さて一応資料の提示は済んだものの「どこから書きだそうか?」という事になります。
とはいえやはり「話の概要が分かる事が必要」ですので「Dirac方程式あたり」と言うのが妥当でしょうか。
といっても「Dirac方程式そのもの」はとても当方の手には負えませんので代わりに「量子電磁力学とは何?」という話から始めましょう。
ういき「量子電磁力学」: https://archive.md/RETiE :を参照します。
『1927年、ポール・ディラックは粒子の生成消滅演算子という概念を導入することで電磁場の量子化に初めて成功し[1](注:Dirac方程式)、これが量子電磁力学の創始となった。ただし、生成消滅演算子は別の人間が創りだしたものである。その後、ヴォルフガング・パウリ、ユージン・ウィグナー、パスクアル・ヨルダン、ヴェルナー・ハイゼンベルクらの尽力により量子電磁力学の定式化が始まり、1932年のエンリコ・フェルミの論文[2]によりエレガントな定式化がほぼ完成した。しかし、量子電磁力学の根幹には重大な問題が残っていた。』<--「光子や荷電粒子を計算すると無限大に発散する」という話でした。
でそれを解決したのが『朝永振一郎[15]、ジュリアン・シュウィンガー[16][17]、リチャード・ファインマン[18][19][20]、フリーマン・ダイソン[21][22]らが摂動展開の全てのオーダーにおいて観測される物理量が有限となるような定式化を完成させた。問題発生から繰り込みによる解決までの20年、超多時間論・相互作用表示・経路積分を経て、繰り込みは建設された[23]。』となっています。
そうやって出来上がった「量子電磁力学」=「QED」を使うと「レプトンの異常磁気能率が計算できる」のでした。
「レプトン 何?」といえば「ここでは電子とミュー粒子だ」と言っておけば十分でしょう。(注1)
でそのミュー粒子については
『ミューオンの g−2 および EDM はスピンの歳差運動を用いて測定する。歳差運動と聞いてどのようなイメージをもたれるだろうか。多くの方は学生の頃,力学の授業でコマの歳差運動について学ばれたと思う。角運動量をもつ剛体にトルクを与えると,角運動量の回転軸がある軸の周りに円をえがくように振れる現象である。
ミューオンはスピン 1/2 を持つ素粒子であるので,コマと同様に歳差運動を考えることができる。ミューオンのスピンに対して標準模型の相互作用や未知の相互作用によって「トルク」が加わり,歳差運動をする。歳差運動を高精度で測定して,標準模型からのズレを検証するのが本実験の目的である。』(注2)と紹介されています。
そうしてこの説明はそのまま電子についてもあてはまるものになっています。
さらに説明は次のように進みます。
『静的な電磁場中ではミューオンのスピン("s)は磁気双極子 (µ"),電気双極子 ("
d) として電磁場と相互作用する。
g はランデの g 因子,η は EDM の大きさを示す無次元量である。g 因子はディラック方程式の最低次では正確に 2 であるが,一般には g 因子は量子補正を受けるため 2 からずれてくる。ここで,2 からのずれをaµ = (g − 2)/2 とし,量子補正の効果をあらわに示す量として定義する。』
ここで磁気双極子 (µ")は
(µ")=g*(e/2mμ)*("s)
となっている。
でテーマとなっている異常磁気モーメントはaµで表され、それは
aµ = (g − 2)/2
ということで、「量子補正がない場合は2となるgの値が実際は2と言う値からずれてしまう」のであってその指標として「ずれ量を2で割った値を使う」としているのです。(注3)
ちなみに電子についてはaeと記述されこれもμ粒子と同様に
ae = (g − 2)/2
で計算されます。
さてそれで
『標準理論では aµ の値を非常に高精度で計算できることが知られている。
QED のリーディングオーダー(注:最も基本的な近似)のファインマン図は図 1(a) のようになる。これに対応する補正値は α/2π となる。この項は QED の黎明期にシュウィンガーによって計算された最初の量子ループの計算1であり,シュウィンガー項と呼ばれる [2]。(注4)
その後現在に至るまで,QED のさらに高次の項の評価が続いており,年々,精度が向上している。すでにご存知の方も多いと思うが,今年(2012 年),コーネル大学の木下東一郎先生らのグループにより電子およびミューオン g − 2 に対する QED の 10 次の量子補正に関する結果が公表された [3](図 2)。
10 次の QED 量子補正は実に1万を超えるファインマンダイアグラムから構成され,その全ての寄与について計算がなされたのである2。のちに述べるように,現段階では QED 計算に起因する誤差は他の項の誤差に比べて十分小さい。
現段階で(ミュー粒子の:注5) aµ の理論計算の誤差が最も大きいのはハドロンのループを含む補正項(aµ(had); 図 1(b))である。この項は QED のように摂動的に計算することができないが,リーディングオーダーの補正項については,分散関係と光学定理を用いると e+e− → hadrons 反応の全断面積 σhad の実験データから計算することができる。』となっています。
理論の歴史的な経緯と理論計算の部分はこのぐらいでしょうか。
以下に参考になる資料を示しておきます。(一部、前のページの提示資料とダブります。)
「g-2 実験 量子電磁力学の精密テスト と 標準理論のかなた: https://slidesplayer.net/slide/15404475/#google_vignette :
「レプトンの異常磁気能率 ーその物理が目指すものー」: https://slidesplayer.net/slide/11232933/#google_vignette :
「レプトン g-2の QED高次補正」: https://slideshowjp.com/doc/73350/ :
注1:レプトン(素粒子の分類表の中でレプトン=軽粒子と呼ばれている者達): https://archive.md/VpKoG :レプトンのスピンは1/2と思ってよさそう。
注2:「ミューオンg − 2/EDM実験」: https://www.jahep.org/hepnews/2012/12-3-5-g-2-Mibe.pdf :
注3:g因子: https://archive.md/fDIAW :g因子の測定値(2018年CODATA推奨値)が確認できます。
それによればミュー粒子と電子のg因子は小数点以下4桁まで同じで5ケタ目から違いが現れています。
注4:ここでαは微細構造定数α≒1/137を示す。: https://archive.md/YVIuB :
注5:電子についてはハドロン項の寄与が少なく、したがってaeの理論計算値はaμの理論計算値よりも精度が高くなっています。
ハドロン: https://archive.md/WN6SG :
追記:電子の異常磁気モーメント測定の件
例えば次のような資料があります。
「電子の磁気モーメントで新しい物理を探る」: https://physics.aps.org/articles/v16/22 : https://archive.md/HhTTI :
資料にあります様に『現在、この分野で最も興味深い謎は、ミュオンの磁気モーメントに関する理論と実験の間の永続的な不一致であり、その不一致は現在 4.2 に達しています。 σ統計的有意性 [ 2 ]。
この不一致が新しい物理学の特徴であるならば、それは電子でも観察されるはずです。電子の質量が 207 倍(注:ミュー粒子よりも)軽いとすると、電子に対する(注:新しい物理学の)影響はミューオンに対する影響よりも約 40,000 小さくなります。
ガブリエルセのグループによる新しい測定では、電子磁気モーメントの相対精度が 0.13 兆分の 1 (ppt) に達しました。これは、ミューオンで達成された精度よりも 3000 分の 1 以上小さい値です [ 2 ]。得られた値の結果は、やはりガブリエルセ率いるチームによってハーバード大学で実施され、0.28 ppt の精度を達成した 2008 年の実験と一致しています [ 3 ]。』
電子の実験精度はミュー粒子に対する実験精度の3000倍に達しているが、新しい物理の影響を検出する為には40000倍の検出精度が必要になる。
そうして
40000÷3000=13.3
あと精度を13.3倍向上させれば電子でも「新しい物理学の特徴が検出できる」という主張になっています。
ま、もっとも「新しい物理が本当に存在すれば」という前提条件付きではありますが。
しかしながらそれは「ミュオン異常磁気モーメント測定で見えているとされる新しい物理現象」に対する重要な確認実験となります。
なんとなれば「新しい物理が本当に存在すれば」「電子の測定でもそれは確認されなくてはならないから」です。
くわえて「電子の異常磁気モーメント測定方法」は「ミュオン異常磁気モーメント測定方法」とは全く別の方法になっておりその意味でも「電子での測定は独立性の高い確認実験となる」のです。
『ノースウェスタン大学チームの成果は基礎物理学の勝利であり、前例のない正確な QED テストを可能にし、電子が素粒子であることを確認しました。
電子のg -2の標準モデル予測をテストするために測定を使用する機能は、予測精度が微細構造定数の値に依存するという事実によって現在妨げられています。 α。残念ながら、5.5- σ2 つの最も正確な測定値間の不一致 α、カリフォルニア大学バークレー校のチームによって実行され [ 4 ] 、フランスのソルボンヌ大学の私のグループによって実行されました [ 5 ]。
両グループは、この不一致を解決するために新しい測定キャンペーンを計画しています。最後に、新しいセットアップにはさらなる改善の大きな可能性があります。
近い将来、電子g -2 測定は、新しい物理学に対して、興味深い 4.2- ことを明らかにしたミュオンg -2 測定と同等の感度に達すると期待するのは合理的です。 σ標準モデルの張力 [ 2 ]。これらすべての発展は、電子がこれまでにないほど新しい物理学への扉を開く準備が整ったことがないことを示しています。』
日本での「 J-PARC g − 2実験」もフェルミ研での結果の追試を目指しています。
そう言う意味では「新しい物理に対する有力な追試実験は2つある」と言えます。
ちなみに「電子の異常磁気モーメント測定方法」については以下の様な資料があります。
「電子g 因子の“anomaly”」: https://www.jahep.org/hepnews/2021/40-3-3-g.pdf :
さてそうであれば「数年後には新物理をつかまえたのかどうか?」という問いにたいしては「相当な精度で答えが見える」という事が期待できそうです。
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