さて一般的に行われている・紹介されているローレンツ変換の導出方法は「光速不変の法則を前提としたもの」です。
そうしてその様な前提条件なしでもローレンツ変換が導き出せる、と言う話は前のページまでの記事で見てきました。
くわえて「光速不変を使わない方法」にもいろいろななやり方があるらしい、という事も分かりました。
さてそうなると「光速が一定不変である事」は必ずしも「必要条件ではない」という事になります。
しいていうならば「ローレンツ変換を導く為の方法の一つに光速不変を前提とするものがある」という事にすぎないのであります。
さてそれで、この事の意味についての考察は後日に譲る、としてここではその「光速不変を使わない方法」の一つを取り上げて具体的にその手順を確認していく事と致します。
それで「どの方法をトレースするか」という事になるのですが
2004年 V.Yakovenko, Derivation of the Lorentz Transformation, Lecture Note of Univ. Maryland, 2004
http://www2.physics.umd.edu/~yakovenk/teaching/Lorentz.pdf
がよさそうなので、これを参考資料とします。
というのも「光速不変を使わない方法」はいずれも最終的には3つの変換方式にたどり着くからです。
その3つとはういきによれば
『2番目の仮説のない相対性理論
光速の一定性を仮定せずに相対性原理のみから(すなわち、空間の等方性と特殊相対性理論によって暗示される対称性を使用して)、慣性系間の時空変換がユークリッド、ガリレイまたはローレンツのいずれかであることを示すことができます。・・・』
という事になります。(注1)
以下、必要か所のみ順次訳出+解説。
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ローレンツ変換の導出
PHYS 171H、270、374、411、601の講義ノート
ビクター・M・ヤコヴェンコ
http://physics.umd.edu/~yakovenk/teaching/
メリーランド大学カレッジパーク校物理学部
『ほとんどの教科書では、ローレンツ変換は2つの仮定から導き出されます。すべての慣性座標系の等価性と光速の不変性です。
ただし、空間座標と時間座標の最も一般的な変換は、すべての慣性座標系の等価性と空間と時間の対称性のみを使用して導出できます。 一般的な変換は、速度の次元を持つ1つの自由パラメーターに依存します。これは、光速Cで識別できます。
この導出では、ローレンツ変換のグループプロパティ(=群論?:訳注)を使用します。つまり、2つのローレンツ変換の組み合わせも ローレンツ変換となる事。
導出は、行列形式でコンパクトに記述できます。 ただし、行列表記に慣れていない人のために、行列なしでも記述しています。
1)2つの慣性座標系OとO'を考えてみましょう。参照フレームO'は、x軸に沿って速度vでOに対して移動します。速度に垂直な座標yとzは、両方の参照フレームで同じであることがわかっています:y=y'とz=z'。
それで、座標xおよびtの参照フレームOから参照フレームO'のx'=fx(x、t)およびt' = f t(x、t)への変換のみを考慮するだけで十分です。
空間と時間の並進対称性から、関数fx(x、t)とf t(x、t)は線形関数でなければならないと結論付けます。実際、1つの参照フレーム内の2つのイベント間の相対距離は、別のフレーム内の相対距離のみに依存する必要があります。
(1)式・・・(訳注:pdfを参照の事)
式(1)は、任意の2つのイベントに対して有効である必要があり、関数fx(x、t)およびft(x、t)は次のような一次関数になります。
(2)式・・・x’ = Ax + Bt,
(3)式・・・t’ = Cx + Dt,
ここで、A、B、C、およびDは、vに依存するいくつかの係数です。
行列形式では、式(2)および(3)は次のように記述されます。
(4)式・・・(訳注:pdfを参照の事)
ここで、vの4つの未知の関数A、B、C、およびDがあります。』
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訳注:ここでの(2)及び(3)式に至るまでの出だしの議論は相当にはぶかれています。 だがそれについては前述の記事:「ローレンツ変換を調べてみた」: で議論してきた内容と同等であるので、内容詳細についてはそちらを参照願います。
・ローレンツ変換を調べてみた
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『2)参照フレームO'の原点は座標x'= 0であり、参照フレームOに対して速度vで移動するため、x=vtになります。これらの値を(2)式に代入しますとB = −vAであることがわかります。
したがって、(2)式は 以下の形になります。
x'= A(x − vt)・・・(5)式
したがって、vの3つの未知の関数A、C、およびDのみを見つける必要があります。』
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訳注:ここは原文にタイプミスがある。あるいは説明が簡略すぎる感があります。
参照フレームO'の原点は座標x'= 0であり<--X
参照フレームO'の原点は座標x= 0であり<--O
つまり「O'系の原点はここではO系の原点位置に重なっている」。そうしてその時にO'系はO系に対して速度VでO系のX軸方向に移動しているのである。
そうであればO'系の原点のO系でのt 秒後のX座標はX=v*t=vt となる。
こうして(2)式は
x’ = Ax + Bt=A*vt + Bt=t(A*v+B)=0
ここで何故x’ = 0なのか?
何となれば今はO'系の原点位置について考えているからであり、O'系の原点位置のX座標値はO'系では0であるからである。
そうであれば上記の式が任意のtで成立する為には(A*v+B)=0が必要十分条件となる。
従ってB = −vAとなると、ビクターさんは言っているのです。
ここで改めてB = −vAを(2)式に入れると
x’ = Ax + Bt=Ax −vAt=A(x −vt)
となり、めでたく(5)式に至るのであります。
こうして未知数、あるいは速度Vについての未知の関数は4つからA、C、Dの3つに減らせたのでした。
ちなみにここまでの導出の過程は「EMANの物理」:ローレンツ変換の求め方 : https://archive.ph/Evswb :も参照してみてください。
ここから先は「光速不変を使うEMAN物理の手順」とは道筋が異なりますが、ここまでの思考方法はローレンツ変換を導出するいずれの方法においてもほぼ同じであると思われます。
注1:英語版ういき「特殊相対性理論」: https://archive.md/J6WfT : https://en-m-wikipedia-org.translate.goog/wiki/Special_relativity?_x_tr_sl=en&_x_tr_tl=ja&_x_tr_hl=ja&_x_tr_pto=sc :の「2番目の仮説のない相対性理論」の章を参照願います。
但し「慣性系間の時空変換がユークリッド、ガリレイまたはローレンツのいずれかであることを示すことができます。」とういきは言いますが、通常はユークリッド変換は時空変換を対象とはせず、空間変換のみを対象とするコトバです。
従ってここでは時空変換を対象とするのですからユークリッド変換というコトバを使うのは個人的には不適当であると感じます。
ういき「ユークリッドの運動群」: https://archive.ph/0jVdE :ご参考までに。
PS:相対論の事など 記事一覧