特殊相対論、ホーキング放射、ダークマター、ブラックホールなど

・時間について特殊相対論からの考察
・プランクスケールの原始ブラックホールがダークマターの正体であるという主張
 

その2・ ミンコフスキー パラドックス

2022-12-02 09:54:04 | 日記

以下「ミンコフスキーの4次元世界」 : https://archive.ph/Cvvyf :を参照します。

この資料はミンコフスキーの原典から引用されている様で、このような原典からの説明資料と言うものは大変に貴重であり、fnorio氏の力作です。(HP : http://fnorio.com/index.htm )

それで同上資料の「2.二次元時空」の「(7)時計の遅れ」から始めます。(注1)

第37図が示されており、それによってミンコフスキーは「相対運動している慣性系同士はお互いに相手の時計が遅れている事を確認する」と説明しています。

ここで座標系K’とは座標系Kから見て速度Vでx方向に運動している座標系です。

その2つの座標系の原点が一緒になった時の状況を第37図は示しています。

そうしてもちろん観測主体は座標系Kと座標系K’の原点に立っています。

後はミンコフスキーさんの説明ロジックを読んで下さい。

そうすると「相対運動している慣性系同士はお互いに相手の時計が遅れている事を確認する」と説明している事が分かります。



さてそれで2つの座標系の原点がすれ違う時にお互いの時計をリセットして時刻合わせをします。

あるいは座標系Kが止まっていて、それを後ろから速度Vで追い越す座標系K’のその2つの原点が同じ位置に到達した時にお互いの時計をリセットして時刻合わせをします。

それで単位時間経過したのちにその2つの時計を見比べる事で「どちらの時計が遅れているのか」確認できます。

これがミンコフスキーさんの説明が行っている具体的な内容となります。



さてそれで、ミンコフスキーさんはまずは「K’系で単位時間経過した時(点B’)に、K系から見て同時刻にあたるK系の時計D’を見ると点D’の時計に対して点B’の時計が遅れている事がK系の観測者によって確認できる」としています。

また同様にして「K系で単位時間経過した時(点B)に、K’系から見て同時刻にあたるK’系の時計Dを見ると点Dの時計に対して点Bの時計が遅れている事がK’系の観測者によって確認できる」となります。

そうしていずれの場合もその遅れ時間の程度はsqrt(1-β^2)である、と計算しています。(β=V/C)



以上はアインシュタインが言い出した「相対速度を持つものはお互いに相手の時計が遅れて見える」という内容のMN図による説明・図形的な理解の仕方となります。

それでまあ他の人が言い出したのならともかく、MN図を考案したミンコフスキーさんの説明でありますから、それをむげにする訳にはいきません。

その説明は特殊相対論が言っている所の「時間遅れ」についての「MN図による正しい説明方法である」とするのが妥当でありましょう。

そうして又これを逆に言いますと「MN図のこのような解釈による時間の遅れの事」を特殊相対論は「相対速度を持つものはお互いに相手の時計が遅れて見える」と主張しているのだ、と理解する事になります。



さてそれで次は「ミンコフスキーさんの時間遅れの説明の部分におかしなところがあるのでは」という件に入ります。

第37図で点D’から線分BDに平行にK’系に線をひき、軸U’と交わったところを点Eとします。

さてこの点Eにある時計の値はもちろん点D’の時計よりも進んでいます。

それは点Bと点Dを比べると点Dの方が進んでいる、そうであればそれを平行移動した点D’と点Eを比べれば点Eが進んでいる事は明らかですね。

所でこの点D’の時計はミンコフスキーさんの説明によれば軸U’にある点B’の時計よりも進んでいる、となっています。



それで「何を言いたいのか」といいますと、一つのD’という時計に対してある時は「その時計は遅れている」といいまたある時は「いいやその時計は進んでいる」と言っているのですね、ミンコフスキーさんは。

そうして「その言い方でいいのだ」としているのです。(注2)

その理由は、といいますれば「K’系から見た場合の同時刻とK系から見た場合の同時刻の決まり方は違うから」という事になります。



さてこの状況は相対論では「同時刻の相対性」として知られているものです。

それがここに現れてきている、とそうなります。

それで、「同時刻の相対性の話」であるならばそれはそれで了解できるのですが、「2つの時計の比較、どちらが進んでどちらが遅れているのか」という話としては了解する事はできません。



それでこの状況と言うものはその上の章の「(6)長さの縮み」=ローレンツ短縮の説明でも現れてきています。

しかしその時には「同時刻の扱い」が正確にできている様です。

この場合の「同時刻の扱い」とは「長さを比較する時の棒の右と左の点を測定する時は同時でなくてはならない=時間距離がゼロでなくてはならない」という事に対応しています。

それでこの原則を2つの時計を比較する場合にあてはめますと「2つの時計の時間を比較する場合は2つの時計の間の空間距離はゼロでなくてはならない」となります。(注3)

そうして、その条件が満たされない場合は「同時刻の相対性の話」がそこに入り込んでくることになります。(注4)



さて特殊相対論が言っている「時間が遅れる」という話は「同時刻の相対性の話の事」なのでしょうか?

それとも現実に2つの時計を突き合わせた時にわかる「どちらかの時計が進んで、他方の時計が遅れる」という話なのでしょうか?

それでミンコフスキーさんの説明・解釈では「それは同時刻の相対性の話の事」となってしまうでありました。



注1:fnorio氏注釈『 この章は文献3.第2章§6“ミンコフスキーの4次元世界”(p47~57)からの引用です。ただし、少し改変しています。また節題は当方が適当に追記した。』

文献3とは
『1908年9月21日にKo¨lnのドイツ自然科学者医師大会で行った講演「空間と時間」
 これは以下の雑誌にも掲載された。
H.Minkowski,“Raum und Zeit”, Physikalische Qeitschrift, 10, S.104~111, 1909年
H.Minkowski,“Raum und Zeit”, Jahrebericht der Deutschen Mathematiker-Vereinigung, 18, S.75~88, 1909年
 これは、ミンコフスキーの遺作の中で最も有名なものです。参考文献1に日本語訳7.がある。』

参考文献1   http://fnorio.com/0167Minkowski_space/Minkowski/Minkowski_1908_09.html

注2:それでこの状況を指して当方は「ミンコフスキー パラドックス」と命名しました。

この状況を言い変えますとU’軸上の点B’はU軸上の点D’によって「同時刻にあたる点である」と認識されますが、そのD’はU’軸上の点Eによって「同時刻にあたる点である」と認識されます。

そうしてそこには何の矛盾もない、とミンコフスキーさんが言うのであれば、時刻に関しては

D’=B’(時刻について点D’と同等の点はB’)
そして
D’=E(時刻について点D’と同等の点はE)

そうであれば
B’=E(時刻について点B’と同等の点はE)

と主張している事になります。

他方でMN図から明らかなように

B’≠E(時刻について点B’と点Eは違う位置にある点=点B’と点Eは同等ではない)

ですから、これは明らかに矛盾、パラドックスであります。

注3:こうして地球を飛び立ったロケットは途中でおりかえして再び地球に戻ってくる事が必要になったのです。

そうしなくては「2つの時計のどちらが遅れたのか分からないから」であります。

注4:「同時刻の相対性」
相対運動している2つの慣性系の間において「同時である」という事についての認識が一致しない状況を指す。

詳細については「Chapter3 特殊相対性理論の世界」: https://archive.ph/xoT9k :の「3.1 同時性の問題」の章を参照願います。


追伸
ミンコフスキーさんの説明ではK系にいる観測者にしろK’系にいる観測者にしろ、それぞれが自分の立場から見た「同時である平面」を設定し、その上に乗る相手の時計をみて「ほら、お前の時計は俺の時計より遅れている」と主張している事になり、そうして「それでいいのだ」と言っている事になります。

そうしてその状況を「2つの主観がそこにある」と見るのか「2つの客観がそこにある」とみるのか議論が分かれます。

ちなみに「2つの主観がそこにある」と見るならば、「特殊相対論は主観物理学である」という事になります。

加えて「2つの客観がそこにある」とみるならば「特殊相対論は現実を一つに決められない物理学」という事になります。


さてそのうえでミンコフスキーさんに聞きたいことは「現実には、実際にはK系とK’系でどちらの時間が遅れているのか?」という事になります。

というのもミンコフスキーさんの状況説明では「K’系とK系ではどちらの時間が遅れているのか分からない」、「客観的な判断はできない=二人の観察者は時間遅れについて合意する事はない」となっていますから。


あるいはこう聞いてもいいでしょう。

「K’系とK系の二人の観察者は時間遅れについて永遠に合意する事はなく、従って一つの現実を共有する、という事は不可能な事なのですか?」と。


追伸その2
しかしながら第37図とその説明が優れている点は「K系とK’系の立場を入れ替えたMN図を改めて描くことなく、お互いが何故相手の時計が遅れている、と主張する事になるのかを説明できている」と言う所にあります。

簡単に言えばお互いが自分に都合の良い相手の時計を示して「ほら、遅れているだろう」と言っている状況、あるいはそのように言わざるを得ない状況を目に見えるようにしている点が秀逸であります。

そうしてそのような説明が可能となっている所が「MN図が特殊相対論での強力なツールになっている理由の一つ」といえそうです。

PS:相対論の事など 記事一覧

https://archive.ph/6xMzW