Power について。

Truth to Power は、通常 speak truth to power という形で使われる表現で、「権力者に(都合の悪い)真実を突きつける」ぐらいの意味です。
今回のこのタイトルには、特に深い意味はないと思われます。「チョムスキー氏へのインタビュー」というタイトルでは芸がないので、こういう表現を選んだのでしょう。
「チョムスキー氏が権力者(特に米国もしくは米国の支配者層)にとって不都合な真実を語る」というほどの意味と解されます。


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■訳注1
「世界が燃えているさなか」は、英語の慣用表現

fiddle while Rome is burning
(大事をよそに安逸にふける、一大事に無関心でいる)

の while Rome is burning(ローマが燃えているさなか)をもじったもの。
この慣用表現は、ローマ皇帝のネロがローマ大火災の際にその炎上を塔の上から眺めながらリラを弾いていたという伝説に由来します。


■訳注2
「屈辱の世紀」とは、
中国が外国から帝国主義的侵略その他の屈辱を経験した、アヘン戦争(1839~42年)から1945年の日中戦争の終結までの期間を指す中国の表現です。


■訳注3
「米国がその後すぐにその識別圏を侵犯したこと」
については下記の記事を参照。

米軍爆撃機が防空識別圏を飛行、中国に事前通報せず
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE9AP07U20131126


■訳注4
「安全保障のジレンマ」とは、

自国の安全保障の追求が他国には脅威と映り、結果的に緊張を高めてしまう(軍拡競争をもたらしてしまうなど)こと

です。


■訳注5
「 ~ 住民の民主的な決定を中央政府が即座に踏みにじったこと」
とは、おそらく下記に引用する事実を指しています。

主権在民原理に立つ民主主義の国であれば、政府はこの名護市民の意思を尊重し基地建設計画を取りやめるはずです。ところが、安倍政権は市長選のわずか2日後、埋め立てを進める手続きを開始したのです。埋め立てをおこなうには諸工事が自然環境に及ぼす影響を調査しなければなりませんが、防衛省はその調査を請け負う民間企業を募集する入札の公告を強行しました。この政府の姿勢は名護市民をはじめとする沖縄県民の「新基地建設 NO!」の意思を正面から踏みにじるものであり、県民から激しい怒りが湧き起こっています。

この引用は、

Stop!辺野古埋め立て
http://stop-henoko-umetate.blogspot.jp/

からです。検索すれば、そのほかにもこれについての報道が見つけられます。


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■文中の次の言葉、

「私が訪問したことのある国-----それはけっこうな数にのぼりますが-----、その中では日本だけなのです。「世界が燃えているさなか」でさえ、講演やインタビューがもっぱら言語学とそれに関連する事柄だけをあつかうという国は。」

は、耳の痛い話ですが、なぜ日本では「言語学とそれに関連する事柄」しか取り上げられないかに関しては、複数の原因が考えられます。
すなわち、

1.学者は知識人であり、知識人は国政その他の重大なテーマに関して発言すべきであるという観念(文化)の伝統が日本にはないこと。
(より正確には(西欧的な意味での)「知識人」という観念がない?)

チョムスキー氏を初めとし、欧米の人々の間では「知識人の責任」というものが非常に重要視されています。
ところが、日本では、学問も求道の形式のひとつととらえられ、学者は自分の分野の研究に専心するのが尊いとされ、他の分野に口を出すのはきらわれる傾向があります。

2.日本のメディア、日本人が権威主義的で、おかみ(政府当局)のやることに口を出すのをはばかる心的傾向があること。そのため、批判を自主規制してしまう。

3.日本政府(または米国政府)を批判し、目をつけられ、具体的な不利益をこうむることになる(政府はさまざまな許認可権などを武器に圧力をかけます)のを避けようとすること。これも批判の自粛につながります。

などです。


■文中の

「また、不透明な軍事費、それに国力を誇示したいという欲望を持った、急成長しつつある反民主的な国があり、一方に、国力が衰退しつつある国があり、後者の国は、このような展開が何をもたらすかについてますます不安をつのらせているような状況です。同様の状況における歴史的な前例はかんばしいものではありませんでした。」

について。

「不透明な軍事費、それに国力を誇示したいという欲望を持った、急成長しつつある反民主的な国」はもちろん中国を意味し、一方、「国力が衰退しつつある国」で、「このような展開が何をもたらすかについてますます不安をつのらせている」のは日本のことでしょう。

「同様の状況における歴史的な前例」とは、上とは逆に、明治・大正・昭和初期にかけて、「不透明な軍事費、それに国力を誇示したいという欲望を持った、急成長しつつある反民主的な国」が日本であり、「国力が衰退しつつある国」が中国で、この2国がやがて太平洋戦争へとなだれ込んだことを意味していると解されます。


■文中の

「第二次世界大戦が終了したばかりの頃をふり返ってみてください。米国の世界戦略の上では、アジアが米国の支配下にあることは当然のことと考えられていました。」

の「米国の世界戦略」とは、ひとつは「重要地域計画」のことでしょう。
これについては、以前のブログ(下記)の「訳注1」でふれました。

チョムスキー氏語る-----超金持ちと超権力者たちの妄想
http://blog.goo.ne.jp/kimahon/e/a554e4c629f391e59807ee8286fed27f


■文中の

「1940年代前半には、私は10代の若者でしたが、人種差別的で国粋主義的な反日プロパガンダの熱狂にまったく呆然としました。」

また、原爆投下が伝えられた際、
「まわりの人間から離れて、ひとりになって悲嘆にくれた」

などの事実から、チョムスキー氏が若い頃からマスコミや周囲の人間とは独立して、自分の頭で判断することのできる人間であったことがうかがわれます。非常に印象深い一節です。


■文中の

「中国の軍事支出は米国によって注意深く見張られています。なるほど、それは確かに増大していますが、米国の支出に比べればちっぽけなものにすぎません。」

「けれども、覇権国家としては依然他国を寄せつけません。その軍事支出は実質上、他国すべてを合わせたものに匹敵します。」

などにうかがえる、米国の突出した軍事力については、以前の回の文章が参考になります。

戦争を独占する国アメリカ
http://blog.goo.ne.jp/kimahon/e/02ee03b8f33673905a769eafd0e9aed6


チョムスキー氏語る・3-----金持ちや権力者にとっては上首尾です

2014年02月28日 | 国際政治

諸事情により多忙で、遅くなりました。

このブログではこれで3回目となる、現代を代表する知識人ノーム・チョムスキー氏の語りです。

内容はネオリベラリズム(新自由主義)批判が中心ですが、そのほかにパレスチナの将来展望、エリート知識人批判、自身がテーマである近作のアニメ・ドキュメンタリーについての感想、等々が述べられています。

タイトルは
Chomsky: It Is All Working Quite Well for the Rich, Powerful
(チョムスキー: 金持ちや権力者にとっては実にうまく機能しています)

なお、簡単な訳注は訳文中にはさみ込みましたが、長くなるものは末尾にまとめました。とりあえず最後まで目を通してくださるようお願いいたします。


原文はこちら
http://www.truth-out.org/news/item/20467-noam-chomsky-interview
(原文の掲載期日は昨年の12月8日です)


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Chomsky: It Is All Working Quite Well for the Rich, Powerful
金持ちや権力者にとっては実にうまく機能しています


2013年12月8日(日)

By CJ Polychroniou and Anastasia Giamali, Truthout | Interview


本インタビューは、12月8日(日曜)にギリシアの SYRIZA(急進左派連合)を支持する『アヴギ』紙に掲載されたインタビューを基にし、それに多少の修正と削除をほどこしたものである。


C・J・Polychroniou、Anastasia Giamali
ネオリベラリズム(新自由主義)の考え方によりますと、問題なのは政府自身であり、社会は存在せず、個人は自らの運命に責任を持つべしということになっています。ところが、大企業や金持ち連はかつてないほど国家の介入に頼っていて、経済に関する自分たちの支配力を維持し、そのパイの分け前を以前より増やしています。ネオリベラリズム(新自由主義)は神話、空理空論にすぎないのでしょうか。

ノーム・チョムスキー
ネオリベラルという言葉はいささか誤解をまねくものです。この考え方はネオ(新)でもありませんし、リベラル(自由)でもありません。あなたのおっしゃる通り、大企業や金持ち連は、経済学者のディーン・ベイカー氏の言う「保守的な乳母の国」に大いに頼るとともに、それを育んでもいます。これはとりわけ金融機関に当てはまります。最近のIMFの研究によりますと、大銀行の収益のほとんどすべては、政府の暗黙の保証-----いわゆる「大きすぎてつぶせない」というやつですね-----のおかげなのです。よく話題になる救済措置のためばかりではなく、国家の後ろ盾などによる低い金利、高い社会的信用のおかげです。生産的な経済についても同様です。現在経済の牽引役をはたしているIT革命は、やはり国が拠出する研究・開発資金や政府機関の買い入れなどの枠組みにかなりの程度依存しています。この流儀は英国の産業近代化の初期にまでさかのぼることができます。

けれども、「ネオリベラリズム(新自由主義)」にしろ、その前の段階の「リベラリズム」にしろ、いずれにせよ、それは神話や空理空論というわけではありませんでした-----その犠牲者にとっては。まったくそれどころの話ではなかった。経済史学者のポール・ベロック氏を初めとする大勢の人々が示してくれたことですが、19世紀に発展途上国に押しつけられた「リベラリズム」経済は、それらの国々の産業化を遅らせる大きな要因となったのです。実際のところ、それは「産業の空洞化」をまねきました。このような事情は現在に至るまでさまざまな装いの下に進行しています。

要するに、これらの経済思潮は、金持ちや権力者にとってはかなりの程度「神話」、「空理空論」に等しくなっています。彼らは市場原理から自分たちを守るさまざまなやり口を案出しています。しかし、貧しい人々、弱者にとっては、これらの経済は厳しい現実でした。その威力のおかげでズタズタにされました。


現在は、あの大恐慌以来、資本主義のもっとも破滅的な危機を経たわけですが、どうしてまた市場中心主義や「略奪的金融」がこれほど幅をきかせているのでしょうか。

基本的にはありふれた説明になります。つまり、金持ちや権力者たちにとってはきわめてうまく機能しているからです。アメリカを見てごらんなさい。何千万人もの人々が職をうしなっています。何百万人もの人々が絶望して職を求めることをあきらめています。暮らしぶりも収入額も大方は停滞しているか低下しています。ところが、大銀行は、今般の金融危機に責任があるにもかかわらず、以前よりも強大になり豊かになっています。企業の収益は記録やぶりの好調さです。「どんな強欲な人間の夢想をも超えた」富が、高名な人々のふところに積み上がっています(下の訳注を参照)。一方で、労働者は、「組合つぶし」や「雇用の不確実性の増大」によって立場がひどく弱められました。「雇用の不確実性の増大」という言葉は、当時FRB議長のアラン・グリーンスパン氏が自らの差配した好調な経済を説明する際に使ったものです。グリーンスパン氏はあの当時は「聖アラン」と呼ばれていました。そしておそらくはアダム・スミス以来のもっとも偉大なエコノミストでしょう(もっとも、あれから同氏の主導した体制は、理論的土台ともども、崩壊してしまいましたが)。
そういうわけで、何をブツブツ不平をとなえる理由があるのか。こういう具合です。

(訳注: 「どんな強欲な人間の夢想をも超えた」は英国の文人サミュエル・ジョンスンの発言に由来する表現)

金融資本の隆盛は、産業界の収益率の低下、そして、生産の現場をよその地域に広く求めることができる機会の増大などと関係があります。よその地域とは、労働の搾取がより容易で、資本に関する規制がもっともゆるいところです。一方、収益はもっとも低い[税]率を設定している国に計上されます。いわゆる「グローバリゼーション」というやつですね。こうしたやり口はテクノロジーの進歩によっておおいに助けられ、「制御不能な金融セクター」の成長に手を貸しました。そして、その「制御不能な金融セクター」は、「近代の市場経済[つまり、生産的な経済]を内側からむしばんでいます。ちょうどベッコウ蜂の幼虫が、卵として植えつけられた宿主の身体を内側から食いやぶるように」。この目の覚めるような表現は、英『フィナンシャル・タイムズ』紙に載った、マーティン・ウォルフ氏のものです。同氏はおそらく英語圏でもっとも信頼を寄せられている経済コラムニストです。

いずれにせよ、先ほども言いましたように、「市場中心主義」は多くの人々にとって厳しい規律を課すものとなりました。一方で、少数の大立て者たちは実質的にその影響をまぬがれています。


「国籍に縛られないエリートの台頭」、「国民国家の終焉」などをめぐり議論がかまびすしい昨今ですが、これらの話題についてはどうお考えでしょうか。これらの論を持ち出す人々によると、この「新世界秩序」なるものはすでに現実であるとのことですが。

そういう見方には一理あります。ですが、過大な見積もりは避けるべきでしょう。多国籍企業は依然として自分を守るのに故国をあてにしています-----経済的にも、軍事的にも。技術革新の上でも相当の程度頼っています。国際的な組織も大方は少数の強国によって仕切られています。全体的に見て、国民国家に基づく世界の秩序はかなり安定したものです。


ヨーロッパはますます「社会契約」の廃棄に向けて歩を進めています(下の訳注を参照)。これは、あなたにとって予想外の展開だったでしょうか。

(訳注: 原文が social contract なので、その通り訳しましたが、この文脈でよく用いられる表現は「福祉国家モデル」、「福祉国家」でしょう。その具体的な中身は「雇用の確保」、「福祉制度や社会保障制度の充実」などです。以下の文章の「社会契約」は「福祉国家モデル」または「雇用の確保と福祉・社会保障制度」に置き換えると理解が容易です)

欧州中央銀行総裁のマリオ・ドラギ氏は、『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙でのインタビューで、こう述べています。「欧州の伝統的な社会契約」-----それはたぶん欧州が現代文明に大きく寄与したもののひとつですが-----は「時代遅れになった」、であるから、撤回しなければならぬ、と。ドラギ氏は、そのなごりを維持しようと精一杯努めてきた国際官僚のひとりであるにもかかわらず、です。企業側は「社会契約」を常にきらってきました。「共産主義」の崩壊によってあらたな労働力が見込めるとなった際の経済紙の喜びようを思い出してください。教育や訓練を受け、健康で、しかも金髪碧眼でさえある労働者たちです。西側の労働者の「ぜいたくなライフ・スタイル」をおさえ込むために利用できる労働者たちです。この「社会契約」の廃棄は、必然的な力が作用した結果というわけではありません-----経済的な力であれそれ以外の力であれ。そうではなくて、政策意図の結果です。政策策定者の利に基づいたものです。その策定者はおそらくおおむね銀行家やCEOの面々であって、彼らのオフィスの床をきれいにする用務員ではありません。


今日、先進的な資本主義圏で多くの国々が直面しているきわめて大きな問題のひとつは、政府、個人を問わず、債務の重荷の問題です。とりわけユーロ圏の周縁諸国では、この問題が社会に破滅的な影響をもたらしています。あなたが過去に特に強調して言われたように、「代価を払うのは常に国民」だからです。今の運動家のために説明していただけませんでしょうか、債務がどのような意味で「社会やイデオロギーに由来する産物」であるかについて。

それにはたくさんの理由があります。そのうちのひとつは、IMFの米人理事であるカレン・リサカーズ氏の言葉にうまく言い表されています。同氏はIMFを「債権者集団の用心棒」と表現しました。普通の資本主義経済では、もしあなたが私にお金を貸し、私が返せないとなったら、それはあなたの問題です。私の隣人に対してその債務の返済を求めることはできません。ところが、金持ち連や権力者たちは市場の規律から自分の身を守っており、事態はこんな具合には展開しません。大銀行がリスクをかかえた相手にお金を融通します。リスクがあるので当然金利は高く、収益も高く見込めます。けれども、ある時点で返済がむずかしくなる。そこで、「債権者集団の用心棒」の登場となるわけです。彼らが返済を確実にしてくれます-----「構造調整計画」や緊縮財政その他の手段で責任を一般国民に転嫁することによって。一方、金持ちの側がこのような債務の返済をきらう場合は、それを「不当な債務」と宣言することができます。不当であるがゆえに無効である、アンフェアなやり方で弱い立場の者に課されたのだと主張されます。このような意味では大概の債務は「不当」でしょうに。しかし、かかる資本主義の苛烈さからまぬがれるべく強力な機関に訴えることのできる人間はわずかしかいません」

そのほかにもいろいろな仕掛けがあります。JP・モルガン・チェースはつい最近130億ドル(訳注: 約1兆2700億円)の罰金を科せられました(その半分ほどは損金あつかいにできますが)。これは、詐欺的な担保融資制度を用いた、犯罪行為と見なされるべきふるまいの結果です。この制度を利用した場合、犠牲者は通常、絶望的に重い債務のために苦しむことになります。

政府による不良資産救済プログラムの特別監察官ニール・バロフスキー氏は指摘しています。このプログラムは公的、法律的な「取り引き」である、と。実行犯たる銀行は救済措置を提供される。犠牲者-----すなわち自分の家をうしなった人々-----にも、ある程度の限定的な保護措置や支援措置が差し出される。しかし、バロフスキー氏が述べているように、真剣に取り組まれたのはこの取り引きの前半の部分だけにすぎません。このプログラムは「ウォール街の幹部連への大盤ぶるまい」と化しました。もっとも、「現行のありのままの資本主義」を理解している人間にとってはちっとも驚くべきことではないでしょう。

こうした例は枚挙にいとまがありません。


危機が進行する中で、ギリシャの人々は世界中で、デモだけがお気に入りの、なまけ者で、税金を払おうとしない堕落した国民として描かれてきました。こういった見方が広く定着しています。一般人の意見を左右するためにどのようなからくりが用いられているのでしょうか。これにはどういった対応が可能でしょうか。

こうした見方は、富と権力をそなえている人間が一般大衆の意見を主導するために差し出すものです。その歪曲と欺瞞に立ち向かうには彼らの力を弱めること、一般市民の力を結集する組織を構築することによるほかありません。それはどんな弾圧や支配の場合でも同様です。


目下ギリシャで進行中の事態についてどうお考えですか。とりわけ、いわゆる「トロイカ」(訳注: 欧州連合(EU)、欧州中央銀行(ECB)、国際通貨基金(IMF)の3機関で構成する国際支援体制)が執拗に要求している施策、また、ドイツが緊縮政策という大義を強硬に推し進めていることについて。

債務危機の克服という名目でドイツはギリシャにさまざまな要求をしていますが、その究極的なねらいは、ギリシャの所有する価値あるものはいかなるものであれそれを差し押さえることであるらしく思われます。ギリシャの人々を実質上、経済的奴隷の境遇に置くことをドイツの一部の人間は熱心に追求している、そういう風に見えますね。


ギリシャの次回の政権は急進左派を加えた連立政権になりそうな雲行きです。この政権はEUや同国の債権者たちにどのような対応をすべきでしょうか。また、左派の政権は、資本家階級のうちでもっとも生産性の高い部門(訳注: おそらく金融部門の意)に対して安心感をあたえるような姿勢を示すべきでしょうか。それとも、伝統的な労働者主義や人民主義の中核的概念を従来通り採用すべきでしょうか。

現実的に非常にむずかしい問題ですね。自分が望む事態の概略を披露するのはたやすいことですが、厳しい現実を考慮すると、今後の展開はいかなるものであれリスクと犠牲をともないます。それらを正確に計量できる能力がたとえ自分にあったとしても-----いや、それは自分にはありませんが-----厳格な分析と論拠なしでなんらかの施策を推奨するなどというのは無責任なふるまいと言えるでしょう。


資本主義の破壊への志向は疑う余地がありません。ですが、あなたの最近の文章では、環境をめぐる破壊に一層の注意が向けられています。人類の文明が危機に瀕していると実際にお考えですか。

人間のまともな暮らしの存続が脅かされていると思います。最初の犠牲者は、例によって、もっとも弱い人間、もっとも脆弱な立場の人々です。このことは、ちょうどワルシャワで閉会したばかりの国連気候変動会議でもはっきりと認識されていました。しかし、会議は事態の改善に大した役割ははたせませんでした。今後もまず間違いなくこういう具合でしょう。将来、歴史家は-----将来が人類にあるとしたらの話ですが-----今の状況を驚きの目でながめることになるでしょう。起こり得る破滅を回避しようと先頭に立っているのはいわゆる「原始的な社会」で暮らす人々なのです。カナダの「ファースト・ネーション」と呼ばれる人々、南米の先住民に属する人々、等々、世界の各所に散らばっています。目下、ギリシャでも環境回復や環境保護をめざす闘争が繰り広げられています。ハルキディキ県 Skouries に住む人々が果敢な抵抗を示しています。エルドラド・ゴールド社の貪欲な利益追求に対して、そしてまた、この多国籍企業を支援するギリシャ政府によって派遣された警官隊に対して。

一方、断崖から奈落に落ちる競争の先頭をわき目もふらず走っているのはずば抜けて豊かで強大な国、突出した優位性をほこっている国、-----たとえば、アメリカやカナダなどです。これらの国は、理性が予測するであろうことの正反対をいっている国です。その理性が、「現行のありのままの資本主義制民主主義」が要求する、狂気的な理性であれば話は別ですが。


米国は依然世界に大きな影響力を有する帝国であり、あなたのご説明によりますと「マフィアの掟」にしたがって動いています。「マフィアの掟」とは、つまり、ゴッドファーザー(ボス)は「反抗の成就」を許さないということです。はたしてアメリカ帝国は衰退しているのでしょうか。また、もしそうだとすると、それは世界の平和と安全にとってより深刻な脅威を意味するでしょうか。

米国の覇権が前代未聞の頂点に達したのは1945年でした。以来、着実にその力は下降線をたどっています。とはいえ、依然、強大な力を維持しており、多極化しつつある現代においても、肩を並べられる国はやはり見当たりません。ただし、昔ながらの「マフィアの掟」はあいかわらず唱えられますが、これを遵守させる力は制約を受けています。世界の平和と安寧に対する米国の脅威は虚構でも何でもありません。ひとつだけ例を挙げると、オバマ大統領の進める無人航空機による攻撃です。これは、当代のずば抜けて大規模で、破壊的なテロ作戦です。アメリカとその従属国家イスラエルは国際法を踏みにじっており、しかもそれでいながら何のおとがめもありません。たとえば、イランに対する武力攻撃の脅しです(「すべての選択肢を考慮する」と米国政府は宣言しました)。これは国連憲章の基本条項にそむくものです。また、米国の最近の『核戦略見直し報告書』(2010年)では、以前のものより攻撃的な口吻が増しています。この危険な兆候は無視されてはなりません。力の一極集中は概して危険を引き寄せます。経済に限った話ではありません。


イスラエルとパレスチナの紛争については、あなたはこれまでずっと「一国家・二国家論争」には大して意味がないとおっしゃってきました。

その通りです。なぜなら、一国家という選択肢はそもそもの初めから選択肢になっていないからです。大して意味がないどころじゃありません。現実から目をそむけることに等しい。

実際の選択肢は2国家共存か、さもなければ、イスラエルが米国の支援を得て現在おこなっていることの継続のいずれかしかありません。後者は、すなわち、ガザ地区をヨルダン川西岸地区から分断し、強圧的な包囲の下に置き続けること、そして、西岸地区で価値があると見なせるものを着々と分捕りつつ、そのイスラエルへの統合を進展させること、パレスチナ住民の少ない土地に入植するとともに彼らを静かに追い出すこと、等々です。これらのもくろみは、彼らの開発計画やパレスチナ人追放計画から鮮明に浮かび上がってきます。

後者の選択肢が存在するからには、イスラエルや米国が一国家構想に同意するなどとは考えられません。また、それにはイスラエルと米国以外の国際的な支持も得られていません。目下進展している現実の状況がしっかりと認識されない限り、一国家についてあれこれ論じる-----公民権闘争や人種隔離政策反対運動、「人口問題」、等々-----のは単なる気散じにすぎず、それは暗黙の内に後者の選択肢を支持することになります。これが現状から導かれる必然的な道筋です-----それを望むかどうかは別として。


あなたは以前こうおっしゃいました、自分をイライラさせるのは大抵の場合エリート知識人だ、と。これは、あなたが政治と倫理を区別なくあつかうことに由来するのではありませんか。

エリート知識人は、その定義から言って、かなりの特権を有しています。それはさまざまな選択肢を提供するとともに、責任をも付与します。特権に恵まれた人間は情報を入手しやすい立場にあり、また、政策決定に影響をおよぼす行動が採れる立場の存在でもあります。当然、彼らがはたした役割を評価する作業がともなわなければなりません。

人々は基本的な道徳上の責任をはたしながら生きるべきだ、確かに私はそう考えています。こういう考えについて釈明する必要があるとは思いません。そして、より自由でオープンな社会で暮らす人間の責任は、率直、誠実な言動に犠牲をともなうおそれのある社会に生きる人間よりも大きい。これについても説明の要はないでしょう。仮にソビエト時代のロシアの人民委員が国家権力の前にひれ伏したとしても、少なくとも彼らは恐怖を理由に情状酌量を求めることができます。より自由でオープンな社会に暮らす人間が同様なふるまいをした場合、彼らが口にできる理由は怯懦しかありません。


ミシェル・ゴンドリー監督によるアニメ・ドキュメンタリー『背が高い男は幸せか?』がニューヨークその他の主要都市で封切られました。すでにそれ以前からかなりの評判でしたが。ご自分でご覧になられましたか。出来はいかがだったでしょうか。

拝見しましたよ。ゴンドリー氏は本当にすばらしい芸術家です。映画の出来は巧妙、繊細で、重要な観念をきわめて簡潔明瞭にとらえています(専門家の間でも理解されないことがめずらしくないのですが)。しかも、個人的な感触をそなえています。それは非常に細やかで示唆に富むと私には感じられました。


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[その他の訳注と補足など]


■経済の専門家ではないし、パレスチナ紛争などについても詳しくは知らないので、誤訳や不適切な訳についての指摘を歓迎します。


■このブログの以前のチョムスキー氏の回もぜひご一読を。

・チョムスキー氏語る-----超金持ちと超権力者たちの妄想
http://blog.goo.ne.jp/kimahon/e/a554e4c629f391e59807ee8286fed27f

・チョムスキー氏語る-----思い出、国境、人類の共有財産
http://blog.goo.ne.jp/kimahon/e/f864b77fb9c6f848477645fec54edc82


■ミシェル・ゴンドリー監督によるアニメ・ドキュメンタリー『背が高い男は幸せか?』
については以下のサイトなどが参考になります。

M.ゴンドリー新作はチョムスキーのドキュメント
http://www.webdice.jp/topics/detail/4010/


■訳文中の「構造調整計画」や「ファースト・ネーション」などは、ネットで検索すれば容易に概要がつかめるので、これらについては訳注を省略しました。
情報が多すぎて適当なサイトが見つけにくいものなどは以下で紹介しています。


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■もう少し深く掘り下げたい方のために参考サイトを掲げておきます。

・訳文中の

「経済史学者のポール・ベロック氏を初めとする大勢の人々が示してくれたことですが、19世紀に発展途上国に押しつけられた『リベラリズム』経済は、それらの国々の産業化を遅らせる大きな要因となったのです」

における、ポール・ベロック氏、および、自由貿易に関する疑問については、ウィキペディアの「保護貿易」の文章が参考になります。↓

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BF%9D%E8%AD%B7%E8%B2%BF%E6%98%93


・訳文中の
「現行のありのままの資本主義制民主主義」
(原文は really existing capitalist democracy)
については、下記のサイトでもふれられています。

ノーム・チョムスキー - 芳ちゃんのブログ - Blogger
http://yocchan31.blogspot.jp/2013/11/blog-post_6078.html


・訳文中の

「アメリカとその従属国家イスラエルは国際法を踏みにじっており、しかもそれでいながら何のおとがめもありません。たとえば、イランに対する武力攻撃の脅しです(『すべての選択肢を考慮する』と米国政府は宣言しました)。これは国連憲章の基本条項にそむくものです」

については、以下のサイトが参考になります。

法律および人権グループ、アメリカの対イラン軍事行動は違法とする公開書簡を発表
http://homepage3.nifty.com/jalisa/opinion/backnumber/op20070201.html


・イスラエル・パレスチナの
「一国家・二国家論争」
については、たとえば、以下のサイトなど↓

国際ワークショップ「オスロ合意再考―パレスチナとイスラエルに与えた影響と代理案―」
http://www.l.u-tokyo.ac.jp/tokyo-ias/nihu/meeting/2013/20131013/index.htm


・訳文中の

「ガザ地区をヨルダン川西岸地区から分断し、強圧的な包囲の下に置き続けること、そして、西岸地区で価値があると見なせるものを着々と分捕りつつ、そのイスラエルへの統合を進展させること、パレスチナ住民の少ない土地に入植するとともに彼らを静かに追い出すこと、等々です」

については、

日刊ベリタ : 記事 : 米国、西岸のヨルダン合体とガザ分離を構想か
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=200510221206306


また、
「パレスチナ人追放計画」
については、

エルサレムから17万のパレスチナ人を追放する計画を発表 - 日刊ベリタ
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=200406102122244


・その他、パレスチナ関連で特に参考になると思われるサイトはこちら↓

パレスチナ問題の中のイスラム
http://jfn.josuikai.net/josuikai/21f/60/nag/main.html

アパルトヘイト・ウォールがめざす《最終解決》
ジャマル・ジュマ インタビュー
http://palestine-heiwa.org/wall/doc/pengon_int.html