「棒の時間からのローレンツ変換の導出」をやっておきましょう。
計算の前提は次の通りです。
物体mが左から右に静止系に対して速度0.8Cで動いています。
それを左から右に静止系に対して速度0.6Cで動く慣性系Kから観測する事を考えます。
静止系時間で0秒で静止系原点、K系原点、物体mが同じ場所にいました。
で1秒後にどうなっているか、それをまずは考えます。
物体mは距離0.8Cの所まで移動しました。
慣性系Kは距離0.6Cの所まで移動しました。
そうであれば慣性系Kの原点から物体mまでの距離は
0.8Cー0.6C=0.2C です。
それでこの物体mを慣性系Kはどのように観測するのか?という事になります。
慣性系Kの原点から物体mまでの距離は0.2Cですが慣性系Kの棒=物差しの長さはローレンツ短縮をおこして縮んでいます。
その割合はsqrt(1-0.6^2)=0.8です。
従って慣性系Kの原点に立つ観測者は「物体mまでの距離は0.25Cだ」と見ます。
0.2/0.8=0.25 だからですね。
これが棒の長さになります。
さて次に静止系時間で1秒経過でした。
そうであれば慣性系K時間では1秒経過*0.8=0.8秒経過です。
そうして長さ0.25Cの棒が速度0.6Cで右に動いていますからその先端の時刻は棒の原点時刻に対して0.25*0.6=0.15秒、遅れます。
従って長さ0.25Cの棒の先端に立つ観測者は「0.65秒で距離0.25Cを動いた」と報告する事になります。
0.8-0.15=0.65秒だからですね。
さて以上で静止系座標で(t、x)=(1秒、0.8C)の点が0.6Cで動いている慣性系Kの座標(t’、x’)=(0.65秒、0.25C)に変換できた事になります。
ちなみにこの時慣性系Kから物体mを観測した時に得られる相対速度V’は
V’=x’/t’=0.25C/0.65秒=0.384615・・・=5/13
と計算できます。(注1)
さてそれで上記計算で行った事を一般化します。
ちなみに到達目標のローレンツ変換式は次の様な形をしています。
x’=(x-v*t)/sqrt(1-V^2)
t’=(t-V*x)/sqrt(1-V^2)
ここで(t、x)は変換前の静止系での座標値、(t’、x’)はK系に変換後の座標値、Vは慣性系Kが静止系に対して持つ相対速度になります。
さて静止系時間でt秒後の物体mの位置をxとします。
そうしますとそれを速度Vで追いかける慣性系Kの原点から物体mまでの距離は
x-v*t となります。
次に慣性系Kの物差しはローレンツ短縮して縮んでいます。
その割合はsqrt(1-V^2)です。
従って慣性系Kの原点に立つ観測者は物体mまでの距離を短くなった物差しで測りますから
(x-v*t)/sqrt(1-V^2)となります。
つまりは距離が伸びて観測されるのです。
さてこれがx’でした。したがって
x’=(x-v*t)/sqrt(1-V^2)
さて次に静止系時間でt秒経過でした。
速度Vで移動している慣性系Kの原点時間は静止系の原点時間tに対してsqrt(1-V^2)の割合で遅れます。
そうであれば慣性系Kの原点時間ではt秒*sqrt(1-V^2)秒経過です。
そうして速度Vで動く長さ(x-v*t)/sqrt(1-V^2)の棒の先端の時間は原点に対して 速度*長さ の分だけ遅れます。
つまりは V*(x-v*t)/sqrt(1-V^2)で遅れるのです。
従って長さ(x-v*t)/sqrt(1-V^2)の棒の先端に立つ観測者は物体mがその場所に到達した時間t’を次のように記録します。
t’=慣性系Kの原点時間ー棒の先端での時間のずれ分
=t秒*sqrt(1-V^2)ーV*(x-v*t)/sqrt(1-V^2)
=t*sqrt(1-V^2)+V^2*t/sqrt(1-V^2)-V*x/sqrt(1-V^2)
ここで最初の2項を整理します。
t*sqrt(1-V^2)+V^2*t/sqrt(1-V^2)
=t*((1-V^2)/sqrt(1-V^2)+V^2/sqrt(1-V^2))
=t*((1-V^2)+V^2)/sqrt(1-V^2)
=t/sqrt(1-V^2)
従って
t’=t*sqrt(1-V^2)+V^2*t/sqrt(1-V^2)-V*x/sqrt(1-V^2)
=t/sqrt(1-V^2)ーV*x/sqrt(1-V^2)
=(t-V*x)/sqrt(1-V^2)
Q.E.D.
こうして「棒の時間をつかった一連の手順がローレンツ変換と同じものである事が確認できる」のでした。(注2)
ちなみにこの時慣性系Kから物体mを観測した時に得られる相対速度V’はローレンツ変換したX'とt’から直接求める事ができました。
V'=X'/t’=(x-v*t)/sqrt(1-V^2)/((t-V*x)/sqrt(1-V^2))
=(x-v*t)/(t-V*x)
=(x/t-v*t/t)/(t/t-V*x/t)
=(x/t-v)/(1-V*x/t)
x/tは物体mの静止系に対する相対速度V1です。
Vは慣性系Kの静止系に対する相対速度。
従って慣性系Kから物体mを観測した場合の相対速度V’は
V’=(V1-V)/(1-V*V1)
これは
速度の加法則
V1=(V’+V)/(1+V’*V)
を変形したものになっています。(注3)
つまり「ローレンツ変換から直接、速度の加法則が導出できる」のです。
注1:速度の加法則によれば
V’=(0.8-0.6)/(1-0.8*0.6)=0.2/0.52=5/13 です。
この結果は本文で出した値と同じになっています。
注2:静止系に対して運動する棒の長さが縮み、時間が遅れ、時間がずれる、通常はこの事は「ローレンツ変換がそのような現象を生む原因である」と説明されています。
しかしながら物事は逆転してとらえる事が可能です。
つまり「我々の暮らす宇宙では静止系に対して運動する棒の長さは縮み、時間が遅れ、時間がずれる、と言うのが決まりである」とするのです。
「その様に宇宙が出来ている」と認めるのですね。
そうするとその事実から上記本文の様にローレンツ変換の式が出てくることになります。
つまりは「ローレンツ変換の式というのは『静止系に対して運動する棒の長さが縮み、時間が遅れ、時間がずれる、と言うのが決まりである』という事を数式化したものである」ととらえる事ができるのです。
そうして実際の所、その様にとらえても何も問題は生じないのです。
なんとなれば「ローレンツ変換の式と棒の時間を使った変換の方法は全く同じ結果をもたらすから」であります。
さてそれで、ここで「何故宇宙はそのように出来上がっているの?」と問う事はもちろんできます。
アインシュタインはその一つの答えとして2つの今ではよく知られた原理、光速不変の原理と相対性原理を提案しました。
「その2つの原理は自明であって、疑う事ができない」としてそれを理論の出発点に、公理として置いたのです。
しかしながらこの2つの原理についてさえ「何故その原理が成立しているの?」と問う事が出来ます。
さてそうであればアインシュタインの提案についてさえ最後には「宇宙は何故そのように出来上がっているの?」と問う事が出来るのです。
そうして「そのように問う事は無駄である」とは言いません。
事実そのようにして物理は進んできたと言えるからですね。
しかしながら少なくとも「特殊相対論の中にはその答えは無い」という事が出来ます。
注3:一応やっときますと
V’=(V1-V)/(1-V*V1) から
V’*(1-V*V1)=(V1-V)
で
V’ーV’*V*V1=(V1-V)
V1で整理して
V1+V’*V*V1=V’+V
V1*(1+V’*V)=V’+V
従って
V1=(V’+V)/(1+V’*V)
Q.E.D.
つまり「ローレンツ変換したX'とt’から直接 速度の加法則が出てくる」のです。
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