加藤敏春ブログ:21世紀の経済評論を語る!

2000年度東洋経済・高橋亀吉最優秀賞等を受賞。地域通貨「エコマネー」提唱者。

「愛・地球博」は歴史に新しいページを残せるか?(その3):EXPOエコマネーの目的は「エコデザイン」

2005-08-15 00:00:13 | Weblog
 21世紀においては、人類が「持続可能な発展」(sustainable development)をなしうるかが最大の課題です。2004年12月ブエノスアイレスで開催された「気候変動枠組条約締約国第10回会合」(COP10)では京都議定書の発効の歓迎が表明され、ロシアの条約批准を受けて2005年2月16日には京都議定書が発効しました。京都議定書の発効は、大きなステップではあるものの、「持続可能な発展」に向けて壮大なる“実験”に立ち向かう人類の歩みにとっては第一歩とも言えるものです。
 というのも、今回発効した京都議定書で決まっているのは2008年から12年までの第1約束期間に関してであり、2013年以降については今のところ白紙であるからです。2004年ノーベル平和賞を受賞したケニア環境副大臣のワンガリ・マータイさんは,こう語っていいます。
―2013年以降の対策は白紙だ。地球温暖化問題への対応に時間がかかるのはなぜか。
 「環境悪化には長い時間がかかる。われわれは一瞬で起こる津波被害には反応しても、毎日、少しずつ起きている悲劇、環境破壊には反応しない。30年経って川が干上がるまで、何が起きているのか気づかないのだ」
 「キリマンジェロ山頂の氷解が溶け、川が干上がるなど、砂漠化は進行している。アフリカの熱帯地方では耕作地が減り、作物不良が起きている。アフリカは貧しいが、先進国が何かをしてくれるまで待つべきではない。米国が今日と議定書を批准しないことは、無策の言い訳にならない 」
・ ・・・
そして
―途上国は環境破壊と紛争という負の連鎖を断ち切れるのか。
「植樹することで土壌浸食を防ぎ、薪を得るために森林が伐採されることもなくなる。5~10年で変化が実感できる。負の連鎖は断ち切れる」
「だがアフリカに貧富の差がある限り、和平は遠い。先進国と同じレベルを享受するアフリカ各国の支配層は京都議定書に熱心ではない。貧しい国の支配層は、先進国に求めるように、自らが生活様式を変える必要がある」(2005年2月6日読売新聞朝刊より)

 レスター・ブラウン(アメリカのアースポリシー研究所所長)からは、別の観点から警鐘がならされています。彼は京都議定書自体が十分な効果を持ち得ないと批判して
 「京都議定書は発効したが、すでに陳腐化しつつある。(同議定書の削減目標では)温暖化防止に役立たない。もっと大幅に削減しないと、温暖化の進行を食い止められないことが科学的に立証されつつある」と指摘しています(2005年3月28日日本経済新聞朝刊より)

 地球的自然を利用しつくして滅びへと向かう開発から、自然と人間の共生へとコントロールされた持続可能な関係への転換、それが可能かどうか、われわれ一人一人が問われています。そこに必要とされるのは、新しい時代精神(エートス)です。「愛・地球博」で活用されるEXPOエコマネーの究極の目的は、新しい時代精神の創造にあります。

 EXPOエコマネーの究極の目的は、「エコデザイン社会」を創造することです。この場合の「エコデザイン」には、大きく言って2つの意味合いが込められています。
 その1は、「エコデザイン」を21世紀社会のモデルとして提示することです。「エコデザイン」については、環境工学を専攻する学者の間では(たとえば、山本良一・東京大学教授)、「製品のライフサイクル全体における環境負荷を減少しながら、製品の性能あるいは経済的付加価値をさらに高める(環境効率の向上)手法」と定義されていますが、私が組織の名称に「エコデザイン」という言葉を使ったのは、単に製品の環境効率を上げる手法としての意味のみならず、「エコライフ」が人々のライフスタイルそのものにまで浸透していく社会を創造していくという意味合いを込めたつもりです。
 その2は、21世紀社会のモデルとして「エコデザイン」を構築する主役は“市民”であるということです。20世紀の主役が“企業”であったことと対比して、よく21世紀の主役は“市民”であると指摘されますが、その内実は今までのところ明確にアピールされ、デモンストレーションされていません。EXPOエコマネーは、新しい21世紀の貨幣を市民自らが作り出すことによって、市民サイドから新しい時代精神を創造し、それをアピールし、デモンストレーションし、さらに市民の生活そのものに浸透させていくために構想したものです。なんとなれば、貨幣はその登場以来それぞれの時代の社会交流や経済取引、ひいては時代精神を体現するものであるからです。
 こうした2つの意味でEXPOエコマネーを活用して21世紀の市民である私たちが生み出そうとしているのは、新しい時代精神、そしてそれを具現化した「エコデザイン」社会であり、私たちが目指す「エコデザイン」とは、単に「エコなデザイン」の製品を造りだす生産システムではなく、「人々のライフスタイルを含む社会システム全体がエコとなり、社会デザインそのものがエコである状態を実現すること」であると考えています。
 その意味でEXPOエコマネーが訴えるものとは、社会を「エコデザイン」とし、その構成員である一人一人のライフスタイルを「エコライフ」に転換していくことを言っているのです(「エコライフ」に関しては、簡単に「情報とサービスは豊かに、モノとエネルギーは慎ましく!」と私は表現しています。