さてそれで前の章で取り上げた「ハーフェレ・キーティングの実験の再検討」との関連で言いますと「残念な事にはハーフェレ・キーティングの実験精度は地球のドリフト量を検出するのには遠く及ばない」というものでした。
しかしながら「ミュオン異常磁気モーメントの測定精度」は相当に高く従って「地球の静止系に対するドリフトの影響を検出できていそうである」と予想できます。
まあコトバで言ってしまえばそれで終わりなのですが、それだけでは何の内容もない、唯のコトバ、「絵に描いた餅」にすらなっていないものです。(注1)
そうであればやはり「ミュオン異常磁気モーメント測定はどうやるの?」あるいは「どうやって理論計算しているの?」という話をしなといけません。
そうしてその後で「じゃあ客観的に存在している静止系の話をそこに入れましょう」となる訳です。
さてそれでじゃあその「ミュオン異常磁気モーメント測定の話をしましょう」となるのですが、その前にここでは「今までのおさらいみたいなもの」をやっておきます。
というのもこの「ミュオン異常磁気モーメント測定の話」つまりは「理論が正しいのか実験が正しいのか」という話に対して「そのことについて今までとは全く別の観点から見た説明が出来る」という事を示すのがここでのテーマになっているからです。
そうして「その事が示せた」とするならばそれは「時間の遅れはお互い様なのか?」というこのシリーズの問いにまた一つの答えを出す事につながるからです。(注2)
といいますのも、「その提案が正しかった」としますと「大方の物理屋さん達にはまことにお気の毒」なのではありますが「そこには新しい力の関与」や「新しい素粒子の関与」などは無かった、という結末になります。(注3)
ただしそのかわりに「理論と実験が合わないのは静止系に対する地球のドリフトを考慮していないからである」=「理論と実験との間の差分は地球の静止系に対するドリフトの影響の結果である」という事になるのです。
そうであればこれは「まことにびっくりする様な答えである」と言えます。(注4)
つまりは「素粒子物理学の根幹は崩れない」のですがそのかわりに「特殊相対論の根幹は崩れた」になるのです。(注5)
そうしてそこからは「客観的に存在している静止系というのは一体何なのか?」という「新しい問い」が出てくるのです。
つまりは「客観的に存在している静止系に対する物理学が始まる」という事になるのです。
ちなみにこのシリーズのもう一つの特筆すべき成果は「情報伝達の速度の上限がCである」という従来から言われている制限の撤廃にありました。
「客観的な静止系が存在する」となると「光速を超える情報伝達が起こっても過去改変は起らない」という議論はすでに行いました。
つまりは「タキオンは存在しても過去には飛ばない」のです。
そうしてまたアインシュタインが嫌った「無限に早い情報伝達が起きている様に見えるエンタングルメント」は存在しても「それは特殊相対論とは矛盾しない」という事になるのです。
さてこうして数えてみますれば「まことに手前味噌」ではありますが「ここまでに2つ程の成果を上げる事が出来た」と言う事ができそうです。
ま、もっとも2つ目の「ミュオン異常磁気モーメント測定について、今までとは全く別の観点から見た説明が出来る事を示す」という事につては「これから話をする訳」でありますから「絵に描く前の餅である」と言われても仕方がないものではあります。
はい、お粗末様でした。
注1:話は「絵に描いた餅」程度にはする必要があります。
つまりは「説明する為の絵程度は必要である」となります。
注2:といいますのも「静止系が客観的な存在である」が判明しても何も従来の物理学に対して影響を与えない」のであればそれはまあ「あまり意味が無い」という事になってしまいますからね。
注3:現状の一般的な物理屋さんたちのこの件に対する認識をよく表している記事があります。以下、ご参考までに。
「MUonE 実験によるミューオン g − 2 を説明可能なU(1)µ−τ ゲージボソンの探索」: https://www2.yukawa.kyoto-u.ac.jp/~soken.editorial/sokendenshi/vol36/3/%E4%BF%AE%E5%A3%AB%E8%AB%96%E6%96%87%E5%92%8C%E7%94%B0%E6%B7%B3%E5%A4%AA%E9%83%8E_%E6%9C%80%E7%B5%82%E8%AA%BF%E6%95%B4%E7%89%88.pdf :の序論より引用。
『ミューオンの異常磁気能率 (g−2) は、米国ブルックヘブン国立研究所 (BNL) による測定値が理論値より3σ 以上離れた結果であったため、標準模型 (SM) の綻びではないかと注目されていた [8]。その後、米国フェルミ国立加速器研究所 (FNAL) において行われた再測定の最初の結果が 2021 年 4 月に公表され、大きな注目を集めた。結果の内容は BNL の実験値を支持するものであり、二つの実験値の平均を取ると、理論値との差は 4.2σ まで達した [1]。この理論値と実験値の乖離を俗にミューオン g − 2 アノマリーと呼ぶ。
さて、このアノマリーから示唆される可能性として次の 3 つが考えられる。
一つ目はミューオン g − 2 の測定に誤りがある可能性、
二つ目はミューオン g − 2 の理論計算に誤りがある可能性、
そして三つ目は標準模型を超えた物理 (BSM:beyond 標準模型) が関与している可能性である。
一つ目の測定に誤りがある可能性については、冒頭でも述べたようにフェルミ研究所の結果が BNL の結果を追認したため、その線は薄くなったと言えるだろう*1。
続いて理論計算に誤りがある可能性だが、標準的に理論値として用いられる White Paper [10] で合意された値は、実験と比肩するほどの精度で得られているものの、全く問題がないわけではない。特に重要視されている課題として、ミューオン g − 2 に対するハドロンの真空偏極 (HVP) の寄与の不確かさが大きいことが知られている。・・・
最後に、三つ目の可能性についてであるが、ミューオン g − 2 に BSM が影響するシナリオは、BNL の測定結果が出た当初から盛んに議論されてきた。例えば、超対称性 (SUSY) 模型 [12–15] やレプトクォーク模型 [16–18]、アクシオン様粒子 (ALPs) [19–22] などは、2021 年現在でもミューオン g − 2 アノマリーを説明可能な模型として、理論、実験双方による精力的な議論、探索が行われている*2。・・・』
こうして「業界では三番目に大きな期待が集まっている」という状況にあります。
あるいはこんな記事もあります。
「素粒子ミューオンの奇妙な歳差運動の原因は「第五の力」か、「未知の次元」か」: https://archive.md/t542b :ご参考までに。
注4:これにはアインシュタインもミンコフスキーもさぞかし驚く事でしょう。
そうしてローレンツとポアンカレは「ほらね」という事になるでしょう。
注5:より正確には「特殊相対論はそのまま成立している」のですが「通説による特殊相対論の解釈が崩れた」という事になるのです。
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