加藤敏春ブログ:21世紀の経済評論を語る!

2000年度東洋経済・高橋亀吉最優秀賞等を受賞。地域通貨「エコマネー」提唱者。

「愛・地球博」のテーマ「自然の叡智」の真の意味を考える(その5):知力、創造力から文化力へ①

2005-08-30 00:53:18 | Weblog
 ところが、面白いことに、シリコンバレーにも弱みはあるのです。何かといえば、じつはコンテンツ企業がシリコンバレーでは発達しないのです。
 シリコンバレーは私の「第2の故郷」であるサンフランシスコの南、車で一時間ほどの距離に位置し、中心にはスタンフォード大学があります。そこで主としてつくられているのは、ソフトウェアであり、ソフトの上に載っている映像といったコンテンツではありません。ソフトウェア企業はたくさんありますが、コンテンツ企業はほとんどないのです。つまり、ハード、ソフトというところまでは得意中の得意なのですが、その先の日本でいえばアニメーションといったコンテンツ、あるいは文化というところにいくと、なぜか企業が生成発展していかないのです。
 この点をどう見るか考えたところ、シリコンバレーはまだ左脳だけで考えており、右脳の思考がないという結論にたどり着きました。つまり、シリコンバレーモデルそのものが左脳モデルであって、右脳モデルではないということです。
 右脳モデルといえるのは、サンフランシスコのダウンタウンの倉庫街に、「マルチメディア・ガルチ」というコンピュータグラフィックスの産業クラスターを生み出した地域でしょう。そこは人の密集した場所ですが、早くからインターネット芸術などが芽生え、いまでは有名な映像コンテンツ拠点になっています。
 サンフランシスコという都市は、西アメリカ海岸では少し文化度が高く、オペラ劇場もあり、バレー団もあり、交響楽団もあります。また、全米で一番ゲイの多い都市でもあります。自由で、芸術家、作家、演出家などもたくさん住んでおり、環境的に右脳的な世界があるといえます。このことは、リチャード・フロリダ(カーネギー・メロン大学教授)もアメリカの「創造的階級」で明らかにしています。
 フロリダは「創造的階級」の指標をつくるに当たり、ハイテク度、イノベーション度(人口当たりの特許数)、ゲイ度(人口に占めるゲイの割合、多様性に対する地域の許容度)、自由奔放度(地域に占める芸術家、作家、演出家の比率が全国平均をどの程度上回っているか)などに注目しました。そして、アメリカの「創造階級」が全労働人口の30%に相当する3800万人にのぼることを明らかにしました。さらに、創造階級の都市ごとのランキングを行った結果、第一位はサンフランシスコだったのです。
 ある意味で、それは都市に帰着する問題でしょう。シリコンバレーの街は整然と道が走り、街並みもじつに清潔です。いっぽうサンフランシスコは、ボヘミアン名雰囲気の下で整然としたものと雑然としたものが混ざり合っています。都市にも固有の文化があり、それが企業発展の基礎になっているのです。サンフランシスコに、ソフトウェアなどが結びついていけば、シリコンバレーの次の産業クラスターができることは容易に創造がつきます。
 このように都市固有の文化と産業クラスターが連関していると考えると、都市クラスターごとの展開という方法がひとつのヒントとして得られます。
 じつはアジアの他の地域に比べ日本の都市は多様性に富んでいます。
 日本は全国各地、画一的だといわれるものの、じつは非常に多様性があることを、2002年の通商白書が明らかにしています。たとえば、シンガポールにしても上海にしても、都市のつくりは似ており、画一性をもっています。おそらく東南アジアの沿岸部の都市は、アメリカなどで発達した都市工学を輸入してつくられたからでしょう。それに比べて、東京と大阪では街づくりの気質がまるで異なっています。こうした見解は最近、クルーグマンなどが提唱する「空間の経済学」によっても支持されています。
 フロリダのように都市の創造階級に着目すれば、日本の都市はそれだけの潜在力を秘めているということができるのです。