鹿児島県霧島市、観光客で賑わう旅館街の喧噪から離れた天降川沿いに、茅葺屋根の古民家を移築し、創業から50年経とうとする、昔ながらの集落のような宿屋があります。1974年、フランスに誕生し、自治運営する非営利団体の協会組織 「ルレ・エ・シャトー」 に加盟している宿なのです。このルレ・エ・シャトーですが、加盟するのは相当に敷居が高く、厳格な審査と、ルレ・エ・シャトーの価値を共有できる、個性あるホテル・レストランのみが加盟を認められるそうです。
谷の斜面の狭い敷地にある宿にタクシーで乗り付けると、(雨が降っていたので) 傘を持ったスタッフが数人駆け寄ってきました。チェックインタイムまでまだ時間があったので、まず 「囲炉裏小屋」 に案内されました。この小屋は雅叙苑のロビーにあたり、夕食後にはここで、囲炉裏で温めた 「かっぽ酒」 が振る舞われるそうです。雨宿りをしていた鶏の夫婦と同席しました。
宿屋の入り口 ・ 「囲炉裏小屋」
チェックインの後で、昼間は読書サロン、夜はレストランやカフェとしても利用されている 「食処喫茶 不忘舎」 に案内され、お茶とお菓子をいただきながら宿の説明などを聞いたのです。
「食処喫茶 不忘舎」 ・ お茶とお菓子
われわれの 「客室」 は、玄関も縁側もある二間の家です。古い家屋にもかかわらず設備は現代的で、例えば、トイレに入ると便器のふたが開いたのにびっくりしました。露天風呂もあります。このような部屋付きの露天風呂は、この宿が日本で最初に始めたとのことです。
部屋付きの露天風呂
夕食は部屋食ではなく、 「いちょうの間」 と名付けられた建物に用意されていました。この建物は、雅叙苑で初めて移築した茅葺屋根の古民家なのだそうです。
「いちょうの間」 (朝食時)
まず飲み物ですが、私はオールフリー・ビールとウーロン茶、妻は地元の酒をたのみました。
テーブルの上にはすでに数々の料理が並んでいます。
自家牧場で手作りの発酵飼料を食べて元気に走り回って育ったという地鶏の刺身盛り合わせ。鶏の刺身はほとんど食べたことがありませんが、特に美味しいとは思いません。
刺身盛り合わせ ・ 野菜盛りの鰹節かけ
季節の野菜盛りの鰹節かけも煮〆も地味な料理ですね。どちらも深い味わいです。
煮〆 ・ だご汁
そして、さつま芋のでんぷんで作った 「だご」 が入っただご汁は、私の故郷大分の団子汁と名前が似ていますが、団子汁には小麦で作って伸ばした麺が入っています。おだやかにまとまった味ですね。
味噌田楽の横には、鹿児島名産の黒豚の角煮です。味噌味も醤油味もまろやかです。
味噌田楽 ・ 黒豚の角煮
季節の野菜や肉などが、外のオープンキッチンで炭焼きして供されました。
オープンキッチン 「水屋」
炭焼き ・ 摘み草揚げ
摘み草揚げの食材は、季節感いっぱいの、よもぎ、みつば、おおばこ、どくだみ、など。
夕食の最後
最後にご飯とお汁と漬物がでてきて、デザートは果物です。
自家菜園で作られた野菜と直営農場で育てられた地鶏を繊細に調理した郷土料理をたっぷり楽しみました。
朝食も 「いちょうの間」 でとるのですが、部屋から 「いちょうの間」 に行く途中に、雅叙苑の厨房の一部である 「水屋」 を通りかかり、焼き物や卵料理の調理方法をその場で選ぶことによって、焼きたて、作りたてを食べられるようにしています。
「水屋」 の料理人
種類豊富な朝食は、生野菜やヨーグルトや煮物がのったお盆、芋ご飯、豆乳、おひたし、具沢山の味噌汁、卵料理の鰹節かけ、そして 「水屋」 で焼いた焼き魚です。
各種料理の盆 ・ 芋ご飯
豆乳 ・ おひたし
味噌汁 ・ 卵料理の鰹節かけ
焼き魚
懐かしい日本の朝の風景と母の味を感じられるのが、雅叙苑の朝食の原点だそうです。
チェックアウトの時には、卵焼きと釜戸でご飯を炊いたときに出来たおこげのおにぎりで弁当を作ってくれました。
雅叙苑は小さな宿ですが、スパもあります。宿の傍を流れる天降川沿いに、エステルームがあるのです。妻は、マッサージをしてもらいました。
そうそう、この天降川ですが、白い大きな魚が何尾も泳いでいるのです。
スタッフのひとりに、
「美味しく調理して、この宿の名物にしてはどうですか。」
と、冗談半分に言うと、
「誰かが放したんでしょうね、外来種なんですよ。食べる気がしないのは、ピラニアみたいで気持ち悪いからです。でもまあ、生態系が壊されていなくて鮎も登ってくるからそのままにしているんですよ。」
と、答えました。
各部屋に露天風呂があるのですが、エステルームの横にも男女別大浴場 「建湯」 と貸切風呂 「うたせ湯・ラムネ湯」 があります。「建湯」 の湯船は、重量約20tの巨大な一枚岩を半年がかりでくりぬいて造り上げたそうです。「うたせ湯・ラムネ湯」 は古くから自然に湧き出している自噴泉で、二酸化炭素ガスによって血の巡りが活性化されるとのことです。
温泉場
さすが、「ルレ・エ・シャトー」 に加盟出来た、日本の趣にあふれた宿だと思います。ちょっと普通の旅館とは違う感じだし、質素だけれども味わい深い料理を堪能できました。
[2019年6月]
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